幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意)   作:あらい

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お前はまだゴリラを知らない

 ファイアーエムブレムのスラングとして『ゴリラ』という物が有る。

 何言ってんだこいつと罵られるかもしれないが、本当に有るんだ。

 

 容姿がゴリラのキャラクターに対してそう呼ばれている──という訳では無く、作品の物理攻撃力の参照元である『力』の成長率が極めて高いキャラクターに対して名付けられる事が多い。

 最近だと、ディミトリ*1や、エガちゃん*2に用いられる事がほとんどか。

 逆に『魔力』が伸びるキャラだと、マジカルゴリラなんて呼ばれてたりする。マジカルってなんだよ。

 

 まあ歴代で見ればどこぞの剣聖やらマムクート達、神の直系を持つ者の方が遥かに伸びるのだが、そのキャラ達はあまりゴリラとは言われない。そこらへんは……ご愛嬌という事で。

 

 

 色々語ったが、要するに……。

 

「……? どうしたの、突然じっと見て」

 

 この目の前に居る幼馴染(ラピス)が果たしてゴリラか、という事だ。

 

 村における彼女の普段の性質をまとめてみる。

 

 怪力。

 圧倒的なパワー。

 力持ち。

 

「うん、間違いない」

 

 間違いなく、ゴリラだ。

 勝ったなこの勝負。

 

「ん、どういうこと?」

 

 食らえ! ステータス開示攻撃!

 俺はラピスのマスクデータを覗く事にした。

 

ラピス Lv.2

村人

 

HP 21 (55% + 5%)

力 10 (25% + 5%)

魔力 4 (20% + 5%)

技 9 (35% + 5%)

速さ 10 (55% + 5%)

守備 6 (35% + 5%)

魔防 7 (30% + 5%)

幸運 5 (25% + 5%)

体格 4 (5% + 5%)

 

 ほうほう。

 

 ふむふむ、典型的な高速物理アタッカーという感じですね。恐らく下級職である村人のレベル2時点で力2ケタ! これは良い感じですね~。そして、剣士系でありながらそこそこ伸びる防御能力! 避ける壁に成れそうだとはいえ、被弾する時は被弾するので耐久力は高い方が良い。

 

 う~ん、かなり良い!

 良いねぇ、これは強くなりますね(確信)

 今は村人という職なので成長率補正が低いが、早期に転職して成長すれば優勝どころか、もっと……いや、その先に……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん?

 

 力、個人成長率……25%……?

 

 

 

 んん、おかしいな。見間違いだろうか。

 もう一度見てみよう。

 

 

 

 

 

 

力 10 (25% + 5%)

 

 

 

 目の前に鎮座する無機質な数字は、いくら瞬きすれども変わる事は無かった。

 

 ……そうか。

 なるほど、そういう事か。

 

 何となく感じていた違和感に収まりが付く。

 例えるならば、チグハグだった歯車がある日突然噛み合った時の様な。

 

「ラピス、お前……」

「どうしたの」

 

 お前……!

 

 

「さては、岩ゴボウが好物だな……?!」

「岩ゴボウって何よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、そんな食べ物が有るのね」

「イモ類と同じく、地中の部分が食べられるんだ」

「それって美味しいのかしら」

「いや、薬用が主な目的だから味はそれほど良くないらしい。でも、長時間茹でて置いておくと風味が出て通好みの味になるとか」

 

 あの成長率からして、もしかして力の初期値は本来の物では無くドーピングされた結果ではないかと思い、探りを入れてみたがどうやら違ったようだ。

 

 疑ってすまぬ……。

 ずばりこれでしょう! といった感じでまさにこれ以外無いと確信していたのだが、彼女の力は天性のものだったらしい。なんか普通に岩ゴボウとは何だ、という雑談の流れになってしまった。

 

 岩ゴボウはFE風花雪月に登場した『力』が1上がる、いわゆるドーピングアイテムの事を指す。力がどの作品においても超重要ステータスなのは疑いようの無い事実だが、そんな力を上げられるアイテムを風花ではその辺に生えてる草同士の交配で作り出す事ができる。

