タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
それを子供時代に理解していればと嘆きつつも初投稿です。
『もっ!』
瘴気の影響で人間たちがてんやわんやしているそのころ。死者の国の女王・伊邪那美のもとへ魂揺蛍たちが供物を運んできた。
忘れられて久しい己に捧げ物など心当たりはふたりだけであり、込められた祈りから感じるエーテルからそれは兄のほうであると簡単にわかる。
スーパーマーケットか、あるいはコンビニか。買ったときのままの姿でタケノコのおこわ、タケノコの煮物、ぶどうゼリー、そして危険物に分類されるであろうタケノコ型チョコレート菓子にぶどうフレーバー炭酸ジュースも添えられていた。
なるほど、これだけ露骨にメニューが選ばれているのであれば意味があるのだろう。
うむ、まったくわからん!
しかし伊邪那美はこれを捧げた無銘彼方が転生者であることを知っている。きっと異界の日本にいる同名の神霊はタケノコとぶどうが好物なのだろうと納得して美味しくいただくことにした。
人間たちが倒れる様子を見てワタワタしている兄・伊邪那岐と違い、伊邪那美は瘴気の影響を受けた者たちが死に至るほどではないと理解している。加えて、罪人の魂を洗浄する役目を担うことから自業自得の相手に同情するような慈悲は持ち合わせていないので食事を楽しむ余裕があるのだ。
ちゃんと食べる者のことを考えて割り箸とお手拭きも一緒に供物として捧げた気配りをなかなかやるじゃないと褒めつつ、願掛けの内容を聞き入れるためパクパク開始である。決して久々の供物を前にして食欲に屈したワケではない……はず。
表向きの言葉だけでは祈りに込められたエーテルは誤魔化せない。どれだけ金に物を言わせたところで祈る者の人間性がカスなら供物の味もカスである。そんなものに口をつけるくらいなら幼い子どもが真剣に捏ね上げた泥団子でも愛でているほうが心地良い。
では、無銘彼方が捧げてきた食事はどのような祈りが込められていたのか? そこには「知識チートでどうにでもしてやるぜ!」といった自惚れはなく。また「いざというときは助けてください!」といった懇願でもなく。ただ「自分がやれることを全力で突っ張ってやる」といった決意だけがあった。
魂揺蛍が伝えるには「ヤバくなったら尻尾を巻いて逃げるから無事に帰れるようお願いします」的な口上だったらしいが、肉体も魂も精神も全て磨り潰して燃やし尽くしてでも引き下がる必要無しという静かな闘志がまったく隠せていない。
ステータスの低さと男の子としての意地になんか関係あんの? という声が聞こえるほどの不退転がたっぷりと染み込んだ人参をつまみ上げれば、それはまるで夕焼けに照らされた宝石のようにキラキラと輝いている。ほう、いいじゃないか。彼方のグルメ、黄泉比良坂出張編。こういうのでいいんだよ、こういうので。
心配事があるとすれば、また黄泉戦が加減を間違えないかということぐらいか。手助けをするなとは言わないが、ただの死に戻りに留まらず死者の国との
もちろん気持ちは理解できる。戦事の心得がある者としてその責任を果たすため、無辜の民を守るために戦う無銘彼方には正義がある。それを誇りだのなんだのといった美辞麗句で誤魔化さず、ただ己が気に食わないから、自由に生きることに納得したいからという理由で武器を手にする人間性。そんなもの日本神話に属する闘神なら誰だって大好物に決まっている。
そう、伊邪那美の懸念はそれだけのこと。権能が此度の出来事で民間人の死者は出ないとネタバレをかましてきている以上、無銘彼方の戦いは彼が決意をした時点で優しい結末が約束されているのだ。
もちろん気持ちだけ立派でも能力的に押し寄せる鬼の大群を前に生き残ることは不可能だが、背後に控えているフルアーマー厄キタルの加護を持つのであれば諦めない限り必ずそこに希望はあるはずだ。その前提条件に希望があるとは言ってない。
