Tales of ARISE 〜超生命体(異物)が壁を壊す様です〜 作:とんとなま
カナムと名乗った新入り、もとい変人と出会ってはや1週間ほど。
不自然な事に、カナムはダナやレナの関係や歴史、五領や領将、星霊術さえも知らないという。
本人曰く俺と同じ
しかし、話をする間笑っている様な呆れている様な、何か含みがある顔をしていた。
本人が詳しく話そうとしないので真偽の程は不明だが、兵士達に奴隷として連れてこられた身だし、星霊術も使えない様なのでとりあえずはダナ人……と言う事で良いのだろう。
後は俺同様霊石が埋め込まれていないのも気になる所だ。
さて、案の定というかあいつは毎日の様に変人っぷりを発揮しては目立ちまくっていた。
仕事は励んでいる様だが、遠巻きに見ても奴隷とは思えないくらいハキハキしている。そもそも働き過ぎというか、多い時には1人で3人分の仕事は平気な顔でやってのけるのだ。
あんなペースで動いていたら身体なんてすぐにガタがくるだろうに、終業時でも疲弊したそぶりすら見せない。
それでいて反抗的というわけではないが、兵士達にさえ分け隔てなく対応をするものだから、当然目をつけられては殴られている。そして本人に意に介した様子はない。
よく殺されないものだと思うが、変人であるが故に兵士には新鮮な玩具に見えるのだろうか?
ここカラグリアでは誰も彼も明日の未来すら悲観している訳で、殴られようが嘲笑されようが自分のペースを崩さないカナムは兎に角浮いていた。
「近くの火山で目が覚めたって言ってたけど、ベルク火山だよな?あそこってズーグルが多くて兵士達の巡回も少ないんじゃなかったか……?」
他の五領から逃れて来たと言う事なのだろうか?
カラグリア周辺と考えれば隣り合っているというシスロディアからだろうか?
他と比べ兵士の数が少ないと言っても、はぐれも含めズーグルは多く危険性に対して確実性は低い様に思える。
「やっぱり不審な点が多すぎる。本当に何者なんだ?」
石造の質素な小屋。
小さな窓から見える星々からもわかる通り、時刻は夜だ。過酷な労働から一時的に解放される時間。
解放と言ってもおかしな真似をすればすぐにでも鞭や棒が飛んで来るし、最悪殺される。
そんな環境故、定められた寝床に戻って翌朝からの労働に備えるだけで、安息というには程遠い時間だ。
そろそろ寝ようかと思い始めるのと同時に、ようやく同居人が戻ってきた。一体どこで油を売っていたのやら。
「カナム、また殴られたのか?」
「やあ鉄仮面殿、今朝ぶりだな。確かに殴られはしたがそれも最早慣れたもの。何も心配はいらん。奴隷業……うむ。なんとまあ愉快な事だ」
傷を負ったのだろうか、包帯代わりに布を巻いた左腕を、なんて事はない様に見せつけながら彼は言う。
だが、そんなことより1つ聞き捨てならない事があった。
愉快……愉快だって?こんな理不尽な仕打ちが続く生活のどこが愉快なんだ?
