幼馴染の力がヘタれたので回避盾にする(決意) 作:あらい
農業において一番重要な物は何だと聞かれたら、一番に自分はこう答えるだろう。
そう、土地だ。
「この土地終わってる……」
抵抗力のほとんど無い田畑を耕しながら、毎度の事の様にそう考える。
痩せた土地が、なぜ痩せているのか。それは端的に言えば、畑の中に微生物が少ないからである。
微生物が少なければ植物の成長スピードが遅くなるし、土自体の質も保水性が悪くなったり天災に弱くなったりと、それはもう悪い事ずくめだ。
とはいえ、対策が無いワケではない。
肥料作り──いわゆる堆肥というヤツを作ってばら撒くのだ。原料となるのは雑草や落ち葉といった有機物である。
最初に作り方を教えられた時は少々手間取っていたものの、ここに関しては代々受け継がれてきた技術が有るのだろう、手筈通りにやってみればみるみるうちに効果が表れる様になってきた。
まあ、堆肥使ってやっと普通の土地とトントンくらいなんだけどねハハハ。
ハハハ……。
「ホント終わってるなこの土地」
俺は泣いた。畑に生えている雑草を適当に抜きながらむせび泣いた。
もし神様が居るのならば、どうして斯様な試練をお与えになるのかと問い質してやりたい気分である。
神様、あなたはクソだ。
──あっ、いや。神龍様の事を言っているわけでは……。
いかんいかん、不謹慎だった。神龍信仰の方々に聞かれたら、今頃ブチ殺されている所だろう。
この世界の神龍信仰において割と傾倒してしまっている人が過半数を占めてそうな以上、シャレにならない話である。これからは気を付けていこう……。
「あ、もう肥料作り終わった?」
「……ヒエッ?!」
そう思った瞬間、後方より聞こえてくる声。
当然ながら、その人物が神龍を信仰しているのかどうかは分かり切った事であった。
ヤバイ、聞かれてしまったかもしれない。マズイ、マズ過ぎる……!
「ラ、ラピスか……」
「どうしたの、突然驚いた様な声出しちゃって?」
「ん? あ、いや」
あーあ死んじまって、馬鹿な奴だ。
そんな闘技場のオッサンの台詞が脳内によぎるほど焦っていたが、しかし帰ってきたのは困惑の声だった。
あれ、もしかして聞かれていない?
セ、セーフ……。
「な、なんだラピスか。そのなんだ、少し前に野生動物を彼方に見つけてだな……」
「もしかして熊の事? たいへん、みんなを呼んでこなきゃ!」
「いや……そこまで大きくは無かったから、多分イノシシか何かだと思う」
「そうなの? それでも、田畑が荒らされる可能性も有るし注意は必要ね」
そう適当に言い繕っていれば、少し前まで纏っていた警戒を一気に解いたラピス。
村に住む民達は単体のイノシシ程度なら簡単に屠れるので、警戒をする必要は無いとよく言われている。
段々慣れてはきたが、冷静に考えると恐ろしい村だ。
しかし、聞かれてなくて本当に良かった……。
先程の台詞は、多分知った仲のラピスでも許してくれなさそうな物だと思うのでもし耳に入ってたらヤバかった。
「肥料作りだが、終わったぞ」
「そう。じゃ、後は樽の中に入れておくだけね。ん、私がやっておくわ」
「良いのか?」
「ええ。肥料作り、結構大変だったでしょ」
「まあな」
大変というか、ただ虚無感を感じる要素が強いというか。無数に生える雑草や、落穂の様な作物の不要な部分、その他諸々を無心で突っ込んでかき混ぜる作業は……それはもう、とても物悲しいのである。
どうしてかは……多分、野性味溢れた匂いがするからだと思います。
そんな堆肥を袋越しとはいえ、すました様子で運んでいくラピスは凄いな……。俺は今でも慣れません。
村人の共通認識とはいえ、助け合いの精神は良いものだ。
「……手持ち無沙汰だな」
そんなこんなで俺の仕事は無くなった。本来ならば樽に入れるまでだったので、楽はできたのだろうが……いざこうなると、何か落ち着かないものが有る。娯楽が無い田舎故の衝動だろうか。
正直暇なので何となく思い付いた事をやってみる。
目を向けるは、先ほどの肥料作りで除けておいた雑草の地下茎と根っこ。この部分は非常に自然分解し辛いので取り除く必要が有るのだ。
しばしの間それをもう一度探ってみるが、目当ての物は見当たらない。
「やっぱり無いよなあ……」
探しているのはファイアーエムブレムにおける強化アイテムの岩ゴボウだ。
幼馴染の力成長率が低いならドーピングすれば良いのではと考えたあれ以来、機があればいつも抜いた雑草群の根をチェックしていたが、それらしい物は無く成果はゼロ。そう、ゼロである。
何の成果も、得られませんでした……!
