幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意) 作:あらい
秘密の店に入れるって
話だぜ
だけど その店が
どこにあるかは だれも
知らねえってよ
時は紅葉が散り、迫る季節を間近に感じさせる程の木枯らしが吹く朝。
影の様に揺らぐ霧を何とかかき分けながら、俺は村外れの道を歩いていた。
目的地は王都ブロディア。
冬の訪れを嫌でも分からされる頃では有るが、村に引き籠もっている訳にはいかないらしい。その理由はもちろん、観光などでは無いが。
この時期になると冬でも育つ芋以外の収穫は終わっているので、一体何の為に遠出しているのか。最初の頃は度々、王都へ歩いて行く村人を見て俺もそう思っていた。
しかし、お役目が回ってくるとそれも理解できるというモノである。
「ふぅ……」
慣れない道をなんとか進む。
村から王都への距離はそこそこ有るものの、配分を考えて歩けば十分日の明るい内に戻ってこれる距離である。
しかしそれを不可能とするのが、この存在であった。
「今年は結構有るな……」
白い袋を背負ったまま、少し休憩の為に息をつく。特訓の成果が出ているのか、あまり疲れてはないが一応だ。
中に入っているのは、村人達が作った沢山の民芸品。
俺が住んでいる村は個々の住民達の繋がりが強い村社会となっているが、外の供給無しで生きていける様な状況ではない。物資の輸出で外貨を獲得する事によって、日々の生活を保っている側面も有った。普段はまあ……というかだいたいいつも輸出するのは芋なのだが、今日だけは違う。
村人が作った民芸品とは、織物や細工品などが含まれる。
その中でも、特に重要なのが織物だ。
冬の時期になると、絹を材料とした織物がよく売れる。
夏は涼しく、冬は温かいという良いとこ取りの様なこの素材。冬の寒さが尋常では無いブロディアでは、無くてはならない必需品レベル──とまではいかないが、それに近いほど需要が存在していた。
普段は芋ばっかり輸出している村……通称芋村という何ともひねりの無い名称である我が村だが、需要を知ってかここ数年前からは織物にも着手し始めた。
おかげで、この時期は色々大変である。生活状況はだいぶ改善されたのは事実なのだが……。
しかし、力を入れて作ってるだけあってそこそこ高値で売れるらしい。
聞くとこによると、知る人ぞ知る名産品だと言われてるとか何とか。ホントか?
「取引相手は決まっているらしいが……はぁ」
渡された地図と睨めっこしながら溜め息をはく。別に道に迷ったという話では無い。
村を出る直前に村長から言われた言葉が今になって浮き上がんできただけだ。
『相場はこの辺だから、頼むぞ』
示されたのは村の民芸品を売った時のだいたいの相場。前年よりも寒くなっているので、高く売れるだろうとの事だ。どれ程で売れるのか分からなければ、安く買い叩かれてしまうのでこれ自体は別に変な話では無い。
問題なのは、少し間を開けて放たれた『頼むぞ』という言葉だ。
村で長く暮らしていれば分かる。
「多分、相場よりも吊り上げてくれという意味だろうなあ……」
民芸品はそれはもう、高く売れたほうがいい。
儲けも増えるし、何より箔が付く。質の良さを買ってくれれば、より良い商売相手と巡り会える可能性だってあるだろう。まさに重要責任である。
それを一人に任せるだなんて。全く、村長も無茶を言う。
「できるだけ、やってみるかあ……」
しかしこれは、村の住民達全員が行っている事である。
毎年一回冬の時期だけというわけで無く、夏の初めにも行われる通例行事。
う~ん、大変だね……。
だけれども、村で生きていくには絶対に必要とされる物なのだろう。ホントは文句を言いたいけど、言ってられん。
交渉相手が最初から決まっているだけマシだと考えよう。
これで並み居る商売人から最高値で買ってくれる人を見つけろとか言われたら、俺はもう泣いていた。
「まま、なるようになるか……」
