タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
たまに「コイツそこまで悪いことしてなくない?」みたいなラスボスもいますが初投稿です。
人間と鬼との関係は持ちつ持たれつだったりそうでなかったり絶妙な距離感で成り立っている。
値段が高いと文句が出ることはあっても家族単位や集落単位での餓死の危機を想像できない現代人には理解できなくても、その時代を生きていた人々にとっては限られた命を守るための口減らしなどは確かに必要な犠牲だったのだ。
中には「子供や孫を苦しませるぐらいなら鬼でも物の怪でも生のまま頭から貪り食ってやるッ! どっからでもかかってこいやァァァァッ!!」と手頃な木材を棍棒のように振りかざして迷宮に突撃する健気なお爺ちゃんお婆ちゃんもいたが、ともかく鬼による犠牲者は人間社会のバランスを保つための必要悪でもあった。
鬼側は鬼側で常世を保つためには人間たちの強い感情が必要となるので手段や過程がどうであろうと種としての数を保ってもらわなくては困ってしまう。
猿天哮が真白に核を渡したアレなどはちょっと例外的な事例だが、自然災害だったり満身悪意の外道の出現だったりを人々の願いに応えて手助けする鬼もいた。中には崇め奉られることで感謝という名の呪縛により済し崩しに神霊や精霊に変じてしまった者もいる。
そんな感じで適度に敵対している鬼たちにとっては、たまに出てくる領土的野心に溢れた鬼は邪魔でしかない。せっかく迷宮で勝ったり負けたりを繰り返して人間と神霊が本気で常世に攻め込んでこないようにしているところを台無しにされるのだから当然だ。
なので被害者側である人間だけでなく様々な立場の鬼からもその手の連中は嫌われる。人から鬼となり常世に移り住んだ者も、鬼から人となり現世に移り住んだ者も、鬼のまま人間社会で生活している者も、全員が協力してどうにか対処を────理想は討伐、駄目なら封印して貰うべく色々と動く。
もちろんバカ正直に手伝いを申し出るような真似はしない。真実を隠しながら利害の一致という形で提案するのが効率的であることを鬼たちは経験として知っている。
◆◇◆◇
「……つまり、その朧という名の鬼を討伐した暁には再戦を受けてもらうということですか。私としても雪辱を果たす機会は望むところではありますが、それとその提案を信用できるかは別の話でしょう?」
「だろうな。だが我らの都合がどうであろうと貴殿らは朧一派による現世侵攻を防がねばならぬ立場。我らが姫様の号令のもと迷宮から姿を消せば、そのまま常世に踏み入らねばなるまい? なんの手掛かりも無いままに、敵地に乗り込むことになる。それとも、適当に加護を持たぬ侍なり巫女なりを捨て駒にでもするか? それを許容した時代も確かにあった、今様の施政者が同じ手段を選ばぬ道理はなかろうよ」
「どうやら人間社会の不都合な部分も良くご存知のようですね」
「敵を知ればなんとやら、だ。それに人間側が我らを信用しなくても、我らは……少なくとも自分は貴殿ら四神の侍を信じるに値する戦士であると確信した。姫様の一騎打ちに応じた貴殿も、その名誉を守らんとした朱雀の侍も、その結末を最後まで見届けた青龍と白虎の侍もな。もっとも、黄龍の巫女殿と鵺の巫女殿とは初対面となるので何も言えることはないのだが」
「んー、天ちゃんが威嚇しなかったから戦うつもりはないんだろうなって思って。妖気の雰囲気も戦闘用の感じじゃなかったし」
「ウキッ」
「この短期間で良くも悪くも対話が可能な鬼と何度も接触しましたから、そちらに敵意が無いのであればこちらも相応の態度で歓迎しますよ」
「これはこれは……ご配慮、感謝致す」
現状、人間側が把握している情報から様々な事情を考慮して文曲の迷宮に踏みこんだ真白たち。メインキャラ揃い踏みで鬼神・涼蘭姫に挑み少しでも情報を得ようとしていたところ、彼女たちをひとりの鬼武者が出迎えたのだった。
いくつか言葉を交わして涼蘭姫の側近がペコリと頭を下げるが、ぶっちゃけ彼の中では想定通りの反応でしかない。鬼と人間の協力が必要な事態になれば、まるでそれを待っていたか狙っていたかと風変わりな巫女が現れることを過去に経験しているからだ。
ゲームではボス戦前に配置されているただの雑魚鬼でも、この世界では今日までを生きてきた歴史がある。現世と常世のバランスを保つために共闘したことも一度や二度ではない。でも戦場でこぼさず酒を飲めるようにと特注の盃を持ち込んだ侍はさすがに一度切りしか見たことがない。
