幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意) 作:あらい
一枚の硝子を覗いた先には、無数の世界が広がっていた。
境目を取り仕切る
それは感覚を真っ二つにしてしまいそうな程に狂暴で、通り過ぎるたびに身体のどこにも無い部分の痛覚がゆらゆらと揺すられた。
誰かが自分を呼んでいるらしい。
しかし応える事はできず、喉からは掠れた声さえも出なかった。
誰かが自分を呼んでいるらしい。
声が聞こえているのに、手を伸ばす事が叶わない。望みは幾度も聞こえてくるのに、望む事は叶わない。
そんな不可思議な世界から、ずっと。
やがて、森閑とした平面から
それは曲がり、くねって、合わせ鏡の様に同じ平行線を辿りながら縮小して。
一つの影法師へと繋がった。
──わたしは そうりょリフ。
たたかいはできませんが治療の杖が使えます。
よろしければごいっしょさせてください
「……はっ?!」
突然浮き上がった謎のつるつる頭。
極めて相関性の感じられない人選に、脳が理解を拒んで稼働しなくなった。
すると、どうだろう。
世界が色を以って動き出した。
「おっ、起きたみたいね」
「んん……」
暖かそうな織物のシーツを少し退かす様にすれば、声をかけられた。声の主は──そう、お馴染みのアンナさん。
しかしアンナさんは、先ほど見ていたトリックスターの様な服ではなく、少し野暮ったい部屋着みたいな服を纏っていた。髪型もいつものポニーテールで結っておらずに、そのまま降ろしたままである。あ、ちょっと寝ぐせが付いてる。
どういう状況なんだこれ……。
「こ、ここは……」
「ここはね、私の家~」
「えっ、アンナさんの家?!」
寝起きで一番に探るのは自身の置かれた状況だろう。
少ない時間軸を探偵の詰問の様に逆へと辿っていくが、しかしよく分からない。
な、なんでアンナさんの家で……。
「──じゃなくって、家兼貸倉庫よ~♪」
「け、兼……?」
キリっとした表情で答えるアンナさん。
「私は旅の行商人だから、貸倉庫を家代わりにしているのよ~。意外と安価で便利なのよ~これが」
「そ、そうなんですか……」
「うんうん。で、キミの話なんだけど……突然倒れちゃったキミをここまで私が連れてきたの。ビックリしたよ~」
「そうだったんですか。それで、介抱して頂いたと……」
点と線が繋がった。
アンナさんに二度頭を撫でられた俺は、至高の心地良さより気絶してしまったと。
それで、驚いたアンナさんに助けられて今ここにいるらしい。
なるほど。
……も、申し訳ねえ。こいついつも倒れてんな。
今日日あったばかりの人に対してどれだけ気を遣わせているんですかね……。
穴が有ったら入りたい……!
「といっても、寝かせてただけだったけどね。暖かかった? それ、君が持ってきた織物だよ」
「あ、えっと……」
「効果のほどは如何ばかり、ってその顔なら聞かずとも分かるか~。ふふ、良かった良かった」
なんと、本来なら商品となる物まで貸して貰っていたとは。
くぅ……あまりの面目無さから、隅っこのどこか暗い所で引き籠っていたい気分である。
「ああ、朝日が眩しい。……ん、朝日?」
「そうそう、キミだいぶ疲れてたんだね~。あれから朝までグッスリだったよ」
「な、なんと……一晩過ぎていただなんて……!」
耳をよく澄ましてみれば、どこか遠くで鳥の鳴き声がした。おそらく、この時期になると東の大地からやってくる渡り鳥のものだろう。よく聞き覚えがある。
「そういや、キミは本来どうするつもりだったの?」
「昨日の話ですか……? それだったら、どこか適当な宿を取るつもりでした」
場所はブロディア王都。山での野宿は慣れたものでは有るが、流石に王都の石畳の上で寝てたら街の衛兵にしょっぴかれかねない。というわけで、一晩分の宿代は村から支給されてはいたのだが……。
「お~、宿代浮いたね!」
「そ、そうみたいですね」
いえ~い! と朗らかな声を出しながらサムズアップするアンナさん。
こ、これ喜んで良いんでしょうか……?
