Tales of ARISE 〜超生命体(異物)が壁を壊す様です〜 作:とんとなま
私だカナムだ。
突然だが先程、貨物車両側で騒ぎがあった。
近くにいた奴隷や甲冑の話を聞けば鉄仮面殿が関わっている様だ。
遂に時節が来たか!やはり私の直感は正しかった!
――そう、考えていた。
どうやら当の鉄仮面殿はそのまま貨物車両に乗ってどっかに行ってしまったらしい。奴隷地獄のモスガルから脱出する形になった以上、そうそう帰ってくるなんて事はないだろう。
つまるところ私はついに時節が来て動き出せる、という重要なタイミングを逃したのだ。
初対面でも余裕で主人公補正マシマシって解る鉄仮面殿に着いていけなかったのである。お留守番である。置いてきぼりにされたのである。
なぜ?なんで?なして?なにゆえ?
折角甲冑共に
まさか、私はこの世界においてただのモブだというのか?
超生命体なのに?鉄仮面殿に向かっていっぱい意味深な事言ったりしたのに?
「oh…」
まだ鉄仮面殿に着いていけたのなら色々修正が考えつく。だがそのためには貨物車を全力疾走で追いかけねばならない。いやダメに決まってる。悪目立ちとかそういう次元ではない。
考えてもみろ、同居人の奴隷が全てを薙ぎ倒しながら超スピードで貨物車両に迫ってきたら、いくら屈強な鉄仮面殿といえショッキングだろう。
え、そういう事じゃない?
兎も角、不幸が重なり自棄になって新天地で運命的な出会いを果たし、愉悦を求め、苦労してきたこの1週間は一体何だったというのか。
「コレではコロニー爆発に巻き込まれてこの星に着弾して全裸になって拉致されて奴隷になったのも全部茶番で終わってしまうではないか」
見たところ鉄仮面殿はここモスガルで最も反抗の意志が強い人物だ。しかも人望もなかなか厚いと見える。奴隷としての仕打ちに反感を抱いているもの達が想定よりも多かったのも僥倖だった。
何かしらのきっかけで蜂起したタイミングで暗示した甲冑の一部をやられ役として上手い感じに操って勝利に導き勢いづかせる。
その後、何故か甲冑の見た目が全く同じである事を利用し、残して置いた分を他の地域の甲冑にけしかけて仲間割れをさせ混乱を引き起こす。
これでまず間違いなく連中は誰が裏切り者かわからない疑心暗鬼になるはずだ。
カラグリアの領将らしいジビエだかエビゾウだかよくわからん男は粗暴な脳筋だと聞いてるので、指揮はもう滅茶苦茶になるだろう。脳筋はそれだけで死亡フラグなんだよ。
後は指揮系統が滅茶苦茶になった甲冑共に適当に囮をけしかけて少数精鋭で領将に突撃。領将撃破で万々歳。俺たちの戦いはコレからだ!と王道展開である。
私も高みの見物決めて落ちぶれる領将共を見れて愉悦に浸れて至福の時間……となれば良かったのだ。
私が練り上げたチャートがもうガバガバである。
蜂起以前に主役がどっか行って行方不明とかもうどうしようもない。
泣きたい。このメンタルダメージを引きこもりの大いなる御主に擦りつけたい。既に大ダメージを負ってる奴がさらにダメージ受けても何ら変わりないはずだ。
「…………ふぅ。とりあえず一旦落ち着こう。冷静になるのだ。別に素数を数える必要はない」
自棄になって甲冑をボコって私が解放者だっ!なんてムーブしようものならただの無双モノになってしまう。
それではありきたりな、異世界転移俺TUEEE展開になってしまう。
私が直接動きに動き回ったら、レナ打倒なんてあっという間に終わってしまう。見る限り相手は適当に小突くだけで死ぬような輩だ。
それなら主人公敵対ルートで、別次元から現れた人類に試練与えるの大好き系魔王みたいな感じで振る舞った方がマシだ。
しかしこれも種族的にスペック差がありすぎて加減するにも限度が有る。
私の種族は灼熱地獄だろうが絶対零度だろうが真空空間だろうが放射線汚染だろうが耐え(痛いものは痛い)、金属なんざ軽く切り裂いては粉砕し、音速なんて義務教育レベルだ。
キチガイな連中なんて、飛来する隕石に生身で突撃して粉砕したり我慢比べとかわけわからない事やってるもんである。流石に超新星爆発を観光と称して見に行った奴らは新しい星になったが。少なくとも2度と帰って来る事はあるまい。
まあそんな連中のおかげで永らく母星が隕石で壊滅なんて事になってないのは皮肉な事だ。
