幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意)   作:あらい

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合間に入った日常回
もう少しで一区切りとなります


はんなりほどよい話

 季節は巡り巡って、絶え間も無くこの大地を様々な色へと塗り替えていく。

 しかし、そこに住む者達の生活はとても代わり映えの無いものだった。

 

 確かに外界(がいかい)との交流は存在する。

 村の作物一辺倒では到底生きていけないし、何より交易で手に入る物も既に生活の必需品となっている所がある。

 

 だが、それは変わるべくして成ったもの。

 古くから慣習の様に根付いているモノならば、何か相当な切っ掛けがない限り……それは決して、変わる事は無い。

 

「ぷはぁ……」

 

 そう、有り得ないなのである。

 

 

 

「やっぱり、十倍に薄めた牛乳は美味しいわ~! ね、あなたもそう思うでしょ?」

「あ、ああ」

 

 悲しいなぁ……。

 限りなく水に近い牛乳を美味しそうに頂くラピスを見ながら──そう、俺は思った。

 

 

 村という集合体で生きていく以上、やはりどんな要素もそれに大きく依存する事となる。この場合だと、村の常識が当たるだろうか。

 この村では昔より、牛乳は十倍に薄めて飲むべしという古くからの言い伝えがある。どうやらそれによると、原液のままで飲むのは身体に悪いからとか何とか。カルピスかな?

 

 ……まあ、こういった言い伝えが村に有る理由は分からんでもない。牛乳がここじゃそこそこの貴重品なのもあるしね。

 

 牛に近い生物が居るのは確認しているので、ファイアーエムブレムの世界においても牛乳は牛乳で間違いないのが、その牛の畜産がブロディアではとても難しいらしい。多分、飼料を育てる場が無いのだろう。牛の餌はだいたい肥沃な土地が有ってこその物が多い。モロコシなんて作ろうものなら、土壌が痩せまくって大変な事になっちゃいますよ。

 一応、寒冷地でも育つ牧草は存在するのだが……それで育てられた牛がどうなるかは、想像に難くない。

 

 そんな貴重品で牛乳。それをどこから入手するかといえば、このブロディアの南に有るフィレネという所からである。

 最近やっと名前を覚えたが、このフィレネという地。どうやら温暖で土壌も良く、また過去に一切の干ばつが起こった事が無いほど気候の巡り合せも良いらしい。畜産なんてなんのその、というわけだ。

 ん~、立地が強い。もしブロディアが侵略国家だったら、間違いなくここを一番に侵攻してるね。戦争をする理由は、だいたい略奪だし。

 

 ……話は少々反れたが、多分貴重ゆえにじっくり飲めとの事なのだろう。でも、雑草ばっか普段から食ってる奴が今更牛乳飲んでも腹壊しませんよ。殺菌だって、流石にされてますし。

 

 牛乳云々の話は、おそらく先祖代々村に続く優しい嘘なのだろう。

 悲しいなあ。

 

 

「あなたも一杯、どう?」

「……頂こう」

 

 促されるままに一杯。喉の奥へと流し込む。

 舌で感じたその味からは、牛乳本来が持つまろやかさの欠片も感じられなかった。

 

 やっぱこれ普通の水とあまり変わらないような。

 

「う~ん……」

「あれ、お気に召さなかった?」

「やっぱりエレモフヒツジのミルクの方が好きだな」

「……正気なの?」

 

 その辺に雑に置かれていたビンの栓を開ける。すると、中に空気が圧縮されていたのか小気味良い音が辺りに鳴り響いた。

 その中身を、手作りな木彫りのコップに注いで──俺は勢いよく仰いだ。

 

 途端に舌の上で広がるは、ざらざらとした感触。まるで野の雑草をそのまま食っている時かの様な、自然そのままの苦さ。非常にアクが強く、一度口にしてしまえば未来永劫忘れないだろうキツいえぐ味。

 

 ん~~~~~ッ!!

 

「やっぱり、美味しいぜ!」

「えぇ……」

 

 呆れを含んだ声を発しているラピスをよそに、俺は残ったミルクを飲み干した。

 う~ん、美味しい! 