暗い方向に考えてもアレなので、道中は昼に摂る食事のことだけを思いながら歩く事にした。
ちなみに昼食のほとんどは芋である。
やっぱこれだね。
◇
王都ブロディアへ辿り着く頃には夕方になっていた。城下町を取り仕切る門番に対して通行証を見せると、特に止められる事も無く町への通行が許可された。
場所は確か、初代国王の像が有る広場──その少し遠くにある風変わりな屋台だったか。
そこに行けば、すぐに相手は現れた。
「へぇ~。キミが持ってきてくれたんだ~!」
「はい、そうです……」
「キミの住む村の事はよく知ってるよ! 村のお芋、私も食べてみた事はあったんだけど、とっても甘くて美味しかったわ!」
民芸品の取引相手。それは、とても見覚えが有る人だった。
赤髪のポニーテールが映えていて、物欲しげに人差し指を口に当てるポーズがチャーミングなお姉さん。その身に纏う神出鬼没を体現したトリックスターが如き服は、一目で分かるほど機能美溢れた優れもの。
これは間違いない、あの人だ。名前はまあ、分かりきっているのだが……最初から知っているのも可笑しな話だ。一応、聞いておこう。
「ありがとうございます。芋は村の特産品なんで、そう言って頂けると嬉しいです。それで……ええと、あなたは……」
「私? 私はね、アンナって言うの。秘密の行商人とも呼ばれているわね」
やっぱりそうだった。
彼女はシリーズ恒例、秘密の行商人のアンナさんである。
メンバーカードが有れば彼女が経営する秘密の店に入れる──そんな話が(プレイヤーの中で)有名なあのアンナさんだ。だけどその店がどこにあるかは誰も知らないらしい。よく経営続けられているな。
……しかしまあ、ホントにアンナさんである。
取引相手の外見を伝えられた時はまさかと思っていたが、こういう事も有るんですねえ。
「……」
「どうしたの私の顔ばっかり見て?」
「……! いえ、どこかでお会いしたような気がして」
「そうなの? うーん、でも私はあなたと会ったのは今日で初めてだから……多分、私の姉妹ね!」
よく言われそうな疑問を投げかけてみれば、予想通りの答えが帰ってきた。
アンナさんは、何故か同じ顔の姉妹が世界中にいる謎多き存在である。
ほぼ全てのシリーズに登場し、前述した通りに秘密の店をやっていたり、はたまた普通にプレイアブルキャラとして参加したり。
最初はまさか無性生殖で分裂でもしてるんじゃないかと失礼な事を思っていたが、普通に彼氏が居るアンナさんもいるのでよく分からなくなった。
「それにしても、すぐ私が取引相手だって分かったわね~!」
「予め村の人に外見を教えてもらっていたので……」
「そうなのか~! ねえねえ、村からここまで結構かかったでしょ? もしかして一人で来たの?」
「はい。そうで……」
「すごーい! こんな重い荷物を持って一人で来るなんて! キミってがんばり屋さんなんだね! 偉いぞ~♡」
そう言って頭を撫でてくるアンナさん。それはまるで、年下の子をからかう近所のお姉さんの様な口調である。
や、やめろォ! 俺は頭を撫でられて喜ぶ様な趣味は──
あっ、くぅっ──なんだこれ、なんだこれ! すっごい気持ちいい……!
なんか分からんけど、これ最高だ(確信)
「ほれほれ~」
「ちょ……!」
なんとか抗おうとするが、しかし相手はお姉さん。身長差もあってか、抜け出す事は叶わなかった。
べ、別に気持ちいいから抵抗してないワケじゃ……!
「ふふ、可愛い~♡」
「……ストップ! アンナさん、ストップ!」
「ごめんごめん、つい調子に乗っちゃった~。キミみたいな若い子が来るのはほとんど無くて」
なんとか声をあげれば、名残惜しそうにアンナさんは手を離してくれた。くっ……こっちだって名残惜しいよチクショウ。
……いかんいかん、骨抜きにされてしまうところだった。ノリが良い人なのは何となく察していたが、まさかここまでだなんて。
ifパルレもびっくりのスキンシップだよコレ。
「でも、良かったでしょ? キミだって気持ち良さそうに目を細めてたし」
「くっ……」
否定は出来ん……!
