タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 舞台の裏側ですが初投稿です。



大人の貴重な労働シーン。

 大多数の日本人にとって黄龍の巫女チームによる北辰の迷宮攻略は他人事であり、退屈な日常を賑わせてくれるイベントのひとつでしかない。

 人類の天敵であるはずの鬼の力添えという表沙汰にできない方法で設置された転送方陣の周囲にはメディア関係者が集まりテレビはもちろん各種SNSサービスでの生配信まで行われているぐらいには楽観的であった。

 

 だが、それでは困るのだ。このまま常世だけで、迷宮内部だけで物語が完結してしまえば、人々は朝比奈真白というヒロインがどれほど素晴らしい価値のある人間なのかを理解できないだろう。

 そして、選ばれし才能ある若者たちによって平和が守られるという前例をここで確立しておかなければ、これから続く主人公たちによる輝かしい活躍まで軽んじられてしまうかもしれないのだ。

 

 

 そんなことは、世界が認めない。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「状況は多少、改善したっぽいかな。黄龍の巫女、とはいえ学生の少女を死地に送ることしかできない無能でも、せめて帰り道ぐらいは確保してやらねば……無責任、ってヤツなんだろうね〜?」

 

「岩見隊長が無能なら、今回の作戦で指揮官なんて出来る人は誰もいないでしょう。……これで鬼側の侵攻が落ち着いた、なんてことは」

 

「無いだろうね。少なくともオレが鬼ならこの程度で終わらんよ? なにせ防衛ラインは既に4枚も破られちゃったもの。おかげで作戦プランのハ号からト号までを全て破棄しなければならなくなったし、ほかの迷宮で防衛ラインを維持してくれている皆には……ホ〜ントね? 頭が下がっちゃうよね」

 

 

 ゲームではポチッと簡単に現世と常世を往来できたが、この世界ではそんな単純な方法でラスダンに乗り込めたりはしなかった。転移のための方陣を構築してふたつの世界を繋ぐ迷宮を生成する必要があったのだ。

 さすがの涼蘭姫も自分の迷宮を何度も素通りさせるワケにはいかない。それで余計な面倒事が舞い込んできては困るのだ。人間をガチで支配するだの滅ぼして現世を奪うだのと余計なことを考えている鬼は朧だけではないのだから。

 

 で、そんな大規模な儀式を真白たちだけで行えるはずもなく。こうして武功庁と霊験庁の協力を得てどうにか北辰の迷宮へと旅立った。なお、この人工的に作られた迷宮の名付けについて上層部がいらん会議を始めようとしたのでそこそこ地位のある巫女が「これをルート・アルファと呼称します」でゴリ押した。

 

 

 と、ここまではまぁ……多少の紆余曲折というか、歴史の裏側を知る者たちが気苦労に気苦労を重ねて実現させた。路地裏でヒッソリと営業しているおでんの屋台で人に化けた鬼が愚痴るお役人さんを労ったりとか色々あったが、主人公チームがラスダンに突入したことで真白の物語は一区切りへと向かっている。

 

 

 が。しかしねぇ、世界の理としては主人公たちの活躍を印象付ける必要があるのだから……みたいな謎の力でも働いたのか、真白たちが北辰の迷宮にたどり着いたあたりでルート・アルファに常世の鬼たちが襲撃してきたのだ。

 タイミング的にはなにも間違っていはいない。黄龍の巫女と鵺の巫女、そして四神の侍という強敵が居なくなった隙を狙って現世への出入り口を制圧してしまおうと考えるのは正しい判断である。だからこそ人間側も襲撃を想定してルート・アルファの内部に防衛ラインを構築して迎撃の体制を整えていたのだから。

 

 そして────責任者の立場を押し付けられた岩見という名のモブキャラおっさんが話した通り、防衛ラインはすでに4枚ほど破られた。常世の瘴気を纏う鬼たちが現世側の出入り口に接近したことで瘴気が漏れ出し、武功庁と霊験庁から呼んでもいないし頼んでもいないのに勝手に視察に来た戦いを知らない重役たちとそれに付随してきたマスコミ連中が体調を崩してブッ倒れてしまったのだ。警告に従わず立ち入り禁止区域の内側まで乗り込んできた配信者たちもついでに。

