タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
ますますイケメンの立場がアレですが初投稿です。
ラストダンジョン・北辰の迷宮。
日本の城をイメージしつつ、リアリティに拘ってプレイヤーに不便を押し付けないように戦いやすく、その上で不用意に踏み出した者を容赦なく潰す親切設計はこの世界でも健在である。
いや、城主でありラスボスでもある朧が侵入者たちの無様な死に様を楽しむためステキな改築が繰り返されているため原作よりも難易度はパワーアップしているかもしれない。少なくとも原作スタッフはプレイヤーがクリアできるようデザインしていたのだから。
当然、死にゲーのセオリーなんてものを知らない黄龍の巫女チームは警戒しながら進むものの全ての罠を回避することはできなかった。その結果がひとりと一匹でラストダンジョンを全力疾走する我らがスーパーヒロイン真白ちゃんである。
これ幸いと巫女装束から戦装束にメイクアップした黄龍の巫女が、小型化した精霊・猿天哮を頭に乗せて道中の鬼たちをガン無視して朧が待ち構えているであろう場所を目指してひたすら走っていた。
なんか話しかけてきた鬼もなんか攻撃してきた鬼も全部無視である。どっかのモブキャラのように回避スキルや見切りスキルが充実しているワケではないが、高いエーテル感知能力とエーテル操作能力を駆使すれば鬼の攻撃など容易く捌ける。
じゃあ罠だって感知しろよって? アレはそういうのじゃないから……。隠れて奇襲を狙っていた鬼の姿なんかはお見通しだが、その程度なら一緒に乗り込んできた全員が可能だし……。
一応、ルート・アルファまで撤退して仕切り直すという手もあると言えばある。魂揺蛍の協力により常世でも問題なくタブレット端末は使えるので、示し合わせて離脱すれば合流するだけならそこまで難しくもない。
その上で朝比奈真白は考えた。どうせ離脱せなアカンなら、いっぺん今回の騒動の元凶である朧とかいう鬼のツラをぶん殴ったろ────じゃなくて、確認するぐらいのことをしてもいいだろう……と。タダでは逃げん、情報と引き換えに死に戻るぐらいはしないと割に合わんから踏ん張るゾイ!
敵の本拠地で、敵の大将のところへ単身乗り込む。それで得られる情報など限られているハイリスクローリターンな選択。普通の侍や巫女であれば“そんなこと”はしないだろう。だが真白の知る侍であれば“その程度”のことはやる。ならば迷う理由が何処にある?
それに、考えようではそこまで悪い選択ではないと真白は思っている。なぜなら朧のほうが強ければどうせ負けて死に戻るのだから。そして自分のほうが強ければそのまま倒せば良いだけなのだから挑むだけお得なのだ。
それなら尚更のこと合流を優先しても良さそうなのに、というのは現場を知らない者が終わってから口出しするときのセリフだろう。真白の後ろにはここまで無視してきた鬼が群れを成して追い掛けてきているし、分断された仲間たちもそれぞれの戦いがある。たぶん脱出用のコール以外に反応している暇なんて無い。
つまり、前に進む以外の選択は不要ッ!
どうせ逃げられないなら攻め得なのだッ!!