助けて貰った身としては、ここで素直に喜んでしまうと……うーん。
「その顔は申し訳なさ一杯って感じだね。大丈夫だよ、平気平気! 子供なんだから、もっと図々しく行っちゃおう!」
「図々しく、ですか……」
奴隷根性を持つ人間としては、携帯物として染み付いている様な性分。それを発揮しようとしたら、アンナさんの持前の明るさにより止められた。これは多分、外見のおかげでもあるのだろう。子供のアドバンテージ、凄まじい。
まあ、転生してるせいで中身は年相応じゃ無いんですが……。
そこはとりあえず、おいておこう。
「そうそう。私の末っ子姉妹が近くにいるんだけど、歳の割に結構図々しくてね~」
「えっと、同じくらいの歳ですかね? 自分は、今年でやっと11歳になった身なんですが……」
「いや、もっと下よ。まだ5歳なのに、自分の店を持ちたいって言い出して仕方なくて」
は、早いな。
五歳でもう店の経営を目指すようになるとは……。流石、アンナさんの血族と言うべきか。
というか、凄いな年の差。
「でも、その歳で確固たる目標を持っているのって、とてもすごく見えますけど……」
「キミもそう思う? でしょでしょ~? 私達の自慢の妹なのよ~」
そんな事を言ったら、アンナさんは目に見えて分かるほどの嬉しさをその面持ちに出していた。姉妹愛に溢れています。
……う~ん、仲が良い姉妹って良いな。
なんかこう言葉に表すのは難しいんだけれども、お互いを思い合う感情が分かるのがとても良い。
歳の差も関係無くなる程の矢印が飛び合っているというか、確かな親愛をいっぱい感じますね。
「それでそれでね、基礎から学んでこいって言ったら、もうお姉ちゃんから見て学んだから大丈夫、店を一日貸してくれ──だなんて言うのよ~!」
「御姉妹はお互い、仲が良いんですね」
「あらあら! そう言ってくれるの、私とても嬉しいわ~! でね、それでね~!」
そう相槌を打っていれば、更に上機嫌になったアンナさんが現れた。
おっと、この流れは多分アレだ。これから数十分くらい、お話が続くヤツだろう。
マジか、ちょっと腹減ってるから持ってきた芋で腹ごしらえしたいんですが……。
……でもまあいいか、こちらの身としては彼女の姉妹の話はとても興味深いもの。
泊めてくれたの恩も有るのでここで断る理由は無い。
そんなこんなで、俺はアンナさんの家族話をしばしの間楽しむ事にした。
「──それで、最近は力を付ける為に店売りの斧とか持ち出しちゃったから、どうしたものかな~って。……あっ、つい話が長くなっちゃった」
「いえいえ。アンナさんのご家族の話、とても面白かったです」
部屋に入ってくる日の光の傾きに気が付いたのか、アンナさんは動かす口を止めた。
いや~……アンナさん一族の生態について、謎が深まるばかりだった。
まさかその歳にして、あんな事をやっちゃってるなんて──
「ごめんね~。そういえば、朝食食べてないでしょ? お腹減った?」
「そうですね……あ、だいぶ減ってます。持ってきた芋でも食べようかなと思っていた所でした」
「お~、お芋持ってきたんだね。そうかそうか~。ちなみに、どう食べるの?」
「いつもは軽く茹でて食べるんですが、別に生食でも大丈夫なんで生でいこうかと」
流石に調理した方が美味いのだが、一応生でも十分美味しい村の芋。
面倒臭がりな村人の中には、いつもそのまま齧っている奴も居る。
最初はワイルド過ぎるだろと引いていたが、しかし朱に交われば赤くなるというもの。
いちいち水なんか沸かしてられない場所ではむしろ推奨されるまであって、いつの間にか慣れていた。
「そうか~。でも、調理された後のほうが好きでしょ?」
「もちろんです」
「なら私が料理してあげようか?」
「えっ、本当ですか?」
「ええ。こう見えても、行商人の基礎として叩き込まれていてね。本職に匹敵してると思えるくらいには自信有るわよ~!」
そう言って、腕まくりポーズをするアンナさん。
おお~、まさか、そこまでとは。
ラピスも含め、村には料理ができる奴がかなり多い。
特に失敗する事無しに、心から美味しいと言える料理を手堅く作ってくれるのだ。食べ物が美味しいと、日々の活力二倍アップである。
しかし、いつの日か村に訪れた流浪の料理人。名は忘れたが、その者が作る料理だけはどの村人が作る物よりも美味い──つまり、今まで食べた事が無い程の至上の一品だった。いわゆる、プロの料理人。
アンナさんもそれくらいだとしたら──
