タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
「さぁ始まりました迷宮攻略! 今日は難易度が1番簡単だと言われている『貪狼』にやってきておりま~す!」
「わ~パチパチ~♪」
「本日のゲストはこの方! 新しく“黄龍の巫女”として鬼切学園に転校してきた朝比奈真白さんです! 朝比奈さん、本日のダンジョン攻略についてなにかひと言お願いします!」
「えっと、とても緊張していますけど日頃の練習の成果をしっかり発揮したいと思いますッ!」
「はい、ありがとうございました! ……それで、数日前に転校してきた朝比奈クン? その日頃の練習とやらはなにをやっていたんだい?」
「しゃ、錫杖の素振りとかなら」
「ほーん。で、感想のほどは」
「なんかシャンシャン音がして面白いね! ──きゃんッ!?」
無銘彼方のチョップ攻撃!
朝比奈真白の頭皮に1のダメージを与えた!
「えー、本日のプランが決定しました。朝比奈さんの初期スキルである“霊気の矢”を何回か試し撃ちして、ザコ鬼の……そうだな、幽鬼あたりを何匹か討伐したら帰ります」
「異議あり! ダンジョンの中では鬼に負けても外に放り出されるだけなんだよね? だったら限界まで奥に行ってみようよ!」
「ダーメ。朝比奈の言うとおり命は助かるけど、それまで稼いだ経験値“エーテル”は全部失っちゃうの。レベルアップにスキルの修得、技能の成長、それと装備の作成からなにから全部に使うんだから1ポイントでも多く持ち帰らないとダメです」
「はーい……。ねぇ無銘くん、侍、引き受けてくれてありがとうね。もし無銘くんに断わられてたらゾンビアタック大作戦で無理やり攻略するところだったよ」
「ソロでも攻略する気まんまんだよこの子。しかも死に戻り前提で」
「どうせわからないことだらけなら、体当たりで覚えたほうがいいかなって。とりあえずスキルの使用回数がゼロになるまで霊気の矢を使って、あとは錫杖でえいやぁッ!! って気合いで頑張ればなんとかなると思って」
「お前それ燕三条先輩にも言ったの?」
「うん! そしたら顔面にアイアンクローされて無銘くんのことを教えてもらったの」
薄暗い森が広がる迷宮『貪狼』の入り口、鬼避けの結界が張られているキャンプ地点にて。ニコニコと笑顔が眩しい巫女と渋い顔で頭を抱える若き侍の姿がそこにあった。
巫女である真白に侍である彼方を困らせようなどという意図はない。純粋に一緒にダンジョン攻略をしてくれることが嬉しくてテンションが上がっているだけなのだ。
もともとポジティブ思考の真白であるが、数百年ぶりに現れた黄龍の巫女だからと大人たちにワッショイされるのにうんざりしていたところに同世代からの冷ややかな仕打ちは地味にキツかった。ルームメイトの先輩巫女が気さくな人物だったのがせめてもの救いである。
「とりあえず俺が前に出て鬼を引き付けるから、まずは霊気の矢の使い方を覚えよう。俺に当たるかも、ってのは気にしなくて大丈夫だから思いっきり試してみてくれ」
「無銘くんはMなのかな?」
「初期レベルの巫女が使う魔法スキルでダメージくらうほど貧相な鍛え方してないって話だよ。勝手に人の性癖を捏造するんじゃないよ。お前それ絶対外で言うなよ。まぁいい、とにかく鬼を探しに行くぞ」
「了解! よぉ~し、頑張ってレベルアップできるくらい鬼をやっつけるぞ~ッ!」
◇◆◇◆
「それで? 霊気の矢は20回のうち何発が鬼に当たったんだい?」
「5回は当てました!」
「彼方には?」
「……15回は当てました」
「そりゃ凄い、百発百中じゃないか。さすがは黄龍の巫女さまだねぇ。彼方にもずいぶん褒められたんじゃないかい?」
「失敗を怖がってためらうよりは100倍マシだって慰められました。技術を磨くのなんて心を鍛えるよりはずっと簡単だって」
「ハハッ、いかにも彼方らしいフォローだよ。アタシも紹介した
「へ~、無銘くんが装備してた防具は“若武者の中鎧”って名前なんだ~。いかにも侍って感じでカッコよかったな~」
「前言撤回。少しは気にしろド阿呆」
「あばばばばばば」
燕三条雅のアイアンクロー!
朝比奈真白の顔面に1のダメージを与えた!
真白にとって初体験となる迷宮での戦闘は無事に完了した。鬼よりも味方である彼方に当たった霊気の矢の方が多いとしても、後ろから撃たれた本人が気にするなと言ってくれているのでノーカウントである。
だからといって先輩の話を無視してタブレット端末をいじるのは言語道断というものだが、たった数日間とはいえ真白の苦労ぶりを知る雅としては気持ちを理解することもできる。
スキルの修得や装備の管理など、鬼退治に必要なアレコレは基本的にアプリケーションで行う。当然、パーティー編成に関わるアプリも存在するのだが、真白のタブレット端末に登録されていたのは雅しかいなかったのだ。
それが今回のダンジョン探索により彼方のアドレスが追加された。しかも彼方は侍であり、エーテルを消費することで新たなスキルを入手することが可能である。そりゃあルンルン気分で操作したくなるのも仕方ない。
伝説と言われた黄龍の巫女、その力に目覚めた少女。それが侍ひとり従えるだけでこんなにはしゃぐほど苦労しているという現実に、雅もまた渋い顔で頭を抱えるのであった。