番長となって早数日。私の日常は激変した。クラスメートからは挨拶をされ、神山さんや林田さんからは他愛もない世間話を少しするようになったからだ。これが陽キャというやつかなうへへ。……違うか。
懸念していた喧嘩も余り起きず、クラスの揉め事やちょっとした事はクラス代表の神山さんがどうにかしてしまうので私がすることは無い。
クロ高に在学しながらも私は平穏を享受していた。しかし今日は違った。クラスに入るとやけに騒がしかった。いや、いつも動物園以上に騒がしいんだけど……今日は様子が変だった。
神山さんと林田さんが私を見つけると切羽詰まった表情で駆け寄ってきた。突然の接近に対応できない私は体を硬直。結晶体のように変貌させ知能を代償に防御力を上げた。
「後藤さん大変だ!!」
「アッハイ」
「前田がバース高の奴らにさらわれた!!」
「アッハイ」
神山さんと林田さんが何か言っているようですが今の私は脳みそまで結晶体になっているので頭の回転が遅くなっています。何を言ってるのか理解できるようになるまで時間が掛かります。なのでテキトーに返事をしておきます。
「今すぐ助けに行かないと前田君が大変な目に遭う!」
「助けに行こうぜ番長!!」
「アッハイ」
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「タクシーを呼んでおきました。さぁどうぞ!!」
気が付くと私は前田君とやらを助けに行く為にたった三人でバース高に殴り込みに行くようです。あ"あ"あ"私のバカ!なんで何も考えずに返事をしちゃうの!?神山さん達もです!普段バカな事ばっかやってるのになんで今回は手際が良いの!?
「ちょちょっと待ってください!バース高校に乗り込むなら事前に綿密な計画を練るべきです!い、一度ここは教室に戻って作戦会議をしましょう!」
私の提案に林田さんが頷く。
「確かにバースは強い。一筋縄ではいかねぇ。作戦を練らねぇとな」
林田さんがバカで良かった。これで後は神山さんが同調してくれれば……。
「確かに作戦は必要ですね。話し合う必要があります」
よしっ!
「なのでタクシーの中で話し合いましょう!移動しながら作戦が組める。一石二鳥です!」
「っ~!?!!」
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乗ってしまったよ……。どうやって切り抜けよう……。せめて窓際の席ならアクション映画さながら飛び出して逃げることも出来たのに……よりによって後部座席の真ん中。
これじゃあ現実逃避で外の風景すら見ることが出来ない。ていうか三人しかいないんだから一人は助手席に行ってよ。なんでギターを載せてんの?何も考えずに載せた私も悪いけど普通はトランクに載せるでしょ。
「じゃあ早速作戦会議をしようか」
タクシーを走らせてすぐ私の右側に座る神山さんが話を切り出すと左側に座る林田さんが手を上げた。
「提案なんだがこっちは三人。戦力的に言えばかなり不利だ。だからまずこっちの最大戦力の後藤がバースをボコる。向こうが慌ててる内に俺らが前田を奪還するっていうのはどうだ?」
「確かに良いアイデアだと思うね。後藤さんはどう思う?」
「むむむ無理です!そそんなの出来ません!」
「そうですか。まぁ確かに相手がどれだけいるか分からないし二手に分かれるのは厳しいかもしれないね」
「じゃあもう俺ら三人でバース全員ボコった後に前田を助けるで良いかぁ?」
林田さんが両手を頭に組む。入学した時から思ってたけどこの人って結構飽き性だよな。あまり物事を考えてないし……。神山さんも真面目そうな顔をして時々クロ高の人もビックリのことをしでかす時が有ります……この間もクラスの中にコンビニ作ってたし……他より安かったので嬉しかったけど。
にしてもバース高はクロ高から歩いて20分の距離に有ると聞きましたが、タクシーを走らせて10分は経つというのに一向に着く気配は有りません。
まるで死刑執行を長引かされているように感じ次第に私はイライラしてきました。いや喧嘩はしたくありませんよ。でも苦しむならさっさと終わらせてほしいじゃありませんか。そう思ってると運転手の方が私達に声を掛けてきました。
「あの~すいません。実は私、最近上京してきたばっかりでこの辺の道に詳しくないんですが……」
「あぁ構いませんよ。ゆっくりで大丈夫です」
「なにのんびりしたこと言ってるんですか!前田さんを助けに行くんですよ!?仲間の危機なんですよ!?友達である私達が助けに行かないといけないのにもうちょっと真剣になりましょうよ!!」