少しくらいは有っても良いんじゃないかと思っていた頃も有ったので、この結果には大いに驚いた覚えが有る。まあ、少し考えればそれも当然だって考えになったが。
そりゃそうだ。
こんな痩せた大地で、高価なドーピングアイテムなんて育つハズがねえ……!
ゴボウが作れていた風花雪月では、その育成に環境の適した場所が有ったからだ。温室という、それはもう最高の場所が。それに加えて間引きといった万全な手入れを行う体制も十分ときた。
これじゃ、だだっ広い事しか良い所が無いブロディアの大地に勝ち目は有りません……!
ペガサスの飼育とかもこの村では行っていないので、作物の質に大きな影響を与える『天馬の恵み』はもちろん手に入らない。これは厳しいですね。
ちなみに天馬の恵みが何なのかは分からない。
いやあ、一体なんでしょうね……?
「これは無理だな……」
う~ん、一番育成が簡単そうな岩ゴボウでこうなのだ。
速さが上がる俊足のニンジンとか防御が上がるアンブロシアとかは夢のまた夢という事だろう。
もう、ドーピングに関しては諦めた。
やっぱり鍛錬。鍛錬は、全てを救う……!
今日は残念ながらラピスの都合が付かないが、だいたいいつも剣の打ち合いをする事になってるのでその時頑張る事にしよう。俺はそう、決めた。
……それはそうと、確かアンブロシアは神話上の食べ物だってファイアーエムブレムでは位置付けられていた気がするんだが、どうして風花では作れる様になってたんですかね……?
やっぱり、あの教師おかしいよ……。
◇
そんなこんなで、若干日課に成りつつあった鍛錬ができなくなった午後。
俺は暇なのでアイスロックの杖を振る事にした。杖を振って氷を作り、それを剣で割るの繰り返しだ。
「またやってるやん」
「コイツほんと懲りないな」
「お、ほどほどに頑張れよ~」
真っ昼間から行われる意味不明の動作に呆れた様な目線を飛ばされるが、特に気にしていないといった感じの村人も多かった。多分、慣れてしまったのだろう。
当初は何やってるんだコイツと言われ気でも狂ったのかと村人総出で心配されたが、今はもうこの有様だ。
経験値稼ぎの為とはいえ、おかげで変人扱いされてしまいましたよ。
悲しいなぁ……。
「どうせなら何か氷で作ってくれよ」
「そうだそうだ」
「そうじゃそうじゃ!」
「無茶言わないでください」
「そう言うなって」
「はあ……」
同じく暇なのだろう、村人達が野次を飛ばしてくる。おい、そこの一人。あんたは畑の手入れを午後から任されてただろ、仕事しろ。
あ、もう終わった? そうですか……。
しかしそう言われたままなのも癪なので、一応剣を振るってみる。
「じゃ、行きますよ……」
目の前に有る歪な氷のオブジェクトを、できるだけ正確に。等間隔に。
畑仕事で得た空間把握能力を存分に生かして瞬時にその構造を理解し、ただそれに準ずる様にして剣を舞い上がらせる。
振るっているのは鍛錬に使う模造刀では無く、切れ味が有る本物。ヤワとはいえ、ある程度の硬さを持つアイスロックの氷を、容易に両断していった。
そして後に残るは、跡形も無く切り刻まれた残骸のみ。
ふう、できたな。
ん~お見事。
自分でも惚れ惚れする剣捌きだあ……。