「どうしたのかね黙りこくって……。うん?あぁそう言うことか。どうやら失言をしたらしいな!しかし、しかしだよ鉄仮面殿?このカラグリアなる国の奴隷達が、甲冑の輩が、
満面の笑みでカナムはこちらを見下ろす。またこれだ。
ただでさえ話が長いのに、ほんのちょっとしたきっかけでさらに饒舌になる。こっちの事情なんてまるで気にしていないのだろう。
「確かに考えは人それぞれだと思う。けど俺たち奴隷が理不尽な扱いを受けているのは事実なんだ。とてもじゃないが愉快なんて考えは納得できない。お前も何度か見てるだろう?此処では毎日の様に人が死んでは燃やされてるんだ。小さな子供だって例外じゃない」
「無論、理解している。私の考え方を理解して貰おうとは想っていない。直すつもりもないが、捻くれた価値観だと自覚してはいるのだ。その上で、私はこのカラグリアの奴隷達の悲劇には心は痛めている。だがね、しかしだね鉄仮面殿?いかなる世であろうとも永遠なんてものはない。永く続いているものほど、その綻びは自ずと大きくなる。崩壊の時はほんの僅かなキッカケだけで急速に進むのだよ。先の課題はそのきっかけまでに耐えられるかどうかだ。ドク殿の言葉を借りるならば時節を待て、と言ったところかな」
満面の笑みのまま、カナムは徐に俺を指差した。いや、正確には俺の仮面を指差していた。
何かを見透かされているような例えようのない不快感に、思わず身動ぎをする。
「案ずる事はない。
「……は、はぁ。えっと、ハッピーエンド?」
「さて明日も早いから私はこれで失礼する。君もいろんな意味で備えたまえよ。時節、そう時節だ。ドク殿も実に良い事を言う。私の目に曇りがなければ……ふふふふふふ」
こちらの疑問に答える事なく、カナムは横になってしまった。暫く何やら呟いていたが気にしない事にした。
ずっと流されっぱなしだが、こんなんで付き合っていけるのだろうか。
「ほんと何なんだよ一体……?」
目が覚めたら火山の火口で溶岩全身浴してたとか、服がミンチになったり丸焼きになったりで消失しているのはまだ良い(良くない)。
未知の生物達(ズーグルと言うらしい)に襲われて捻り潰してたら変な甲冑の輩に見つかって人が居ると安堵したのも束の間、何故か脱走者とか散々罵声を浴びせられてあれよあれよとこのカラグリアのモスガルなる所に奴隷として連れ込まれた。ただ粗悪なモノとはいえ衣服が貰えたのは有難い。
私は紳士なのだ、隠すべき物は弁えている。色々と。うん、色々と。
奴隷業なんて初めてだったが、まだ1週間程度とはいえ非常に充実した毎日を送っている私だ。
文字はまるで読めないが、言葉が通じるのはまさにご都合主義というもの。
そして何を隠そう鉄仮面殿だ。一目見た瞬間から私の鋭敏極まるセンサーにビリリっときた。
それはもう伝え聞いた世界線に存在するらしい宇宙世紀の新型なる連中がキュリリリーンというかそんな変な音と光を出してハッとした顔する感じで。
あんな私主人公ですよオーラ放ってる男は200人くらいしか見た事がない。
「これも大いなる御主の……わけないな。いまだ引きこもってるらしいだらしのない奴の加護など期待出来まい。
きっと偉大なる父祖達の加護だろう。鉄仮面殿と言う良き先達に恵まれた事なども含めて、なんとも有難いことだ。もし家に帰れたら頭から酒樽でも叩きつけて差し上げよう。きっと天にも昇る心地で喜んでくださる」
――さて、何に使うのかはまるでわからないが、燃料を採掘し、運搬するのがここカラグリアにおける奴隷の仕事である。
まあ見渡す限り盛大に燃え盛っている不可思議な土地なので、いくら掘っても枯渇しなさそうではある。
適当にそこら辺を掘り返すだけで石炭らしきものがわんさか湧いて出るので、実に掘り甲斐があるというもの。
……とは思ったが、それはともかくだ。
この惑星はあの爆発して私を吹っ飛ばしてくれたコロニー、それを造った人類種の母星と思っていたが、どうも違うらしい。
話を聞きまとめると彼らはレナ人なる人種であり、母星は爆発したコロニーの先にあったもう一つの星らしい。
この星ダナにいる人々はダナ人と言うそうだが、なんでも300年前にレナがダナを侵攻、支配下に置いた後ダナ人を奴隷化したとか。
レナ人の兵士達の装備等見る限り、現在この星は高度な技術を持った文明が支配権を持つわけだが、それだけの技術を持つにも関わらず石炭らしきものをわざわざ主要な燃料として使うものか?
確かに数百年掘り続けてなおこれだけの量があればそうそう枯渇の心配はなさそうだが、レナ人はこの石炭よりも星霊力なるものを重宝している様である。所謂魔力的な不可思議エネルギーだろうか?星霊術なる魔法的なものもこれを用いている様なのでまあ認識として間違いはあるまい。
どうやらこの星には無機物有機物問わず潤沢な星霊力が含まれており、レナ人はそれをあの手この手で搾取しているとのこと。大半の奴隷達が手にはめ込まれている石も星霊力を少しずつ奪うものの様だ。星霊力が吸い付くされたらどうなるのかわからないがまあ多分最悪死ぬとか良くて廃人とかそんな所だろう。
となれば石炭は飽くまで建前でメインは星霊力の搾取か。
アレ?意外とエゲツないな?