私は思わず声をあげてしまった。やってしまった……。神山さんはおろか林田さんまで驚いた表情で見てくる。いつもと同じように視線に耐えれず顔を伏せて押し黙ってしまう。
「ご、後藤……お前……」
「後藤さん。今、僕達のことを友達とおっしゃいましたか?」
「すすすすいません。私ごときが友達なんて」
しまった。ついうっかり友達と言ってしまった。この人達からしたら私なんてその辺の塵芥と一緒。番長になれたのも運が良かった?だけの根暗陰キャなのに……激情に任せてつい口を滑らせてしまった。
「後藤……」
優しく殺してください。なんなら切腹します。介錯いりません。
「俺はとても嬉しいぜ」
林田さんの顔に笑みを浮かびあがる。
神山さんもどこか嬉しげな表情だ。
「僕らは今まで後藤さんの舎弟のようなものだと思っていました。舎弟である以上、今以上に仲良くは出来ないものかと思っていたのです」
「そう思っていたのに……後藤……お前は俺らのことを友達と言ってくれた。それが俺にはとても嬉しいんだ!」
「神山さん……!林田さん……!」
「そうと決まればタクシーに乗ってる暇なんてないな!今からカラオケで盛大に友達祝いをやろう!」
「林田君……」
「どうした神山。まさか今日は都合が悪いのか?」
「僕らだけでなく……クラスの皆と祝いましょう!!」
林田さんがうっかりしてたぜ!とお茶らけた表情をするとすぐにカラオケ店の予約をし始めた。一方で神山さんは運転手さんにクロ高に戻るようお願いしている。クラスの皆を呼びに行くようだ。そんな風景を見て私は何か忘れてるような気がした。
なんだっけ?と記憶を巡らしていると助手席にあるギターが目に付いた。そうだった!私がギターを常に持っているのは陰キャでも輝くことが出来るからだ。せっかくの祝いの席なんだし皆の前で演奏したい。思い立つが早く、林田さんに訊ねると彼は親指を立てた。
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと楽器持ち込みOKな場所にしておいた!後藤!お前の演奏を皆の前で聞かせてやってくれ!!」
「はいっ!!」
……こうして私は生まれて初めて家族以外の人達とカラオケで遊びました。私は動画投稿者『guitarhero』として人気の楽曲のカバーばっかりやっていますが人様の前で演奏するのは初めてでした。なので上手に弾けるか不安でしたが(皆の知ってる曲ということだけあって)盛り上がってくれました。
普段の私は、動画を投稿した時に評価の良いねが多かったり、コメント欄で誉められるとニマニマしているのが多いのですが、やっぱり生の声は違います。……いずれはバンドを組んでオリジナルソングでチヤホヤされたいです。
しかし……やっぱり何か忘れています。演奏を終えて神山さんと林田さんの隣の席に座ると訊ねてみました。林田さんは目を閉じて腕を組み、神山さんは顎に指を置いてウンウン考えています。
すると林田さんは何か思い出したようで目を開けました。次第に顔は青ざめ、額には汗が浮かんでいます。私も神山さんも何か有ったのかと言葉を待っていると林田さんは声を震わせながら答えました。
「この店の割引券……家に忘れてきてしまった……!」
「なんだって!?ということは僕らはこの店の会計は定価で払わないといけないのかい!?」
「おい!どういうことだ林田ァ!!」
クラスメイト達は林田さんを責めたてお祝いムードは一転、一触即発の雰囲気になりました。林田さんはすまねぇと精一杯謝っていますが焼け石に水。この場を静めるのは無理そうです。
不良の一人が林田さんの胸元を掴み、遂には取っ組み合いが起こりました。そしてそれを起点に周りも、やれ肩がぶつかったのだの足を踏んだのと因縁を付け始めクラス全体で喧嘩が始まりました。
私は巻き込まれないように腰を低くし、隅っこの方に避難していた神山さんと合流しようとしたのですが移動中、吹き飛ばされた林田さんと直撃。倒れてしまいました。
「ぐえ"ぇ!」
「ぐぅ!ご、後藤かすまねぇ……」
「い、いえ……だ大丈夫です……っ!」
その時、私は見てしまいました。鏡に映る自分の姿を。美容院に行くのが怖く長く伸ばされた前髪が上に上がり、隠していた額がさらけ出されている自分の姿を。
「あ、あ、あ、あ、あ」
「ご、後藤?おい後藤!?」
林田さんが私の名前を叫んだ。
その瞬間。カラオケルームは光に包まれた。
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20分後。終了時間を知らせる電話が部屋に響くが受話器を取る者はいない。10分後。終了を伝えに店員が扉を開けた時、室内を見て絶叫した。
