タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 個人的にはポケモンの演出が好きなので初投稿です。



初代は偉大って、ハッキリわかんだね。

 魔王・朧。

 

 真白編の締め括りとなるラストバトルにて討伐する鬼神であり、その正体は“鬼切りに使われていた妖刀が人々の負の感情を喰らい続けることで誕生した嫉妬と自尊心の塊”のような存在である。ただ仮にも乙女系死にゲーのラスボスということで、性格はなかなか嫌われそうなタイプだが顔だけは良い。

 そんな彼もまた公式設定が仕事をした結果、いくつかの特殊能力が敵対者にとって理不尽な性能となっていた。個人単位の戦闘力で勝っている涼蘭姫や炎翁が、形だけでも協力する姿勢を見せているのは朧が持つ特殊能力のひとつ『同族喰い』により眷属の鬼たちを消滅させられる可能性があるからだ。

 

 鬼に“殺された”鬼は復活できるが、鬼に“喰われた”鬼は簡単には復活できない。贋作狂いのあるていすとは大猿をあくまで第三者に見せるための作品として扱っていたが、もしも力を取り込むための贄として扱っていたら精霊として迎えることはできなかっただろう。

 朧の同族喰いはそれをさらに強化したもの。いくつかのファンタジー作品に触れたことがあればひとつやふたつ思い当たるものがあるかもしれない、主人公たちに敗北した道中のボスキャラが、ラスボスに助けを求めたら「我が力の一部に〜」と言われて問答無用で取り込まれる展開を。

 

 朧はその辺りの能力がとにかく強い。なので眷属を捨て駒として認識しているならともかく、大事な部下として扱う鬼たちは正面から朧と敵対することを避ける。

 この手の敵キャラというのは戦闘力も厄介だがそれ以上に生存能力に長けているため、戦いになった時点で勝ち負けに関係なく被害が大きくなるのが常なのだ。

 

 んで。

 

 そんな朧だから人望なんてあるワケない。自分以外の全てを見下さねば気が済まないようなヤツなのだ、自分は神でそれ以外は全て下僕か奴隷かみたいな扱いをして当然だと思っている。

 しかし自分自身が動くのは面倒なので最低限の眷属は必要。そうなると力だけは本物の朧が眷属として従うことを許した特別な鬼なのだと思い込んだ連中もまた自尊心の塊となってしまうワケだ。

 

 

 一応、2作目の主人公が鬼神の血を受け継いでいることから“上位の鬼は従える者が増えるほど力も強くなる”的な設定もあるのだが、朧に関してはラスボスが人格者だったりするとプレイヤーが気持ちよく殴れないだろうというスタッフの気遣いにより例外とされていた。

 

 

 まぁ、とにかく。

 

 周囲の鬼は鬼神の格を持っていても上司には逆らわない、なら上司の直属の部下である自分も顎でこき使っても許される。そんな考えにバッチリ染まってしまうのも宜なるかな。

 なのでこの戦いの乱入者である『蒼鬼』を含め、自らを四天鬼仙と呼ぶ中ボスたちは格上の鬼神相手にも命令できる立場にあると本気で思い込んでいる。虎の威を借る狐が実際のところどの程度の実力を備えているのかについては察して知るべし、とだけ言っておこう。

 

 炎翁としてはそんな下衆に死合の邪魔をされたことで内心は穏やかではない……どころではない。それでも自分の都合を優先して部下たちが朧の腹の中で餌として藻掻くことになるかもしれない、そんなことを想像してしまえば我を通すことは難しいだろう。

 

 

「現世の戦力がどれほどのものか、威力偵察を任せるのであれば……鬼神である炎翁殿であれば、少しぐらいは役目を果たしてくれると思っていたのですが。どうやら我々の見込み違いだったようですね。とはいえ、こちらもロートル相手に無駄に期待を押し付けてしまったという意味では責任が無いとも言い切れません。なので後始末ぐらいはしてあげますよ? 無能な部下の尻拭いも上司の務めですからね」

 

「…………帰るぞ」

 