 

 

「あー、やっぱり炎上してますね。ま、散々警告したのにコレですから擁護の声もありますけど」

 

「小さい雑誌社とか、登録者数の多い配信者なんかはコッチの言う事も素直に聞き入れてくれたんですけどね」

 

「いいんじゃないの〜? 本社とか、事務所とかにまでわざわざ連絡してもコレなんだから。自業自得だよ、死ぬかもしれないって言ってんのにさ」

 

 

 部下たちの発言に苦笑いする岩見だが、彼も隊長を任されるだけの責任感の持ち主なので安全を蔑ろにする者には良い感情を抱いていない。

 今回の出来事が初めてのモノであったとしても許容できるものではないし、炎翁の一件で被害にあった者が大勢いるのだから尚更のことである。

 

 

「岩見隊長、ルート・アルファ内部の妖気濃度が再び上昇し始めましたが……」

 

「んー、そうねぇ……。わかった、オレが様子をね、うん。見てくるよ。ちぃ〜っと治療待ちが増えてきちゃったし、少しは隊長らしいことしないと給料泥棒扱いされたら困るもん。ここで万が一クビになんてなっちゃったらさ、オレもう50過ぎちゃったんよ? 再就職なんてム〜リだもん」

 

「まぁ……」

 

「侍以外の普通の仕事ができるかって言われれば……」

 

「岩見隊長だもんなぁ……」

 

「おぉっと? いやはや、理解ある部下に恵まれてオジサン涙出そうだわ……。じゃ、長岡ちゃん。しばらくの間、隊長代行よろしくね〜」

 

「はいはい、でも私が引き受けるのは代行までですからね? ちゃんと戻ってきて下さいよ?」

 

「心配しなさんな。オジサンって生き物は引き際を心得ているもんさ。じゃないと明日の筋肉痛でマジ泣きすることになるからねぇ」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ルート・アルファ。

 

 後の作品で似たようなシチュエーションがあるが、そういう意味では原作通りに無機質なデザインの迷宮として生成された。迷宮の主となる鬼や神霊がいないのだから当然ではあるが、だからこそ困ったことに常世の瘴気の通りも良過ぎるのだろう。

 

 それでも臆すこと無く岩見は奥へ奥へと歩いて行く。仮にも指揮官としてここにいる自分が不甲斐無い姿をみせれば、防衛ラインで待機している部下たちの士気に関わるからだ。

 どうということはない、ちょっと様子を見てくるだけだから心配などいらない、そんな飄々とした態度を一切崩すことなくヒラヒラと手を振りながら奥へ進む。

 

 

 そして、しばらく。

 

 

「……あ〜らら、なんだか強そうな鬼さんがいらっしゃるじゃないの。悪いねぇ、こんな飾りっ気のないオモテナシになっちゃって。上からの急なお達しだったからさ、突貫工事になっちゃってどうにもね?」

 

「あら、別に構いませんよ? 人間たちの世界にはこうした簡素な様子を有難がる風習もあるのでしょう? えぇ、私も決して嫌いではありませんわ。だって……そのほうが、流れる血の紅がより美しく映えるでしょう? ウフフ……♪」

 

「な〜るほど。そ〜いうタイプのお嬢さん、ね。アメノちゃん、今回もよろしくお願いしちゃおっかな?」

 

『ん〜、おっけ〜』

 

 

 岩見の呼びかけに返答する神霊を見て鬼が大鎌を身構える……が、霊気の波動が貧弱であること、なにより気怠げなのが返事だけでなく眠そうに両眼を瞑った幼い少女がクッションを抱いてフヨフヨ浮かんでいるというビジュアルは緊張感を削ぐのに充分だった。

