幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意) 作:あらい
キャラの年齢が不明なので、滅茶苦茶困りました
あくまで歳は推定です
武術大会。
それは幾千もの立ち塞がる敵を退け、祖国を最後まで守り通したと言われている勇猛果敢な武将──その者の褪せる事無き活躍を後世に伝える為に、当時の王族によって催された競い合いである。当初は民衆の娯楽としての意味合いが大きかったが、近年では勇壮なる武術国家ブロディアの威信を具現するための手段としての意向が──
「へえ~」
ブロディアの城下町で配られていた手引なる物を一通り流し読みして、長くなりそうだったので途中で見るのを止めた。貰った時にも感じていた事だが、相当に厚みが有る。多くの紙に活字を浮き上がらせ清書を完成させる技術が果たして存在するのかは分からないが、全て手書きだとしたらだいぶ手間が掛かってそうである。
「あ、もうそろそろ始まるみたい!」
そんな事をしみじみと思っていれば、徐々に会場内で響き始めた囃す声と共に幼馴染がそう言った。もうそんな時間になっていたのかと気付かされ、こうはしていられないと冊子をぱたりと閉じる。
これは、後から改めてじっくりと読むことにしよう。
『──長らくお待たせ致しました! 通算──回目を迎えましたこのブロディア王国催武術大会、昼を過ぎましては皆さんお待ちかね、予選を見事勝ち抜いて来た選手達の直接対決となります!』
恐らく何らかの魔法か何か、辺り一変に拡声する声。
それと同時に大気が震えたのかと一瞬錯覚してしまいそうな熱気が、会場全てを覆い尽くした。
時は昼下がり。場所は、ブロディア王都内に設置されている闘技場。
村長に言われた通りラピスを連れて、俺はそこで行われる武術大会の観戦へと赴く事になった。
朝早く村を出た後、ぽけーっとするラピスと共に野を越え山を越え、ブロディア王都へと辿りつけば丁度予選が始まった頃。目ぼしい選手を適当に応援していたら、もうこんな
「それにしても結構眺めが良いわね」
「前列を取るのは無理だったって村長は言ってたけど、ここでも十分見えるな」
「ええ!」
ブロディアの闘技場は吹き抜けになったコロシアムの様な作りとなっている。試合が行われる中央の石畳を起点にして、高い壁を隔てた後に階段状に並べられた観客席が円形になって取り囲んでいる。
今、自分達二人が居る場所はそんな観客席の上部に近い位置となっていた。
上部の観客はまさに満杯といった前列と比べれば、数人分の空きが程々に見える位にはまばらだ。席代は遠くの方が割安なのでは有るが、やはりブロディアの民は熾烈な競争を最前列で見たいという思いを持つ者が多くを占めるらしい。凄いな、こんなにも武術大会好きの国民が多いなんて。
正直、俺ももう少し前の方で見たかったという気持ちは有るが……。まあ本来、せっせと村で畑仕事をしている時間帯。お代を出して貰っただけで有り難いのだ、文句は言っていられない。
「ねえねえ。大会で優勝しそうな人、誰だと思う?」
そんな事をしみじみと感じ入っていれば、ラピスから問われた。
どこか逸る気持ちが有るのか、冊子をぺちぺちと膝に当てながらそう言っている。
「優勝候補か」
「私は、最後の勝負に出てた金髪の人だと思うわ!」
予選からずっと見ていたので、強そうな人が誰なのかは何となく分かる。というか、その人達のステータスを覗いてしまった。
距離がかなり開いていたのでダメ元でやってみたのだが、まさか上手くいくだなんて思ってもいなかった。
「あー、あの斧持った人ね」
「そうそう、その人」
午前の部の予選において、最後の試合を圧倒的な勝利で飾った人。名前までは見る事は叶わなかったが、確かアクスアーマーという職だったか。名前の通り、斧を持ったアーマーナイトの事か。
