幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意)   作:あらい

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みんな大好きライブの杖

 ブロディア王国が擁するこの村には、山賊といったならず者の輩が来たことは一切無い。どうやら国全体が富国強兵の道を歩んでいるらしく、それ故に治安維持も完璧だという事だとか。たまーに王城兵らしき人達がこの村を訪れているのもその証拠と言えるだろう。

 平和なのは良いことだ。いつ襲ってくるか分からない恐怖に怯えているよりも、日々の生活を謳歌している方がよっぽど楽しいし、気も楽になるというものである。

 

 しかし平和である事は、同時にとある問題を引き起こす事にもなる。

 

 

 レベル上げ、できねえ。

 

 ファイアーエムブレムの本質には、やはり敵を攻撃して経験値を得るというシミュレーション要素が含まれている。もちろん、そこに生死の有無は問われていない。

 初代である『暗黒竜と光の剣』やそのリメイクである『紋章の謎』でも平和を取り戻す名目としてその辺にいる海賊をぶち殺しているし、人殺しーも普通にする。

 強敵であるほど経験値は多く手に入るので、武器を壊して無力化したり、自動回復する拠点の上でターンが続く限り延々と甚振ったりと、それはもう主人公一行がやるとは思えない割と非道な行為だって普通に推奨されている。経験値 is GOD だもん。

 

 だけれども、仮想敵(サンドバッグ)が居ないとなれば話は別だ。

 これではまともに経験値を稼ぐ方法、杖振るぐらいしか無くないか?

 

 俺が住んでいるこの村にも一応治療目的としてライブの杖は置いているが、ちゃんとした理由が無いと使用の許可が降りる事は無いし、そもそもそう頻繁に怪我を負う事もあまり無い。ライブの杖は体力が削れてないと使えないし。

 だいたいは傷薬で済ませるというのも大きいか。その辺に生えてる薬草調合するだけで薬ができるのだ、費用ゼロで使える分元手がかかる杖は使われない。

 

 これはもしかして。

 もしかしなくても詰んだか……?

 

「そろそろ収穫の時期ね」

 

 そんな事を考えていたら後方から声をかけられた。歳の割には少々音域の低い声質が、良い感じに耳を(くすぐ)らせる。どうしてか、彼女(ラピス)の声は聞いてて心地が良くなるものであった。

 

「最近少し寒くなってきたと思っていたが、もうそんな時期か」

「ええ。じゃがいもはまだまだ先だけど、他の芋はもうすぐ収穫できるわね」

 

 声に釣られてラピスの視線の先に目を向ける。見渡すかぎりの青々とした葉がそこにはあった。

 この村では土地のほとんどが田畑で占められている。内容は様々な種類が有るが、芋。全てというまででは無いが、芋がかなり多く育てられているのだ。どういうわけか痩せた土地でもすくすくと育つ芋は、昔からこの村の救世主となる存在である。

 

 なんか、とてもいいなこういうの……。

 天塩にかけて育てたものがこうやってカタチに現れてくれるのは、まさに感無量である。雨の日も風の日も、嵐の日でさえも守り抜いてきた甲斐が有ったというモノだ。

 作物を育てる事の楽しさは、記憶喪失の小作人や高貴な血を引くのじゃロリを通して分かっていた事だが、実際に体験してみると天と地程にも違うと感じさせられる。

 

 うーん、畑作は最高やな……!

 

 

 

 

「あっ、熊だわ」

「なにっ」

 

 そうやって何となく陶酔していたら、ラピスによって一気に現実に引き戻された。

 えっ、熊ァ?!

 

「ほら、あそこ!」

 

 指差す先を見てみれば畑の中に熊が入り来んできており、今まさに畑が荒らされる寸前というタイミングだった。な、なんて事を……! つい最近来たと思ったらまたかよ!

 畑を……作物を返してください……お願い……なんでもしますから……。

 

「この害獣が……」

「すぐに村の皆を呼んでくるね!」

「頼む!」

 

 ラピスが村人達を呼びに行けば、すぐにぞろぞろと増援が村より現れた。当然だろう、作物の有無は我々にとって死活問題である。

 

「ひねり潰してやる……」

「どう調理してやろうか……」

「人の悲しみを知れ……」

 

 皆、殺意マンマンである。そりゃそうだ、この村と熊の歴史は数百年にも渡るほど長いらしいのだ。先祖大体受け継がれてきた宿怨は、その血に深く刻み込まれている。

 熊はそんな村人達を、じっと眺めている。その表情から感情を読み取る事はできないが、きっと碌でもないモノに違いない。

 

 全員揃ったな。よし、ブチ殺そう。

 

「待って! このまま畑の中で熊を攻撃すれば、作物にも被害が及ぶわ!」

 

 村人達が剣やら弓やらを持ち出した所で、ラピスから待ったの声がかかる。

 そうだ、いけない。今は大切な作物が付近にある状況。迂闊に攻撃すれば暴れられる可能性は極めて高い。

 くぅ……どうすれば……!

