タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
田植えの準備で遅れながらも初投稿です。
自分は偉いと信じている者が煽り耐性など備えているはずもなく、先手を打たれた朧は憎悪をまったく隠すことなく真白を睨みつける。
転生者が我が道を行くのを因果をもて遊ぶ神霊が存分にその背中を押し続けた結果、真白側……というより人類側は朧の目的をあまり正確に理解していない。
原作もそうなのだが、現世侵攻は彼にとって“目的”ではなく“手段”である。黄龍の巫女という極上の贄を喰らい鬼神を超える唯一無二の存在になるために、今代の真白を常世に誘き寄せることが狙いであった。
目的は真白を喰らい力を高めるため。特殊な霊力と加護を有する人間のエーテルを取り込んだ鬼は特別な存在に進化できるという伝承が常世にはあるのだ。
もちろんそんな事実は無い。人類皆平等、老若男女の区別なく事切れればそれまでのこと。ただ侍や巫女であれば一応復活はできるというだけで。そうでなければ死に戻りというシステムが機能不全となってしまうだろう。
そもそも普通の手段では人間が常世で活動するのは不可能なのにどうしてそんな伝承が生まれたのか謎であるし、なんなら朧が持つスキルはあくまで『同族喰い』なので鬼としてのエーテルを持たない者にはまったく意味がない。
とはいえ、この手の勘違いは昔からよくある話だったりする。歴史の教科書を新聞程度の感覚で眺めるレベルで長生きしている神霊や鬼神にしてみれば「ま〜た始まった。まったく、若い連中は夢ばっかり見て……」と呆れるぐらいには定期的に現れる。
このへんのアレは別世界の日本でも知名度ナンバーワンの破戒僧でお馴染み三蔵法師も似たような理由で何度か妖怪に襲われているので一種の様式美みたいなものなのかもしれない。飲酒喫煙は当たり前、読経の代わりにリボルバーをブッ放すような坊主の生き肝にご利益を感じられるかどうかは別として。それはそれで寿命が延長とかされそうではあるが。
ともかく。
朧にしてみれば進化するための極上のエサが自ら食卓にやってきた、程度の認識でしかない。先手を取られて危うく大金槌が直撃するところだった、などという記憶はもう存在しないのだ。
ナルシストが自分にとって不都合な情報を遮断する能力に長けているのは人間も鬼も変わらないのである。虚仮にされた憎しみも一瞬でリセットされているとしたらそのメンタルの切り替え速度は是非とも見習いたい。
で、本来ならここで問答のひとつふたつを含む会話イベントが始まるはずだった。しかしこの場には愛を育んだ頼れる男の子なんて幻想は存在しない。
ついでにイケメンたちの攻略にしくじったときの救済措置として用意された友人もはぐれたまま。なので原作のストーリーモードには無かった真白と朧の一騎打ちがこれから行われるということだ。
そんな状況で。客観的に見て美形と評価できるぐらい顔は整っているものの、すました顔でニヤニヤしている様子は……それはもうシンプルにムカつくと真白の精神を逆撫でする。
当然、それぐらいのことで怒り任せに突撃するようなヒロインではラスボスを気持ち良く殴れない。
殴りたいあの笑顔に惑わされることなくエーテルの動きに集中するため、目の前にあるモノは人間っぽい形をした鬼の肉の塊だと自分に言い聞かせて心を落ち着かせた。
(踏み込むタイミングは……朧が動いてからでいい。こっちをナメているなら最初から本気で攻撃してくる可能性は低いよね。だって、そんなことしたら私のことを敵として認めたってコトになっちゃうんだから)
前後左右、必要ならば武器を手離し身軽になって天井すらも足場とする。敵の本拠地で長期戦なんてやってられるものか、スタミナに余裕があるうちに最大火力を叩き込まねば勝機は薄いと姿勢を低く全身のバネに力を溜めるように大斧を構えた!
(愚か。否、哀れ。人間如き脆弱な存在でありながらこの朧に戦いを挑むとは。だが、黄龍の霊力を献上しにわざわざ参じたと思えば可愛気もあるというもの。さぁ……存分にその力をこの朧に見せ、捧げるがいいッ! 鬼神を超越した唯一無二の存在、その糧となる栄誉を与えてやろうッ!)