「ほい。終わりましたよ」
「いや、何か作れって」
中々上手くいったので、胸を張って観衆へとアピールしたが、なぜか帰ってきたのは不満の声だった。
何か作れって、作ってますけど。
「作りましたよ。氷の残骸です」
「そうじゃなくってさ。もっと立体的な物作れないの?」
「はい?」
「ほら、さ。もうちょっとクイっとしながらシュンって感じで斬れば、氷の彫像とか作れないの?」
そう言えば、滅茶苦茶曖昧な表現の後に無茶振りをされた。
えっ。
「いや、無理ですけど」
「そうなのか? つまらんの」
「えー雪だるまつくってよー」
「ふっ、これが限界か」
「亡くなった婆さんの像を作って貰おうと思ったが、無理だったみたいじゃの」
こっ、この人達……要求が高すぎる!
あれか、『またつまらぬ物を斬ってしまった』みたいな感じで剣を振るえば、服だけ切れると思っている人達かこいつら……!
いや無理ですって。
特に最後の爺さん、そこまでして欲しいなら自分で作れ。
「へなちょこ~」
「もうちょっと頑張ってね、ラズリ兄ちゃん」
「ガハハ、まだ未熟だな」
「だが伸びしろがあるのも事実。わしはゆっくりと見守っているぞ♡」
う、うぜえ……。
クソ、こいつら他にやる事無いんか……。
貧乏だが、暇なしというわけでも無いのがヘンなこの村である。
「この村ではそれしか楽しみがないからの~」
「後はラピスちゃんとお前の剣の打ち合いぐらいか」
「ここだけの話だが、どっちが勝つかいつも賭けてるんだ」
「まあ、ほとんど成立しないんだけどな~」
「そうそう。負ける方がどちらか、だいたいいつも決まってるからな」
おい、こいつらいつもの鍛錬を賭けにしているぞ……!
ゆ、許せませんね。
ええんか……そんな事言ってると村長に告げ口しちゃうぞ。
「大丈夫かって顔してるな。大丈夫でしょ、平気平気」
「ラズ坊がいつもやってる奇行に比べたらマシだから良いんじゃよ」
「そうだそうだ~」
いつもやってる奇行?
人のステータスを覗く事は最近やっていないので、村の地を氷漬けにしてるぐらいだろうか。
ふむ。賭けが、この行為よりもマシだとあなた達はそう言うのですね。
……いや、アイスロックの杖振りは特に問題の無い行為だから。
多分公認だから、セーフ!
今まで杖を振りまくって氷漬けにしても、村のまとめ役たる村長に何も言われてないんだから、もうこれ公認みたいなもんでしょ……。
俺はそんな釈明を交えて、清く正しく語った。
すると、どうだろう。
「村長がお前を呼んどるぞ♡」
すぐに村長からお呼び出しがかかった。
アッ──
「ラズリ、お前は今日もまた村で変な事をしていたようだな……」
「おっしゃる通りです……」
村長の住む家に行けば、開口一番に呆れた様な言葉を投げかけられた。
少し古びた木彫りの机の上で、両膝を付きながらこちらを覗いてくる。
いわゆるゲンドウポーズというヤツだが──しかし、その目は悲しかった。
「何か儂は間違った事でもしたのだろうか。村の教えが、お前を歪めたのだろうか……?」
「いえ、その様な事は一切……」
「それでは、反抗期か?」
「いえ……」
「そうか……」
お互い語尾にそこそこ長い沈黙が続く。
なんだこの空間、地獄かな?