もちろん最奥にたどり着くまでにもそこらかしこに罠はあるのだが、現時点で状況はもう充分なほど悪いので開き直るのも簡単である。ひと粒ふた粒の泥ハネを気にしていたのが車からバシャーされた瞬間にもうどうにでもな〜れ状態になるアレに近い。
だからといって素直に罠に引っかかるようではスーパーヒロインとして恥ずかしいと言わざるを得ない。ゲームではシステムの壁に阻まれて不可能であったがここは異世界、鍛え抜かれた力と力と、あと力とド根性で物理的に乗り越え踏み越えズンズン進んでこそヒロインなのだ。
乙女ゲーのヒロインであること、そして黄龍の巫女という肩書きから読者の皆さんも“朝比奈真白といえばマル・デ・ミコ”なイメージばかりに注目しているかもしれないが、実はこのヒロイン大太刀と斧の二刀流をメインウェポンにできる系女子だったりする。ラストダンジョンでもその素晴らしい女子力を握り締め天井から落ちてくるギロチンを殴り返して突き進む姿はとても女子力している。
やはり女子力。女子力こそが全てを解決する。とにかく助走をつけることに定評のある平和主義のあの御方も「女子力か……ほな暴力とちゃうか……」と民明書房のインタビューで語っていたらしいので間違いない。
そんな死にゲー流陸上十種競技ヒロインを頭上からお猿さんがサポートする。何処からともなく薙刀と鎧を実体化できるだけあって小規模ながらインベントリのような拡張空間を使えるらしく、追い掛けてくる鬼たちへポイポイと火炎瓶を投げる様はまるでレトロ時代のミニゲームさながら。
案外、こういう単純な武器が効果的だったりするのも高難易度ゲームのお約束というもの。着火こそ霊気を使う必要があるが、その中身は普通に可燃性の液体なので妖気の影響を受けずに燃えるものはしっかり燃える。妖気のガードで衣類を包むのではなく、妖気のガードで衣類そのものを強化しなければラスダンの鬼でも防げない。
どうせ歩いて帰れないなら城ごと燃やしてしまっても構わんのだろう? というセリフでも聞こえてきそうなほど豪快に攻略を進める真白の前に、露骨に怪しい複数の階段が並んだ部屋が現れた。
悪意のあるエーテルの残滓からおそらく正解はひとつだけで残りは碌でもないトラップに繋がっているのだろう。だが敵の本拠地で瘴気が濃いこともあり正しい道を嗅ぎ分けるのには時間がかかる。
ここまで大勢の鬼をスルーしてきたので、ここで追いつかれてしまえば朧なる鬼のところまでたどり着けるかも怪しいが────。
「ここは右から3番目が正解なんですねぇ! なぜならほかのは歪みが酷くて品性の欠片もない、美しくないって配置だからです」
「…………ッ!」
即断即決。
これで間違いなら、そのときはそのときだ。少なくとも学校の行事ですら美術館のような場所とは無縁だった自分よりは、たとえその声が気の所為だったとしても
「ウ〜……ワキャ!」
真白の進む先、鬼たちが追跡してくる後ろ、それぞれを見比べて1秒か2秒ほど。悩んだ猿天哮がハズレの階段を塞ぐように火炎瓶を投げて炎の壁を作る。
ここまで散々ブン投げて邪魔をしてやったのだ、これを見て燃えている階段の先に逃げたと思い込んでくれれば儲け物、ぐらいの気持ちでとりあえずやってみた。
動物の
いうてそういう所を幽幻童子に気に入られて廉貞の迷宮にナワバリを構えるようになったので常世には長いこと立ち入っていなかったのだが、精霊として巫女の御守りを引き受けたとしても鬼としての存在を捨て去ったワケではない。猿天哮も弱肉強食の世界の生き残り、久方振りの修羅道でも気後れなどありはしない。
なので。
「ん〜。天ちゃん、ゴメンだけど……お願いしてもいい?」
「ウッキッ!」
詳細を聞く必要など無い。
朝比奈真白は己が認めた戦士(巫女)であり、鬼猿たちが頭を垂れるに相応しいボスである。
それがこのナワバリを支配するボスとの生存競争に挑もうというのなら、それを手助けするのは群れの一員として当然のこと。
鬼畜どもの世界にも社会があり秩序がある。群れの長同士による勝負は神聖なるモノであるし、そのお膳立てを任されるのは名誉であるし、なればこそ────自然の掟を穢すような真似をする恥知らずどもは一匹たりとも残さず屠らねばならぬのである。