何処までもオレ様なラスボス、だがそれだけの実力者なのも事実。万物と共鳴する力を持つ黄龍のエーテル、その加護を与えられた朝比奈真白だからこそ倒せる相手。
同じ万能型でも無銘彼方ではその由来が異なるのでダメージを与えることは不可能……とも限らないが、大きな制限を受けることになる。
さらに厄介なことに、ストーリーモードではここで一度黄龍の加護を奪われるような演出が入るのだ。そこからパートナーとの絆の力で色々あって黄龍の加護を奪い返しここから反撃のターン! という流れになるのだが、それはつまり朧には黄龍の霊力を奪うための手札があるということだ。
地道な努力など以ての外、弱者から奪うことだけを続けてきた鬼だからこそ手にしたスキル。冷静に考えれば野生の世界は弱肉強食が絶対的なルールなのでそのスタイルについて善悪を論じるのは安全しか知らない者の戯言であるし、なにより一芸に全てを託して磨き上げ生き残ってきたのだからそれはそれで立派なものだろう。
自分なら神霊の力だろうと奪えるッ! という思い込みを続けているうちに本当にスキルとして形にした鬼。人間にとって迷惑な存在なのはそれはそうだが、自分の力を信じて成りたい自分に手が届いたという部分だけは評価しても良いのかもしれない。
プライドの塊のようで実は努力家かもしれない朧がクイッと指を動かすと、影からひとつ、ふたつとヒトガタが立ち上がる。
原作にもあった、いわゆる“まずは小手調べ”ということで真白の予想通りワンパンで倒せる程度のエーテルと妖気しか感じない雑魚でしかない。
それを知りながらも意図的に時間をかけて戦うことで次に向けての下準備とするのがスーパーヒロインの立ち回り。彼女の目的は朧を滅することであって、心が震えるような戦いとかそういうモノを求めているのではないのだ。
慎重に、機会を伺う。
真白は“次”を考えない。ここで敗北しても現世に死に戻ることは可能であり、結果的にそうなってしまったのであれば何度でも自分を鍛え直して殴り込むつもりだが、そういう問題ではないのだ。
覚悟が鈍れば太刀筋も鈍る、そしてエーテルの強さとは心の強さ。挑む直前までは負けても次があるんだから当たって砕けろの精神で問題ないが、いざ戦闘が始まったからには全身をブチ当てて自分もろともテメェも砕けろの精神が必要なのだ。
ひとつ。
ふたつ。
苦戦する演技に気を良くした朧がヒトガタを追加する。
みっつ。
よっつ。
慎重に、しかし攻め時を見逃してはならない。
ステータスとしての持久力はちゃんと鍛えてあるが、それと活動限界はまた別の問題であった。
ボス部屋に乗り込む前に鬼猿たちから献上された桃の実を食べてエーテルを補充したものの、ここまで延々と走り続けてきた影響は決して無視できないからだ。
それは死にゲー世界だからこその落とし穴。この世界では、特に迷宮での戦いでは状況が厳しくなったら簡単に撤退できてしまうため、個人はもちろん集団での継戦能力についてもあまり重要視されていない。
何処かの兄妹のように限られた時間でDLCエリアをガンガン回してスキルとか鍛えなアカンとかそういう発想に至らない限り、やるだけやってダメなら終わりと誰もが考える。休息は周囲の安全を確保してから全員で、が当たり前。鬼たちから身を隠しつつ短時間で身体を休める方法など誰も教えてはくれないのだ。
知らないのなら、とにかく考えるしかない。
大斧を振り回しながら頭も全力で回転させ続ける。
油断を誘うためにギリギリまで苦戦しているように見せる、フルパワーの一撃を叩き込むための霊力も残す。両方しなくてはならないのがスーパーヒロインの辛いところだが、初動でイケメンたちは頼りになりそうにないと判断したときから朝比奈真白は覚悟ができている。
勝負は、一瞬。
ドラマチックな、火花が舞い散る剣戟の応酬など必要ない。誰かが見ているワケでもない、ただ人と鬼とが互いの目的のために相手の全てを否定するための空間なのだから。
(────ッ! いまッ!!)
