魁!!ぼっち・ざ・ろっく!   作:レフリー

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とりあえず詰め込みました。


#19 後藤「……純」

秀華祭当日。ひとりを除く結束バンドの面々は正門前で待ち合わせをしていたが約束の時間になってもひとりが来なかったので喜多に尋ねた。

 

「あれ?ぼっちちゃんは?」

 

「さぁ……あっ今ロインが来たのですが、クラスのメイド喫茶に出ないといけないから行けないそうで……」

 

「へ~ぼっちちゃんのクラスメイド喫茶なんだ!」

 

「ということはぼっちはメイド服……弱みを握るチャンス!行こう虹夏!」

 

「こらリョウ!まぁでもメイド姿のぼっちちゃん見てみたいし行ってみよう!」

 

こうして虹夏達はひとりの教室に向かうことにしたが立ち塞がる者がいた。

 

「おう?誰かと思えば下北沢高校No.2山田じゃあねぇか!?」

 

「キヒャヒャ!その首置いていけ!!」

 

「きゃあ!?」

 

「これはまずいよリョウ……」

 

「くッ……面白そうだからと付けた肩書きがこんなところで足を引っ張るとは……」

 

後藤軍団に属さない野良不良達がリョウと虹夏達を襲おうとした。郁代は悲鳴をあげ、虹夏は足を震わせ、リョウは構えをとる。

 

だが三人のピンチはすぐに去った。

 

「おらッ!!」

 

「とりゃッ!!」

 

「放電!!」

 

「「グワァッ!!?」」

 

林田、前田、メカ沢の三名が助けに入ったからである。

 

「まったく……第二のクロマティと噂される秀華にノコノコと行くなんて命が幾つ有っても足りませんよ」

 

「よぉお前ら!」

 

「前田……林田……メカ沢……!」

 

「後藤に頼まれててな。皆を守ってやってくれって」

 

「そんな訳だ。ついていくぜ!」

 

三人に助けてもらった一行はひとりのクラスまで同行。多少の喧嘩は有りつつも全ての不良をぶっ飛ばして辿り着いた。

 

「ここがぼっちちゃんのクラスなのね」

 

虹夏が部屋を開けると理解不能な景色が目に飛び込んできた。

 

「い、いらっしゃいませ……おお嬢様……!」

 

配膳をするひとり、テーブルを拭くひとり……エトセトラエトセトラ。

 

「怖ッ!!」

 

「なんなんだこれは……これじゃあメイド喫茶じゃなくて後藤喫茶じゃないか……」

 

「分裂できるのは知ってますけどこうして改めて見ると怖いですね……」

 

「やぁ皆ようこそ」

 

そう言って現れたのは会計席に座っていた神山だった。

 

「神山君!?なんでここに?」

 

「後藤さんに頼まれてね。人手が足りないから手伝ってるんだ」

 

「足りないって……他のクラスの人は?」

 

「説明するよ……僕はその時現場に居なかったから詳しくは知らないんだけど、どうやら後藤さんがメイド服を着た時に問題が起こったんだ」

 

「問題?」

 

「伊地知先輩……もしかして」

 

喜多は夏頃に後藤家に行った時のことを思い出した。

 

「まさか前髪を上げたことでこんなことに?」

 

神山は首を横に振る。

 

「いえ、メイド服のスカートが思った以上に短く太ももを晒してしまったことにより顕現したそうです」

 

「絶対領域に侵入した末路というやつか……」

 

「あんたはなに言ってるのよ」

 

リョウが頷き虹夏が突っ込んでいると配膳係の後藤が近づいてきた。どうやらリーダー的な個体の後藤のようだった。

 

「み、皆さんよくぞお越しで……」

 

「ヤッホーぼっちちゃん!」

 

「後藤さんメイド姿似合ってますよ!」

 

「飯食わしてくれ」

 

「で、でしたらこれを……」

 

そう言ってひとりはメニューを手渡した。この中から選べということだ。虹夏が代表して受け取り林田達が覗き込む。

 

・オムライス

・オムライス卵抜き

・ドンペリじゃなくてオムライス

・オムライスしかありません

・諦めてオムライス頼んでください

・あれ?オムライスってなんだっけ?

