タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
「朝比奈さんは無事、巨門の迷宮を踏破したようですね。まぁ、大地と静流が協力しているのですから当然といえば当然かもしれませんが……いい加減、認めてあげてもよいのではないですか?」
「ならオマエだけでも合流すればいい。俺は別に巫女の助けなど必要としていない」
「しかし禄存の迷宮で足止めされているのは事実でしょう? 紅蓮の才能はもちろん、努力で培ったその実力を疑うつもりはありません。しかしこれ以上のソロ攻略は非効率的ですよ」
「それは……」
(ほほぅ? ついに朱雀と青龍も朝比奈に合流することになるかな、コレは。四神の侍が揃い踏み、これでしばらくは迷宮の攻略も安泰だな。恋愛感情に発展するかは男たち次第だろうが……少なくとも友好的な関係ぐらいにはなるだろ)
ある日の放課後のこと。男子寮近くの芝生でゴロゴロしていた彼方の耳に届いたのは紅蓮と風魔が真白との関わり方について相談している声だった。
どうやら風魔は協力することに前向きだが、紅蓮のほうはあまり気乗りしていないらしい。それでも攻略に手詰まりだと指摘されて感情的に反論しない程度には冷静に現状を把握できているようだ。
(まぁ、大地と静流のふたりが合流した時点で迷宮の攻略については心配事はなくなったようなもんだけど。……おっと、あまりプライベートな会話を盗み聞きするのは破廉恥だぞ? 俺)
ふたりの会話が家の話について触れ始めたあたりで、彼方は意識をタブレット端末に集中させることにした。
少々アレな言い方になってしまうが、モブキャラ転生者である彼方はそれぞれの個人的な事情にあまり興味がない。そういうのはメインキャラクター同士が、そして主人公でありメインヒロインである朝比奈真白が知るべき情報であると考えているからだ。
そして、いま彼方が知るべき情報は別にあった。アプリを起動して自分のステータスを確認すると加護の部分だけ表示がバグっている、その理由を探らねばならない。
もちろんその正体はDLCエリアを攻略中の彼方を気に入って、いまもベッタリと引っ付いている冥界童女の影響による不具合だ。この世界では未発見の神霊であるためアプリが対応していないのである。
元プレイヤーである彼方は冥界童女のことは当然知っていた。だが元プレイヤーである彼方だからこそ、条件を満たしていない自分とは無縁の存在であると思い込んでいた。
姿さえ見ることができれば疑問は全て解決するのだろうが、残念ながら彼方の能力では冥界童女を視認することはほぼ不可能である。
基本的に神霊は自分の加護を与えた人間にしか姿を見せることはない。だが人間側が神霊の存在を認識できるだけの能力を持っていなければ、神霊側が姿を見せようと思っても相対することは叶わない。
そして、神霊側の神格が高ければ高いほど要求される能力も厳しくなる。真白が黄龍の巫女であると周囲に言われても未だにピンときていないのは、黄龍の神格がとんでもなく高いため雀の涙ほどにも気配を感じることができないからだ。
(いまの俺のレベルでは気配すら感じることができない。つまりそれだけの神格を持った神霊なワケだが……自分で言うのもなんだけど、そこそこ強力な神霊に気に入られたっぽい? 加護だけ与えて知らんぷりって可能性もあるけど……う~ん?)