「もう何も言うまい……お前は自分の道を行くんだ」
そして最後には、更に呆れられた。
あかん、評価が既にそこまで行ってしまっている。
くう、何が悪かったんだ。
俺は、村の外れをちょっとばかし氷漬けにしただけなのに……!
いやあ、ほんとすみません……。
「……今日はこんな事を言いにお前を呼んだのではない」
「えっ、という事はアイスロックの杖を振るのは公認ですか?」
「……何も言わんぞ?」
村長は小さく溜息をはくと、机の中から何やら一枚の紙を取り出した。
「今日はこれをお前に渡す為に呼んだのだ」
「これは……」
手渡された紙を見ると、そこには印象深い書体で大きな文字が書かれていた。
独特な言語では有るが、一応は読める。覚えるのに一苦労したんだよな~。
「武術大会の報せ、ですかね……?」
「そうだ。近々王都ブロディアのほうで武術大会が行われる事になってな。その報せが行商人を通して渡ってきたのだ」
「そうなのですか。しかし、どうしてこれを……」
紙に書かれた内容によると、武術大会で優秀な成績を収めたものには王城兵としての登用が行われるとのこと。生々しい話では有るが、給金がいくら貰えるかまで書いてある。
肝心の量は一か月で……おお、これだけで芋数千個は買えるね。すごい。
「これをラピスに渡してやってやれ」
紙を見ながらその貰える量に感心していると、すぐにこれとは別の小さな紙を渡された。
これは、武術大会の参加チケットみたいなものだろうか……?
え、まだ無理じゃ……。
「いや、村長。あいつの歳じゃ、大会の参加年齢を満たしてませんよ」
「違うわバカ者。よく見ろ」
「え?」
言われた通りにもう一度眺めて見ると、そこには観戦用と小さく書かれた文字が有った。
あ、ホントだ。
いやあ、分かり辛いですよコレ。
「武術大会は毎年開かれるとはいえ、いざどんな物なのか見ておかないと色々都合が悪いだろう」
「……都合が悪い、というと?」
「分かってないとでも思っていたか? お前たちが考えている事ぐらい、すぐに分かる」
「……!」
「あやつは武術大会に、将来出るつもりなんだろう?」
そう言うと、村長は貫く様な視線をこちらに飛ばしてきた。
嘘だろう。
ずっと、隠してきたお互いの秘密だったハズなのに。
「ある日突然鍛錬に打ち込み始めたら、流石に分かるわ」
「ですよね」
「ちなみに村人ほぼ全員勘付いているぞ」
「ですよね」
知ってた。
というか、半ばバレていた様なもんだった。
隠し事なんて、やっぱりできませんね。村社会ではすぐにバレる。
「金は掛かるが大したもんじゃない。良い経験になるだろう」
「……! ありがとうございます!」
俺は喜々としてそれを受け取った。
いいね、これ。
まだ実践で戦う事はできないが、相手がどのくらいの強さなのか観戦をする事によって指標を得る事ができる。具体的な物が分かれば、鍛錬でもより良い成果が期待できるだろう。何事もぶっつけ本番じゃ難しいモノが有るし。
これを渡せばラピスの奴、喜ぶだろうな~。
だけど、何だか少し疑問が残る。
「しかし、なぜ二枚有るんですか?」
「……ええ?」
「それにどうしてこれを俺から渡す事になるのでしょうか。村長から直々にラピスに渡せばいいじゃないですか」
「はあ……そうか。お前はもう、駄目みたいだな」
何となく感じていた疑問。それを口に出してみれば、村長は『もう、何も言うまい──』と更に大きな溜息をついて俺に退出を促してきた。
その声音は、極めて深く呆れた様なモノだった。
えっ、どういう事なの……。
ペガサスのヤツだとより喜ぶそうです