狙うはヒトガタを召喚する瞬間。
向こうがこちらを侮ってくれたおかげで戦いながらエーテルの流れを観察する余裕はあった。
歪んだ妖気が完全に実体化するまで動けない、ような気がするのでそこを全力でブッ叩くッ!!
真白の誤算があるとすれば、それは朧の戦闘経験値を甘く見積もっていたこと。あるいは、エーテルの流れを読む能力に長けているが故の思い込みだろう。
確かに朧は長い時を常世に引きこもっていたし、常人では常世の瘴気に耐えられないので北辰の迷宮まで攻め込まれた経験も無い。
だがそれは朧が人間と、神霊の加護を持つ侍や巫女と戦ったことがあるかどうかは別の話である。そうでなければ自分のスキルで神霊の霊気を取り込めることを知る機会が無い。
(さぁ、黄龍の力を引き出すが良い! かつてこの朧を前にして頭を垂れることなく挑んできた身の程知らずどものように、お前も
朧の誤算があるとすれば、それは真白の戦闘スタイルを朝比奈真白という個人ではなく巫女というカテゴリーで判断してしまったこと。初手から霊気による法術、いわゆる魔法系スキルではなくバカでっけぇハンマーを投擲した時点でヒントはあったというのに。
さらに運の悪いことに、この世界線の朝比奈真白は黄龍の存在を全く知らない。会話イベントはエンジョイ勢の転生者により無慈悲にも潰されてしまっている。黄龍の加護は使えるものの、普通の侍や巫女のように神霊と感応しながら戦う手段を知らないという致命的な弱点がある。
そして黄龍と感応するキッカケを失った代わりに、その弱点を補うだけの戦闘経験値を蓄えてラスボスの前に立っているのだ。
(狙うのはエーテルの繋ぎ目……ッ! あの朧っていう鬼と、
真白には
朧の内側には大量の別の鬼がいる。だがそれは共存ではなく一方的な支配によるもの。実力で劣る自分が朧を討伐するためには、それらの力も利用しなければならないと理解している。
「うるぁぁぁぁッ!!」
「────────は?」
魔法スキルを使ってくるものと信じて魔法カウンターを決め打ちで用意していたということは、物理スキルに対しては全くの無防備であるということ。最大効率で神霊の力を奪うつもりでいた朧に対して、最大効率で真白の女子力が叩き付けられてエーテルの繋がりが断ち切られたッ!
だが。
狙い通りに事が運べたからといって、それが解決に結び付くとは限らない。
「はぎ、ギャ、がぁ……ぼ、ごぉ……ッ! き、きさ、きさまラァ……ッ!? この、お、ぼろに……ごのおぼろろろににににさがらざがら逆らうつもりぎぎぎぎ────ッ?!?!」
「あ、やっば」
朧の内側に囚われていた鬼たちは復讐の機会をずっと待ち望んでいた。それだけが彼らに残されていた最後の感情だった。そこに理性など一欠片も混じることなく、ただただ純粋な破壊衝動に満ちたエーテルにより朧の肉体が沸騰したかのようにボコボコに膨れ上がった!
それはヒトガタだけではなく、様々な動物のようでもあり────ミミズかヘビか、はたまた龍の頭にも見えるナニカの突進が真白に襲い掛かるッ!!
「────ッ! 鉄の体ッ!」
咄嗟に身体強化の魔法スキルで防御を試みる……が、全身を鉄塊の如く強化したところで、防御力や重量を数倍に増やしたところで、朧が支配していた鬼たちのエーテルと妖力は真白の十倍以上もある。
スキルにより強化してもなお力負けしているとなれば、大斧のガードもろとも壁に叩きつけられてしまうしかない。暴走した朧の肉体による破壊に巻き込まれることなく外へ弾き出されたおかげで、瓦礫に埋もれるようなことにはならなかったのは不幸中の幸いだろう。
(────。そら、あおいなぁ。常世の空も、人間の世界とかわらないんだなぁ)
衝撃により脳が揺さぶられた影響か、戦闘中でありながらぼんやりとそんなことを考えてしまう真白。
「……よしッ! やっちゃったものはしょうがない、どうせほかに手段は無かったんだし、ここから本番ってコトでもうひと踏ん張りやっちゃいましょうッ!!」
再度、突撃してくる肉塊を華麗に回避ッ!
