タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
初見プレイじゃどうにもなりませんが初投稿です。
歴史的な試みとして発表された常世への逆侵攻。実際には過去にも何度かやっているのだが鬼と協力したという事実を隠蔽するために資料その他は闇に葬られているので歴史的な試みという建前をゴリ押せばそれが事実となる。
あくまで司法取引のような妥協案であり、形式としては文曲の迷宮を踏破した先で常世への入り口を発見したということになった。当事者たちはこうした上の対応にも慣れたもので文句のひとつも出てこない。なんなら真白は巫女プのためのイメージトレーニングで忙しくてそれどころではないし、紅蓮などは相手が何処ぞの侍のような外道戦術を使ってきたときに備えてスキルの見直しに集中していた。
こうして当たり前のように学生に重要な役割が押し付けられてしまったが、大人は大人で仕事があるので同行することはできない。反朧一派の鬼たちが人間社会で暮らす同族を通じ、複数の迷宮から現世侵略を企てている鬼がいることを知らせたからだ。
ただでさえシャドウレッドの一件で政府は色々と言われていた。大人たちはアレが特撮の世界から出てきたなどと本気で思ってはいないが、それでもフリーの能力者が命懸けで鬼を退けてくれた、ぐらいには思っている。
見た目がどうであろうと中身が何者であろうと、事が済んでから遅れて到着した連中よりはずっと頼もしかっただろう。そんな民衆の意見も多いのだから、面子をこれ以上潰されるワケにはいかない政府としては全力でそれらを阻止する必要があるのだ。
現場の侍や巫女たちにしてみれば政府の面子がどうこうよりも市民の生命と財産を守るという使命のほうが大事なのでモチベーションそのものは悪くない。現世に出てこないよう“迷宮の内部で”戦うのであれば死に戻りも期待できる。
と、大人たちが準備を進めている間に主人公チームはというと。いくら強力な加護を持っていても生身の人間に常世の瘴気は有害であるとして、鵺の提案により6人で黄泉戦から助力を得るために件の神社に足を運んでいた。
この提案を黄泉戦は快諾した。といっても真白たちのことを信用したのではない。転生者である無銘彼方と無銘凪菜、ふたりが語るメインキャラクターとやらがどれほどのものか試してみようという好奇心によるものでしかない。
言葉に出さずとも神霊たちはそれを察するが、だからと言い返すようなことはしない。相手は戦う者たちの命の旅路を守護する闘神であり、生と死というフワッとした概念が神格化した存在。炎や風などのハッキリした事象が神格化した神霊たちが強く出るには相手が悪い。
黄泉戦に限らず日本神話に属する神霊は存在の定義がなんとなくざっくりしているせいで権能のブレ幅が大きい厄介な存在である。下手に喧嘩を売るようなことをすれば自由自在な解釈で一方的なルールを何重にも押し付けてくるので東洋の神霊も西洋の天使もある意味で邪鬼や悪魔よりも警戒しているのだ。
この辺りは“よくわからんモノは全部神様ってことにしたろ”という日本人特有の感覚が原因だったりする。とある疫病を操る悪魔が日本に上陸したときなど「病気の神様? なら拝んでおけば健康になるやろ」といった感じでメッチャ祈りを捧げられることになり「ちょ、え、いや……しょ、しょうがないですね〜! 確かに? ゴミクズのように貧弱な人間如きが生きるためには私のように強大な力を持つ悪魔に縋ることも必要でしょうし? 自ら跪いて祈りを捧げる哀れな者共まで蔑ろにしては品性を疑われますし? だから、そう! これは高貴なる者の義務というものなのですよ!」みたいなノリで神霊として迎えられた。
八百万の神々が住まう国の称号は伊達ではない。たぶん泰山府君だってあの国はヤベェし日本人は頭おかしいヤツしかいねェとか言ってる。そんな国の闘神の気まぐれに振り回されるぐらいなら多少の不満は飲み込んだほうが賢い選択だろう。
と。
こうしてラストダンジョンに乗り込む準備が整えばあとはヒロインとイケメンとのイチャコラが決戦前のお約束。もちろん様々なイベントがスキップされフラグが満身創痍のこの世界にそんなものは存在しない。
スーパーヒロイン真白ちゃんのメモリーには男の子とお出かけしたりプレゼントを贈り合ったりみたいな青春風味のレモンのように甘酸っぱい思い出よりも鬼との戦いで胃液と血液の混ざった酸っぱ生臭い思い出のほうが多いからだ。
なので決戦前夜のイベントも友人たちからの激励と、家族からの「もしものときは逃げ帰ってこい、自分たちはなにがあってもお前の味方だ」みたいな電話連絡で終りとなる。
強いて変化があるとすれば、それは真白以外のメインキャラクターたち。
暮間の巫女としての義務と責任を知りつつも個人ではなく記号のように扱われることを不満に思っていた棗は、ただの人物名として暮間さんと呼ばれたことで実家の両親との会話が少しだけ柔らかくなった。
紅蓮は実家の後継者問題というそれなりに大きな問題を抱えたままであるが、増永の家名を奪い合う行為が小魚のミジンコ争奪戦程度にしか見えなくなったことで精神的に余裕がある。サメが往来する海の先に友人は立っているのだ、そんな下らないことに気を取られている場合ではない。
風魔と大地は「実は朝比奈のことが気になって……」みたいな話をお互いにカミングアウトし、ならば今回の戦いが、朧なる鬼の討伐が成功したら今度はどちらが真白の心を射止めるか正々堂々と勝負しようと実に清々しくも危険なフラグの香り豊かな約束を交わしていた。もちろん彼らが助かるのはネタバレ済みなので心配無用である。告白の成功率については触れないでおくが。
静流は弓使いらしく、特に何事もなく平常心である。家庭にトラブルの種などは別に無く、真白についてもあくまで仲間としての認識であって異性としては意識していない。涼蘭姫に遅れを取った悔しさはあるものの、闘争心と向き合うことを覚えた静流であればそれを恥とは思わず成長に必要なものだと受け入れることができる。
では、それ以外の者たちは?