 もう一杯! ……といきたい所だが、いけないいけない。どうやら中身が無くなってしまったようだ。

 

「あなたの奇行には慣れていたつもりだったけど、それだけは未だに理解できないわ……」

「どうしてさ。美味しいぞこれ」

「毎度よくそのまま飲めるわね……。何倍にも薄めてやっと飲める様になるヤツなのに」

 

 そう言うと、何やら凄い物を見るかの様な眼差し向けられた。いやあ、それほどでも。

 

 エレモフヒツジのミルクは牛乳とは違って、よく流通している飲み物である。大元となるヒツジが牛と違い、ブロディアでも育て安い家畜なのでこうなったのだろう。よく流通してるだけあって単価も非常に安く、しかも加工すれば料理にも使えるという優れもの。まさに最高の飲み物と言っても過言では無い。

 しかしそんな(羊の)ミルクがどうして嫌われているのか。

 それを挙げるとしたら、長所だけでは無く短所も出さなければならない。

 

 羊ミルクの短所……それは、加工しないと滅茶苦茶苦い事だろうか。

 羊乳は牛と比べてとにかく癖が有るから、これを嫌う人は非常に多い。

 しかし数十分ほど時間をかけて煮てみればどうだろう、若干の苦味が内包されたまま仄かな甘味が現れる。このハーモニーが絶妙であり、生のままでは飲めなくても料理すればイケるという人は多い。

 

 ちなみに見ての通り、俺は生のままでイケる人である。

 

「苦くない、それ?」

「苦いぞ。でも、山菜をそのまま食ってる時と変わらないくらいだから別に」

「そう……。飲むにしても私は薄めないとダメね……」

 

 この村にも、その羊ミルクは貯蔵してある。しかも割と大量に。

 栄養価もそれなりに有るので非常食も兼ねているのだろうが、村の皆はあまり好んで飲みはしない。用いるとしても、あくまで調味料としての使い方だけか。どうしても飲まなければいけない理由がもし有ったとしても、だいたい皆薄める。

 牛乳と違って、薄める理由が苦味がキツいからというのは少し面白い。

 

「うう、不作の時を思い出すわ。あの時は生きる為とはいえ……」

 

 思い出すは、村で芋が不作になった時の話。品種改良がされているわけでも無いので、いくら痩せた土地でも育つとはいえ悪い要素が重なれば、実らない事だって多々ある。そうなれば、非常食の出番なのだが……。

 ミルクの苦味を取り除くのは割と時間が掛かる。そのため、食事の度に幾度となく煮ている暇は無いわけで。

 確か、あの時のラピスは半泣きになっていた。

 

「……私、頑張るわ。二度とあの悲劇を起こさせはしないって」

「そうか……」

 

 まるで剣に誓ってるかの様に。高らかにラピスは宣言した。

 ここで好き嫌いはいけまへんで~と、言うのは流石に気が引けたため、俺は影ながら応援する事に決めた。

 

 

 

 

 

 

「今年は災いに見舞われる事無く、毎日を過ごせたな」

 

 この世界に生を受けてからそこそこの時が経ったが、村という閉ざされた環境で生きているだけあって、分からない事は未だ沢山ある。

 今まで日常的に行われてきた習慣については特にそうだ。

 

「うむ。これも、神竜さまの御加護があった故」

「御心の天になる如く、地にもなさせたまえ……」

 

 この村では、とある地へと祈りを捧げる事がしきたりとなっている。太陽が天へと登りきる前、方位で表すとだいたい445くらいだろうか。

 その地には、世界を加護する神竜様がおいでになるらしい。

 で、どういうわけかそんな神竜様を、この村では豊穣の神として祀っている節がある。何故かはよく分からない。どうやって竜が恵みをもたらすんだ……?