「ハハハハ。今に見ているといい……。やはり勝者を気取って驕り高ぶっている連中は無様に陥落させるに限る」
まあコレらはさておきだ。ここで最大の謎だ。
この星の空からはレナ人の母星らしい星と、例のコロニーが見えるのだが、コレがその謎だ。
あの時間違いなく木っ端微塵になったはずのコロニーが何故か残っている。
レナ人である甲冑の輩の話を聞く限りでも爆発した様な騒ぎがあった様には思えないし、あれだけの規模のものが数日で元通りになるなど流石に考えられない。
「まるで意味がわからん。時間の巻き戻しでも出来るのかレナ人の連中は。羨ましいなこの野郎」
ほんの少しばかりレナ人に妬いた。
時間の巻き戻しが出来たら簡単に家に帰れる。
失敗してもやり直しが効く。
無能上司の時間だけ巻き戻して胎児……いや、受精卵からやり直してもらえる。
いやだめだそんなんじゃ生温い。一族の始まりまで戻せば私が生きている間は出会う事はなかろう……あ、それやったら偉大なる父祖達の代まで戻りそうだ。F○ck!
「何をボサッとしている!」
「す、すみません!」
不意に聞こえた怒号の先に目を向ければ、奴隷の少年が痩せた身体で人1人分はある燃料を運んでいた。
まだ始業してまもないと言うのに、どうやら疲労によるものか転倒し、叱責を受けている様だ。なんともだらしねぇ上に哀れな事だ。
対する甲冑の輩は今日も今日とて仕事に励んでいるようだ。殊勝な心がけに実に感心する。
侍っている狼っぽいズーグルも、飼い主の顔を立てようとしているのか必死に牙を見せつけては唸り声を上げている。優れた飼い主故に、飼い犬も優れていると言うことか。
ここまでくると感心どころか脱帽ものだ。
このダナとか言う惑星に着弾(誤字にあらず)する事の発端になった無能上司の瞳を開けたまま固定し、一生網膜に焼き付けてやりたい程に素晴らしいものだ。
「その程度の仕事も出来んのか石付きが!」
「まあまあ待ち給えよ!」
とりあえず棍棒を振り上げた甲冑の輩を制止する。
別にこのモブみたいな連中なぞ興味はないが、
その為には極力自然体を装わねばならないのが少々面倒な所だ。傷を負ったふりするのなんてお茶の子さいさいだが。
「貴様なにを……」
「少年の失態分他の者……特に私が動けば済む話じゃあないか!君もこんな些細な事で時間を浪費したくはあるまい?ここは私に免じて収めて欲しい。……ほら、
コレでもかと満面の笑みで言ってやる。うむ、見えないが我ながら会心の笑みであろう。
多分故郷でなら拍手喝采が巻き起こり数多の人々が滂沱の涙を流すほどに。
――嘘だ。私の顔は悪くはないだろうが平均的な顔面偏差値だ。別にイケメンに産まれたかったとか思った事はない。ない。断じてない。
「あ……ぁ?あぁ、そう……だったな。そうだな。そうだ」
「よし、では今日もお互い励むとしよう!」
よしよし効いてる効いてる。甲冑の輩はどっか行ったし、私も労働に戻るとしよう。
もはやモスガルの甲冑の輩は我が手中にある。後は時節を待つだけだ。
私のそりゃあもう素晴らしいまでの直感が正しければ必ず事は起こる。いや、正しいに決まってる。今まで直感が外れたことなど無いのだ。鉄仮面殿が何をどう成すのか楽しみで仕方ない。……え?基地爆発とコロニー爆発の事は直感できなかったのか?
黙れ下郎。あんなのどうしろっていうのだまったく。
「あの、ありがとうございます!」
「例には及ばんよ少年。とりあえずは強く生き給えよ」
ちゃんとお礼が言えるなんて何と良い少年なのだろうか。今は逆境だろうが、彼はきっと真っ直ぐで屈強な青年になるだろう。
……別に筋骨隆々になる必要はない。筋肉で全部解決する様な奴にはならないで欲しい。