タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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転生者が幼女と出会うテンプレは初投稿です。


喜べ、幼女(仮)の登場だ。

 無銘彼方は転生者である。

 

 この世界に持ち込むことができたのは前世の記憶と知識と、あとは兄妹の絆ぐらいなものであり、神様にチート能力を与えられていたりゲームデータのアイテムや能力を引き継いだりもしていない。

 侍として『短剣』と『槌』の適性を宿して産まれてきたものの、特別な神霊の加護は一切持たない正真正銘のモブキャラ転生というヤツだ。

 

 そのことについて、彼方本人は特に不満は抱いていない。権力、財力、暴力など『力』の所有者には善悪問わずそれ相応の責任と覚悟が必要となることを知っているからだ。メインキャラクターへの憑依転生など論外というもの。

 

 とはいえ、ゲーム知識があるが故に異世界転生をのんびり過ごしているワケにもいかない。舞台となる学園の中等部に入学して早々、同世代に四神の侍がいるとの話題を耳にした瞬間からさまざまなイベントに巻き込まれることがほぼ確定したようなものだからだ。

 仮に主人公と全く関わりを持たなかったとしても関係ないのだ。ゲームではボタンひとつでメッセージ送りされるような描写でも、この世界ではじっくりねっとり体験することになる。特に“迷宮の封印が歪んで鬼が現世に抜け出してくる”系のイベントなどはガチで命を落とす可能性があるため「ゲーム知識があるから~」と慢心などしていられないのである。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ゲームの世界観をプレイヤーに伝えるためのフレーバーテキストは鬼切姫でも多数用意されていた。真白が主人公を務める初代で匂わせる程度だったものが次回作で具体的に設定が作られ、さらに後の作品でアイテムやキャラクターとして登場するという王道パターンもしっかりなぞっている。

 そして現在彼方が挑戦している柳閃冥洞も初代鬼切姫では存在だけが語られていたフレーバー要素マシマシの迷宮である。本来であれば後のナンバリングでDLCとして配信されるダンジョンだが、この世界が“全て混ざっている”ことを知っている無銘兄妹はたぶん入れるだろうと推測し……こうして無事、エグいほど実力不足のままパワーレベリングに勤しんでいる。

 

 

 そんな無銘兄妹の蛮勇以外の何物でもない挑戦は、迷宮の支配者である『椿落としの咎人』と呼ばれる鬼も地味に歓迎していた。

 

 

 その正体は遥か昔、とある巫女とパーティーを組んでいたひとりの侍である。ある日ふたりの仲を妬んだ者たちの裏切りにより巫女が鬼の瘴気に蝕まれてしまい、人外に成り果てるぐらいならば愛しい者の手によって最後を……という願いを叶えた忠義者であった。

 当然そんな事情など素直に伝わるワケがない。鬼の瘴気に魅入られて巫女を斬り捨てた裏切り者として追われる立場となったものの、なにも知らない討伐隊に刃を向けることを良しとせず迷宮の深層でひとり静かに朽ち果てることを選んだのだ。

 

 結局は迷宮に魂を喰われて鬼に転じてしまったが、人々が咎人と呼ぼうが神霊たちは彼の真実を知っている。数百年の時を経てもなお正気を失することなくいられるのは彼らの加護が未だ健在だからこそである。

 おかげで血肉に餓えて迷宮の外へ出るようなことはせずに済んでいるのだが、かつての武人としての誇りがそうさせるのか久方ぶりに現れた挑戦者との“試し合い”には昂らずにはいられなかった。

 

 どうやら今日は巫女のほうが脱落してしまったようだが、侍のほうだけでも充分楽しめる。未熟どころか赤子も同然の実力なれど、強さへの渇望と勝利への執念は見事としか言いようがない。

 なによりも類い希なる見切りの技は咎人から見ても感嘆に値する技量であった。それは前世の知識があるからこそ可能な芸当なのだが、そんなことを知りようがない咎人にしてみれば彼方は紛れもなく天賦の才を秘めた侍なのである。