 怒り任せに蒼鬼を斬るのは赤子の手をひねるが如く簡単である。だが朧の性格を知る炎翁は報復にて迷宮にある眷属全てが喰われるだろうと確信している。

 武人という私情を優先して眷属を危機に晒すような者が長を名乗るなど許されない。少なくとも炎翁はそのように考える。理由があれば下の者の命を消耗して良しなどと、それは自身が嫌う朧のやり方と変わらない。

 

 それに、ここで怒りを抑えて退くことも決して悪い選択肢ではないだろうとも考えていた。シャドウレッドの戦い方は本来の戦い方とは違うのだろう、打ち合いの感触から炎翁はどうにもそんな気がしてならないのだ。

 それならここで窮屈な思いを押し付けたまま決着を求める必要もないだろう。守護るべき民草を背に戦う姿勢は見事ではあるが、それはそれとして一切合切の縛りから解放されたシャドウレッド……を、演じているらしき侍とはまた別の機会に立ち合えばいい。

 

 

 そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 鬼神・炎翁とその配下が立ち去った。

 

 残るは線の細い鬼の男がひとり、人数だけで考えるなら先ほどよりも有利な状況。だが周囲の人々の表情は比べ物にならないほど曇っている。

 シャドウレッドの腕も、脚も、蒼鬼が投げた鉄串がいくつも刺さり凍り付いている。あまりにも動きが速くて上手く当てられないかもしれません、などと白々しいセリフを口にしながら放たれたモノから一般人を守るために負傷したのだ。

 

 

 逃げたいのなら逃げても良い、と。

 

 逃げ切れるのであれば、逃げれば良い、と。

 

 

 ひとつ、またひとつと氷の妖気を纏う鉄串が投げられた。

 

 

(……な〜るほど? 防御系のスキルの発動はあくまで自分が受けるときに、なワケね。最初っから別の誰かを狙ったモノに割り込んでも、耐性系ぐらいしか発動してくれない、と。いやぁ、勉強になるねぇ)

 

 

 彼方は基本的に仲間を庇わない。位置取りに気を付けて敵のヘイトを分散させることはしても、仲間がやらかしたミスについては痛い思いをして身体で覚えろという教育方針から滅多なことではダメージの肩代わりをしないのだ。

 故に、平然と一般人を巻き込む蒼鬼は相性的に最悪の相手と言えるだろう。見切り系やカウンター系のスキルを封じられ、貧相なステータスで勝負しなければならない────否、そもそも勝負自体が成立しない。防戦一方で反撃のチャンスがないのだから。

 

 そのとき、蒼鬼はどんな気持ちだったか? 

 

 それはもうご満悦としか言いようがない。鬼神である炎翁が手間取っていた侍だか忍者だかを鬼仙である自分が一方的に嬲ることで自尊心はテッカテカに輝いている。その満足感は自分が炎翁よりも劣っているという事実が前提条件であることに気付かないままに。

 

 

 シャドウレッドは串刺しにされ、新たな鬼が愉快に嗤う。ギャラリーには絶望的な光景だが、当事者である彼方はぶっちゃけかなり余裕がある。

 痛みはあるし出血による感覚の鈍りなどはあるものの、黄泉戦の加護が徐々に強まっているためステータスがじわりじわりと強化されているのを感じているからだ。

 

 なにより、時間稼ぎはもう完了している。どうやら炎翁とバチバチやってる間に真白の大太刀は完成していたらしく、棗と一緒に一般人に紛れ込む形で様子を伺っていることに気付いている。

 ただし、目の前で人々を守るために友人がボロカスにされているのに機会を伺うため我慢しなければならない彼女らの心情には無頓着であるものとする。

 

 問題は、どうやって彼女たちとバトンタッチするのか。

 

 いやほかにもっと問題あるだろと思うかもしれないが、黄龍の巫女である真白の助力が必要だから時間稼ぎをしている彼方にしてみればこれが最優先事項なのだ。対戦相手が鬼神の炎翁から鬼仙の蒼鬼にダウングレードしたので別にこのまま押し切っても大丈夫だと気付かないぐらいには大問題なのだ。人、それを本末転倒という。

 

 

 なるべく派手な演出をしつつ、シャドウレッドの評判を落とさないように退場する方法はあるか?