 

「ここは私に任せて! 熊と話をしてみるわ!」

 

 ラピスはそう言うと他の村人達よりも前に出て、ある程度の距離を保ちながら熊と向き合った。熊も何事かと警戒しており、まさに一発即発の状況である。

 少しだけ深呼吸した後、ラピスは口を開いた。

 

 あれが来るのか……彼女の得意技が……!

 

「……こんにちは、熊さん。そこで何をしているの? そんな所で食べていると、危険な目に遭っちゃうわよ? ほら、あっちでお食べ」

 

 ラピスは諭す様にして熊へと語りかける。それはまるで物語の語り部の様な優しさを含んでいた。

 人語を解す熊などこの世には存在しないのだが、しかしどうだろう。

 

「おお、熊が去っていくぞ!」

「やったぜ!」

 

 ラピスの言う事をしっかりと聞いたのか、熊は重い腰を上げて畑を出て行き始めた。

 こちらも熊語を解す事はできないので、様子からして『しょうがないな』といった感じだろうか。

 

 のっそり、のっそりと。このまま放っておけば、元居た山へと帰っていくのだろう。

 人間から危害を加えられる事は無いだろうと確信しきっているのか、その足取りはとても緩慢なものである。

 しばしの間見守っていれば、やがて柵に仕切られた畑の外へと完全に出ていった。

 

 ……!

 

「と……油断させといて……馬鹿め……死ね!!!」

「うおおおおおおおお!!!」

 

 刹那。

 

 ラピスの言葉を皮切りに、村人達が武器を持って熊へと襲いかかる。一斉攻撃だ。

 生かして帰さん……ッ!

 

 今から始まるは、村人総動員での討伐戦だ。

 皆の的となってしまった熊さんは瞬く間に剣で斬られ、槍で突かれ、斧で切り刻まれの三連コンボを食らってしまう。

 いや、それどころではない。近接だけで無く、遠距離からも苛烈な攻撃が続いていた。更に飛び交うは弓の攻撃。狩りで培われた優れた弓の技術を持つ村人が熊の急所である部分を狙い撃っているのだ。いくら皮に守られた巨体といえど、目や鼻を狙われれば堪らない。

 

「グ グアアアアア!」

 

 ハメられた事に気が付いた熊が憤怒して獣の本能がままに暴れ回ろうとするが、もう遅い。

 数の暴力に勝てずズタズタに切り裂かれた後、最後に力無げにピクリと動けば、呆気なくその場に倒れ伏した。

 

 我々の勝利である。

 

「良かった、勝てたわね」

 

 ラピスはそう言うと、いつの間にか持って来ていた愛用の剣を熊の首根っこへと振り下ろした。

 ザシュっと小気味良い音が鳴ったと思えば、熊の首が胴体と乖離していた。

 

 熊という生物は賢く、そしてしぶといので死んだふりをする可能性もある。

 なので仕留めた際には必ずしなければいけない事なのだが、中々に容赦が無い。

 彼女が類稀な力を持つからこそ出来る芸当である。

 

「へへ、今夜も熊鍋か……」

「この幸せに慣れすぎない様にしねえとな」

「熊もそろそろ冬眠に入る時期だから、山から降りてきているのだろう。ここから先はあまり無いと思わなければな」

「へいへい」

 

 軽口を交わし合う村人達を横目に自身の状況を確認してみる。

 すると、幾許かの経験値の様なモノが身体に入って来ている様な気がした。先程の乱闘では俺も参加していたので、それが割り振られた形となったみたいである。

 

 なるほど、こうやって稼ぐのか。

 

 最初にレベルが上がった時も、熊を袋叩きにした時だった。こうする事はこの時期になれば少なく無い事だったので、その分の経験が蓄積されてきたのだろう。

 人の代わりに熊みたいな野生動物を倒して経験値を稼ぐとは、最近のFEは奇抜だな。こうしていれば、武器レベルとかも上がるのだろうか。

 ゲーム内では職ごとに使える武器が限られている作品が多かったが、この世界では別にそんな制限は無いように思える。魔法以外の物理武器は、扱おうと思えば誰でも使えるし。得意か不得意か、そこら辺が関係してくるのだろうか。まあ、知らんけど。