ひょいッ! と尻尾のバネで真白の頭から跳躍し、そのまま適当なサイズまで全身を膨らませた猿天哮。たかが猿如きになにを怯むかと追跡してくる鬼たちの勢いは衰えないが、それでも空中にいながら猿天哮は先頭を走っていた鬼の頭を器用に掴み……そのまま床に押し潰すようにして着地した。
これには油断していた鬼たちもつい急ブレーキで動きを止めてしまったが、殺る気マンマンの野性に満ちた野生の戦士を前にして立ち止まることがどれほど危険なことか。ミシミシと音が聞こえそうなほど握り締めた拳、巨大建築物の柱を思わせるほどに筋肉が膨らんだ腕。そこから繰り出される裏拳の一撃は鬼を壁に叩きつける、よりも先に上半身を肉片と血霞に変えてしまった。
鎧も寝間着も区別などいらぬとばかりの暴力。
黄龍の巫女を捕らえてその生き肝を誰が先に喰おうかと意気込んでいた鬼たちは、動きだけでなく思考までも急ブレーキ状態となってしまう。
追跡者から烏合の衆へと成り下がった鬼どもにソレが振り向けば、その貌は筆舌に尽くしがたい満面の
「射阿ァァァァ羅ァァァァァァァァッ!!!!!」
常世に在りては襲い来るモノさえ糧として群れを守護り続けて。
迷宮に在りては英雄と讃えられし人間の猛者どもと戦い続けた。
ある意味では鬼の楽園とも言える常世しか知らぬ者どもが、いったいどこまでこの百戦錬磨を相手に生き残れるものか。ともかく戦闘開始を告げる雄叫びが城中を越えて常世に広く響き渡った。
そして胸いっぱい腹いっぱい瘴気を取り込み理性を保ったまま全ステータスの向上と自動再生付与と負傷の都度凶暴化というわりと反則なスキルを行使して、とても機嫌良く薙刀を抱えた猿天哮が砲弾の如く鬼の集団めがけて跳ね跳んだッ!
◇◆◇◆
頼りがいのある雄叫びに背中を押され、溢れ出る女子力で邪魔な罠を踏み越えて邪魔な鬼も踏んづけてエーテル感知能力の導くままにラスダンを引っ飛ぶ真白がようやく『そこ』にたどり着く。
ぶっちゃけ特別な因縁があるワケではないので、決戦を前にしてなにかこう……思い出を回想するようなアレとかコレはひとつもない。ただ、厄介事を現世に持ち込んでくる迷惑な鬼をぶった斬るという目的のためにここまでやってきたというだけの話だ。
世間的にやべぇ鬼がいるせいで民間人まで危険だぞ! でも黄龍の巫女と四神の侍がきっとなんとかしてくれるぞ! 的な流れになっている、というか政府が国民たちの間で無用の混乱が広がらないようコントロールしているから協力しているだけのこと。
真白にしてみれば鬼の存在は厄介ではあるものの、たまたま黄龍の巫女としての加護が現れたからという理由で色々と口出ししてきた人間のほうがある意味ずっと迷惑な存在である。ついこの間まで一般人として生活していた人間に期待し過ぎだろ、としか思えない。
「でも、まぁ……ね。キッカケはともかく、家族や友だちが危険な目に遭うかもしれないって知っちゃって。それで自分にはそうした危険からみんなを守る力があるって知っちゃったもんね。自分が誰かに守ってもらえるのは当然だけど、誰かを自分が守るのはイヤだっていうのは……ちょっと、ズルいんじゃないかな?」
その気持ちは嘘ではない。
嘘ではないのだが……当たり前の日常から外れたことにちょっとだけワクワクしたのも事実である。学園の上層部や政府の人員を含む一部の大人たちからの特別扱いが心底ウザかったのはそれはそれとして、巫女としての朝比奈真白が始まってからの出会いは面白いものがたくさんあった。
なので。トータルで考えればなんだかんだで現状を楽しんでいるのだから、黄龍の巫女としての役目を果たすぐらいはしないとダメだろう。せめて自分たちが常世に乗り込むための手段を確保してくれた人たちの苦労と期待に応えるぐらいのことはしなければならない。少なくとも朝比奈真白の精神は臆病風に吹かれて逃げるような真似を赦さない。
どう足掻いたところで負けるときは負けるとしても、最低限せめて気持ちぐらいは必殺必倒の心構えで挑み胴体が消し飛んで頭だけになっても眼光で射殺すぐらいのつもりで立ち向かわねばヒロインは名乗れないだろう。もちろん女子力の申し子である真白はそれぐらい朝メシ前なので心配はご無用であるッ!