きゅっと摘みあげた様なブロンドのポニーテールが眩しい女性の人だった。歳は……多分、自分達とはあまり離れてなさそうに見えた。年齢制限が決められたこの大会では、最年少かもしれない。
ちなみに、アーマーナイトで有りながらアーマーは装着してなかった。
流石に重装で試合に出るのはマズいらしい。皆全員が歩兵として試合に出てたのでそこら辺は色々ルールが有るのだろう。ソシアルナイト系が室内で強制的に下馬させられる様な物なのだろうか、知らんけど。
「力強い斧捌きが凄かったわ」
「そうだな。まさかあそこまでとは思わなかった」
使える武器は選べるらしいのだが、作られた素材は同じにさせられる。つまり、選手両者にはてつの武器が配布されていたのだが……その斧を持った女性は、力を込めた素振りで硬く舗装された闘技場の床を
なんと軽く破壊してしまったのだ。それにビビった対戦相手はすぐに降参し、数秒も立たない内に試合は決着を迎えた。
武術大会とはいえ、別に従来の闘技場みたいにどちらかが死ぬ可能性が有るといった過酷なものでは無いハズなのだが……なんだあの火力は。
ステータスを見てみた時も、力と守備に抜きん出たまさにアーマーといった感じで相当に強かったし。アーマーが無いからなのか、速さも追撃されない程度にはそこそこ有った。それでいて守備力もしっかりと受け継いでいたし。ついでになんか魔防も高かった、怖い。
あの人は間違いなく、優勝候補だろう。うん。
午後の部が開始されるのが遅れた理由、あの人が壊した床の応急処置が必要だったからだもの。
ん~……でも、もう一人強そうな人は別に居るんだよね。
「……その人も強そうだったけど、あの人はどう?」
「あの人って言うと?」
「アルパカの人だよ」
「……あーあの、変な人ね」
この世界にも存在する固有名詞である動物の名をあげてみれば、心得たといった感じでラピスが頷いた。その表情はとても微妙だったが。
俺が予想するもう一人の優勝候補はそう、アルパカの人である。ちなみに同じく金髪。
「突然名乗りあげてアルパカの事を言い出すのだから、とても驚いたわ」
うちの村からはだいぶ離れた所なのだが、アルパカの毛を用いた編み物の名産地である里がブロディアには存在する。らしい。
いや、正直風の噂でしか聞いていなかった。
話によると、その里に住む者はアルパカと心を通じ合わせ、特殊な言語を介して直接話をし合う事ができるらしい。まじかよ、凄いな。
ステータスを見てみた所、馬には乗っていなかったがランスナイトという職だった。おそらく下馬した状態なのだろう。アーマーに似て力と守備に優れながらも、速さを失っていないというこれまた優れた能力の持ち主である。
ただ、騎兵という職がちょっと心配だ。もしかして、速さの成長率に下降補正が掛かっていたりするのだろうか? 馬に乗ると、なんか速さが下がる傾向にあるのが不思議です。
あ、でもアルパカに乗って戦うのなら別か。
アルパカってなんだよ。
「名乗りあげるにしても、なぜ第一にアルパカの愛について語るのか分からないわ……。普通は自分の名前とかを言うものじゃない?」
「アルパカの毛を使った品がそこは凄いらしいからな。村の魅力を語らうのは、何らおかしい事じゃない」
「そうなのかしら……」
そうだよ。
……いや、そうなのかな。
分からん。
「お前も将来、武術大会に出る事になったら村の良さを衆目の前で語ればいいさ」
「えぇ……」
「我が村なら、そう芋だ。芋について語るんだ。私の村の芋は最高ーーって言うんだ!」
「なんか恥ずかしくて嫌ねそれ……」
まあそれを語った暁には、多分会場が芋女コールで染まる事だろうね。ハッハッハ。
ちなみにアルパカの人の語りは、アルパカの名産品がかなりブロディア王都内でも売れただけあって、多分大成功だった。我が村も、それと同じくらい芋の名産地として知られれば──!