 竜と言えば、どうしても強大な生物という印象が強い。操る火炎は、全ての大地を焦がしたとか何とか。そんな逸話がよく有る以上、ちょっと信仰の土壌が違えば戦神とかに成ってたかもしれない。

 

 応えなくてはいけない、神様も大変である。うん。

 

 

 俺はそんな事を適当に考えながら、毎日を過ごしていた。

 正直に言うと、あまりその神竜様に対して深く思う事が無かったのだ。

 だって、ファイアーエムブレムの世界で神竜信仰なんて珍しくないもの……。

 

 しかし、それが間違いだと気付かされるのに時間は掛からなかった──

 

「今年はもう王が伏し拝みに言ったそうだぞ」

「本当か? それは羨ましい事だ」

 

 それを聞いて、畑仕事をしている俺の手は止まった。

 

 ──えっ、会いに行ける神様なんですかあ?!

 

「お。聞いていたか、ラズ坊」

「お前があれだけ大きな声で話してたらな。そりゃ聞こえるさ」

「すまんすまん」

 

 そうしたら驚愕の思いが声に出ていたのか、会話していた村人がこっちに来た。

 畑仕事手伝ってくれ。

 

「そのクチ。もしかして、お前も神竜様に会いたいのか?」

「え、えっとそれは……」

 

 神竜というと、やはりどの作品も隠れ里に住んでいたり空想上の存在だったりと、存在が不確定な印象が有る。身体の一部を武器に変えたり、力を魔法書に封じる事により間接的に人々の助けとなっていたりと、やはり直接人と関わる事は少ない。

 

 それなのに、普通に会いに行けるって本当なのか……。

 

「ん~残念だったな! 基本的に王族しか会う事は許されていないから平民じゃ無理だぞ」

「でも、フィレネの王都にある美術館にはお休みあそばす神竜様の絵が飾られているとかなんとか」

「本当か? くぅ~、いつかフィレネの地に行ってみたいぜ」

 

 話しかけといて勝手に盛り上がる二人。それはまあ無視するんでいいとして。

 

 神竜様の寝ているところ、描いちゃっていいんですかね……?

 竜の生態がどうなっているのかは知らないが、会いに行ける以上ずっと寝ているというわけでもあるまい。

 となると、勝手に寝室に侵入して描いた事になるんですが……。

 アカーン! マズイですよ、これ。

 

「神竜様は、かの神竜王様の後継となられる方だ」

「風の噂によると、とても麗しい御方らしい」

 

 そう言って何やらニンマリと笑う村人二人。その笑みはいやらしかった。

 おい信仰対象だぞ、ええんか……。

 

 この世界の事、俺よく分からなくなってきました。

 

「まあ、描かれた絵は王族の言の葉を参考にして作られたモノって話も有るけどな」

「それなら、偽物なのでしょうか?」

「いんや。どっちかは分からん」

「分からないなら言うなよ」

 

 ツッコまれる村人。

 全くだ。

 

「まま、一つだけ明白な事は有る。俺達、一介の村人では会うことすら叶わない雲上人だという事さ」

「雲上人……? 神竜様は人なんですか?」

「分からん」

「人じゃないなら、雲上竜だなガハハ」

 

 割と失礼な事を言い続けている二人からはこれ以上情報を聞き出す事は不可能だと考えて、俺はもう諦めた。なんか、酒飲んでる気もするし。

 

 ……しかしまあ。

 やはりというべきか、分からん事だらけだ。

 

 

 神竜様、か。

 もしその存在が人々に影響を与える程の力を持っていたとしたら、その力はおそらく何かを為すために使われるものだろう。当たり前と言えばそうなのだが、ファイアーエムブレムの世界では、およそそれは悪しき者を倒すべく戦乱のなか振るわれる。

 

 となると、あまり考えたくは無いが……。もし、そんな神竜様が王族以外の者達の前に姿を表そうものなら。

 それはきっと──

 

 

 

「おら、クワこうげき! カマこうげき!!」

「どうしたんだ、アイツ……」

 

 最近の村人は自衛がトレンドだ。

 いざ敵が押し寄せようとも、返り討ちに出来るようならなければ小作人の名折れというもの。

 

 ストーリー終盤の敵をボコれるようになるまで。

 ライ○コッドの住民を目指して、俺頑張ります。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに本編ラピスは辛い料理が苦手です
それ以外だいたい何でも好きらしい

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