話が逸れたがそういう種族なんでちょっとしたミスでハッピーエンドどころか、主人公側全滅なんて事態になりかねない。現実に奇跡が起きてスーパーパワーに目覚めて大逆転、なんて都合の良い展開があると思うのか。
やはり主人公達が苦難を乗り越えてハッピーエンドを迎えるのを、ちょっと引いた視点から観て愉悦に浸るのが最良だ。
しかし、その主人公最有力候補の鉄仮面殿はもう居ない。
……あぁ駄目だ。落ち着こうというのにマイナス方面にしか思考が回らん。どこかでまたチャンスがあるかもしれないがまるで予測が立てられない。鉄仮面殿が戻って来る確証が得られないのが痛い。
新しい主人公候補探そうにも、此処には意思が強くても1人では貧弱なだらしねえ身体した連中が殆どだ。
鉄仮面殿の細くも逞しく素晴らしい身体を見習えと言うのだ。……一応言っておくが別に私は同性愛者ではない。ホントだよ?これでも嫁さんが居たんだからな?もう二度と会えないかもしれないというか、2度と会いたくないが。だって怖いもん。帰宅して玄関開けたら締め上げられて所持品やら通話履歴やら匂いやら全部チェックだよ?何かが引っ掛かったらそのまま私ごとお洗濯だぞ?
……また話が逸れたので気を取り直そう。
ダナ人の待遇を憐れみ、疑問を持ったレナ人自体が反旗を――みたいな展開も面白いかもしれないが、いかんせんあの甲冑共は見た目が一緒すぎて誰が誰だかまるでわからない。
所詮量産型、個性もクソもないモブ連中である。
まあ元々連中はダナ人差別大好きマンの集まりなので、この展開は全く望めない。
あれ?やはり私の計画詰んでるのでは?
「どうする……どうすればいい?もう大人しく隠居するしかないのか……?こんな貧相な土地で?」
母星に帰るにしてもレナ人が持ってるであろう宇宙船とかそれに類するものを強奪することになるが、奪えたとして母星に帰れるだけのスペックがあるのかが不明だ。
そもそも漂流期間が長かったせいで母星がどっちの方角にあるのかすらわからない。最悪生物と鉱物の中間になってしまうかもしれない。
希望が見えないので誰か助けて欲しい。いやホントに。
さて、あれから1日経った。
昨日今日ともう気分の落ち込みが激しくて仕事も思うようにこなせなかった。
それでも人一倍働いたつもりなのでそれは良しとする。仕事は仕事だからな。
しかし、今の私は気分が良い。そりゃあもう号泣したいくらいに。やはり天運は私に味方するのだ。
「…………天から降ってきた私がいうのもなんか変だな」
「……!カナム!無事だったか!?」
こっちの顔を見るなり全速力で駆け寄って来るのは何を隠そう、鉄仮面殿だ。意外と脚速えなこいつ。本当に奴隷か?さっきの身のこなしといいやっぱなんか実は凄い生まれでしたとかバックボーン持ってる主人公なんだろお前?
さて、今日になって突然モスガルに甲冑共が攻め込んできた。奴隷が脱走した事の見せしめか、やってきた数こそ多くはないが、元々常駐していた連中と合わせると結構な人数だ。
奴隷達を見境なく襲ってるので心がちょっぴり痛んだが、とりあえず近くにいた奴隷達を避難させて思考を回転させた。
急展開過ぎる上、此処で派手に暴れ回っても不審なので手駒にした連中を使おうか悩んでたのだが、そんな時に甲冑共を薙ぎ倒しながら颯爽と駆け付けたのが目の前にいる鉄仮面殿だ。
「おお鉄仮面殿!(色んな意味で)会いたかったぞ。……うん?いや少し待ち給え、其方の御人は?」
うん、やはり急展開だ。いや一応これも王道展開と言えるが、それにしても早くないだろうか?
鉄仮面殿の後に続いてやって来たのは1人の女性だった。
少し古そうだが豪奢なドレスに桃色の髪をポニーテールにした、見るからにお堅そうで訳ありですよオーラを放っている。奴隷と甲冑の野郎ばかりの此処では非常に浮いた美女だ。
間違いあるまい、鉄仮面殿を
初対面にも関わらず腕を組んで私の事を『なんだコイツ』みたいに不躾な目付きで睨んでいるが……ふむふむ。随分鋭い目付きで気が強そうだ。
(ははぁん?さてはコイツ、所謂ツンデレ枠だな?詳細は不明だが訳ありの御令嬢でひょんな事から鉄仮面殿と同行する事になり終始ギスギスするが次第に心惹かれていく羞恥心から素直になれずツンツンするが何かしらのきっかけで心とか諸々救われてデレデレになるタイプだな?)