オムライスオムライス

 

ってオムライスしかないんだけど!?

 

「す、すいません!ち、調理担当の人も倒れてしまい冷凍のオムライスしか出せないんです……!」

 

「じゃあしょうがないですね」

 

「まぁ下手に変なのを出されるよりかは良いか。じゃあオムライス人数分お願い」

 

「か、かしこまりました」

 

数分後ひとりはオムライスを持ってきたが虹夏達は言葉を失っていた。

 

「確か……冷凍のオムライスを解凍するだけのはず……」

 

「なのに何でこんな色になっているのでしょう……?」

 

テーブルに置かれたオムライスは紫色。米だけでなく卵やケチャップまでもが紫色だった。普段、伊地知家の家事を任されてる虹夏はこの食の冒涜に等しい出来映えに怒りが込み上げる。匂いが香ばしいだけに余計に腹立たしい。

 

「お腹いっぱいだからいらない」

 

リョウが食器を遠ざけようとするがその手をひとりが掴む。

 

「だ、駄目です。せ、せっかく解凍したんですから食べてください!お、美味しくなる特別サービスもつけますから!」

 

そう言うとひとりは両手を合わせて輪を作る。リョウは秋葉のメイドがやる『萌え』を思い出した。しかし現実は残酷であった。

 

「蟠?a繧医?よ?縺ッ逾槭?蛹冶コォ縺ェ繧翫?」

 

「えっ?なんつった?」

 

ひとりが人間の脳には理解できぬ呪い(まじな)いを唱えると手の輪からこれまた紫色のツチノコが現れた。一同は思う。

 

(((これ食べたら死ぬな)))

 

一発でSAN値直葬されそうな代物をひとりは手掴みするとリョウの顔に押し付ける。リョウの正気度はみるみる削れていく。

 

「さ、さぁ冷めない内に」

 

「し、死にたくない……助けてっ!」

 

「し、死にませんよ……現に黒田さんは無事ですよ」

 

ひとりが指差す方を見ると倒れ伏している後藤軍団と黒田がいた。黒田は黙々とオムライスを食べていた。尤も、既に正気を失いスプーンを動かすだけの物体と化していたが……。

 

「ひぃッ!!」

 

リョウは短い悲鳴をあげる。絶体絶命。その時だった。

 

「そういえば後藤」

 

「な、何ですか前田さん……心配しなくても前田さんの分も用意しますよ」

 

助け船を出した前田にひとりが首だけを動かし、見る。

 

「いや、そうじゃなくて……そろそろライブの時間じゃないのか?」

 

「えっ?」

 

ひとりが慌てて壁に掛けられている時計を見ると出演まで残り一時間となろうとしていた。

 

「ま、まずい!」

 

「さっさと着替えた方が良いんじゃないか?」

 

「そ、そうですね。き着替えてきます」

 

「俺らはそれまでに食べきっておくからさっさと行ってこい」

 

返事も返さずひとりは慌てて更衣室となっている隣の空き教室に走っていった。

 

「ふぅ。これで災いは去ったな」

 

「前田……ありがとう」

 

リョウがお礼を言った。リョウの珍しい行動に硬派な前田は少し照れる。

 

「別に良いですよ」

 

「褒美だ。アーンしてやる。食え」

 

「いりません。張っ倒しますよ」

 

「にしてもどうしましょう……後藤さんが戻ってくる前に処理しないと……」

 

喜多が悩んでいると隣の席に座っていたメカ沢が喜多のオムライスの皿を掴んだ。

 

「メカ沢くん!?」

 

「喜多!お前の分は俺が食うぜ!!」

 

そう言ってメカ沢は喜多のオムライスを一口食べる。(口が無いのにどうやって食べたんだ?)

 

オムライスを食した瞬間。メカ沢の身体に電流が走る。短絡を起こしたのだ。

 

「メカ沢くん!もう止めて……残りは私が食べるから!!」

 

「バカヤロー!お前はこれから観客の前で歌うんだ。喉を痛めさせる訳にはいかねぇ!うおおッ!!」

 

メカ沢の頭からは白い煙が出始める。動く手足からは歪な音が聞こえ始める。端から見ても限界だ。しかし、メカ沢は手を止める気配はない。

 

うおおおおッ!!