 

 さぁ、粗削りの天才が今日も遊びにやってきた。歓迎してやらねばと咎人が抜刀の構えをとる。空間ごと鬼を断つ絶刀剣技、挨拶代わりにくれてやろうと妖気を高め。

 

 

 

 

 

 

「また……せ、たな……ゴフッ」

 

 

 

 

 

 

 そのまま霧散した。

 

 まさかの満身創痍での登場である。これにはさすがの咎人も困惑するしかなかったらしい。え? どういうこと? キミいつもちゃんと回復してから部屋に入ってきてたじゃない。

 ギリギリまでほかの鬼に追い掛けられて回復治療をしている余裕がなかったのだろうか? 少なくとも道具や魔法を用意していないなんてことはないハズだし、仮に回復用のアレコレを使いきっていたとしても脱出用の護符かなにかぐらい持ってるだろうに。不利を理由に仕切り直すのは臆病風とはまるで違う。

 

 元が人間の、それも侍であったが故についつい彼方の身を案じてしまう咎人。何度も刃を交えたからこそ瀕死のまま挑んでくる姿に違和感しか覚えない。

 

 いったい何事かと目を凝らしてみると、プルプル震えながらも精神力でなんとか立っているだろう彼方の肩に何者かの姿がぼんやりとだが見え始めた。

 それはパッと見ては座敷童にも見える少女の姿をしているが、漆黒の振袖に金と紫で装飾された衣装を身に付けたソレを古き時代の侍である咎人は座敷童とは真逆の存在であると知っていた。

 

 

 座敷童が幸運を招くことで成功へと導く存在だとすれば。若き侍の、彼方の頭にほっぺたをプニプニっと擦り付けて悪どくニタニタ笑っているソレ『冥界童女』は不幸を招くことで成功へと導く厄介者である。

 

 

 この童女、プレイヤーたちから寄せられた“モブキャラにも加護を獲得するチャンスが欲しい”という要望で追加された神霊の1体である。クッソ面倒な条件を満たした上で入手可能な加護であり、非常に扱いにくいが使いこなすことができればトップクラスに強力というネタ武器愛好家たちのアイドルなのだ。

 もちろん元プレイヤーである彼方は冥界童女のことを知っている。だが、知っているからこそ自分とは無縁の存在であると思い込んでいた。ゲームとは違いこの世界では神霊側が気に入れば、システムやら条件やらがどうだなどという話は関係ないのである。

 

 

 数ある加護を与えてくれる神霊の中でも上下の振れ幅ぶっちぎりの童女に好かれて、いや憑かれてしまった哀れな青年。しかしその瞳が闘志に満ちている以上、咎人も武人として挑戦を受けないワケにはいかない。

 攻撃を外したフリをして童女を斬り祓ってやろうかとも思ったが、彼女が望むのはあくまで気に入った人間が成功する姿なのだ。決して完全な邪神の類いなどではない。ただ、そこに至るまで七難八苦に悩まされ頭を抱える様を見てうっとりしっとり悦楽に浸りたいというだけで。

 

 満身創痍でここまでたどり着いたのも、この悪女の導きで散々な体験をさせられたのが理由だろうな……と。まだ己が人間であったころに起こった騒動を思い出し、なにやら喉の奥が苦いような気がして顔をしかめる椿落としの咎人。

 ならばせめて、鬼へと堕ちた身ではあるが自分との手合わせが実りあるモノになるよう取り計らってやるとしよう。同情も少しだけ含みつつ、それ以上に心折れることなく挑んでくる若き侍の道標となるために。いつの日か自分を見事打ち倒し、さらなる高みを目指す青年の背中を見送る未来を想像しながら咎人は刀を抜くのであった。

 

 

 ちなみに。

 

 このあと冥界童女の導きにより彼方に訪れる苦難とは、主人公である真白よりも先にライバルキャラとして登場する転校生“鵺の加護を持つ巫女”とエンカウントしてしまうことである。


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