 世は違えど、根本的な仕組みは似ているこの世界。

 畑に岩ゴボウが自然発生する可能性は十分有り得るのだ。

 

 ちなみに、食べると筋力が上がる……というのは、伏せさせて貰った。

 多分、信じてはもらえ無さそうだったんで……。

 

「いつか食べてみたいわね~」

「だろう?」

 

 フフフ、食べてみたくなっただろう。

 ああ、食え……そうだ、食うんだ。

 

 もし岩ゴボウの自家生産が可能だったら、三食ゴボウ漬けにしてやろう!

 

 いや、まあこの貧しい村で三食きちんと採るってのは中々難しいけれども……。

 それでも、だ。

 

 

「……で、どうしてそんな話をしたの?」

「え、いやそれは」

 

 しまった、あまりにも脈絡が無さ過ぎたか。

 擬音で例えるならば、ギクッっという在り来たりな物が第一に付くだろう、内心冷や汗モノの窮地に陥っているが、無駄に頑張って冷静さを上辺に出してしまう。

 

 一体、この世のどこに遠出の決意を決めた馴染みに対してゴボウの話を振る奴がいるだろうか。

 

 いや、いない(反語)

 

「ん、別に今更隠すような仲でも無いでしょ」

 

 肩にちょこんと乗ったモミジの葉を少し鬱陶しそうに払うラピスには、若干の威圧感が内包されていた。

 わあ、怖い。

 

 ……本音を言うと、岩ゴボウをここまで彼女に勧めるのは理由がある。

 その理由とは、彼女に『力』のステータスを上げて欲しいからだ。というか、それ以外無い。

 ラピスの力の成長率は村人の値を加算しても30%。

 果たしてこれが、何を意味するのか。フッ……答えはとても簡単だ。

 

 ヘタれる。

 間違い無くヘタれる……!

 

 俺知ってるんだ。30%を引く事がどれだけ難しいか……!

 別ゲーで言えば、○ケモンの例えが最適だろうか。つの○リルや、じ○れと言った一撃必殺技はそんな簡単に当たりません。

 

 ……話は反れたが、それほどまでに『力』のステータスは重要なのだ。

 もしも武術大会にフルアーマーで参加する様なやべー奴が居たらどうするんだ……。

 ダメージがほとんど通らないか、最悪NO DAMAGE!まで有り得る。

 そうなってしまえば、優勝は絶望的だ。

 

「や、別に……ただの気まぐれだ。深い意味は無い」

「そうなの?」

「そうだ。お前は昔から食い意地が張ってそうだったからな」

「なにそれ、変なの」

 

 しかしまあ、そんな事を直接言える筈もなく。

 なんとか取り繕うと即興で考えた言い訳を放ってみたが──

 

 どういう訳か、それを聞いたラピスは大きくため息をはいた。

 

「……下手ね、ほんと」

「んん? 何が下手なんだ?」

「癖が出てるのよ。誤魔化す時の癖が」

「──えっ」

「はぁ……何を企んでるのか知らないけど、あなたの最近の奇行、バレてるんだからね……」

「?!」

 

 き、奇行だって?

 失敬な。最近やってる事と言えば、ただの……うん。

 

「何も言わず、ただ無言でジロジロと舐め回す様に村の人を見てるみたいね。しかも、老若男女問わず」

「ご、誤解だ……俺はただ人間観察をしているだけで、特に(やま)しい事は……」

「ふうん? でも、その反応は疾しい事をしてる時の反応ね」

「うっ……」

 

 嘘だろう……。

 ラピスに言われている疾しい事と言えば、まあ他人のステータスを覗いていた事なのだが……。

 

 決してバレないように細心の注意を払って遂行していたハズ。

 なのに、どうして。

 

「今日の朝から始めてたみたいだけど」

「なぜそれを……」

「ちなみに、もう村中で話題になってるわ」

「は、はやすぎる……!」

 

 呆れを100%配合したジトっとした目で睨んでくるラピスさん。

 思わずその視線から逃げたくなったが──しかし、周りには手近な障害物は存在しなかった。

 

 さすが村社会。

 ペガサスの足より、情報伝達速度がずっとはやい!!