 

メカ沢は食器を限界まで傾けさせ流し込む。そして一瞬の静止の後、静かに食器を置いた。中は空だった。

 

「メカ沢くん!ありがとう!!……ッ!!」

 

喜多がメカ沢の顔を覗き込むとメカ沢の目からは既に光を失っていた。

 

「メカ沢くん……メカ沢くん!!

 

物言わぬ屍と化したメカ沢に喜多は涙を流し、感謝の言葉と共に抱きつく。今のメカ沢に何を言っても聞こえないだろう。触れても感じないだろう。そんなことは分かっている。しかし、喜多は感謝を表さずにはいられなかった。

 

そして他の面々はというと。

 

「よし。じゃあ流し込むか」

 

「そうだな」

 

林田はメカ沢の頭部の蓋を開きオムライスを流す。リョウもそれに続いた。虹夏や前田も申し訳ないと思いつつ死にたくなかったので流し込んだ。

 

そうしてオムライス問題を解決して数分後。喜多はメカ沢の顔に毛布を被せたり、リョウは掲示板を眺めたりと各々がひとりを待っていると廊下から悲鳴と眩い閃光が走る。

 

「な、なんだ一体!?」

 

林田達が廊下に飛び出ると、立ち竦むひとりと秀華ではない数名の倒れた生徒がいた。

 

「この制服はバース高のやつら!!くッコイツら秀華祭を狙って襲ってきやがったな!!」

 

「押せ!ここが正念場だぞ!」

 

不良の後方で叫ぶ男がいる。

 

「予想通り今の後藤に警護の後藤軍団の連中はいない!今が攻め時だ!!」

 

バース高一年No.2の竹城が檄を飛ばす。

 

「これはまずいな……」

 

「前田もそう思うか……だが……」

 

「そうだよ林田くん!今、僕らは後に引いちゃいけないんだ!」

 

「か、神山……!」

 

「僕は争いとかは基本嫌いだけど……それでも結束バンドの皆を体育館に送るためには背に腹を代えられない!」

 

「やれやれ……」

 

「よしッ!お前ら横一列に並べ!結束バンドは後ろにいろ!!」

 

林田の掛け声に神山はもちろん前田も渋々ながらも素直に従った。いや、この二人だけではない。どこからともなく黒龍号に乗ったフレディとゴリラ三匹も現れた。

 

「よし行くぞ!どけどけどけ~!結束バンドのお通りだ!!

 

林田の掛け声に合わせ神山達は前進する。途中に力士やUFO、飛行機などがぶつかったような気がしたが彼らは構わず前進する。

 

そうして林田達の献身のお陰で体育館にまで近づくことが出来た結束バンド。バース高の不良は全員倒すことが出来たのだが竹城がここで不穏な笑みを浮かべる。

 

「何が可笑しいんだ!」

 

「おめでたい野郎だな……これで全てが解決したと思い込んでいやがる」

 

「な、なんだと!?」

 

「俺は瀬戸内が来るまでの時間稼ぎ……先遣隊っていうやつさ!……見ろ!」

 

そう言って竹城が正門を指差すと遠くから砂埃が立ち上っている。見ると100台を超すバイクがこちらに向かってきているのが見える。

 

「今回の襲撃は必ず後藤を潰す為に綿密に練られた作戦だ!バースだけじゃねぇ!デストラーデやマニエルの連中も参加している!ここがお前の年貢の納め時だ!!」

 

そう叫ぶと竹城は気を失った。

 

「やべぇぞ!さすがにあの数は……」

 

「くっ……!」

 

林田達が慌てる中、ひとりは静かに溶けようとしていた。最初は巻き込まれたとはいえ途中からは積極的に参加していた。そんな自分の選択がこのような結末を呼んでしまうとは。

 

演奏どころではない。秀華祭は混乱の中で終わるだろう。もはや切腹しても償いきれない程の重罪にひとりは黙して対後藤連合軍が来るのを待ち目を閉じた。

 