優しい結末が待っているかもしれないとしても、単純に彼方のステータスが低くて弱いという事実は事実なんだからしょうがない。最初は鬼たちも様子見の姿勢ということもあり、高い戦闘スキルにより圧倒していたが……徐々に流れる血が増え始めたことでステータス不足を悟られたのか、状況はどんどん悪化していた。
鬼たちが彼方を素直に仕留めるのではなく嬲り殺しにする方向に戦い方を変えたことにより非常に、ひっじょぉぉぉぉに腹立たしい光景が遠見の鏡に映し出されている。
だが彼方の目的は鬼を駆逐することではなく現世への侵攻を防いで一般人への被害を防ぐこと。あえてスキルの使用を控え、己の弱さすらもエサとして勝利条件を間違えることなく立ち回れるその徹底ぶりには感動すら覚えるというもの。
『も、もぉ〜〜』
抱きしめた魂揺蛍たちが息苦しそうにしていることにも気付かずに戦いを見守る伊邪那美。神霊も精霊も見えない彼方はすっかり忘れていたが、お供え物で感応率が強化されるシステムは適用されているため、その気になれば伊邪那美はいつでも彼方を助けることが可能である。
だがそれはできない。してはならない。もともと神霊の加護とは人の努力では手の届かぬところ、人知の及ばぬ領域での奇跡を願うのであれば、その人物のこれまでを評価して助けようという試みだった。
ならばいまの無銘彼方は本当に奇跡を求めているか? 否、アレはそんなことを期待していない。本来この世界が辿るべき運命に自分勝手な都合で抗おうというのに、この世界を見守る神霊に尻拭いを押し付けるような破廉恥な真似などできるワケがないのだ。
あと単純に、いまの彼方のステータスでは伊邪那美の加護を使いこなせない。たぶん加減を間違えたらその瞬間に彼方の全身がバツンッ! と弾け飛ぶ。
それで死に戻るならまだ良い方で、下手をすれば人間を卒業して違う生き物になる可能性まである。それは……ダメでしょ。死者の国の女王としては完全にアウトとか、もうそういうレベルじゃないし、たぶん、いや確実に冥界童女がブチ切れちゃうし。
興奮、葛藤、この他諸々の感情と、どうか我慢の限界が来る前に決着が訪れるようにと願いながら、どうにか脱出した魂揺蛍の代わりにペットボトルを変形するほどギリギリと握り締める死者の国の女王がそこにいた。
◇◆◇◆
(……ふ〜ん? 常世の鬼ってこういう感じなのね。正直、だいぶ面倒な相手ではあるけれど……スルーされて突破されるよりはマシかな。美味そうな霊気、って話し声は……たぶん、渡しそびれた龍玉のことだろうなぁ。まさに棚から牡丹餅ってヤツだな……!)
このポジティブさがあるからこそ倒れない────のだとしても、数十の鬼を相手にボロボロの状態まで追い込まれているこの状況をラッキー扱いできるのは彼方ぐらいなものだろう。
お得意の瀕死で強化は使えない。鬼を殲滅することなど不可能だと、誰よりも彼方自身が知っている。だからこそ間違えない。自分がどんな未来を求めて戦っているのかを忘れない。無銘彼方は英雄に非ず、求めずを徹底する。
ステータスの不足分をエーテル結晶を砕きながら戦うスタイルも、とても都合の良いことに鬼たちには悪足掻きにしか見えていなかった。
おかげでその必殺の一撃で先に仕掛けた者が倒れても警戒する者はいない。間抜けがひとり殺られたぞ、なら自分が代わりにあの人間を喰ってやると続いてくれる。
正直、血を流し過ぎたことで歩くことすら億劫になりつつあった。これまでの戦闘に比べれば、鍛え上げた防御系のスキルで簡単に防げる程度の攻撃ばかりなのだが、目の前にいる人間は厄介だから避けていこうなどと判断されては困る。左右同時に数匹の鬼が駆け出しただけでも無銘彼方にとっては敗北に等しい。