 

「まあ、変な事はしないって信じてるけどね」

「その信頼が、逆に辛い……!」

 

 ……ううむ。何というか、自分がいかに矮小な存在か感じさせられますね。

 言葉で形容するのは難しいがあれだ、信頼を積み上げるのは難しいが崩すのは一瞬──そんな諺じみた謳い文句の逆バージョンみたいな感じである。

 

 城塞都市もびっくりの硬さだ。

 

「で、疾しい事ほんとにしてたの?」

「はい……」

「そうなんだ。ふ~ん」

 

 自分でも分からない癖を相手に見抜かれていたのならば、もうどうしようも無い。

 ここまで来て悪あがきするのも何だ、正直に言う事にした。

 

 やはり、見知った顔に嘘を付くのは難しい。

 

「……まあ、何をしてたかはその正直さに免じて聞かないであげる。みんなには適当に話しておくわ」

「ほっ」

「露骨に安堵したわね……」

 

 助かった。

 もし村の皆にバラされていたら、明日から──いや、今日から変態扱いされる所だった……!

 村八分されたら、俺生きていけません。

 

「でも、何もお咎めなしってのはダメよね」

「うっ……」

「村の掟、忘れたの? 悪い事しちゃいけないって」

「忘れてはいません……」

 

 

 村の民は全てがお互いを助け合い、支え合う。

 その中には決して、他を害するような意思は含まれてはならぬ。

 寄り合いと物資の管理は適切に。

 畑仕事はより大切に、より丁寧に。畑を荒らす熊は殺せ。

 最後に、神竜さまへの祈りを忘れずに。

 

 それが

 むらのおきて

 

 

「反省してます……」

「ふふ。そうね、少しでもそう思ってるのなら……決めた」

「ん?」

「私のお願い、聞いてくれる?」

 

 そう言って、ラピスはこちらに手を差し出してきた。

 とても凛としている。かっこいい。

 

 んん?

 

「できる範囲の事なら」

「言ったわね。もう取り消せないわよ」

 

 俺はあまり後先考えずにその手を取った。

 が、何か猛烈に嫌な予感がしてきた。

 

 これは間違いなく、アレだ。相当な無茶ぶりをされるヤツだ。

 あれ、別に何でもするとは言ってないんだけど……。

 

 

「よし。じゃ、早速村に帰ろうね」

「ひぃ~!」

 

 抵抗しようと思ったが、しかし成す術無く連れられていく。

 そういや俺、現状力負けしてるんだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。あれ、もう終わり?」

「い、いや……まだいける」

「良かった。じゃあ本気を出させてもらうわね」

「えっ」

 

 およそ今生では聞いた事の無いような、一刀で風を凪ぐ剣閃の音。

 極めれば残像さえも生み出せそうな巧みなる技が、確かな質量となって身に降りかかる。

 

「ぐはあっ……」

 

 精一杯の見栄は、それによって塵が如く吹き飛ばされてしまった。

 木彫りの軽い刀がカラカラと音を立てて、他所の方向へと転がっていく。

 

 武器はもう無い。

 紛う事無き負けである。

 

「おーこれで、10連勝か」

「お~いラズ坊。もっとちゃんと力を入れてやれよ~」

「そうだ、そうだ!」

 

 ボロボロにボコられて情けない姿を晒している俺に対して、外野が囃し立ててくる。

 いや~きついっす。

 

 相手に背を向けながら再度武器を取りに行く姿は、なんて哀れなのだろうか。

 

「ん。少しの間休憩しよっか」

「……そうしてくれると助かる」

 

 剣を第三の足代わりにして、地に付いていた膝を何とか空へと浮き上がらせる。

 どうしてこんなにも訓練用の剣でラピスにボコられているのか。それは、彼女が言っていたお願いが関係していた。

 

『暇な時で良いから、鍛錬に付き合ってくれる?』

 