と、いうことで。
いかにもボス部屋って感じの結界に侵入し。
「……ほぅ。黄龍の巫女か。よくぞこの朧までたどり着けたものだな。だが、人間の分際でこの朧を相手に頭が高いのは好ましくないと────うぉッ?!?!」
ましろ の がむしゃら こうげき !
ハンマー !
前口上に付き合う理由?
ここに無ければ無いですね。
薄く笑いながら余裕綽々といった態度でゆっくりと振り向くラスボスに対して初手から予備の大金槌を豪快にブン投げるヒロイン。
仮に向こうにどんな事情があったとしても、人間にとっては侵略者であるのだから討伐対象というポジションは不動のもの。
真白はここに朝比奈真白という私人として立っているのではない。黄龍の巫女として人に仇なす鬼を切るという公人として立っているのだから殴る以外の選択肢などあり得ないのだッ!
そもそもここまでの道中もそうだし、以前街中に現れた蒼鬼のこともあって個人的にも朧の評価は余裕でマイナス方向に振り切っている。これまで戦った強敵たちと比べてエーテルの波動がドロドロと濁っていることから精神面でもロクデナシなのは確定だろう。
まぁ、つまり。朝比奈真白にとって朧は突然のように湧いて出てきたクソ迷惑で厄介な存在でしかなく、ドラマチックな関わりも皆無であるため正々堂々と戦う理由なんて微塵も持ち合わせていない。ならば隙を見せたところに全力で不意打ちをかますのは当然の流れである。
悪趣味な玉座らしきモノから転げ落ちるように大金槌を回避する朧。好みの問題や性格を無視するなら美形でもあるラスボスのクセに情けない形で戦闘が始まったが、そんなギャグ漫画のような雰囲気の中でも真白のエーテル感知能力は朧の実力を正確に見抜いていた。
比喩表現では無い、桁違いの相手。いまの真白の霊力を100とするならば、朧の内包する妖力は3500から4000といったところ。これは原作にも存在した設定の影響だろう。同族喰いにより取り込んだ鬼たちが、復活することなく朧の体内に囚われ続けているのだ。
これをゲーム的に解釈するのなら、プレイヤーは自分と同じステータスの相手を最低でも30体ほど連続で倒す必要があるようなもの。普通のアクションゲームでもそれなりに厳しい戦いになる展開だが、この鬼切姫の世界ではもっと理不尽になる。
高難易度という謳い文句や縛りプレイ実況などの影響で勘違いしている人もいるかもしれないが、この手の死にゲーはちゃんとステータスや装備を鍛えていればプレイヤー側の火力もどんどんインフレしていく。この世界線の真白は何故か攻撃力に特化しているので、基準も当然……からの30人ぶんの戦闘力。あるいは残機が朧にはある。
持久戦は不利。ならば初手から大太刀・薄緑で全力攻勢を仕掛けたいところではあるが、相手の手札がわからない以上考え無しで本気を出すのも危険。
予備の大金槌の回収はひとまず諦めるとして。まずはダメージを与えることができるのか確かめるためにも、最初は大斧の両手持ちから。武器破壊という最悪のスキルを警戒する意味でも、ここは多少の出し惜しみが求められるだろう。
一応、朧側は四天鬼仙を取り込むチャンスを現在進行形で潰されている。だがしかし、真白もまた黄龍との会話イベントを潰されている。
世界の理が想定したシナリオという絶対的な加護から外れてしまったヒロインに果たして勝ち目が残されているのか。ともかく鬼切姫・真白編のラストバトル、開始であるッ!!
ある意味ではプレイヤーの残機は無限なので、鬼側に言わせればお前らのほうが理不尽だろとか思っているかもしれない。
ノーダメで倒したいとか言い出して何度もリセットを繰り返されてるときなんか気が狂いそうになったりしてるかも?