唯一の救いは、万が一のときは頼れる妹に望みを託せるということだろう。後始末を全て頼もうとは思っていない、せめて手の届く範囲だけでも守ってくれればいい。
優秀な成績と戦績、なによりも神霊の加護を持ち適性も高い。凪菜の言葉なら信頼できると動いてくれる人間はそれなりにいるはずだ。これに関しては少しは発言力も気にするべきだったと彼方も反省している。
理想としては、死に戻りからの戦線復帰を繰り返せれば最高だった。だがそれをするには適度に手抜きをして復活の負担を減らさなければならないし、そうしたところでここに戻ってくるまでの時間で余裕で現世入りされてしまうだろう。
だから、耐える。
とにかく、耐える。
溜め込んだ武器も消耗品もまとめて大放出。このときのためにコツコツ集めていたのだ、エリクサー症候群なんぞ発症している場合ではない。攻撃用アイテムが無くなれば石礫だってブン投げるし武器が壊れれば鬼が落とした物だろうと身体に食い込んだ物だろうと再利用してブン回す。
「ハハッ! オイ見ろよ、とうとう品切れになったみてぇだぞ? ついに石ッコロや折れた棒っきれまで使い始めたぜッ!」
「あらあら、ウフフ……! 悪足掻きもここまでくれば立派に見えるわね。ご褒美に、優しく殺してあげようかしら?」
「待てよ、順番はちゃんと守れって。あの人間、美味そうなエーテルしてんのは全員気付いてんだからよ。横取りは認められねぇな?」
「お、じゃあアレがくたばるまで誰が最初にひと口やるか決めとくか? あんまり時間かけてっと粒子化して消えちまうからな!」
鬼たちの興味は侍としての彼方ではない。人の形をした肉として、ご馳走が消えてしまう前にどうやって味わうか。そして現世に行ったら好きなだけ人間たちの精神と肉体を食い荒らそうという先の楽しみだけ。
だが。
「倒れるか? 倒れるか〜? 倒れ……ない! 踏ん張るねぇ〜人間! いやぁ、テメェひとりで良く頑張るじゃないの。無駄な努力でもそこまでくればご立派、ご立派! 特別に褒めてや────」
無銘彼方は転生者である。
前世の記憶は概ね持ち越しているが、その中に
思い出せるふたりの姿はまだまだ若く、自分も妹も成人して社会に出て自分で稼げるようになったということで、これからはのんびり旅行でも楽しもうかと話していたことをちゃんと覚えている。
きっと、いまも前世の日本で両親は日々を過ごしているのだろう。ふたりの子どもを失ったその世界で。
ここで鬼どもを素通りさせれば同じ境遇の人間が増える。
無銘彼方の精神はそれを認めない。
それでも英雄譚に犠牲が必要だと言うのなら、英雄とは対極にある己がその尽くを否定してやる。
一歩、前に。
「あ……う……ッ?!」
「こ、コイツ……」
一歩、前に。
「ちょ、ちょっと! 誰か行きなさいよッ!」
「な、なんだよ! テメェが行けばいいだろッ!」
一歩、前に。
「なん、だよ……コレ……コイツは……」
ゆらり、ゆらりと。
微かにエーテル粒子化が始まって、それでも。
一歩、前に。
「「「「ひ、ひぃッ?!」」」」」
しかし悲しいかな、無銘彼方は自分自身で英雄たるを否定した。ならばこのタイミングで急にパワーアップするようなイベントなど起こるはずもない。誰かに押し付けられたのではない、本人がモブキャラとしての在り方を望んだのだから。
両眼の光はまだ失われていない。
しかし意志の力だけではもう肉体は動かない。
最後の抵抗として握り締めていた折れた槍がカランコロンと地面に落ちて、それを追いかけるように彼方の身体も力尽きて倒れ伏す────。
『因果反転。運命は流転する』
────ことは無く。
「巫女が居らずとも民草のために。相変わらず見事な意気地であったぞ少年。絢爛なるハナマルをあげよう」
「遅刻しちゃったお詫びに後のことはアタシたちが任されてあげるから、ボウヤはゆっくりとお休みなさいな」