しかし……。

 

「おらッ!お前らびびってんじゃねぇぞ!!」

 

そんな怒号のような声にひとりは声の方を向く。

 

黒田だ。顔は紫色で明らかに不調だが正気を取り戻して駆け付けて来たのだ。いや、黒田だけじゃない。黒田の周りにはピンクのタスキを付けた集団……後藤軍団が50人ほど集まっていた。

 

「く、黒田さん!」

 

「後藤さん!ここは俺達に任してください!」

 

「で、でもそんなことをしたら……」

 

「何を言ってるんですか後藤さん!何の為の軍団なんですか!!後藤軍団というのは後藤さんの夢を全力で応援するために作られたモノなんスよ!俺らに任せてください!!」

 

そんな黒田の告白にひとりは驚いたような顔をしていた。事実、そのような話は初めて聞かされたからである。

 

「さぁ!行ってください!!」

 

「まぁ俺らは前に演奏聴いたし……今回のを聴けれないのか残念だがよ」

 

林田は冗談っぽく話す。

 

「僕らは結束バンドの皆さんが精一杯練習しているのを知っています。練習の成果を皆に見せてあげてください!」

 

神山は覚悟を決めている。

 

「さっさと行けッ!!」

 

前田の叫びに結束バンドは振り向くことをせずに体育館へと走った。結束バンドもまた、覚悟を決めたからである。

神山さん……林田さん……前田さん……皆のお陰で私はここにいられる。そんな訳で私こと、ひとりは皆さんの声援のもと体育館に駆け出し現在は舞台の袖にいるのですが……正直に言うと心が折れそうです。

 

「四天王……初めて聞いた時は『なんだこの色物は』と思ったけど……これはアカン……ガチで上手い奴や……」

 

リョウさんが謎の関西弁で話している様で分かるように四天王の演奏スキルは同じ高校生とは思えない程のレベルだった。

 

演奏もさることながらパフォーマンスも完璧でリーダー伊賀さんの火吹き芸は観客を沸かしている。(先生は絶句。顔を青くしているが……)

 

これに勝てと言うのか……!も、もうおしまいだぁ……明日から私は白塗りになるんだぁ……。

 

内心諦めモード全開。四天王の一員で活躍、渋谷のナイトプールで一番フィーバーしている私を妄想していると肩に手を置かれた。

 

「ひょえぇあ!?すすいません!」

 

「ぼっちちゃん!諦めちゃ駄目だよ!」

 

「そうですよ後藤さん!演奏する前から諦めちゃダメです!!」

 

「に、虹夏ちゃん……喜多さん……!」

 

「そうだぞぼっち。今回は胸を借りるつもりでやればいいんだ」

 

「いやいやリョウ。負けたらぼっちちゃんはいなくなるから……とにかくさ、ぼっちちゃん。どうなるのか分かんないけど私達は私達で頑張ってきたんだしさ。何時も通りにやれば良いんだよ」

 

「に、虹夏ちゃん……」

 

『結束バンドの皆さん!そろそろ準備お願いします!』

 

運営委員の人が私達の出番を知らせる。今になって緊張が押し寄せる……心臓が破裂しそうだ。

 

「ねぇ皆!せっかくだし円陣組もうよ!」

 

虹夏ちゃんの提案に喜多さんが賛同する。

 

「暑苦しいからやりたくない」

 

「やれ。命令」

 

虹夏ちゃんが手を前に出し、喜多さん、リョウさんがその上に手を乗せる。なんだこの儀式は?

