タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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細かいネタでも案外伝わるものだな……としみじみ思いながらの初投稿です。

まにわに!


距離が縮まり始めたイケメンとほぼゼロ距離スタートのライバルではどちらが有利か。

 死に戻り系に限らず、敵と戦うタイプのアクションゲームを攻略するために大切なのは“観察する”ということだ。

 モーション無しエフェクト無しの即死級の攻撃を乱発してくる敵キャラが敗北前提イベント以外で当たり前のように配置されている底意地の悪いゲームでもなければ、じっくり動きを覚えて丁寧に対処することでクリアできるようにバランスが調整されている……ハズである。

 

 それがこの鬼切姫の世界でも通用するかは微妙なラインだが、少なくともチート無し一般モブ転生した無銘兄妹が前世知識で遥か格上の鬼と戦えている(勝てるとは言ってない)ぐらいには有効なのだろう。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 と、いうワケで戦闘ラウンドは禄存の迷宮、プレイヤーの観察力が試される中層のボス鬼『妖花の乳母』と朝比奈真白率いる四神の侍パーティーである。

 

 可愛いお花さんでデコレーションされた赤子の骨を抱いた女性の鬼であり、パーティー人数に合わせて分身した挙げ句ザコ鬼をワラワラと召喚してくる「戦いは数だよ兄貴ィ!!」なボスキャラだ。

 分身した乳母が放ってくる魔法スキルは多種多様な属性だがダメージはほぼ0であり、集中砲火であっという間に体力ゲージが溶けるようなことはない。ただし本体の放つ攻撃だけはしっかりと痛いし、分身の攻撃も怯みはするのでタイミングが悪ければザコ鬼との波状攻撃で一気にピンチに追い込まれてしまうのだ。

 

 そしてここが四神の侍が苦戦しているフロアでもある。やはり数の暴力こそ正義、個人の力がどれだけ突出していようとも波状攻撃の前では苦戦して然りというもの。

 もちろん我らがスーパーヒロイン朝比奈真白ちゃんにはそんな常識など通用するワケがない。大量に出現したザコ鬼の群れを見ても「1度の攻撃で経験値がたくさんもらえそうだなー」ぐらいにしか思っていない。

 

 それはそれとして。

 

 紅蓮、風魔、大地、静流の4人が前衛で頑張っていることもあり真白は大太刀を取り出したい気持ちを宥めつつ妖花の乳母をじぃ~と観察することに集中していた。

 それは別にボス目掛けて突撃するタイミングを計っているのではなく、本体と分身を見分けるための変化を見逃さないようにするための備えである。

 

 

 ~ここから回想~

 

 

「妖花の乳母と戦うなら相手の動きをしっかり観察するんだよ。そうすりゃ本体と偽者も見分けがつくからね」

 

「そうなんですか? どれが本物かはランダムだから攻撃してみないとわからないって言われたんですけど」

 

「アタシも最初はそう思ってたよ。気が付いたのは彼方と凪菜と一緒に戦ったときだね。最初は偶然かとも思ったけど、ふたりの動きを見ているうちに……ね。もちろん討伐したあとに答え合わせもしたよ」

 

「へ~、さすがだなー。……あれ? じゃあなんでみんなランダムだって言ってるんですか? 見分け方があるんですよね?」

 

「同じ手が何度も通用するとは限らない、だそうだ。それに関してはさすがにアタシも眉唾物だと思うんだけど……どうも彼方たちは鬼が学習する前提で戦ってるみたいでねぇ。ま、下手に教えてウソつき呼ばわりされんのが面白くないってのはわからなくもないし、アンタも試すんなら通用したらラッキーぐらいに考えときな」

 

 

 ~ここまで回想~

 

 

 無銘兄妹の懸念は転生者ならではの、この世界がプログラムで制御されているゲームと同じだと油断しないための戒めである。

 が、そんなことは知らない真白はまずは試してダメならそれから考えるスタイルで挑むことに決めたらしい。

 

 雅から教わった見分け方のヒントは“乳母が抱いている赤子の骨の眼孔に光が見えたら本物”というものであり、魔法スキルを放ってくる瞬間にわずかな時間だけ光るというものだ。

 ありがたいことに前衛で攻撃を受け止めてくれるお侍さまは4人もいることだしと補助系の魔法スキルで援護しつつ、その瞬間を辛抱強く待っていた。ゲームのように体の向きとカメラで視点を別々に、などという器用なマネはできないので時間はかかったものの──。

 

 

「──見つけたッ! ライオット・ジャベリン!!」

 

『────ッ!?』

 

 

 真白の魔法スキルが妖花の乳母に当たると同時に、分身たちにノイズが走り消滅する。錫杖から放たれた雷光が本体を見事貫いたのだッ!