この世界に転生してから気が付いたのだが、何やら精神が少し肉体に同調されかかっている傾向が有る。歳相応の思考に引きずられてるみたいな、そんな感じで……。
要約すると、言いたい事はこうだ。
性癖が捻じ曲がってしまうのでやめてくれぇ……!
「悪かったって! ごめんね~」
「……良いですよ。気持ち良かったのは事実ですし。それで、持ってきた物なんですが」
「そうそう! 頼んでいた村の民芸品だったわね~。ええと、取り敢えず袋から出して見せてくれる?」
ふう、やっと軌道修正したか。
アンナさんに言われる通り、袋を置いて手頃な織物を一つ渡した。
それを手に取ったアンナさんは先程のニコニコした顔から一転、物の真贋を見極める様な鋭い目つきへと変貌した。
あ、こういう時はしっかりするんですね。
「う~む」
「……」
アンナさんと言えば、行商人故にお金に執着する一面も見受けられる事で知られている。
果たして、どれ程の値を提示してくるのか。とても気になります。
適正値を出してくるのか、それとも安く買い叩いて来るのか。
後者だとしたら中々策士である。ああも頭を撫で撫でされた後なら、ちょっとばかし安い値段を提示されてもホイホイ応じてしまいそうなモノである。
しかし、残念だったな。俺には通じないぞ……ッ!
「よし、決めた!」
「……!」
さあ、一体どんな値段で買い取ってくれるのか。
期待と不安が心の中で色々混じり合う中、提示された金額は──
「キミが持ってきた民芸品……○○Gでどう?」
村長に予め言われた相場の額。それよりも遥かに値が上乗せされたものだった。
それもなんと、五割増しという相当な値段である。相場に疎い俺でも分かる、これはかなりお高い評価を民芸品に付けて貰っているな。
い、良いんですかあ……?!
「○○G?!」
「キミ、バレバレだよその表情~。良いんですか、って顔してるね?」
「……あっ」
「ふふ、答えはOKだよ。私は相当な価値が有ると思ってちゃんとこの値段を付けたんだ」
そう言って、アンナさんはニッコリと笑った。
なんと。まさかそんなにも村人達の民芸品に価値が有るなんて。くぅ……俺は、俺はとても嬉しいよ!
村のみんな……! 今までずっと、熊をブチのめしているだけの蛮族だと思ってました。すみません……!
あ、これブーメランだ。
「それで、どうするの? キミはこれを私に売ってくれるの?」
「……お、お願いします」
「~♪ そっか♪ じゃ、交渉成立だね」
アンナさんはそう言うと、民芸品と引き換えにお金を渡してきた。
おお凄い、これだけで半年は何とかなる量だよ。まさかここまで高値で買い取ってくれるとは思わなかった。
交渉って面倒くさそうだから忌避してたけど、こんなにも良い結果で終わるなんてビックリしたぞ。
「キミ。それはね、私からのサービスだよ」
「えっ」
「いつもならもうちょっと安く買い叩いてるんだけど……それは、ここまで頑張ってきたキミへのご褒美! 頑張ってる子を見ると、私応援したくなっちゃうんだ~♡」
アンナさんはそう言うと、再度頭をわちゃわちゃと撫でてきた。
その手付きや、まるで全てを包み込むペガサスの羽の様な優しさ。
継続的に行われるそれは決して強過ぎず、それでいて弱過ぎず、ただ心地よさだけを追求した──まさに至高の逸楽。
あっ
あっあっあっあっあっ
「ここが、天国だったんやなって──」
「ちょ、ちょっとキミ?!」
俺は恍惚の中、気を失った。