何度も言うが私の直感が外れる事はn(省略)
「彼女はシオンだ。訳あって一緒に行動している。……というかそんな事は後だ!ドク達は!?」
「ドク殿を含め可能な限り避難させたが時間の問題だろう。鼻の効くズーグル共もいるからな」
「そうか……」
少し思い詰めた気配の鉄仮面殿だったが、何か決心したのか此方を力強く見つめて来た……様に見える。今更ながら顔が見えないって不便だな。
ついでに右手を突き出しているが、そこには古びた剣が握られている。
……ん?剣?まさか?え?そういうパターン?
いや一緒に行動するのはこちらとしても願ったり叶ったりだが私は飽くまでも荷物持ちやら参謀やらサポート役に回るつもりだったのだが?援護は兎も角直接戦うつもりなんてなかったのだが?
「とりあえず兵士達をなんとかしなくちゃいけない。けど俺とシオンじゃ手が足りないんだ!一緒に戦ってくれないか?」
「ちょっと、信用できるのコイツ?」
「彼はちょっと
「変わり者?……えぇ、納得だわ」
変わり者……変わり者か。ああ、そう。変わり者ね。
そして怖いもの知らずね……。怖いもの知らず。怖いものばっかだよ。知り合って1週間程度の相手に共闘申し込むし、更に有無を言わさぬ雰囲気を醸し出している。
鉄仮面殿も焦っているのだろうが強引過ぎやしないだろうか。
何を根拠としたのかそれに同調するシオン嬢はもうちょっと人を見る目を養うべきだな。私ほど真摯で紳士な者はそうおるまい。
いや実を言うとその自信も最近何故か揺らぎ始めているのだが。何故か辛い。
……それにしても結構無茶なお誘いを受けているのだが何故か抗えない。ふっ、これが主人公補正か。
勇者がちょっと声かけただけで一般人でも魔王討伐にホイホイついて行くのはこういう事なのか。
コレで私も他人の家にずけずけ入り込んで棚とか壺とか漁っても咎められない訳だ。
「いやまあ、腕っ節に自信はあるにはあるが実戦経験なんざない。剣なんて使えっこないぞ」
嘘は言っていない。こんなボロ剣を私が使おうものなら刀身と柄が悲しい事になってしまう。
さあ、どうくる?
「注意を引いてくれるだけでも構わない。協力してくれないか」
「えぇ……(困惑)」
すごく澱みのない真っ直ぐな意志をぶつけられた。
(あぁ逃げられない!)
注意を引くってそれ単身で陽動するって事ではないか。ある意味一番危険ではないか。え、なに?私の安全は度外視されてるのか?
いや別に?危険って言うがあんな連中余裕で蹴散らせるけどもな?もしやむを得ず直接戦闘になったらちょっとした力加減のミスで相手ミンチになるんだぞ?怪しさしかなくなるんだぞ?
「……」
「……」
「……」
3者とも、長い沈黙だ。さっさとしろと言わんばかりのシオン嬢の眼光が痛い。
「……わかった。わかったからそんな見つめないで欲しい。陽動なんてやった事ないからとりあえず目に付いた甲冑の輩やらズーグルに手当たり次第喧嘩をふっかけてこよう。ついでに可能な限り怪我人も安全な所に隠すなり避難させて来る。私は東側に行くから君たちは北側に行き給え。ドク殿達はそこに集めている」
「……!恩に着る!」
元気一杯に頷く鉄仮面殿を尻目にさっさと行動に移る。
やると言ったからにはやるしかあるまい。とりあえず暗示かけた連中は適当に命じれば死んだフリでもなんでもするから良いとして、新しくやって来た連中は可及的速やかに処理せねばなるまい。あと多分殺す気でやろうとすると心証も悪くなりそうなので気絶に留めよう。ついでに暗示をかけとけば戦力補充も出来る。
思い描いていた展開とは違うがまあ、なんとかなるだろう。なんとかなってくれ。
「……うん?甲冑身に付けてる奴等を気絶に留める?力加減シビア過ぎやしないか?」
まずい、自信が無くなってきた。