◇◆◇◆
「まっちゃんセンパイとなっちゃんセンパイはイケメンズと一緒に常世とやらにお出かけで、その間にあーしら加護持ちは学生もマンイチに備えて待機しとけ〜って……ナギー、さっきからなにポチッてるん?」
「ん〜? いや、ちょっと兄貴と……うん。あ〜、ちなみになんスけど、サラはウチの兄貴の強さとかそういうヤツは」
「いや、普通に強いっしょ? かなたんセンパイ。さすがにわかるよ、一緒にパーティー組んで戦えばさ。たぶんだけど、あーしのフロストポルカたちのこと見えてはいないんだけど、その気になればエーテルの流れとか“感じる”ぐらいはできる系なんじゃね? エーテル感知能力マジでスゴ過ぎん?」
「日々の努力の賜物ッスねぇ、それは。まぁ……そうッスよね。サラだからぶっちゃけるッスけど、ウチの兄貴、いまどっかの迷宮に向かってるんスよ」
「…………わざわざ夜に、寮を抜け出して? それあーしも聞いて大丈夫なヤツなん?」
「別に大丈夫ッスよ。サラはそういうのヘラヘラ喋るタイプじゃないッスからね。んで、類稀なるエーテル感知能力を鍛え上げた自慢の兄貴はど〜にも……政府が見逃してるっぽい抜け穴を見つけちゃったんスよねぇ」
「あー、うん……そういう、ヤツ。……ねぇ、いいの?」
「良いも悪いも無いッスよ。ウチらは加護持ちだからって上から指示出てるんスから。それに、迷宮で戦うなら死に戻りがあるからなんとかなるッスよ。たぶん」
嘘である。
彼方から黄泉戦と魂揺蛍から加護を貰えたっぽいという話を聞かされた凪菜はなんとかなると“期待”ではなく“確信”していた。
ついでに、それらの神霊がいるのであれば天照と月読の陰陽結界も機能しているだろうと推測できるので現世で鬼との戦闘が発生してもそこまで恐れる必要は無いと信じている。
嫌な考え方になるが、原作知識と照らし合わせるなら自分たちは一般人よりも安全が保証された状態で鬼と戦えるのだから心にも余裕があるのだ。だからこそ、一般人が犠牲になるであろう原作イベントを潰しに行った兄のことを黙って見送ることができた。
(正確なタイミングなんてわからないし、そもそもこの世界は原作通りになんて進んでないし、状況的にここだろう……ってだけのメタ読み、みたいなモノでしかないけど。ま、仮に違っていたとしても鬼の別働隊を潰せるならそれで助かる命もあるッスからねぇ。問題があるとすれば────)
実際のところ、スキル構築ばかりを優先してきた無銘彼方がどこまで戦えるのか。
シャドウレッドの正体が彼方であることは確認済みだが、そのときとは状況も目的も違う。炎翁や蒼鬼さえ退ければよかった現世侵攻とは違い、鬼の集団を相手に戦うとなれば求められる能力が異なる。少なくとも瀕死で強化を狙う余裕はないはずだ。
妹としては兄を信じたい。だがそんな身内贔屓で急に強くなれるなら誰だって苦労しないだろう。細かくエーテル結晶を砕いてステータスに割り振りながら迷宮の様子を見ていると連絡はあったので、完全にスキル頼みのバクチのような戦いにはならないと思いたいが。
「いや、正直に言えばウチだって兄貴のトコに行きたいッスよ? でも、まさか霊気を扱えない一般の人たちをほっぽってどっか行くのはさすがにッスからね。政府が封じ込め作戦やったるぞ〜って人員動かしてるのは知ってるッスけど、実際に見逃しがあるから兄貴が動いたワケで……取りこぼしが現世まで流れてくる可能性とか考えちゃうと、ねぇ?」
「それならあーしらがフォローすっからって、そのほうがカチコミに行くかなたんセンパイも安心できるってスンポーね。おっけおっけ! そーゆーコトならせいぜいガンバるっきゃないっしょ!」
「そうとでも考えないとやってらんないッスよ。まったく、加護持ちだから〜とか、神霊だ〜精霊だ〜とチヤホヤしてばっかりじゃなくて、建前でも社会を守るって言ってんスから、そうじゃない侍や巫女の────」
「うん? ナギー、どったん?」