 この程度の相手であれば、わざわざ本気を出すまでもないだろう。自分の目的は人間を狩ることではない、現世側に侵攻のための拠点を築く下準備なのだ。充分な強度の結界を張るためにも、ただのザコ処理のために無駄な妖力を使っている場合ではない。

 

 

「さぁて。ひとつ、お手合わせのほどよろしく頼む────よッ!」

 

「えぇ、どうぞお手柔らかに」

 

 

 岩見が投擲したナイフを鬼が大鎌で弾く。

 

 手応え、微弱。様子見の一撃にしても軽い。一応、霊気の波長そのものはかなり攻撃的であるので侮っているというワケでもない。となれば、単純に眼の前の侍が弱いのだろう。神霊から加護を与えられたのであれば多少は楽しませてくれるかと期待していたが、どうやら準備運動にもなりそうにない。

 

 ひとつ、弾く。

 

 ふたつ、弾く。

 

 両手からみっつ、よっつと弾く。

 

 大変結構なことだ、大鎌を大袈裟に振るう鬼の女は無駄な抵抗を続ける人間が最後にどんな表情を見せてくれるのか実に楽しみであった。

 しかしこうして雑魚の相手をしてやっている雰囲気を出しているが、コイツはしっかりと真白たちが出発するのを見送ってから鬼兵や鬼士がルート・アルファに突撃するところを安全な場所で観察してからの戦闘開始である。

 

 とはいえ。

 

 彼女のスタイルは狡いかもしれないが役目を果たすという意味では賢い戦い方、というか真面目な立ち回りとも言える。指示を出す側にしてみればアニメやマンガ、ゲームやラノベの主人公たちのように勝手な判断で勝手な行動をして結果さえ出せばいいだろと後始末を押し付けてくるほうがずっと面倒だろう。

 

 

 そんなこんなで自分の勝利を確信しながら鬼が大鎌でナイフを弾き落としていると。

 

 

「…………は?」

 

 

 手の甲に、一筋の切り傷が刻まれた。

 

 ミスはしていない、岩見が投擲したナイフはひとつ残らず鬼の大鎌により阻まれ皮膚どころか衣装にすら掠りもしていない。

 

 

「よそ見は感心しない、ねぇ!」

 

 

 投擲。

 

 次は大きく余裕を持って避けながら弾き落とす。

 

 

 だが。

 

 

「────ッ?!」

 

 

 今度は足に。

 

 

 投げる。

 

 弾く。

 

 負傷する。

 

 

 投げる。

 

 弾く。

 

 負傷する。

 

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 

 気が付けば気怠げにしていた神霊の両眼が見開かれこちらを見ていた。左目は曇ったガラス細工のように不気味なほど無機質なのに、右目はまるで溶岩でも内側に封じ込めているかのように紅くギラギラとしたモノがそこにある。

 

 

 鬼は考えた。

 

 この不可解な現象を無視して押し切るリスクとリターンについて冷静に判断しなければならない。ここで所詮は人間など、と思考を放棄すれば必ず手痛いしっぺ返しをくらうことになる。

 少なくともこの鬼はそうしたミスを犯した者たちを何人も見てきたからこそ、根拠の無い自信を振りかざして黄龍の巫女チームに喧嘩を売るような真似を自重できたのだから。

 

 目的は、あくまで現世侵攻の足掛かりを作ること。

 

 いまここで撤退しても、有象無象の鬼たちが現世で人間たちの恐怖を喰らい血肉を喰らおうと食欲と破壊衝動に突き動かされて殺到するはず。

 

 

 なら、自分は屈辱をいったん飲み込んで高みの見物をしていれば良いじゃないか。

 

 

「……どうやら、オジ様のことを侮っていたようですね? ここは素直に引き下がるとしましょう。御機嫌よう、オジ様。次にお会いするときは、必ずその首を切り落として差し上げますわ」

 

 

 

 