ちなみにその侍、酒を控えるよう進言されても受け入れないばかりか肴が無ければ塩まで舐めようとするのでキレた姉が土属性の術で首から下を埋めた隙にキレた跡取り候補のふたりが家臣を指揮して塩気のある物を片っ端から城下どころか近隣諸国まで持ち出した。事の顛末を使者から聞かされた戦友にして好敵手は「アホかアイツ」と嘆いたとか。さすがにその情けない様子を後世に残すわけもいかないと美談に仕立てたのはナイス判断かもしれない。
そんな愉快な戦国時代についての話はともかく。そうした事情があるなら無銘彼方は実にうってつけの人物に思えるところ。だが、冥界童女が加護を与えた人間を利用するのはあまりにもリスクが高いと炎翁がそれにストップを掛ける。涼蘭姫はもちろん、話を聞いた幽幻童子と泰山も話の分かる実力者なら申し分無いのでは? と聞き返すが炎翁は頑なにそれを良しとしなかった。
別に読者の皆さんから邪神だのメスガキだの暗黒きり◯んだの呼ばれているアレが自分のクソみたいな性癖を人間に押し付けて興奮する疫病神扱いされていることが問題なのではない。いや存在自体が人間視点なら神霊とは思えない自己中なのは大問題なのだがそういう話ではなく、彼女は彼女で座敷童とセットで世界の秩序が崩れてしまわないようにアレコレやっているので下手に干渉すると状況が悪化する可能性がある。
事実として、冥界童女も、座敷童も、彼女たちは人間讃歌を尊ぶ反面────英雄幻想を反吐が出るほど嫌っていた。
人が生きるためには希望が必要で、困難に立ち向かうためには優秀な導き手が、カリスマが必要なのは理解している。それぞれの時代で有能な指導者が国を統治していたからこそ今があるのだから。
だが一握りの英雄に全てを委ねればなにもしなくても都合の良い未来がやってくるからと、人々が努力というモノを忘れてしまっては社会が成り立たない。ひとりの侍が戦うためには何十人という職人や農民の支えが必要なのだから。
と、まぁそれらしい理屈を並べたところで結局のところ好みがそうだからと言えばその通りのこと。
だが少数の英雄に全ての判断を委ねて思考を止めてしまうのが危険なのも間違いではない。
英雄殺しとして用意したとまでは言わないが、いまの時代で言うならば黄龍の巫女である朝比奈真白と四神の侍との間だけで物語が全て完結してしまえばどうなる?
それで仮に真白が誰かと想い合い愛し合う仲に発展したからといって、犠牲になった人々やその遺族が「お前たちは舞台装置として必要だった」と言われて納得するだろうか?
しかも贄に選ばれるのは何故か英雄を持て囃して利用した者たちではない。大抵の場合は何も知らない者たちが巻き込まれて命を落とす。
だから、無銘彼方というモブキャラに朝比奈真白の視野を広げてもらう必要があったんですね! 別に戦闘スタイルを須らくチェストしろとまでは求めていなかったけれど。
……と。さすがにそんな細かいところまで気が付いているワケではないが、過去にも冥界童女が取り憑いている人間を英雄として利用しようとした人間や神霊が碌でもないことになっているのだから、正しく触らぬ神に祟りなしというヤツだ。
そのシワ寄せが風魔と大地の恋模様と弱体化ではあるが、そこは努力で解決できる問題なのだから努力で解決してもらうことにしよう。できる……うん? 可能性がゼロじゃないなら努力する価値はあるんじゃないかな……? 大丈夫だ、これから仲間が増えるから君たちは孤独じゃないぞ! タイトルはあくまでイケメン“ども”だからね!
そんなこんなで彼方を利用するプランは破棄された。何も知らない幽幻童子と泰山としては興味津々だったがそれなら個人的に接触すればいいだけの話。人間側が意地でも黄龍の巫女と四神の侍を英雄に仕立て上げたいというならそれを利用したほうが面倒が少ない。
なので協力の交換条件もそれらしく整える。望むは正々堂々とした勝負を、静流との再戦はもちろん紅蓮、風魔、大地のそれぞれの戦いにも興味があるのは事実。これを拒むのであればまた現世まで出張ってやってもいいがと付け足せば、炎翁の出現による被害を繰り返させないためにも条件を飲むしかないだろう。
冷静に分析すればこれも一般人の安全を盾にした脅迫でしかないのだが、求めるものを一騎打ちにすることで印象操作はバッチリである。交換条件として常世までの道のりをノーリスクローコストで確保できるなら政府側だって文句は言わない。世間様への説明? そんなもん大得意やがなッ! 大本営発表、勝ったなガハハハッ!!