大斧は諦めた。できれば回収してインベントリに戻したかったが、この場面が物欲を優先している場合ではないと判断できる程度の冷静さはまだ保てている。
正直、このまま撤退しても朧は勝手に滅びそうではあるが……この暴走する肉塊そのものが脅威なのもまた事実であり、これが現世に侵入したときの被害を想像すればとても放置などできない。
これもまた、黄龍の巫女の役目。
いつものように、西浪女史の刻印により生まれ変わった愛用の大太刀・薄緑を構える真白。
いつものように、溢れ出る女子力で突撃してくるなんかよくわからん物体を景気良く切り捨てていたものの。
「────ッ!? 刀身が……ッ!?」
朧に支配されていた鬼たちを満たしているのは暴力衝動だけではない。
一方的な搾取から解き放たれたソレらはどうしようもなく餓えていた。
彼らは喰えるモノであれば何物でも、何者でも構わない。妖気でも、霊気でも、無機物でも有機物でも石塊だろうと土塊だろうとエーテルさえ含んでいればありとあらゆるモノが餓えを満たすためのエサに視えている。
それは黄龍の霊気が通っている武器だろうと例外ではなかった。暴走した肉塊が朧への復讐という負の感情だけを動力源としていればもう少し抵抗できたのかもしれないが、それらの行動を決定付けているのは純粋な食欲だけ。
空腹を満たすために糧を求める。それは命ある者ならば動物も植物も関係なく持っている本能であり、それそのものには善悪など存在しなければ攻撃的な意志も介入しない。朝比奈真白を悪意で襲っているワケではないので、防御系スキルの発動が不完全なのだ。
「これは、ちょっと考え無しには止められそうにないかな? せめてエーテルの動きだけでも見極めないと────うげぇッ!? 気色悪ぅッ!?」
闇雲に攻撃しても効果は薄いと判断し、まずはエーテルの動きを観察して分解するように戦おうと試みたのは良いが……このとき真白の視界いっぱいに広がった光景が気になるのであれば、お近くのホームセンターや釣具屋さんにいってミルワームというエサを探してみよう!
朧の枷から解き放たれたソレらに秩序など存在しない。エーテルの繋ぎ目が視えたところであまりにも流動的過ぎて狙いを定めることができない。
巫女プのために魔法スキルも努力してそれなりに使いこなせるようにはなったが、物理攻撃方面はまとめて切るか潰すかすれば結果的に弱点攻撃みたいなもんだろという戦い方しか知らないのではお手上げというもの。
「いや、でも……ここで逃げちゃうと、ますます手が付けられなくなりそうだし……ど、どうしよう……?」
言うなればそれは、周囲にあるものをデタラメに取り込みながら巨大化を続けるブラックホールのようなもの。いまはまだ本体となった朧の全身を飲み込んだぐらいのサイズでしかないが、仮にここで引き下がったとして……果たして戻ってくるまでにどれだけ大きくなるだろうか?
不退転の決意に嘘はない。
死に戻るその瞬間まで戦い続ける意地もある。
だが……本当の意味で、精神論が通用しない形で死に戻ることそのものが許されない状況までは想定していたかと問われれば疑問が残る。心が折れない限り何度でもチャンスがある世界だからこそ、心の強さとは関係なく次を封じられる重圧は尋常ではない。
付け加えるのであれば、問答無用で周囲のエーテルを取り込む特性の厄介さを真白は正しく理解していた。朧のままであれば同族喰いという制限があったが、いまのソレに見境はない。原作では残機を削るような戦い方で勝利したが、この世界では取り込まれていた鬼たちが消耗する前に解放されてしまったが故のイレギュラーだからだ。
黄泉戦の加護を得た真白がこの鬼塊に取り込まれることはないが、確実にエーテルは奪われる。あらゆる属性に適性を持つ黄龍の巫女の霊力が奪われたとき、この鬼塊がどのような進化をするのかなど原作知識を持つ転生者ですら予測は不可能。
敗北は許されない。
だがどうやって戦えばいいのかもわからない。
だから、迷う。
迷いは、判断を鈍らせる。
「────ッ!? まず……ッ!」
迫りくる触手を咄嗟に大太刀で打ち払う、が……腐蝕した刀身ではみっつほど弾いたところが限界であった。
刻印で強化された武器でも、バグのような存在が相手では耐えきれなかったらしい。砕け散るようなことはなかったが、もはや武器としては機能しない。
そしてついに、真白の右腕を赤黒い腐肉のような手が掴んだ。
痛みこそ無いが……焼けるような、痺れるような、凍えるような不快感が腕から這い上がってくる。
抵抗?