知らんぷりどころか最推しもいいところである。ただ投げ銭の代わりに迷宮内部に大量の鬼を配置する等の行為をするだけで。
◇◆◇◆
能力不足で自分を守護(?)ってくれている神霊の姿が見えないのなら、見えるようになるまで自分を鍛えればいいじゃない。
普通の巫女や侍であればゴールがわからないまま走るという苦行だが、彼方は“そのうち見えるようになる”という確信を持ってトレーニングしているので精神的にはかなり余裕がある状態だ。
問題があるとすれば並みの鍛練を続けているだけでは生涯を使いきっても冥界童女の姿を見ることは不可能ということぐらいだろう。
座敷童と冥界童女の加護には“レアドロップの判定を追加する”という効果が含まれている。プレイヤーにとっては便利な能力でしかないが、それはこの世界では“本来存在しない事象を確率で引き起こす力”と解釈されているのだ。
それは言ってしまえば、対象の運命をきまぐれで書き換えることができる能力である。使いようではとんでもなく危険な力であり、そんなモノを自由に扱える座敷童と冥界童女の神格はべらぼーに高い。さすがに黄龍には及ばないが。
そんな遥か格上の神霊の姿を拝むという無謀な挑戦に向けた本日のメニューは、学園の片隅で霊気の流れを感じながらの瞑想といういたって普通の内容である。迷宮でのパワーレベリングも結構だが、こうした基礎的な訓練を疎かにすると大事なところでポカをやらかすと前世の社会人生活で学習済みなのだ。
そうでなくとも彼方はゲーム知識を使い全ての属性を使えるようになってしまっているため、霊気の流れを感じる能力が鈍るとスキルの効果が鈍ってしまうのだ。ゲームではそのようなシステムは存在しなかったが、この世界では複数の属性を同時に扱うのはかなりの高等技術に分類されている。
だからこそ、全ての適性を最初から所持している黄龍の巫女は特別なのだ。
その理屈でいうなら彼方も特別待遇を受けてもよさそうなものだが、加護を持たない侍の評価は適性に関係なく低いのが当たり前であり常識である。凡人が時間を費やして器用貧乏になっただけ、それが無銘彼方の公的な評価となっている。
ちなみに妹の凪菜は神霊『雷蛇』の加護を持っているため普通に高く評価されていた。雷適性のレベルもAまで育っているので姿はちゃんと見えているし、雷蛇側も落雷を剣に纏わせようとしては失敗し黒焦げになって迷宮から吐き出される凪菜のことを慈しむような眼差しでいつも見守っている。どうやら神様もアホ可愛いという概念を理解できるらしい。
(どうすっかな~俺もな~。いままでは加護無しってことで自由に行動できてたけど、今後はそうも言ってられないかもしれん。未知の神霊の、研究素材としての価値は低くないだろうし……ゲーム知識と現実の価値観のズレがここにきて厄介なことになってきたな)
「──なた」
(これも評価されないことを逆手にとって好きなことをしてきたツケか。自分がやってきたことの責任だ、そこは向き合わなきゃイカンとしても、さすがにモルモット扱いされるのはイヤだし)
「──っと、そこの貴方」
(あとは神霊の気性次第か。ただのきまぐれで加護を与えただけなら諦めるしかないけど、俺のことを少しでも気に入ってくれてるなら助けてくれる可能性もゼロじゃない……と、期待したいところだな。その場合は研究者たちが御愁傷様なことになるかもしれんけど)
「聞こえていないのかしら? ──もし、そこの貴方。瞑想中のところ悪いけれど、少しいいかしら」
「あん?」
「まずはトレーニングを邪魔してしまったことを謝罪するわ。その上で、図々しいのを承知の上で頼みたいのだけれど、職員室までのエスコートをお願いしてもいいかしら?」
「職員室? それぐらい別に構わな──い、けれ~どぉ……」
「そう、助かるわ。仕方ないことだとは理解しているけれど、さっきから周囲の視線が鬱陶しくて辟易していたの」
「それを言うなら……俺だって似たようなモノだと思うけど」
「貴方はそういうタイプじゃないでしょう? まだまだ若輩者だけれど、人物評価にはそれなりに自信があるの。これでもそれなりに歴史のある巫女の家系だから」
キミの家系はそれなりどころじゃない歴史持ってるだろうが。そんな言葉をギリギリ飲み込んで「へぇ~、そうなんだ~」と軽いノリで流す彼方。
目の前の巫女が家名を誇りに思いつつも、家名だけで評価されることを嫌っていると知るが故の対応である。
初代主人公・朝比奈真白のライバル枠。武器適性は投擲のみだが属性はほぼ全てに高い適性を持つ鵺の巫女・
そしてそんな状況をこれ以上ないほど楽しそうにニヤニヤ笑う冥界童女の姿を、背後に控えていた鵺は棗にも見せたことのないほどイヤそうな顔で睨んでいた。
座敷童『フッ……草生えますね』
冥界童女『ざぁ~こwざぁ~こw』
世界の理『(^ω^#)』
黄龍『m9(^д^)』