 高い雷適性を持つ凪菜が何処ぞの戦闘民族お父さんの技を参考に編み出した魔法スキルなだけあって威力は申し分無しであるッ! 

 

 あとはこれの繰り返し、いっそのこと攻撃力強化のスキルを重ねがけして斧をブン投げたい気持ちを前衛たちのメンツに配慮して我慢しつつ魔法スキルで本体を狙い撃つ作業に集中する。

 

「これは……どうやら僕は朝比奈さんのことを過小評価していたようですね。この戦いが終わったら、いえ、この戦いに勝利したら正式に謝罪をしなければなりませんね」

 

「ただ護られるだけの巫女ではない、か。朝比奈、真白……」

 

 偶然ではない、しっかりと本体と分身を区別して攻撃しているのは侍たちにも理解できた。大地と静流の評価を話半分ぐらいに聞いていた残りのふたりも、どうやら考えを改めてようやく真白の力を素直に認めることにしたようだ。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 朝比奈真白が禄存の迷宮の前半を攻略したという情報はすぐに学園中に広がった。というか理事長とその取り巻きたる教職員がまるで自分たちの手柄の如く大喜びで喧伝した。

 

 結果としてこれまで真白のことを快く思っていなかった生徒たちも「これ大人が勝手に騒いでるだけだ!」と認識していた態度を改めることになる。

 アッサリと手のひら返しが起きたこの不思議な現象を説明するのは『思春期』という単語ひとつで充分だろう。狙ってやったのであれば理事長は実に天晴れなモノだがもちろんそんなワケはない。

 

 もっとも、態度が変化したからといってゲームのようにパーティーが組めるかはまた別の話である。

 

 男子生徒たちは攻略対象である4人と比較されるのを嫌がって迷宮攻略や戦闘に関する話題はまず口にしないし、女子生徒たちも黄龍の加護というSSレア級の加護を持つ巫女と一緒にトレーニングするのは気が引けているからだ。

 一部、四神の侍との縁を狙って真白に近寄ろうかと画策する巫女もいないことはないが、そういう連中は4人に睨まれて全て未遂で終わっている。悪役令嬢モノに登場するチョロアマ男子とは違い、乙女ゲーのイケメンたちは何故かそういう感情に鋭いパターンが多いのだ。

 

 

 つまり、結果的にどうなるかというと……。

 

 

「棗ちゃん、援護お願いねッ!」

 

「色々と言いたいことはありますが心得ましたッ! 無銘さん、周囲の警戒は貴方に全てお任せしますッ!」

 

「かしこまり~」

 

 こうなる。彼方の裏方ムーヴが功を奏したのか、禄存の迷宮クリアというフラグなどお構い無しにヒロインとライバルは無事パーティーを組んで共闘していた。

 当然ながら彼方と棗の貪狼の迷宮攻略は駆け足でサクサクと終了している。彼方はもちろん棗もそんな序盤のダンジョンで苦戦するようなレベルではなく、普通に彼方が前で戦い普通に棗が後ろから魔法スキルで鬼を蹴散らすだけの攻略となった。

 

 そして記念すべき初共闘の場に選ばれたのは巨門の迷宮である。ストレス解消のために変わり大鎧シリーズに大太刀を担ぐスタイルで意気揚々な真白の姿を見て、せいぜい万が一の備え程度に接近戦を嗜んでいる程度だと思い込んでいた棗の脳が一時的にバグったのも自然な流れだろう。

 やっぱりこうなったか。そう思いつつもゲームのシナリオに影響された場合、そこそこピリピリした出会いになっていたことを知っている彼方としてはまずは安心といったところだ。追加の交換学生というイレギュラーが発生している状況ということもあり、ヒロインとライバルが早めに友好的な関係になってくれるのは実に心強い。

 

(まぁ、朝比奈が暮間と過ごす時間が増えればその分だけイケメンたちとの時間が減るワケだが……そこは男の甲斐性を見せてしっかり真白にアタックしてもろて。4人も一緒に禄存をクリアするころには、ひとりぐらいトキメキに目覚めてんだろ。たぶん)

 

 むしろ4人がトキメキに目覚めて男の甲斐性を見せようと張り切るようになってからが逆の意味で本番なのだが、残念ながら真白と棗が並び立つ姿を見て安心しきっている彼方には想像すらできない真実であった。

 まさか乙女ゲーのメインヒロインが攻略対象となるイケメンたちとビジネスライクな関係を求めつつあるとは夢にも思うまい。




登場人物の見た目については今後も説明することは無いと思います。読者それぞれが持つ「こういうキャラならこんな感じかな……」みたいなイメージで自由に想像してお楽しみください。

イケメンの定義は人それぞれですからね。作者がパッと思い付くのは『遙かなる時空の中で』というゲームに登場するキャラクターたちですが。

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