タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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巫女道は前に進むと見つけたり。

 チュートリアルステージである貪狼の迷宮・第1階層をクリアすることでプレイヤーはいくつかの学園の施設と『同行者』というコマンドを利用できるようになる。

 モブキャラの巫女や侍たちとパーティーを組めるようになり、鬼を倒して獲得したエーテルと引き換えに所持している魔法スキルや武器スキルを修得できるようになるのだが……この世界では朝比奈真白に対してとんでもなくマイナスに作用していた。

 

 パーティー編成の決定権はプレイヤーが握っているワケだが、それがこの世界では学園から生徒たちへ向けた「黄龍の巫女である朝比奈真白に協力せよ」という命令に変換されていたのだ。

 これが社会人であれば上司からの業務命令としてある程度飲み込むこともできたかもしれない。だが鬼切姫の舞台は学園であり、登場人物の大半は学生である。思春期真っ盛りの彼ら彼女らに大人と同じ対応を求めてうまくいくワケがない。

 

 これで真白が開き直って「協力しろよオラァァン!」と連れ出すだけの胆力の持ち主であれば別だったかもしれないが、一般人として生きてきたからこそ周囲との温度差を理解してしまっていた。

 それでも地道にダンジョンへ挑み続けていれば周囲の考えも変わってくるのだろうが、その頃には真白の精神はなかなかどうして残念なことになり始めていただろう。

 

 

 この世界では無銘彼方というイレギュラーの存在が真白の心の磨耗を防いだ。

 

 しかし彼方という協力者がいたが故に、学生たちが真白の存在を受け入れられるようになるのはしばらく先になるかもしれない。

 

 

 さて。転生者の努力? が実り、心身ともに健在の真白がいまいったいなにをしているのかというと──。

 

 

「おぉ~、これはなかなか……。どうかな凪菜ちゃん、おかしいところとかないかな?」

 

「大丈夫ッス! 朝比奈先輩にバッチリ似合ってるッス! こんなこともあろうかと用意していた白染めの“変わり大鎧”シリーズが最高に輝いているッス~ッ! ヒューッ!!」

 

「なぁ彼方。巫女が3人に侍がひとりでパーティーを組んだハズなのに、巫女らしい格好してんのがアタシだけってのはどうなのよ?」

 

「言っときますけど、妹はともかく朝比奈は俺のせいじゃありませんからね。……これで頭装備もセットだったらワケわからんことになってたな」

 

 貪狼の迷宮・第2階層の入り口キャンプ地点では、真白と彼方に加えて無銘凪菜と燕三条雅の4人がダンジョン攻略の準備をしていた。

 

 雅の装備は錬成工房で自作したインナーに巫女装束、得意とする水属性を強化する青紫水晶が使われた錫杖、鬼の接近を許してしまったときの備えに小太刀と実に巫女らしい武器と防具である。

 その隣に立つ彼方の装備は前世の知識から再現した『放浪者』一式である。ダークソウルという作品に登場した冒険者らしい服装は巫女を護る盾としてはやや物足りなく見えるが、如何せん彼方以上に前で殴り合う気マンマンのふたりがいるものだから役割分担を考えた結果こうなってしまったのだ。

 

 2回目の人生も彼方の妹として転生した凪菜の装備は『騎士シリーズ』という鎧である。やはり兄と同じダークソウルからの再現であり、そこに『塔のカイトシールド』と『ショートソード』を合わせた姿に巫女の面影は全く残されていない。

 そして我らがヒロイン真白の装備は仁王という作品に登場した『変わりの大鎧』という武者鎧をやや着崩した重装備を凪菜の趣味で白く染めたもの。こちらも完璧に巫女らしさが迷子である。

 

 第1階層のボス鬼を無事討伐した真白であったが、途中の打ち合いに負けてバトルアクスを手放してしまったことを悔やんでいた。同じ失敗を何度も繰り返すワケにはいかない、さてどうしたものかと彼女なりに真面目に考えた結果……鎧の適性を上げてパワーを伸ばそうという結論を出してしまったのだ。

 

 巫女と、冒険者と、騎士と、鎧武者。こうして並べてみるとバランスはそれほど悪くないパーティー編成である。騎士と鎧武者の中身が巫女なのは気にしてはいけないのである。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 貪狼の迷宮は基本的に森で構成されたダンジョンであり、狭い通路などは存在しないので空間を広く使って戦うことができる。

 油断すれば簡単に包囲されてしまうリスクはあるが、4人でパーティーを組み攻略するのであれば警戒さえ怠らなければ苦戦することもない。

 

「そんなボロボロの槍でぇッ!」

 

「ボッ!?」

 

「先輩さすがッス! ──ハッ!」

 

「ゴォッ!?」

 

 足軽の姿をした亡者が振り回す槍をものともせず、真白は体当たりで相手の体勢を崩しバトルアクスで胴丸ごと叩き斬る。

 理想としては凪菜のように盾で攻撃を弾いて致命の一撃という流れを真似してみたいとは思っているのだが、技術を磨くのには時間が必要なことを真白はちゃんと知っている。なのでいまの自分にできる方法として、鎧の重さを利用したタックルで相手を怯ませることにしたのだ。

 

 これなら要求される能力は気合いと根性だけ。ならば真白にだって使えないことはない。何故なら気合いと根性を出せばいいからである! 

 

「よかったねぇ彼方。凪菜とはいいお友達になってくれそうで」

 

「……真面目な話、いまの朝比奈が置かれている状況を考えればアリな戦い方だとは思いますよ。学園側の余計なお世話のせいで同行者を探すのも苦労するでしょうし。ただ」

 

 

 

 

「虎牙破斬ッ!」

 

「ほほぅ、虎牙破斬ッスか。先輩、なかなかいいセンスしてるッス」

 

「そ、そうかな? 実はほかにも試してみたい武器スキルがあってね。魔神剣っていうんだけど」

 

「おぉ! 魔神剣! それならウチが練習に付き合うッスよ! やっぱテイルズの基本は魔神剣ッスからね!」

 

「ありがとう凪菜ちゃん、そのときはよろしくね! ──ているず?」

 

 

 

 

「まわりの皆の意識が変わる頃には、朝比奈側がそれほど手助けを必要としなくなってそうで」

 

「さすがは伝説と言われた黄龍の巫女、頼もしくて結構なことだねぇ。アッハッハ!」

 

 雅にしてみれば巫女が強くて困ることなどなにもない。仮に真白が彼方以外の侍たちを頼りないと感じるようなことになったとしても、それは巫女が強くなるために努力をしているときに半端な鍛え方をしていた不甲斐ない男子どもが悪いのだ。

 もちろん真白が強くなるのは彼方としても喜ばしいことである。だが侍としての役目を果たすために初陣から同行した身としては複雑な気分であった。なにもわざわざリスクの高い戦い方を選ばなくてもいいのにと思いつつも、本人のやる気を台無しにするようなことは言いたくないので黙っている状態だ。

 

 

「魔神剣ッ!」

「魔神剣ッ!」

 

「「ボァァッ!?!?」」

 

 

 そんな彼方の悩みなど露知らず、仲良く鬼目掛けて青い剣撃を放つふたりの瞳は夏休み中の男子小学生のようにキラキラ輝いていた。




名前の読み方に関するご意見をいただいたので、のちほど対応したいと思います。

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