「め、迷惑でなければ、ぜひお願いします」
「よ~し! じゃ、腕によりをかけて作っちゃうわよ~!」
力が入った声でアンナさんは宣言した。
「おいしい……美味しいです……ッ!」
「本当? そう言ってくれると作ったかいが有るという物ね~」
料理を一つ口にしてみれば、そこには幻想が広がっていた。大地の恵みが連想されるというか、山吹色の世界がすぐ近くにあるように感じられてしまうのだ。
出されたのは芋を素材としたココット。カップの中に牛乳や野菜等を入れてそのまま焼いた物であり、グラタンに近い料理だと言えば分かりやすいか。
銀製のスプーンを張った表面に入れてみれば、何度でも香ばしい匂いが辺りに広がって、もう堪らない。この香りがあれば、何杯だっていけてしまうだろう。
う、美味すぎる……。
「ごちそうさまでした……!」
「良い食べっぷりね~。見てて楽しかったわ~」
気が付いたら、あっという間に食べきっていた。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう──それに近い状況が起こったのは間違いないのだろう、自分でもこんなに食が進むのが早いとは思わなかった。
「食器は後で適当に洗っておくからそのままでいいわよ~」
「すみませんホント、何から何まで色々……」
なんというか、至れり尽くせりな待遇であった。
まさか昨日あったばかりの人間にここまでしてくれるなんて、凄い善性の持ち主である。
まさにおもてなしの精神。それをこうも見せられようものなら、ここで何もせずに帰るは村の恥である。村の掟の中には、恩に報いるという物も有るのだ。
「何かお返しでも……」
「大丈夫大丈夫。困っている人を助けるのが、商人の本分なんだから必要無いわよ」
「それでは収まらないというか、申し訳無いというか」
「……う~ん、そっか。そこまでお返ししたいと思っているなら……」
アンナさんは少し考え込んでそう言った。
「例えば、これから他の姉妹がやってる店を見つけた時に贔屓にするとかどう? キミにいつかその時が来たら、ね?」
これは……いつか、村の遣いという目的無しでお店にやってきた時に恩返しをしてくれとの事だろう。
しかしこれでは意味が無い。
もしお店を見つけたとしても、自分を助けてくれたアンナさんであるとは限らないのだ。というか、そもそも見分けられん。
旅の行商人との事なので、いつまでもブロディアに居座ってるわけではないのだろう。となると、今日を逃したらこのアンナさんに恩を返す事はできなくなってしまうかもしれない。
「それではダメなんです。ここで、返させてください」
「……妹ほどじゃないけど、キミも結構強情なほうだね。分かったよ」
「やった……!」
「でも返すと言っても、私にとっては商売品を買って貰う事ぐらいしか助けにならないけど……高いよ?」
何とか取り付ける事ができて安堵する。が、ここはしっかりとしているアンナさん。
しかし、それも想定の内。構いません……!
村人達が作ってくれた民芸品──それで得たお金で支払いましょう……!
「ぜひ、商品を見せてください」
「良いけど……」
何やら気乗りしてなさそうな声で、アンナさんは応じてくれた。
◇
【悲報】アンナさんのお店商品、高かった。
「でしょう……?」
「ですね」
お店に並べられた商品、それはどれも珍しい物では有ったが、総じてどれも高かった。
いわゆるドーピングアイテムも存在したが、民芸品の売り上げだけでは到底買えるものでは無い。
まあ、そりゃそうだ。
「品揃えの良さには自信が有るけど、値段はそれ相応よ?」
「半分冗談だったのですが、民芸品の売り上げだけでは払えませんね」
「半分は冗談じゃないのね……」
半分は当たってる。耳が痛い。
「となると、ダメみたいですね」
「もう良いわよ……。またいつか、会えるかもしれないんだから……キミが大人になってから恩返しでもいいじゃない」
そう諭す様に言ってくるアンナさん。
またいつか会える事を信じて、か──
くう……残念だが、ここまでなのか。
……せめてもうちょっと早く生まれて、もうちょっと自分に力が有れば、どこかの傭兵にでも成って稼げたのに。
稼ぐ才の無いこの身が辛ぇわ……。
「……ん。荷物は減ったとはいえ、ここから村までは遠いでしょ? ちんたらしてたら日が暮れちゃうよ? ほら、私に構ってないで早く帰った帰った」
そうやって心無げに接するアンナさん。それもきっと、彼女の優しさなのだろう。
……。