「真面目でごめんなさい」
「バカでごめんなさい」
「喧嘩が好きでごめんなさい」
「向こう見ずでごめんなさい」
目の前には大量の陰キャになった不良がひたすら謝り続けるという阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。騒ぎを聞き付けた他の店員が私達を室外に引きずり出し、清浄な空気を吸わせることで皆さんは元に戻ることが出来たが、私が身に付けた自信までは元に戻すことは出来なかった。
分かっている。陰キャはそう簡単には治らないものだ。……満足に出来なかったことも有って胸に引っ掛かりを感じたクラスメイトとのお祝い会は幕を閉じた。
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バース高校、体育準備倉庫では前田が天井から吊るされていた。周りには誰もいない。
「助けって来ないのかな……バースの奴らもう帰っちゃったよ」
ぼそりと呟いたが彼の独り言を聞く者は誰もいなかった。
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翌日、登校しながら私は思い出していた。昨日のお祝い会は盛り上がったり盛り下がったりして最終的にはお通夜みたいになっちゃったけど案外楽しかったな。昨日も思ったけど仲間と……いや友達とカラオケなんて私ってやっぱりもう陽キャの仲間入りを果たしたのでは!?うへへへぇ間違いない!
「おい後藤どうしたんだ変な顔をして」
「具合でも悪いのかい?」
「うっへぇっ?!すすすすいません!」
気が付くと後ろには林田さんと神山さんが立っていた。びっくりした私は思わず謝ってしまった。まずい……せっかく陽キャの仲間入りをしたというのにまた奇行に走ってしまった。
「なんだいつもと変わんねぇな」
「そうだね」
私はまだまだ陽キャにはなれそうにもありません。調子に乗ってすいませんでした。そう一人で勝手に落ち込んでくると林田さんが話しかけてきました。
「そういえば話は変わるけどよ。昨日のカラオケは楽しかった所も有ったな!」
「そうだね。クラスの皆と、結果的には仲良くなれたし楽しかったよ!」
「後藤のギターもスゲェカッコ良くてさ!また演奏してくれよ!」
「はははい!わわ私の演奏でよろしければ喜んで!!」
やっぱり嬉しくなるな。演奏を直接褒められると。
入学した頃。私はクロマティ高校に入学したことを後悔した。バンドメンバーはおろか友達、いやもしかしたらいじめられるんじゃないかと思っていた。
最悪の高校生活を送ると思っていた。しかし蓋を開けてみればどうだ。私に初めての友達が出来た。登校する時、話し合う仲間が出来た。彼らに取ってみればありふれたワンシーンかもしれないけど私にとっては初めての、新鮮な経験だ。
正直言って番長というものはよく分からないし辞めたいです。昨日みたいな喧嘩なんて近くで見るのも嫌いなままです。だけどそれでも……まぁ何人かは退学になると思いますが……私は皆と過ごしたいと思ったのです。
今はまだ陽キャになれないクソザコツチノコですが……私はこの高校生活を前向きに送れそうな気がします。校門が見えてきました。今日も一日、高校生活頑張ります!
『大変だぁ!!!隕石が落ちてきたぞ!!!』
校門をくぐると見慣れたはずの校舎が見えず巨大な岩の塊が校舎の有った場所に鎮座しています。見慣れたパトカーや救急車だけでなく消防車も見えます。
「高校が無くなっちゃったよ……」
頭を抱えた私は今後の展開に悩むのでした。
初めてのアンケートにちょっとワクワクしている自分がいます。
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後藤ひとりを停学処分にさせたい
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結束バンドを停学処分にさせたい
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後藤ひとりを留置場に送りたい
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結束バンドを留置場に送りたい
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原作通り