 世界が主人公の活躍を望んだ故に、瘴気による被害は広範囲に及ぶ。現世の空気で多少は希釈されても、それに耐えられるのは霊気の扱いを心得ている者のみ。基礎さえ学べば素人でも耐えられるが、自分に関係のない興味のないことの訓練に誰が時間を使うのか。

 

 炎翁事件に少しでも触れた人々の判断は早かった。あんな恐ろしい思いをするのは御免だと、家族はもちろん友人知人にも避難を促し瘴気の影響を受けない安全な場所まで逃げている。

 そうでない者は、炎翁事件について他人事だからと油断していた者たちは瘴気に肉体を蝕まれてしまった。炎翁の妖気を浴びた被害者のような精神的な負担ではなく、心肺機能や五感の一時的な麻痺という笑い話では済まされないような肉体的な被害を受けてしまったのだ。

 

 主人公補正、主役級補正を受けたキャラクターでさえ特別な役割を担う神霊の協力が無ければ耐えられないのだ。それを思えば命が助かっただけでも幸運なのだろうが、浄化が終わるまで短くて数時間、長ければ1週間以上は苦しみ続けることになる。それで運が良かったね、なんて言われて納得できるのはドMを極めた上級者でも難しいだろう。

 

 

 これも全ては人々が歴史の流れの中で鬼の恐怖を忘れてしまったからこそ起きた悲劇である。

 

 

 しかし。

 

 視点を変えるのであれば、鬼の恐怖を忘れてしまうほど平和な時代が────少なくとも表向きには続いていたということであり。

 

 

 ならば、物語のメインキャラクターに選ばれることはなくても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という証明でもあり。

 

 

 

 

「ぽ……あぇ……?」

 

 

 

 

 ルート・アルファから離脱しようと身を翻したその鬼は、目に見えぬ刃に刻まれお望み通り鮮やかな紅で無味乾燥な迷宮を彩ることになった。

 

 

「いつもねぇ、不思議に思ってんのよオジサンは。な〜んでコッチの都合もお構い無しに戦いを挑んできたのにさ? ど〜して自分たちは勝手な都合で戦いを中断する権利があるって思い込めるんだろう、ってね。ま、お嬢さんみたいに油断してくれたほうがお仕事も簡単で助かるんだけど」

 

 

 参った困ったとでも言いたげにタバコに火をつけ煙を吐き出せば、ナイフの投擲と同時に“空間に固定していた不可視の刃”が一斉に砕けて地面に散らばった。

 注意深くエーテルの流れを探っていれば簡単に見破ることが可能なトラップなのだが、人間のことを初手から侮るような鬼がそんな手間を掛けるワケがない。

 

 常世側から流れてくる瘴気もカモフラージュに役立ってくれたらしく、油断していた鬼の女は……四天鬼仙のひとり『紫鬼』は呆気なく退場することになった。

 

 

「アメノちゃんも、お疲れさん。今回の任務が終わったら、また嫁さんに頼んでホットケーキを御供えするって約束するよ。断られたら……あ〜、そんときはオジサンの手作りで勘弁してね?」

 

『ん。どっちでも許す。でも、ブルーベリージャムは必ず用意すること』

 

「はいはい、仰せのままに。さぁ〜て? 学生たちの帰り道を守るためにも、引き続き隊長としてのお役目を務めるとしましょっか。ちぃ〜っとぐらいはね……大人としての働きってヤツをやんないと、面目が立たんですからなぁ」

 

 

 原作に登場しないキャラクターでありながら仮にもラスボスの強化フラグをひとつ、こうしてしっかりへし折ったのだから働きとしては拍手喝采の大手柄だろう。

 中年侍・岩見卓郎50歳と少し。神霊『天目一(あめのまひとつ)』の加護により戦闘中でも自由自在に武器を錬成し、それらに不可視の効果や空間固定、ついでに指定したモノだけを切断といった条件付けまで可能な芸達者。彼もまた、歴史に名を残すことは無くても確かに平和を護り続けてきた人間のひとりである。




 つまり、今回はただの辻褄合わせの話……ってコト。
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