「……あなたが考えている事ぐらいすぐに分かるわ」
「あっ」
そんな事を考えていれば、心を見透かされたのか笑顔のままラピスが怒っていた。ぷるぷると冊子を持つ手が僅かに震えている。
う~ん、器用なものだ。
すみません、調子に乗りました。
『間もなく、第二試合が始まります! 東より入場するはあの人──』
ちょっと怒ったラピスをどうしようかと思案していれば刹那、実況の声が再開される。
ありゃ、もう一試合目終わってるじゃないか。いつの間に。
「もう、あなたとずっとお喋りしてたせいで第一試合を見逃しちゃったじゃない」
「すまん」
「まあ、良いけどね。ぱっと見、得られそうな物は無かったから」
「本当か? それなら、良いんだが」
「ふわぁ……」
そう言って、少しだけラピスは眠そうにした。
んん、そうされると少しだけ申し訳なくなるな……。
武術大会を観戦するなら予選から見たほうが良いだろうと思い、相当朝早く村を出たのだが……それがかなり影響しているらしい。退屈な試合を見ていると、欠伸が出てくるとまで言っていた。そりゃいつもよりも数時間早く起きさせたんだし、当然と言われれば当然か。まあ、俺もちょっと眠いし。
……正直なところ、武術大会のレベルはあまり高くは無さそうに見える。
あの二人が別格なだけで、他はそれほどといった感じか。今のラピスがそのまま参戦しても、あの二人以外には十分戦っていけるだろう。それだけあって、少し期待が外れたといった感じだろうか。
流石に、毎年熊をボコボコにしてるだけの事はある。
「ほれ、次の第二戦目は俺の推し。あのアルパカの人だぞ」
「推しって何よ……」
そう言えば、ラピスは呆れつつも気を引き締め直した。
あのアルパカの人が使う武器は槍で、剣を扱うラピスの専門外なのだが……やはり、強い人だと知ると興味が湧くらしい。分かり易いなコイツ。
『選手揃いまして、間もなく宣告致します。では、第二試合。初め────ッ!!』
そんな声がしたと共に、開始の合図が告げられる。
いつの間にか揃っていた両者に目を向ければ、会場の熱気と共に意識が引き寄せられた。
◇
時が流れて。
『さあ、残るは決勝戦のみとなりました! ついに佳境へと入ったブロディア王国催──回目武術大会、果たして勝ちを得るのはどちらになるのかッ──?!!』
トーナメント式のぶつかり合いを制して登ってきたのは、もちろん二人だけ。
金髪のアルパカお兄さんと、金髪のポニテ斧お姉さんだ。
マッチする順番は無作為なのだろうが、まさか決勝戦でぶつかり合う事になるとは思わなかった。
なんか運命みたいな物を感じる。
「ほんとにあの二人が決勝戦で戦う事になったわね」
「ああ」
そう淡々と言いつつも、試合が始まる舞台へ釘付けになるラピスさん。前までは心此処に在らずといった感じだったが、やはり二人が行う試合には揺り動かされる物があったのだろう。それはもう、楽しみにしていた。
「そういえば、この大会で優勝した人は第一王子の御付きに成れるそうね」
「武術を重んじるブロディアではとても名誉な事らしいな」
「ええ。王子の臣下ともなれば、それはもう待遇は良いに違いないわ」
「だからこれだけ盛況なのか」
「今大会は過去一番で人の集まりが良いみたい。観客も、もちろん選手達も同じ」
「そうなのか。そんな中での一番……どっちが勝つか、楽しみだな」
優勝候補同士のぶつかり合い。この場所で二人が相見える事は、どちらかの勝利──もしくはどちらかの敗北を意味している。この大会に引き分けは存在しないのだ。
『東より入場するは、みなさんお馴染みアルパカの人ッ!!』
「アルパカの里より参りし者、アンバーだ! 今日の大会、俺の名を伝説として刻み込ませて貰おうッ!!」
実況の声と共に闘技場の東の門が開かれ、選手が入ってくる。いつもの名乗り上げも一緒に、高らかに槍を掲げている。
武術大会に参加するのは初めてと語っていたのでお馴染みと言うには早い気もするが……それだけにアルパカのインパクトは強いらしい。凄いな。
『そして西より入場するは、現大会最年少の期待の星だ──ッ!!』
その後続いて西の門が開かれ、最後の選手が入ってきた。持っている武器の斧は、今までなぎ倒してきた選手達が持っていた物と変わらない筈なのに、どうしてか全くのベツモノに感じられた。何というか、迫力が違う。
「……私は鉱山、いや鉱石が有名な町より参った者! 名をジェーデと言う! 手合わせ願おう!」
そしてアルパカの人と同じくして名乗りを上げた。
確か前の試合まではしてなかった覚えが有るのだが……どうやらアルパカの人につられたらしい。ノリが良いな。
なるほど、鉱石が有名な町と言えば……多分内陸に有るあの町だろう。
『選手揃いまして、間もなく宣告致します!』
お互い名乗りを上げた事によって、場の熱気は最高潮までに達していた。
しかし選手二人はその熱に負けないほど冷静で、その振る舞いはどんな隙も見逃さ無いと暗に語っていた。
まだ試合前だと言うのに、これだ。もし始まってしまったら、果たしてどうなるのか。
「始まるね」
「ああ」
楽しみで、堪らない。
ちょっと長くなりそうなので分割