 

「いてて、だいぶ重症を負っちまったぜ」

「大丈夫か?! 薬は有るが、これだけの傷となると治るのに相当時間が掛かりそうだな……」

「すまねえ……」

 

 そんな事を考えていれば、村人の中から重症者が出たようだった。顔見知りのおっさんである。

 弓ならばともかく、近接戦となるとそりゃ怪我を負うものも出てくるだろう。だって相手は熊だし。

 命に別状は無さそうだが、大怪我の部類には入る。傷薬だけで十分に治せそうには見えない。

 

 ふむ……。

 となれば、アレの出番だ。

 

「村長! アレの出番です!」

「そうかアレか。ラズリ、頼んだぞ」

 

 アレを申し上げれば、村長はどこか頷いた素振りを見せた後、村奥にある倉庫から一振りの杖を持ってきた。

 そう、ライブの杖だ。これを使って重症者の治療を行う事にする。

 前のレベルアップでは全く成長しなかったとはいえ、そこそこの魔力の初期値が有った俺には適任の仕事だろう。

 転生を自覚した後、村長に「もし傷薬でも満足に治せない重症者が出た時は任せてください」と直談判した甲斐があったぜ。奉仕の喜びを感じたいとか適当な事を言ってみれば、少し引いた様子ながらも村長が了承してくれたのだ。言質を取れれば、こういう時に出番が回ってくる。

 

 べ、別に杖振り分の経験値が欲しかったとか、そんなんじゃないんだからね!

 

 あぁ^~経験値堪らねえぜ。後20回ほど振らせてくれや。

 

「……おお、すまんなラズリ。だいぶ楽になったよ」

「構いませんハイネルさん」

 

 ライブの杖を振ってみれば、おっさんの身体が仄かな光に包まれた。しばしの間待っていれば、やがて光は消え去り、大きく開いた傷口がいつの間にか塞がっていた。

 傷口の治療どころか殺菌作用もあるというのだから凄い杖だ。一家に一本、常備しておきたい杖である。

 

 ところでおっさんのHPは……チッ、全回復したか。

 足りないようだったら、こっそり追加で振ってやったというのに。命拾いしたな。

 

「今まで村にはプリーストが居なかったから助かるよ」

「いえいえ」

「これからも重症人が出たらよろしくな」

「はい分かりました」

 

 しめしめ。

 といった面持ちを何とか表に出さない様に我慢しながら、俺はそう答えた。

 

 村人達が言った通り、熊が出没する時期は限られている。そうなれば倒して経験値を得るという手段が閉ざされる以上、まともに稼ぐ手段は杖のみとなる。この村のライブの杖は是非使い倒していきたい。

 まあ病気とかには効かないから、実際の所効果的な場面はほとんど無いが……。

 

 多分、来年まで倉庫のこやしとなるでしょう。

 

「ふふ。ラズリはそっち系の才能が有るかもね」

「そうかな?」

「私は魔力とか、からっきしだからなあ……サンダーの本だって、持ってみても何も反応しなかったし」

「それ俺が持ってみても反応しなかったぞ」

「え、そうなの?」

 

 村の倉庫に置かれているサンダーの本。どこかのバカが買ったまま放置しているのだろうが、今の村には使える奴が誰もいない。以前、それを戯れで貸して貰った時も有ったが、他の奴と同じく全く反応しなかった。

 我が叫びを聞け! いかずちよ! と声に発しても何も出ないので、虚しくなって諦めた。

 多分、村人のままでは魔法は使えないのだろう。

 

「魔法って難しいわね。私なら剣だけ振ってるほうが楽だわ」

 

 そう言って何を思ったのが素振りをし始めるラピス。とても気合が入っている。

 わぁ早い。そして怖い。先程熊の首を斬った剣だからか、まだ血も付いてるよ……。

 

 多分、彼女の将来はソードマスターなんだろうね。なんか力も伸びそうだし、火力のあるソドマスって最強かな? これは行く末が楽しみだ……。

 

 

 対して俺は……どうなんだろう。

 あれから一応自分自身の能力というか、ステータスを確認する事はできた。しかし値は見れても、一番重要な成長率は見る事ができなかった。力と魔力が同値の6なんですが、一体、どっちがよく伸びるんでしょうか……。器用貧乏だけは勘弁してほしい。

 

 マスクデータ、どうにかして見る方法は有りませんかね……?

 

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