 

「ぼっちちゃんも手を乗せて!」

 

「アッハイ」

 

「じゃあ頑張ろう。楽しもう」

 

「「「「お~!」」」」

 

初めて行った儀式だが流れに合わせただけで何だか謎の一体感が生まれた。なるほどだから陽キャはあんなにも連帯感が有るのか。

 

こうして私の進退を賭けた……いや、今は忘れよう……。結束バンド、練習の成果を見せるライブを始めよう。

舞台の袖から俺達『四天王』は後藤らのバンドを見る。

 

「いやぁリーダー。あの調子なら俺らの勝ちだな」

 

トミーが勝ち誇ったような笑みを浮かべながら話し掛ける。本来ならリーダーとして注意などをして諌めないといけないが後藤らを見てその通りだと思っている自分がいる。

 

そう思いながら後藤らの一曲目が終了した。演奏にミスは無い。いや、聴いてみて思ったが演奏は悪くない。歌詞と曲の表現も良かった。

 

自分が言うのもアレだが学生バンドにしては良く纏まっている方だ。未熟だが将来性を感じさせる。そんな音楽なのだが……。

 

「ん~?」

 

「どうした能智?」

 

「いや、さっきの演奏なんだがよ。なんか違和感が有ったんだよ」

 

「なに!?お前もそう思ったか。俺もなんだよ」

 

「なんか変だったな」

 

後ろで能智とタミー、ユリーが話しているように演奏に違和感が生じていた。聴くにギターのチューニングがずれているのだろう。

 

現にボーカルが話している間、後藤はギターをいじっている。ペグが壊れたのだろう。舞台の上ではどうしようも出来ない現実が後藤を襲っている。再起不可能だ。

 

ドラムのつまらん話も終わり二曲目が始まるが、予想通り、ギターは直っていない。恐らく2弦とも使い物にならなくなっているのだろう。

 

演奏的にここらでギターソロを入れた方が盛り上がるだろうが、あれじゃ無理だ。はぁ……一か八かだ仕方ない。

私ことひとりは焦る。まずい……まずいまずいまずいまずい!!このままじゃ私の機材トラブルでせっかくの演奏が台無しになる!どうにかしないと……!!

 

せっかく喜多さんがアドリブで時間稼ぎをしてくれているというのに……考えろ。どうにかしてこの窮地を乗り越えるんだ。

 

①クールビューティーなひとりは突如アイデアを閃きギターソロを成功させる

②仲間が来て助けてくれる

③台無しになる。現実は非情である

 

個人的には②を推したいがバンドの皆はそれぞれ持ち場で頑張って、それでいて私を支えてくれている。神山さん達も今頃、対後藤連合と戦っている最中だろうから期待は出来ない。

 

となれば①。最前列にいる姉さんを見て思い付いたアイデアが有ります。それはボトルネック奏法。これならチューニングは関係ない!そう思って私は姉さんの近くに転がっているおにころを見る。

 

……絶妙に遠い!少し歩けば届く距離に有るがもうすぐギターソロのパートが始まる。喜多さんの時間稼ぎも限界。間に合わない……。

 

絶望!私の脳裏に突きつけられた答えは③ッ!現実は非情なりッ!!

 

私は演奏を諦めた……その時、足元に何かが当たる感触がした。反射的に下を見るとサイズ的にはおにころと同じくらいの、友達の友達にそっくりな銀色のボディーが目に映った。

 

「メカラッタ」

 

答えは②でした。

「うおおおお!なんだあの演奏は!?」

 

「ボトルネック奏法だ!まさかこんな土壇場でやるなんて……」

 

トミーと能智が驚くが俺はこの程度ではもう驚かん。後藤レベルならこれくらい出来て当然だ。まったく……ヒヤヒヤさせやがって。

 

こうして後藤らの二曲目も無事に終わった訳だが……。ククク。それでも我が四天王の勝利は揺るがない!ボトルネック奏法に観客は沸いたが俺らに比べればまだ軽い。

 

後藤が演奏出来ない以上、奴らの演奏もこれで終わり。つまり挽回のチャンスはもう無い訳だからこのライブは俺らの勝ちだ!!

 

勝利を確信したその時、観客席の方に動きが有った。

 

『失われた青春!私も取り戻したいんだ!!』

 

酔っぱらいがそう叫ぶやいなや舞台上に登った。金髪の女を押しのけ演奏をしようと後藤らに駆け寄った。くッ!このままではライブそのものが中止になって勝利無効になってしまう!

