幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意) 作:あらい
それはある夏の昼下がりのはなし。
ブロディアの地は冷涼な気候なので、夏でもそれほど暑くはならない。かといって、別に寒いというわけでも無いので、一年を通しては一番過ごし易い時期となるだろう。それ故に環境といった外的要素に捉われない、のびのびとしていて開放的な生活ができる頃である。
「やっ、えい……!」
「っ!」
「今日は一段と良く躱すわねッ!」
「生憎、それしか芸が無いもんで……!」
という事で、ラピスとの鍛錬もやたらと苛烈な物となっていた。飛んでくる風がビュンビュン顔に当たって痛いぞ。剣を握る手に力が入っているというか、いつもの彼女からは考えられないほど鬼気迫るものが有るというか。
いつものように鍛錬は木彫りの模造刀を使っているのだが……このままだと、いつか斬り殺されそうで心配である。
「これは、どう……っ?」
「──見えたッ!」
「ただの、自己申告かしら……っ!」
人生で一度は言ってみたかったセリフ第一位を添えてみれば、残像の様に滲んでいた影と剣先が一致してぴたりと嵌まった。嵐が如く振るわれた剣だとしても、一陣の風として捉えれば見えない事は無い。しかし、見えたとしても押し切れなければ意味が無い。
剣において、攻めと守りは一心同体。一つでもおろそかにしたり、偏りが生じれば即座に負けが見えてくる。
少し踏み込みすぎたかと考えた俺は機を見計らって剣を弾き、その勢いで後ろへ退いた。
「……!」
「あっ」
するとどうだろう。相手も同じ事を考えていたのか、似た様な動作と共に剣が構え直される。
ん~、華麗なバックステップだ……間合いがかなり開いてしまったが、どうするか。
しばしの間、睨み合いが続けられる。
相手が動かないから動けないし、こちらも動かないので相手も動けない。
……どうすんのこれ。
「……ふふ、これじゃ埒が明かないわね」
「そうみたいだな……」
「ん、しょうがない。とりあえず、一旦ここで止めにしましょうか」
「分かった」
そんな事を考えていたら、ラピスから止めの声が掛かる。緊張の糸が解れていけば、途端に足が木偶の棒になったかの様に感じられた。
正直、疲れてきていたので助かったぜ。鍛錬中にこんな風に足がぷるぷるしてたら、情けなくてしょうがない。
「あなたもだいぶやるようになったわね」
「こんだけ特訓に付き合っていればそりゃそうなるって……」
「あれ。もしかして、まだキツイ?」
「まだキツいです……」
水分補給をしながらそう答える。
ラピスとの剣の打ち合いはもう一年以上続いていて、もはや村の恒例イベントみたいな感じになっているが、未だ練習後にクる全身がぶちのめされた様な感覚には慣れていない。
が、それに対して目の前の幼馴染はほとんど疲れていなさそうな様子のまま、乾いた喉へと水を流し込んでいる。いい飲みっぷりだよホント。
「その割には、嫌な顔一つせずに付き合ってくれるじゃない。言い出したのは私だけどさ……」
「良いよ別に。まあ、正直キツいけど……やってて楽しいのは楽しいからな。嫌ではないよ」
「……!」
少し俯きがちに言うラピス。
コイツとの毎日の鍛錬──そのきっかけになった過程には若干の理不尽さが有るので、それを後ろめたく思っている感じだろうか。まあ確かに、ちょっと変な事しただけでサンドバッグ一年間は辛いよなあ。最近はどうにかついていけてるけど、初期の方はボロ負けだったし。だけど、別に嫌なわけではない。
「ま、経験になるしな」
経験値になります。レベル上げはね、楽しいんだ。
経験を稼ぐためなら、ボスチクという非道な行為も辞さない構えです。
「そうなんだ、良かった……」
「でも、今日は流石に疲れたから休ませてくれ」
「ふふ……そうなの? 私はまだいけるんだけどな~」
「ほんと無尽蔵だな……」
……しかしそれは良いとして、どうしてコイツはいつもこうもピンピンしてるんだ……もしかして、俺だけ疲労システム搭載されてない?