「分かりました。では……」
「……じゃあね~。また、御贔屓に」
言い出したからには、もう終わりだ。
簡易的な挨拶だけをして、アンナさんの仮住まいから去ろうとする。
時間的に換算すれば、ほとんど居なかったにも関わらずどうしてこんなにも心寂しいのか。
答えはもう、分かりきっている。
「……あの、最後に気になる事が浮かんできてしまったんですが……アレなんですか?」
ふと、何となく目線を横に向けてみると隅っこに積まれた謎のオブジェクトが目に入った。
大切そうに陳列された商品とは別に、あまりにもぞんざいに扱われているそれはは商品か、はたまたタダの廃棄物か。
「ああ、それ? 初めて見るものだったから購入してみたんだけど、どうも全く売れなくってね~。不良在庫として捨てるつもりだったの」
「失礼ですが、それを見せて貰っても?」
「えぇ……?」
何やら困惑した様子で、不良在庫と呼ばれるソレを持ってきた。正方形の奇妙な装飾が先に付いているが、間違いない。
これは、杖だ。
「これはアイスロックて呼ばれてる杖なんだけど、効果がいまいちでね~。ただ杖を振っても、氷が生えるだけなの」
「氷が生える……?」
「うん。こう聞けば使い道は有りそうじゃない? 壁とか。……でも肝心の氷が脆くてね、剣を初めて握った子供でも簡単に壊せてしまうようなヤワな物なのよ~。お陰様で、実演しても誰も買って貰えなくて……リカバーやリブローの杖の方がよっぽど売れたわ」
「そのアイスロックの杖、外で振らせて貰っても良いでしょうか? 振った分の代金は払います」
「え?」
アンナさんは少し間を開けて、『良いけど……』とおっしゃった。
アイスロック、初めて聞く名前の杖である。
効果の程は伝聞だけでは弱そうだったが……しかし何かが、自分の中で引っかかった。
「んん、そんな物何の役に立つって言うの……」
アンナさんの家から少し離れた所に空き地が有ったので使わせてもらう事にした。王都内での杖に関しての決まりごとはそれほど厳しくは無いものの、これ見よがしと使っていれば流石に目を付けられる。なので、極めてこっそりと行う事にした。
「いきます」
一度、念を込めて杖を振ってみる。すると、目の前に氷が現れた。武器レベルが有るのならば使用できない可能性も有り得たが、どうやら今の俺でも使えるらしい。
氷の効果は……持ってきた剣で斬ってみると、少々反発は有るものの簡単に切る事ができた。アンナさんの言う通り、硬い壁としての効果は期待できないだろう。精々、ちょっとした足止めぐらい。
「ほら、柔らかいでしょ?」
確かに。確かに、そうなのだが。
これは、もしかして……。
……最後に、何となく思いついた事を試してみる。
内容は遠くに氷を発生させられるかどうか、だ。
保有する魔力によって距離が変わる可能性は有るが、とりあえずできるだけ遠くに。
氷柱を飛ばす様なイメージをしながら、杖を振ってみる。
すると──
「あっ」
体感、6メートル先。
一人の人間が入れる空間を1マスとして考えると、およそ8マス先に氷が発生した。
あっ。これヤバイ奴だ。
「アンナさん、これ売るとしたらいくらかかりますか?」
「……買うの? どうせ捨てるつもりだったし、買ってくれるなら在庫処分も兼ねてかなり安くなるけど……これくらいかな」
アンナさんが提示した金額は、相当安かった。
チャラになった宿代だけでも数本は余裕で買える額である。
「在庫ありますか? 有るなら買えるだけ下さい」
「……本当に言ってる? こんな杖のどこに価値が……」
間違いない。この杖は間違いなく、ヤバイ。
少しの量では有るが、経験値もしっかりと入っているのを感じる。
ライブと同じ量か、少ないか。差は分からないけれども……それよりも、傷付いた仲間が居なくても使えるってのがとんでもない。
「はい。もちろん本当です。買えるだけ、買わせて頂きます」
「……もしかして、何か気を遣ってる? そういうのは、商売人としてのプライドが許さないからやめて欲しいんだけど」
そう言うと、先ほどとは打って変わってこちらを睨む様な目付きになるアンナさん。
だいぶ怖い。
が、ここでひるんではいられない。
「いえ、気なんて遣ってないですよ。自分は、この杖がとても価値が有る物だと思っています。きっとこの杖が売れなかったのは、買っていくヤツの見る目が無かったからでしょう。心からこの杖が欲しいと、断言できます」
確固たる意思を持って、そう答えた。
どうだろうか……?
