タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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ソウルシリーズネタは初投稿です。


世界観をまだまだこねこね。

 黄龍の加護を持つ巫女と、四神の加護を持つ侍たち。それが鬼切姫のメインキャラクターであり、主人公の朝比奈と攻略対象のイケメンたちである。

 

 一緒にダンジョンを攻略したり、学園生活やプライベートで絆を深めてラスボスを倒しハッピーエンド。個別ルートもあれば逆ハーレムルートもあるし、恋仲ではなく戦友として「私たちの戦いはこれからだ!」な爽やか青春ルートやフラグ管理をミスれば巫女同士の友情ルートなんてのも見ることができる。

 死にゲー成分がたっぷり含まれているためか、アドベンチャー部分はかなり緩めの設定で調整されている。適当にプレイしても必ずなんらかのまともなエンディングに到達できるのが本作シリーズの特徴だ。鬼切姫シリーズのバッドエンドとは、アクションゲームの部分でプレイヤーの心が折れ物語が完結しないことなのだ。

 

 とはいえ、ゲームデザインとしてソロでも全てのダンジョンが攻略できるようにバランス調整されているので手段を選ばないのであればクリアはそこまで難しくない。

 

 例えばチュートリアルとして攻略することになる貪狼の迷宮・第1階層の場合。死亡回数が20を越えると学園から装備と強化素材、そして霊気の飛刃という斬撃を飛ばす魔法スキルが貰えるのだ。

 残念ながらこの世界では俺が同行しているので学園から救済アイテムが支給されることはないだろう。死亡回数ゼロのまま攻略を続けていることもそうだが、学園側の対応が中途半端というか……うまく表現できないが、伝説の巫女だと持て囃してはいるものの、一般人として暮らしていた朝比奈のことをナメてるような気がする。

 

 神輿として担ぐのはまぁわかる。だが担ぐならしっかり手間暇と金を使って真面目にやれと言いたい。

 

 この辺りはゲームの都合がマイナスに作用している部分なのかもしれない。朝比奈が主人公の初代はあまり学園側の描写に力を入れておらず、黙々とシステム的なサポートをしてくれる施設としての面が強調されていたからな。

 後の作品だと教師や理事長なんかもストーリーに関わってくるが、現在の理事長は俺も凪菜も知らない人物である。彼が黄龍の巫女に対してどんな考え方をしているのかはわからないが、各種メディアで朝比奈が所属することを得意気に自慢していたあたり俗物レベルは高そうだ。一部のマイナスイベントがいまから不安でしょうがない。

 

 ま、俺にできるのは朝比奈を信じることぐらいなワケだけど。特別な後ろ楯もなければ特殊な加護を与えられたりもしていない、前世の知識を活かしてコツコツ鍛えて一緒に戦うことで支えるしかないだろう。

 

 

 で。

 

 

「ジャーン♪ レベルアップで装備スロットが増えたからね~、錫杖以外に新しい武器を持ってきました~! 錬成工房はまだ使えないから、普通に売店で買ったヤツだけどね。どうかな無銘くん、似合う?」

 

「巫女装束着た女の子が斧を両手持ちして笑ってる姿は軽くホラーだな。ある意味似合いまくってるわ。もう少し使いやすいさぁ……小太刀とかあったじゃん……」

 

「斧のほうが強そうだったから!」

 

「そしてまた斧適性がGからEまで上がってるし。お前どんだけ素振りして──あぁ、そうか。俺の適性がBだからその影響で成長速いのか」

 

「はい、ブンブン振り回しただけで経験値がドンドン増えるのはとても楽しかったです。おかげで素振りし過ぎて腕もパンパンになって、こうして構えてるだけでも痛くてプルプルするよ。えへ~♪ ……無銘く~ん、なんとかして~」

 

「聖鈴よ、生命湧きの音色を奏でろ」

 

「あ゛~、いやざれりゅ~」

 

 チリンチリンと鈴が鳴り、朝比奈の両腕を癒しの光が包み込む。効率そのものはかなり悪いが、敵に攻撃を当てなくても適性の経験値は蓄積される。

 主人公の適性が低くパーティーを組んでいる侍の適性が高いほど成長率に補正がかかるので、周回プレイではイケメンを侍らせたまま虚無を殴り続ける主人公の姿は見慣れたものである。