疲れてもスタミナドリンクをキメて強制出撃とか、考えるだけで背筋が震えてきたぞ。この世界にはサブロク協定なんて無いんだ、リーフ盗賊団もびっくりのぶっ通し出撃だってあるかもしれない。ファイアーエムブレムって、恐ろしいぞ……。
俺は疲れに身を任せたまま、天を仰いだ。
太陽が、眩しいな。
吹き抜ける風でさんざめく木々達が、遠くで朗らかに唄う小鳥の声が、何者にも邪魔されない癒しとしてこの身へ享受されていく。
ああ、溜まらない……。こんな感覚味わったらもう、都会派には戻れません。何となく目を閉じて、視覚以外の五感ならぬ四感でそれを楽しむ事にした。
このまま日向ぼっこしていたい気分である。
う~ん……もう、ずっとこうしていればいいか。
ちょっとぐらい寝ても、大丈夫やろ……。
疲れたのもあって、俺は今日の脳内スケジュール表をダラダラとする事で埋め尽くす決意をした。
「んん、なんだこの眩しさは……?」
そんな邪な事を考え始めてから数秒も経ってない頃。
瞼の裏を強く通り抜けてくる様な激しい眩しさに思わず揺り動かされた。
遠くの太陽の眩しさとかそういうのじゃない。
極めて至近距離で、何かが強く発光している。
何だ、何が光っているんだ……?!
強い光から眩しさを躱す様にして薄目になりながら探せば、その光源はすぐに見つかった。
「お前かーい!」
「え?」
ラピスがピカピカ光ってた。
いや、正確に表すのならば彼女を中心とした周りが光っていると言うべきか。天へと駆け上る黄金の光が、まるで何かを称えるかの様にラピスを取り囲んでいた。
この光景には、見覚えが有る。
というか、少し前に自分が体験した。
これは間違いなく、アレだ。
「クラスチェンジだ──!」
「何それ?」
説明しよう! クラスチェンジとは、キャラクターの
以上。
……何を当たり前の事を言い出すのかとお思いになるかもしれないが、そう言うしかないのだから仕方のないことだろう。
先程の打ち合いで経験値を得た事によってラピスはレベルアップし、クラスチェンジをしたのだ。
ファイアーエムブレム恒例のアレでは有るが、どうやらプルフ系統はまだ必要無いらしい。上級職になるとか時に必要になるのだろうか。……まあ、それは今のところ確かめる術は無いし措いといていいか。
よし。とにかく、こうなったらやる事は一つ。
食らえ! ステータス開示攻撃ッ!
目の前に表示されるは、クラスチェンジ後のラピスのステータスと思われるもの。
クラスチェンジという過程が有れば、大抵はステータスが変動する。アーマーナイトがジェネラルになったら更に防御が上がったり、逆にペガサスナイトがドラゴン系になったら防御が上がる代わりに魔防が下がったりと項目は色々である。
クラスチェンジの結果は、村人からソードファイター。
それは間違い無いのだが……しまった、少し遅かったか。
「……? どうしてか、いつもよりも剣が軽くなった気がするわ」
何やら、変化を第六感で感じ取るラピス。
クラスチェンジした際にステータスが変動したのだろうが、開くのが遅かったのでどの値がどれだけ変わったのか分からない。名前の通り剣士系のステアップなのだろうが、ソードファイターはかなり久しい職*1なのであまり自信は無い。多分、補正はそれほど大きくは無さそうだが。
前もって調べておけと言われたら確かにそうなのだが……前に一度『やらしい目をしてる』みたいな事を遠回しに言われてから、ステータスを覗く行為をするのは気が引けていたのだ。というか、見ようとしてもすぐにバレる。変態と罵られるのは勘弁や……。
まあでも、こうして覗いてしまった以上は仕方がない。
見ていく事にしよう。
「ふむ……」
技と速さは順当に、HPもしっかりと伸びている。避けてカウンターするのが剣士系なので、守備や魔防といった防御系統の値はこれくらいの伸びが普通だろう。でも、幸運が確率以上に伸びているのはとても良いね。
それで、肝心の力なんだけれど……。
「う、う~ん……」
伸びている力は差し引き1。
そう、1である。
期待値通りの成長じゃないかと一瞬思ったが──忘れてはいけない、クラスチェンジの補正がある。
ソードファイターは見て分かる通り、近接物理職。となると、大抵は力の補正が掛かるものだ。マイナスってのは無さそうだし。そう考えるとこの場合、力の値に1の基礎値が有る事になる。一見少ないように見えるが、まあ初級職ならばこんなもんだろう。
……うん。
力伸びてないやん……!
怪力は、怪力設定はどこに行っちゃったんや……!
い、いや落ち着け……まだたったレベルが三つ上がっただけじゃないか!
ソードファイターの成長率の加算はそこそこ良さそうに見える。村人に有った無駄な成長率を他に回した感じで、力の成長率も合計では増えている。
これから連続で上がるかもしれないし、ヘーキヘーキ。平気でしょ、何も心配する事は無い。
多分、これから連続で力が成長するに違いない。乱数とはそういうものだ。
「……どこ見てるの?」
「ハッ?!」
本人を目の前にしてそんな失礼な事を考えていたら、訝しげな顔をされた。
や、ヤバイ……また疚しい事をしていたのだと誤解されてしまう……!