 

俺があの暴漢を押さえようとした時、それより速く後藤が暴漢の腕と腰を掴む。

 

後藤はそのまま相手をつかんだまま上空に飛び上がり、両手で相手の両腿をつかみ、相手の頭を自分の肩口に乗せて固定する。

 

『あれは!』

 

観客席にいる後藤の面影を感じさせる男が叫ぶ。

 

『後藤家に伝わる48の必殺技の一つ、後藤バスターだ!!

 

暴れる暴漢をものともせず後藤は叫ぶ。

 

後藤バスター!!

 

『グエェエア!!』

 

体育館の固い床に着地。その衝撃は甚大で、あの一つの技で首折り・股裂き・背骨折りを同時に行う必殺技の名に相応しい技だ。

 

後藤バスターをまともに受けた暴漢はピクリとも動かない。周りの観客も呆然としていたが段々と歓声をあげ始める。

 

『『『ご・と・うッ!』』』

 

『『『ご・と・うッ!』』』

 

……完敗だな。

俺は胴上げをされる後藤を背にしつつ体育館から静かに去った。

「……失礼しました」

 

秀華祭が終わった後、私は教師陣と共に校長室に連行。暴行を働いたとして退学されそうになったものの私の壮絶な土下座、そして先に問題を起こしたのが姉さんということもあって反省文114514枚で済んだ。

 

教室から出ると心配そうな顔をしている虹夏ちゃんら結束バンドの皆と、ズタボロになりつつも対後藤連合を撃退した林田さん達がいた。

 

「ぼっちちゃん……大丈夫だった?」

 

「アッハイ……なんとか反省文で済みました。は、林田さん達もよくぞ無事で……」

 

「まあな」

 

頭に包帯を巻き、トレードマークのモヒカンが見えなくなった林田が正門を見る。私もつられて正門を見ると重なる不良の姿が見える。

 

「まあ大胆に喧嘩したから停学になっちまったが、秀華祭を……お前らの演奏を守れて良かったよ」

 

「は、林田さん……!わ、私なんかの為に……本当にすみませんでした!」

 

「なーに。良いってことよ!」

 

「そうですよ後藤さん。僕たちは後藤さんの演奏を、結束バンドの演奏を皆に見てもらいたかった……ただそれだけなんですから」

 

「か、神山さん……!」

 

「まぁ林田も神山も、もちろん俺だって色々言いたいことはある。だがお互い納得してやったんだ。後悔はしてないさ」

 

「ま、前田さん……」

 

神山さんと前田さんは他校の生徒故にまだ処分はされていないが進学校の下北沢高校で問題行動は内申点に響く。本当に感謝してもしきれない。

 

私は居ても立ってもいられず土下座をした。

 

「ご、後藤さん!そんな!止めてください!」

 

黒田さんが顔をあげさせようとするが私は謝るのを止められない。私を支えてくれた全ての人達に・・・謝りたいと感じているからだ。

 

だから感謝というのだろう……ありがとう……ありがとう……

こんな私にありがとう……

こんな私なのにありがとう……

 

頭をさげずにはいられない

だから感謝と言うのだろう

だからこそ感謝と言うのだろう。

 

「よしッ!」

 

林田さんが手を叩いて私に近づく。

 

「宴会しようぜ!」

 

「宴会?」

 

虹夏ちゃんが林田さんの言葉をオウム返しする。

 

「お前らはライブを成功させて四天王に勝った。俺らも対後藤連合に喧嘩で勝った。祝勝会がしてえ!」

 

「フッ確かにそうだな」

 

リョウさんも賛同する。旨いものが食べたいからなのかは知らないが場の空気を変えたいと思っていると信じたい。

 

「確かにいいね……でもお金はどうしよう……近頃出費が多くてお金が……」

 

お金の心配する虹夏ちゃんに対して喜多さんが答える。

 

「大丈夫ですよ伊地知先輩!さっきSICKHACKの岩下さんが慰謝料としてお金を渡してくれたので大丈夫です!」

 

「これで宴会が出来るな!居酒屋貸し切りにして騒ごうぜ!!」

 

姉さんの借金がまた増えるんだろうなと思いつつ、その場は解散となった。林田さん達はボロボロになった服を着替えたいそうだ。

 

祝勝会までの空いた時間。喜多さんがギターが壊れた私を気遣って楽器屋に誘ってくれましたが用事があったので断りました。

 