 

「練習熱心なのは良いことだ。けど、どうせ一緒にダンジョンに行くんだからそのときでよくない?」

 

「んー。私も最初はそう思ってたんだけど、ダンジョンでは無銘くんがフォローしてくれるじゃない? だったらダンジョンでは魔法スキルの練習をしたほうがいいかなって。実は無銘くんが持ってる魔法スキルで欲しいのがあってさ」

 

「ほぅ。どのスキルだ?」

 

「強い魔法の武器」

 

「どうして殴りかかる前提の魔法スキルを欲しがるんですかキミは。朝比奈は巫女だよ? 一応さぁ、基本的に俺たち侍が護りながら戦う前提だよ? もっとあるでしょこう、ファイアーボールとかアイスニードルとか」

 

「でも凪菜ちゃんにこのことを話したら『さすが先輩、見る目あるッス! やっぱりエンチャ殴りはロマン全開ッスよね!』って賛成してくれたよ。アドレスも交換したけど、凪菜ちゃんも武器スキルたくさん持ってたね」

 

「しまった妹が死に戻り上等の突撃思考だったわ説得力ねぇわ」

 

「まずは霊気の矢をガンガン使って、無属性の適性レベル上げて、魔法の武器を覚えるところから始めないとね! 名前がいいよね、強い魔法の武器っていうシンプルさが。こう、すごく『強いぞッ!』っていう意志の力みたいなの感じるよね」

 

「俺はお前のインファイトにかける意志の力にビックリだよ。いや、いいけどさ。モチベーションって大事だし、どんな適性を伸ばしても戦えるから好みのスタイルで──」

 

 いや、まて。

 

 別に序盤に斧の適性を強化すること自体は悪くない。動きの素早い鬼相手には苦戦したりもするだろうが、利点と欠点がハッキリしているので戦闘スタイルの組み立てには苦労しないだろう。

 俺もフォローするし、凪菜や燕三条先輩がパーティーを組んでくれるなら当面のダンジョン攻略は問題なく進めることができる。

 

 だが鬼切姫はただのアクションゲームではない、乙女ゲー要素を含むアクションゲームなのだ。当然主人公の戦闘スタイルは男性キャラの攻略にも影響してくるのだ。

 4人の攻略対象はそれぞれ四神の加護を持つ侍なのだが、当然対応する属性の適性が高く、主人公も彼らと同じ適性を高めることで絆が深まるという流れになっている。

 

 朱雀であれば火属性と剣。

 

 青龍であれば風属性と槍。

 

 白虎であれば土属性と拳。

 

 玄武であれば水属性と弓。

 

 おわかりいただけただろうか? 無属性と斧はどのキャラクターとも接点がないのである! 

 

「ところで朝比奈さん。属性の適性といえば、例の4人とは話をしたりとかは……」

 

「もちろんちゃんと挨拶に行ったよ! 黄龍の巫女としての力を示すことができたら認めてくれるって言ってた。具体的には? って聞いたら自分で考えろって言われちゃったけどね~」

 

 うーん、この。

 

 まぁ4人にしてみれば、つい先日まで一般人だった朝比奈に“黄龍の巫女だから”という理由で従うようにと命令されたようなもんだからな。いや、ゲームと違って普通に頼まれた可能性もあるが……どちらにせよ、やはり簡単には朝比奈に協力してくれそうにないな。

 となると、やはり地道にダンジョンを攻略していくしかないか。これは感情の問題だ。理屈を振りかざして利口ぶっている大人でさえ感情的になって取り乱すことが多いのだから、特別な力を持つとはいえまだまだ学生でしかない彼らが朝比奈を受け入れられなくても仕方ないことだ。

 

 そもそも俺だって長生きしただけのガキそのものだしな。人様に説教できるほど偉くはないし、自分にできないことを当たり前のように相手に要求するのが褒められた行為ではないことぐらいは知っている。

 

「フフフ……今宵のバトルアクスは鬼の血に餓えておるわ……まだまだ明るいけど。新しい武器も用意したし、今日で第1階層の攻略にチャレンジしちゃおう!」

 

 人様に説教できるほど偉くはないが、乙女ゲーの主人公が嬉々としてパワーファイターの道を歩むのを後押しするのは大丈夫なのだろうか。いや、原作がそういうゲームなんだけどさ。


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