「えっと、その疚しい事では」
「また、見てたのね……」
「……はい。で、でもしょうがないだろう。だって……」
今のラピスは──というか鍛錬時はいつもそうなのだが、とても動きやすい服装をしている。剣を振る際に袖が邪魔にならない躱しの着に、絶対領域のすらっとした腿が映えるスカート。
目に毒過ぎるぞ……剣の命中率下がっちゃう!
いやまあ、眺めていたのはステータスだから違うのだけれども……。
でも、チラッチラッと目に入ってきてはいた。反省はしている。
「どうしても目に入るんだもの……」
「女の子は視線に敏感なんだからね。どこを見られているかどうかなんて、すぐに分かるわ……」
「そ、そうなのですか……?」
「視線が下にさがってるのよ、下に」
ふむ、人と話す時はちゃんと目を見て話せという事か。
う~ん。どうしても視線が動いちゃいそうだから、サングラス付けても良いでしょうか……?
あ、店に売ってない?
そうですか……。
「鍛錬中はいつも見てるでしょ。すぐにバレるんだからね……」
「な、なんてことだ……」
「一瞬の迷いは命取りよ? まあ、それを期待している所も有るのだけれど」
「うう……ちなみにいつから気付いた?」
「だいぶ前からね」
う、嘘でしょう……!
なるほど、ラピスはそれを知っていて今になるまで気を遣っていたという事か。
なんという情けなさ。
俺は地に倒れ伏した。
夏の大地は草がようようと生い茂っていて、何だか気持ちが良い。
「ふふ。でもこういう恰好してたら、仕方の無いことなのかもね」
「でしょう……?」
「このヘンタイ♪」
許されたか、そう思った瞬間に罵倒が飛んでくる。
ぐあっ……!
クラシックモードならこの精神攻撃でロストしてたよ、コレ。
いや、元からなのか……?
俺は再び地に倒れ伏した。
「それってさ、何か目的が有ってやってる事なの? あ、まじまじと見てる事に対しての話ね」
「……有ると言ったら?」
「それはもう、聞きたくなるわね」
最近は鳴りを潜めさせていたものの、こういった奇行は既にラピスにとって既知の物となっている。お恥ずかしながら、目的が有るのはバレバレなのだ。
となると、こうやって聞いてきたのは尋問の意味も有るだろう。
……ここまで来たら、言わなければならないのか。
まるで絞首台に続く道を昇る死刑囚の様である。
「荒唐無稽な話だと思われるかもしれないが、それでも良いなら……」
「ふうん……?」
すると、まるで品定めするかのようにジトっと視線をこちらへ向けられた。
なぜか今俺は地に膝を付けているので、見下ろされる形となっている。なんでだろう。
よく分からないが、俺のせいであるのは間違い無い。
全部自分が悪かったんやなって。
「……まあ、それが何かの為だってあなたが言うのなら」
「……?」
「今ここで聞いていい話じゃ無さそうね」
「えっ」
そう言えば、ラピスは隣の草地へと腰を下ろしてきた。
どうしてかは知らない。
「……?!」
「鍛錬の後、こうやって涼むと気持ち良いわね~」
あっ、何だか距離が近いからか良い香りがする。
まるでふわふわとして、嗅いでいるだけで心地が良くなってしまいそうなにおいだ。
これはもしかして──
うちの村が作ってるサツマイモの香りだこれ。
「芋の香りがする……」
「……ええ? 何それ、バカみたい。もっと他に言う事あるでしょ」
「いやあ、だってホントにするんだもの……」
「少し前まで畑仕事手伝ってたんだから当たり前よ。はあ……」
そう言うと、ラピスは露骨に呆れた様な溜息をはいた。
えっ、どういう事だ……?
俺は思わずその意味を聞こうとしたが、それよりも早くラピスは立ち上がってしまう。
「ん~……何だか、新しい力に目覚めた様な気がするのよね~」
「そ、そうか……」
事実、少し前にクラスチェンジを果たしたラピス。
あれだけ光を発していれば、気がするどころか確信を持っても良さそうなのだが……。
もしかしてあれ、俺だけにしか見えてない?
「じゃ、ちょっと午後からも鍛錬に付き合ってくれる?」
「えっ。俺もう今日はですね、疲れて……」
「え? 良いよね?」
「い、いやだからつかれ……」
疲れたんで休みたいです。
その意を頑張って示そうとしたが、しかしすげなく返されてしまう。
わあ怖い。
「良い、よね?」
「
──────はい……」
有無を言わせない幼馴染の圧力に対して、俺は屈した。
この後滅茶苦茶鍛錬した
ステータスに関しての話が後に続きます。