◇◆◇◆
黄龍の巫女チームが文曲の迷宮を踏破したことになり、これ以上の現世での鬼の被害を防ぐために常世へ攻め入ることが決定した裏で。
「ふ〜む。こりゃ難儀な物を持ち込んでくれたな? 職人としては実に腕がなる大業物だが、こいつを錬成し直すとなれば……手間や素材がどうこうよりも、時間が足りんのぉ〜。なんかお偉いさんたちが張り切ってテレビで喋っとる感じ、静流たちは近く常世に乗り込むんじゃろ? いやぁ〜キツいッス」
「チッ。まぁジジイがダメだっていうならそうなんだろうよ。だがあの小僧、必ずなにかやらかすに決まってる。短剣に刻まれた記憶がそう言ってる。人間の世界の平和がどうこうなんて背負うつもりは無いだろうがね。そのときに少しでもマシな武器を持たせてやるのが職人としての役目……なんだがなぁ」
東風先生と西浪女史、練達の職人ふたりがありふれた素材で錬成された短剣ひとつの前で難儀をしていた。
ただの個人が百を超え千を超える戦いの果てに磨き上げ十把一絡げの武器から昇格させた霊刀をほかの武器と同じように扱うことなど職人にできるはずがない。
しかし錬成し直すにしてもこの短剣に刻まれた記憶を読み解けばその難易度がこれまで触れてきた武器とは桁違いなのだから簡単に話は進まない。下手な仕事をして武器を台無しにするようなことがあれば冗談抜きで切腹モノの恥である。
学生の彼方でこれならプロの能力者ならもっとあり得るのでは? と思うかもしれないが、むしろプロフェッショナルだからこそひとつの武器を霊刀に変化するまで使い続けるようなことはしない。税金から給料が発生しているからこそ、彼らは仕事道具である武器を定期的に新しい物に取り替えるように気を付けているからだ。
そもそも学生のように無責任な戦い方が許される立場ではないので、よほどの非常事態でもなければソロで迷宮に入るような真似はしない。給料をもらって戦うのだから簡単に死に戻りするワケにはいかないのでチームワークによる連携を重視する。なのでひとりが延々と連戦を続けるようなシチュエーションにはならない。というかそういう場面を作らないよう立ち回るからプロなのであって。
とにかく。そのへんの事情がなんにせよ、だ。
様々な偶然が重なって彼方が見切りと返しの刃を狙うための要として活躍していた短剣は霊刀へと変化した。しかしそれ故に真白のラストダンジョン攻略には間に合わない。世界は転生者が演じるモブキャラがヒロインの横に立つことを認めなかったのだ。
そもそも彼方本人に英雄願望が無いから関係無いとか、別にストーリー的にスポットライトが当たる部分がどうであろうとプライベートで普通に一緒に出かけてるとか、なんならスタートダッシュの一番印象が強く残るタイミングで手を差し伸べてるのに今更そんな横槍入れたところでwwwと思わなくもないが、最終局面で分断されてしまうことだけは確定である。
もちろんラストダンジョンに立入禁止になったとしても、小説的には彼方が一応主人公なので見せ場は残っている。今回も一般人への被害を減らすため、加護無しという期待されない立場を利用して秘密裏に動くつもりでいた。
具体的には────真白たち黄龍の巫女パーティーがラストダンジョンである北辰の迷宮を攻略している最中に現世で暴れようとするであろう鬼たちの相手を引き受けるつもりでいる。
悲しみを背負ったキャラクターが主人公たちとの交流で人間性の温かさを知る展開は定番ではあるが、そんな理由のために目の前で両親を殺される子どもを放置できるほど彼方は原作展開に価値を感じていない。舌の根も乾かぬうちにこのザマであるが、本人的にはヒーローを演じる必要がないので別腹扱いなのだろう。
世界の理
『ラスボスとの戦いから邪魔者を排除してやったwwやっぱりメインヒロインとメインキャクターしか勝たんわwww』
冥界童女
『お、そうだな。おめおめ〜。じゃあ私も遠慮なく因果を弄り回しながら推し活するね……』