そうして申し訳ないのですが時間になったら現地集合ということにさせてもらい、フリーになった私は会議室に向かいました。

 

中に入ると椅子に座る伊賀さんがいた。

 

「む……後藤か。なんだ?やっぱり加入したくなったのか?」

 

「い、いえ……そういう訳ではないのですが……ただ一言御礼申し上げたくて……」

 

「お礼だと?なんの話だ」

 

「秀華祭の件です……ギターが壊れた私にメカ沢βを届けてくれましたよね……あれが無ければ私は演奏出来ませんでした。そ、それについてお礼を言いたくて……」

 

「お前の敵である俺がなぜ助けなくてはならんのだ。俺が渡した証拠は有るのか?」

 

「メ、メカ沢βに白いドーランが付着していました……」

 

「……他の四天王が渡したかもしれんぞ」

 

「あ、あの時ギターが壊れて私は演奏出来なかった状態です……そんな時に助けてくれるのは誰よりもライブについて考えてる人……伊賀さんしかいないと思ったからです」

 

伊賀さんはため息をついた。

 

「なんか言い訳するのが面倒になった。ああそうだ。俺があの銀色の物体を届けた。答えが聞けて満足か?」

 

「い、いえ……まだ訊きたいことが有ります……なぜ助けてくれたんですか?あ、あのまま放っておけば間違いなく四天王は勝てたというのに……」

 

「それはお前がさっき言ったように俺がライブについて誰よりも考えているからだ」

 

「……?」

 

「確かに放っておけば間違いなく勝てた。だがライブはどうだ?きっと不完全で終わったことになっただろう。観客も演奏が途中までしか聴けず不満を覚えるだろう」

 

「そ、そうですね」

 

「俺はワルだがバンドマンでもある。俺らが楽しむのも良いが目の前の観客が喜んでくれるように配慮しないといけない」

 

もっともお前がボトルネック奏法が出来るかどうかは賭けだったがな……。そう言う伊賀さんに私は言葉を出せれなかった。

 

私達が勝てたのは伊賀さんの協力有ってこそ。伊賀さんのプロ意識が私達の勝因だ。試合に勝って戦いに負けた……そんな気分である。泣きそうだ。

 

「まぁとにかく……過程はどうあれ俺らより観客を沸かせたのは事実だ。誇れ」

 

「は、はい!

 

自然と涙が出てきた。嬉し涙なんて久しぶりだ。

 

「まぁあれだな……このままお前を返せばきっとお前は心にしこりを残すだろう。さっきお礼をすると言ったな……俺の横に座れ」

 

「えっ?アッハイ」

 

恐る恐る伊賀さんの横に座る。

 

「あ、あの~」

 

「なんだ?」

 

「い、一体なにをするのでしょうか……?」

 

「今回、お前を加入させることは出来なかった訳だが……そもそも四天王に女の追加メンバーを入れることに変更は無い。今から面接が有るからお前も付き合え」

 

「えええッ!わ、私なんかにそんなの出来ません!」

 

「女性視点の意見が欲しい。まさか礼の一つもせず立ち去る気ではなかろうな」

 

「アッハイ……」

 

伊賀さんの圧に陰キャは静かに頷く。決して怖いとかじゃなくてお礼の為だと自分に言い聞かせる。そうしていると扉からノックがした。もう来たの!?

 

「よし入れ」

 

「失礼します」

 

そう言うと面接に来た女性は扉を開ける。

 

顔は既に白塗りでエジプト十字架のペイントが施されている。身長は高くユニセックスな風貌。そしてなにより特徴的なのが青い髪だ。……うん、この人って。

 

「リ、リョウさんですか?」

 

「ぼ、ぼっち……なぜここに……」

 

……当然ながら面接は不合格。祝勝会は修羅場と化したのは言うまでもないが最終的に仲直りするので割愛させていただく。

 




オリジナル小説を書きたくなったのでひとまずここで終わりにします。

覆面を被り後藤に成り代わった女の名前。

  • マスクド後藤
  • ジェット後藤
  • 後藤ザグレート
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