アンナさんはそれを聞くと、怒りを潜ませ、何やら考え込んだ様な表情になってしまった。
そして、長い沈黙が続いた後。
「その理屈で言うと、私も見る目が無いヤツに分類されてしまうのだけど……」
「────あっ」
しまった、失言した。
「や、待ってください! そ、そういう意味で言ったわけじゃ……」
「……」
身振り手振りで頑張って貶める意図が無かった事を説明するが、焦りすぎて上手くいっていない様な気がする。
何をやっているんだ、俺。
「た、他意は無くて……」
「……」
「そ、その」
「……」
途端に何も言わなくなってしまったアンナさん。
何も言わないのが、逆に怖い。
こういう時はどうすれば……。
……そうだ、あの言葉を言えば良いんだ──!
「すみません許してください! 何でもし──」
「……ふふ、分かった。分かった。そこまでで良いよ」
伝家の宝刀を抜こうとした刹那、止められる。
極めてやんわりとした言い方だった。
「そこまで言ったら本気だって分かるよ。そんなにもこの杖が欲しいんだね」
「……はい! 売ってくれますかね……?」
「もちろん。代金は提示した分払ってもらうけど、いくらでも買って貰っていいよ~」
その言葉を皮切りに、服のポケットからメモ書きの様な物を取り出すアンナさん。
これは、領収書の様な物だろうか。とても準備が良い。
買う本数とその代金の合計を書けるように様式が定められた紙面。おそらく偽造はできない様になっているのだろう、何かしらの魔法が刻印されている様な気がする。
ううむ、ここは慎重に。
一字一句間違えないように書いて提示し、促されるままにサインをした後、代金を支払えば交渉が完了した事の印をアンナさんは押してくれた。
「毎度あり~!」
「はい、ありがとうございました」
大量のアイスロックの杖を、その掛け声と共に受け取る。
こうして重ねて持つと結構な重さだ。しかし、持ち帰れない程では無い。
ふっふっふっ……まさかこんなにも良い杖がたくさん手に入るなんて。
掘り出し物どころではない最高の収穫である。
「ふふふ。もう交渉は終わったからね。返品しようとしたって無駄だよ。ビタ一文返さないからね」
「ええ良いですよ。そちらこそ、本当に売ってしまって良かったんですか? これでは大損ですよ」
「言うね~。これから先の未来、この杖の値段が吊り上がるとでも?」
「ええそうです。絶対に上がります。というか、俺のせいで上がります」
そう格好付けて言ってみれば、可笑しそうに笑われた。
「ふ~ん、そうなんだ。それじゃ、その時の為にもたくさん買い込んでおかなきゃね」
「ええ。そうしておくと儲かりますよ」
「売る相手が増えないと、儲からないんだけどな~」
「まあ、その時は俺が買いますよ。役立たずと言われている杖を大々的に宣伝してたら、相当話題になりそうですからね。他の国に居てもすぐに見つかりそうです」
軽口をお互いに叩き合いながら袋の中へと買った杖を仕舞い込んでいく。
こうしてみると、結構ガキっぽいところ有りますねアンナさん。
そんな事を考えながらただひたすらに。
やがて、最後の杖を入れ終えれば別れの時はやってきた。
「あ~楽しかった。キミみたいな子、初めてだったよ。まさか、ここまで言ってくれるなんてね」
「ええ。俺もとても楽しかったですよ」
「忘れないでよね、今日の事。その杖の値段があがるの、楽しみにしてるわ」
「ええ、忘れません」
背中から感じる確かな重量感を噛みしめながら、そう思う。
へへへ、村に帰ったらすぐにアイスロックを使いたおしてやろう……! これだけ有れば、戦略的用途以外にも普通に経験値稼ぎとして使えそうなのだから。
それこそ、村中を氷漬けにするくらいに……!
ファイアーエムブレムの特性として、敵が強くなれば得られる経験値も上がるというもの。
杖を振り続けてレベルが上がれば、
よし、行くぞォ!
俺はアンナさんにさよならの挨拶をして、元気よく駆け出した。
「待って」
すると、何故かストップの声が掛かる。
ん?
「最後に♪」
アンナさんはそう言うと、何を思ったのかこちらの頭を撫でてきた。
その感触や、至高のひととき。
──あっ。
「バイバイ。君が大物になるの、楽しみにしてるからね」
あっあっ──
本編のキャラと支援あります
だいたい誰とかは分かるかも
成長率覗くの忘れてます