 

 ……そうだ、シャドウレッドが実は偽物だということにすれば評判は落ちないぞ! 妖魔軍団との戦いで忙しい本人たちに成り代わって、ご先祖様的な存在が復活した感じの流れで押し切ってしまおう! 

 

 

 と、いうことで。

 

 

「ククク……ハハハハハ……ッ!」

 

「おや、どうしました? 恐怖で気が狂ってしまったのでしょうか?」

 

「フッ……これが笑わずにいられるか。五百年という充分な月日があっても、実力も意地も持ち合わせていないような鬼は戦い方になんの進歩もないとなればな。もっとも、貴様のような畜生にも劣る下衆が相手では、今代の……紅太郎たちには荷が勝ちすぎるだろうが」

 

 

「いま、コウタロウって」

 

「あ、あぁ。それって、シャドウレッドの変身前の名前だよな?」

 

「じゃあ、いま戦っているのは……?」

 

 

 ざわ……ざわ……と。

 

 ギャラリーの間に動揺が広がるが、それこそ彼方の狙い通り。ここから両手でDLCエリアで集めたエーテル結晶を握り潰し、蝕む赤涙の力を発動させ、黄泉戦の加護と併せて瞬間火力を限界まで高めて炎を操ればどうなるか?

 

 

 そう……人間とは、良くも悪くも希望が見えれば簡単に感情は反転するものッ! 

 

 

「鬼の中にも誇りと名誉を知る者がいる。ならばそれらとの戦闘も良き経験になるだろうと思うていたが……貴様のような下衆の相手などッ! 我のような過去の亡霊で充分よッ!!」

 

 

 威力は考えない。

 

 とにかく派手に。

 

 

「刮目せよッ! 恒河沙流忍法五百年の歴史にてッ! 最強と呼ばれた初代・赤影の炎の業ッ! その身に焼き付けるがいいッ!!」

 

 

 黄泉戦と魂揺蛍が力を貸してくれるなら、死に戻りは保証されたようなもの。遠慮なく生命の源たるエーテルを激しく燃やして全て霊力に変換していると────足元から、絶対零度を思わせるほど冷たい手が無数に伸びてきて絡み付いてきたッ!! 

 これこそが現世での復活が危険な理由であった。生者の領域と死者の領域の境界線が曖昧になる瞬間を亡者たちは常に待ち望んでいるのだ。心身を鍛えた侍や巫女でさえもその恐怖が脳を、心を蝕む。それを一般人が耐えられるかなど考えるまでもないだろう。

 

 

 もっとも。

 

 無銘彼方は本物の『死』を通過してきた転生者。

 

 

(────えぇい、鬱陶しいッ!! こっちはいまそれどころじゃねーんだよッ!! だいたいなぁ、テメェらみたいな連中に取り憑かれたら子どもたちなんか一発で精神がぶっ壊れるだろうがッ!! そんな目に遭わせないためにこっちは必死なんだよッ!! 俺は大人でッ! 侍でッ! いまこの瞬間はヒーローやり遂げなきゃいけねぇのッ!! わかったら邪魔すんなクソボケどもがぁッ!!!!)

 

 

 彼方、キレる。

 

 これには亡者たちもビックリだった。死者の魂ということで大抵の場合は恐怖か同情を向けられることが多いのに、今回の生者からは剥き出しの怒りと殺意をぶつけられたのだからたまらない。ある意味で無抵抗の相手ばかりを獲物にしてきた亡者たちに鬼神に迫る霊気と殺気の波動など耐えられるワケがなく、彼方を絡め取ろうとしてきた腕が一斉に引っ込んだ。

 

 

 さて。

 

 これで準備は整ったということで、この自称モブキャラが現在進行系でやらかしていることについて少しばかり解説しておこう。いわゆる「説明しよう!」のお時間である。

 

 