 そんな事を請われた俺は彼女の為だと思い、二つ返事で了承した。

 しかし、それがまずかった。

 

 結果はこれである。

 

「他のみんなが言う通り、あなたはもっと剣を握る手に力を入れた方が良いわね」

「難しい事を言いますね……」

 

 殺傷力の無い模造剣を持って、一対一での打ち合い。

 

 速さは互角。流星の如き連撃は、しかし十分目で捉えられる。

 技は彼女の方が剣を長く握っているだけあって上だが、それでも負けていない。

 HPや守備と言った持久力もほぼ互角だ。

 

 しかし、『力』で大きな差を付けられていた。

 端的に言えば、ダメージレースで負けている。

 

 当然だろう。初期値では結構な差が付けられているのだ、他が似たような数値なら必殺でも引かない限り勝敗を覆す事はできない。なので、必殺出てくれ~と祈りながら剣を振るった。

 しかし結果はゼロである。

 

 まあ、必殺値高そうな剣じゃないのは分かりきっていた事だが……。

 

「ありがとう。鍛錬に付き合ってくれて」

「……どうという事は無い。どうせ畑仕事が終わればいつも暇だからな」

 

 嘘です。

 どうという事、めっちゃ有ります。大見得です。

 

 こうもボコられていると、死線が見えてきますね。

 

「対人戦の経験は初めてだし、とても為になるわ」

「そうなのか?」

「ええ。鍛錬に付き合ってくれる人が他にいなくてね」

 

 んん、経験か。

 そういえば身体を休めている最中に気が付いたのだが、先程の地獄の連戦で経験値が入ってるような気がする。

 

 熊を倒した時や杖を振ってた時ほどでは無く、あくまで微量といった感じだが。

 

 ふうむ、なるほど。

 こうして打ち合って、ボコられていれば経験値を稼げるというワケですかあ。

 

 ほう、これは中々の苦行ですね。

 

「鍛錬の相手、これからもよろしく頼むわ」

「えっ」

「毎日お願いね♪」

「?!」

 

 そう言って、ラピスは意味有りげに含み笑いをした。

 

 ……ま。マジで言ってるの? 

 これを、毎日……?

 ちょ、ちょっとキツいかな。どれくらいか苦行度の数値で表してみれば、初代そうりょリフのレベル上げくらいにはキツいと思います。

 

「村長とかどうだ? あの人、実はとても強いぞ」

「ダメよ。村長さんは私達と違って、いつも忙しいんだから」

「そうか」

 

 くっ、確かに……。

 役目を他の人に押し付けようとしたが、無駄だった。

 

 このお役目、俺しかいないのか……。

 

 しょうがない。これも世間体を守るため……。

 

「……分かったよ、分かった。最後まで付き合ってやるよ」

「ホント? やった~!」

「ああ、二言は無い」

「サンドバ──じゃなかった。これからも私のお相手、よろしく頼むわね♪」

 

 コイツ……!

 ちゃんと聞こえたぞ、前半……!

 

「言ったな、お前……。あとで後悔するなよ、必ずいつか一本取ってやるからな」

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

 今はまだ、弱いままでいい。

 かの豪将だって、かの剣鬼だって。昔話に謳われるあの偉大なるロードだって。最初は皆が、皆弱かったハズなんだ。

 幾度と無く負け、壁を知り、そして強くなっていった。大事なのは経験の積み重ねなのである。

 もちろん、そこには運の良さだって有るだろう。しかし、それでも根本的な物は必要だ。

 経験とは大いなる糧だ。

 経験に勝るものは、この世には存在しない。

 

 

 長くなってしまったが要約すると、こうだ。

 成長したら、いつか必ずボコってやるからな。覚悟しておけぇ!

 

 

「じゃ、休憩も終わった事だし。もう一度やろっか♪」

「えっ」

 

 そう心の中で意気込んでいたら、絶望のお知らせがやって来た。

 剣を帯刀した幼馴染が、逃げ道を阻むようにして仁王立ちしている。

 

 

 ──えっ。

 

 

 

 

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60%

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