「……まぁ、ここで文句ばっかり言ってても仕方ないッスよね。不満爆発させて寝不足になっても困るッスから、グチグチなる前に寝たほうがいいッス!」
自分自身の口から出た不満の声。
それを聞いて凪菜は悟った。
最初の現世侵攻は、鬼の襲撃イベントは兄の活躍……とは限らないだろうが、とにかく大幅にカットされた。誰もが無事とはならなかったが、それでも死者が出るよりはマシな未来を掴めたはずだ。
しかし現在の侍事情や巫女事情、そして神霊と精霊の加護に纏わる事情、それらに対するマイナスイメージが広まることまでは防げていない。人命を失うよりは名声を損ねたほうがマシではある、が。
(ん〜。そりゃ、昨日の今日に始まった研究ってコトはないだろうし、キッカケはあくまでキッカケでしかないんだろうけど……コレ、たぶん、多少の変更はあってもスクールの能力開発部のイベントは普通に始まるッスよね? う〜ん……暴走さえしなけりゃ目的はマトモなんスけど、どうしてか手段と目的が逆転するっていう……やっぱ、期待するより身構えてたほうがイイんスかねぇ〜?)
◇◆◇◆
妹が今後の厄介事について考えているその頃。
「うむ、心地良い。……とはならんなぁ、やっぱり。常世の瘴気の風が漏れ出してる、が……微量過ぎてステ高い侍や巫女じゃあ自前の霊気で掻き消されて感じ取れない、かも? それでも神霊たちから忠告のひとつでもあってよさそうなもんだけど」
迷宮『黄泉比良坂』
死者の国を真面目に統治している伊邪那美ほか根の国で働く神霊たちにしてみれば風評被害も甚だしい逸話がいくつも誕生した迷宮であり、ここを潜り抜けた者は肉体の枷から解き放たれて永遠の命を得ることができるらしいと強欲な人間たちが大勢乗り込んだ過去がある。
実際に黄泉比良坂を踏破した人間たちがどうなったか? とても幸運な者は常世の瘴気に肉体が耐えられずに即死、それなりに幸運な者は肉体が爛れてそのまま死亡、ちょっとだけ幸運な者は鬼に喰い殺されて終り、不運な者は今現在も“人間の肉体”という枷から解き放たれた亡者として常世を彷徨い続けていることだろう。例外は自分自身も鬼となるために行動した場合のみ。
一応、順応できるのであれば常世は暮らしやすい場所でもある。現世のような機械文明とはあまり縁が無いが、田畑を耕し狩猟で肉を得るという牧場物語とモンスターハンターが混ざったような生活をしている鬼は大勢いる。ちょっとハントに失敗するとこちらが食われるというリスクはあるが。
当然ながら彼方の目的は黄泉比良坂の踏破ではない。ここを通って現世で好き放題しようとしている、であろう鬼たちを一匹でも多く駆除すること。そのためにエーテル結晶を様子見しながら取り込んで、主に持久力や俊敏性などのステータスに振り分けている。
蓄えがあるならガンガン成長させれば良いじゃないか、と思うかもしれないが、急激にステータスを変化させたことで立ち回りの感触やスキル発動の感覚が大きくズレては困る。ひとつ、ふたつとレベルを上げる度に動きを確認しなければ戦闘に支障が出るかもしれない。
「……うん、これぐらいか。スキルばっかし鍛えた弊害だな。下手すりゃステータスを上げるほど弱くなる、っつーか戦えなくなる可能性まであるなこりゃ。ま、地道にトレーニングと戦闘を繰り返して慣らしていくしかなかんべ。どれ、夜明けまで一眠りすっか!」
温かいほうじ茶で緊張を解し、そのままテントで毛布に包まって眠りにつく彼方。人知れず人のために死地に赴かんとするその侍を、黒地に白龍の仕立てを着た神霊が愛おしそうに……愛おしそうに? 見守っていた。
健康の神
『受験生に、赤子が生まれた若い夫婦に……はー、やれやれ! これだけ文明や科学が発展したというのに私に頼らなければ生きていけないなんて、どうしてこう人間という生物は貧弱なんでしょうかね! まったく、連中が年がら年中祈りを捧げるせいで忙しいったらありゃしませんよ! まったくもう、仕方のない生き物ですねぇ人間とは!』
学問の神
『ハハッ、悪魔だったヤツがなんか言ってら』