 アテルイ戦でも使用した蝕む赤涙の力について、彼方はそのぶっ壊れ性能について正しく理解していない。瀕死になるほど攻撃力が強化される、だけならまだ常識的な範囲のスキルだった。

 しかし彼方がこのスキルに組み込んだルールは“生命を捧げる対価として力を与える”という形に定義されている。体力が減るほど強化と、体力が減り続けるが強化率も上がるでは、似ているようで全くその性質は異なるのだ。

 

 それでも普通に使用するだけならギリ頭がおかしいだけで済むが、最初から命を使い切る前提で発動すれば話は変わる。

 エーテル粒子化が始まってもその気になれば動けることを知ってしまった彼方がそれをするのは、任意にオーバーフローの異常火力を振り回せるということになるからだ。

 

 そこに黄泉戦の加護が加われば────人の身である彼方が組み上げたスキルでさえ、ルール次第でこんな現象が起きるということは、だ。同じ瀕死で強化にしても、神霊たる黄泉戦の加護は文字通りの意味で格が違う。

 

 

 そして、そんな無茶な真似をする転生者を見て黄泉戦が黙っているはずがない。ならばその演出に協力してやろうじゃないかと一般人にも見えるよう、火属性の霊気を滾らせて彼方の背後に顕現したのだ。

 それも普段しているような緊張感の足りないだらしない格好ではなく、最強を名乗る赤影とやらに相応しいよう『炎の武神』を連想させる華やかな姿でだ。ついでに無精髭のイケオジから精悍な若者にイメチェンもバッチリである。

 

 

 まぁ、一番の問題は……結局のところ、対戦相手が鬼神から鬼仙へと弱体化していることなのだが。先ほど説明したように、蒼鬼を倒すのに黄龍の加護は必要ない。仮に必要だとしても彼方には龍玉がある。

 

 

 そんな状態で。

 

 

 

 

「恒河沙流忍法・最終奥義ッ!! 烈火ッ! 百龍波ッ!!」

 

 

 

 

 Q.一時的に格下になった相手に、何処かの黄金聖闘士が使いそうな無数の霊気の火龍を放つスキルを放てばどうなるか? 

 

 A.断末魔ごと飲み込んで燃えカスも残りません。

 

 

 蒼鬼、討伐完了であるッ!! 

 

 同時にラスボスである朧のパワーアップイベントもこれで消滅した。本来ならば真白たちに敗北して助けを求めたところを喰われるのだが、2度と復活することがない彼にはもう関係のない話だろう。

 いくら世界観が死に戻りを認めたとしても、せっかくブチのめしたラスボスの復活を匂わせられたのではプレイヤーも気分良くなれない。ということで、同族喰いの代償として朧とその眷属たちは簡単に復活できないように理由付けがなされている。

 

 その辺りの事情も含めて彼方の完全勝利と言っても過言ではないのだが、当人は多少の混乱もあって蒼鬼に逃げられたと判断した。

 個人が背負うにはヒーローの責任は重すぎた。エンジョイ勢を自称する彼方にはとんでもないストレスであり、戦闘の疲労などもあってエーテル感知能力が鈍っているため倒したことがわからない。

 

 

 だが、蒼鬼が消えたことは事実。

 

 なら、演技を続けて幕引きをしなければならない。

 

 

「……天下泰平の世は未だ遠くにあり、か。だが、未来を生きる者たちの生活が豊かな様子だけでも知れたのだ、ひとまずはこれで良しとしよう。年寄りが出張って余計な世話を焼くのも褒められたモノではないからな。────しからばッ! 御免ッ!!」

 

 

 ボゥッ! と激しく炎が舞い上がり、シャドウレッドも炎の闘神もエーテルの粒子となって消え去ったッ! 被害その他については次話にて説明するとして、ひとまずこの場は一件落着であるッ!! 

 なお、ノリノリで彼方に協力した黄泉戦はこのあと『いくら転生者だからって気軽に死者の国の入り口を反復横跳びさせてんじゃないわよッ!!』と伊邪那美(イザナミ)から顔面にグーパンを叩き込まれることになるッ!!




 なんか長くなっちゃったので説明は次回ッ!
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