どうやって?
真白の技量ではこの鬼塊にダメージを与える手段がない。どうにか侵蝕を食い止めようと展開した霊気のガードでさえジワジワと削り取られ吸収されている。
ここで、終わりなのか……と。
「…………ほぇ? は、うわぁッ!?!?」
見えない位置から空気を切り裂く音。
硬い金属が地面に突き刺さる音。
一瞬だけ遅れて肉の塊が切断される音。
黄龍の加護により類稀なるエーテル感知能力を持つ真白でさえ叶わなかった鬼塊を切断したそれは────なんの変哲も無い、学園の錬金工房でいくらでも手に入りそうな一振りの“刀”であった。
それはいったい、何故、どこから、どうして。
疑問は尽きないが希望が尽きそうな真白にとっては文字通り降って湧いた唯一のチャンス。いまさらこの程度のことでビビるようではスーパーヒロインは務まらない、ということで安全確認などスッ飛ばしてガシッとその柄を握れば。
「…………。彼方くん?」
一瞬の思考停止。
鬼塊の触手が迫るッ!
だが。
(────龍尾返し)
さらに複数の触手が迫るッ!!
しかし。
(────散葉枯葉)
手が動く。
まるで、初めからそのスキルを習得していたと錯覚してしまうほどに自然と。
接近を阻まれたことを理解したのか、鬼塊から生み出されたより大きな触手が突進してくる。
当然それも。
(────ケイオス・ソード)
鈍い灰色の、闇属性の霊気を纏う刀が振り下ろされた。
打ち込まれた斬撃は波紋のように触手全体に拡がり、一撃でバラバラの破片にされた肉片がエーテルの粒子となって消えていったッ!
「…………あはッ♪」
真白の口から笑い声がこぼれた。
今度は四方八方から触手が襲い掛かってくるがなにも問題はない。ゆっくりと刀に氷属性の霊気を纏わせれば、それだけでスキルを発動する準備は完了する。
「────剣聖奥義、陽炎・
(────剣聖奥義、陽炎・細雪)
しゅらり、と。刃の滑る音だけが静かに響く。
真白の技だけでは足りない。
彼の力だけでは足りない。
しかし、
向こうはこちらのエーテルを奪おうとしたのだ、ならば氷結して砕け散った鬼たちが残したエーテルを奪う権利が自分にもある。真白だけではそんな器用な真似はできないが、真白だけの技術でなければその程度のことはできる。
それは伝承や神話に名を残すような、あるいは伝承や神話でさえも語られないような。決して只人の侍では影すら踏めないような鬼どもと戦うために、地道な努力をただただ薄皮を貼り重ねるように。
全てはただの人間が、伝説を屠るために挑み続けた戦いの記憶が刻まれた武ノ器。
それはいったい、何故、どこから、どうして。
疑問はまぁ……無いこともないけれど。だがしかし、そんな些細なことはいまの真白にとっては最早どうでもいい。
どう戦えばいいのかわからないから迷った。
どうにでも戦えるのであれば迷うことはない。
「まさかね、私が情けない戦いをして上書きしちゃうワケにはいかないし。さぁて、気合い入れ直してやったりますかぁッ! 黄龍の巫女改め────無銘我流、朝比奈真白。罷り通るッ!!」
こういうのは気分の問題、言ったもん勝ちなのであるッ!
黄龍
『それでいい、人の未来を決めるのは神霊の加護ではない。自らの、人の力で求めるからこそ価値があるのだ……。ファーwww薬局で買った発泡酒が極上のソーマ並にウメェwww やっぱり人間の可能性を……最高やなッ! それを見ながらコンビーフかじって飲むビール超サイコーwww』
※冥界童女は満足した安らかな表情でスヤァしてます。