タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
ふと、戦うヒロインで最初に思い浮かぶのは誰だろう? と考えてみたらマリオRPGのピーチ姫だったので初投稿です。
分断と奇襲の繰り返しでバラバラになった黄龍の巫女御一行。その後の流れを決定付けたのは最初の襲撃にて風魔と大地が「自分たちに構わず先に進め、朧なる鬼を討てッ!」とザコキャラ軍団の足止めを引き受けたことだろう。
ふたりにしてみれば紅蓮と静流が一緒ならそれで良いという判断であった。真白に心奪われていても私情で戦況を読み間違えるほどの色ボケではないのだから、彼らに自分が戦わなければという自惚れなどあるはずがない。ただ、ちょっとしたすれ違いから“とにかく真白を朧のもとへ送り届けるべし”と受け取られただけで。
スーパーヒロイン渾身の巫女プも本職には通じない。静流は言われるまで気が付いていなかったが、同じ刀剣類のスキル適性を持つ紅蓮は真白と棗が接近戦の腕前も上等であると見抜いていたのだ。
そして紅蓮にとって朝比奈真白も暮間棗も守護るべき巫女ではなく、同じ鬼と戦う戦友である。ならば信じて送り出すことに躊躇いなどなく、続く分断・奇襲のターンでは静流とその場で殿を引き受けるのは自然な流れであった。
そうなってくると……優等生の棗ちゃんだって空気を読んじゃうのは仕方ないとしか言いようがない。残る4バカのふたり“白鬼”と“黒鬼”の相手をひとりで引き受けて真白ちゃんに先に行けと言ってしまうのが思春期の若者として正しい姿なのだ!
「鵺の巫女。キサマ、何がおかしい」
「ボロボロに痛めつけられて気でも狂ったかね? ただひとり追い詰められたこの状況がよほど愉快なのかな?」
「……えぇ。
満身創痍でありながら、棗の表情に陰り無しッ!
強がりなどではない、本心から棗はこの状況を楽しんでいたッ!
義塾にいたときの戦闘とは暮間の価値を示すための作業でしかなかった。義塾内部のランキング戦で上位に名を連ねたところで心が満たされるようなことはないし、迷宮の主を討伐した証のエーテル結晶を持ち帰ったところで勝利の喜びを感じることもない。
暮間。暮間。全部、暮間の名誉のために。それを誇りに思う気持ちと、あらゆる行動が暮間の巫女という肩書きに続くことへの納得は別なのだ。努力したから道が拓けるのではない、暮間の巫女だから勝手に人々が道を開けて通してくれる日々に充実感などありはしない。
だが、ここはどうだ?
鬼たちとの戦いにおいて、暮間の名に意味はあるか?
暮間の名誉のために勝たなければならない戦い、とは違う。友人が信じてくれたのだから、負けるワケにはいかない戦い。
そうしなければならないという義務感や責任感、とは違う。自分自身でそうしたいという内側から生まれてきた望み。
優等生ほど方向性を転換したときの振れ幅が大きい理論は棗にも適用されるらしい。そしてこうなってくると本来であれば撤退を促す立場の鵺も考え方を、神霊としての価値観を変えなければと思うワケだ。
人間を導くのが役目であると信じ、それを暮間の家系を相手に長年続けてきた。侍も、巫女も、無辜の民を護らなければならないのだから無意味に意地を張るよりも大多数を救うために次に備えるのが正しい判断だと信じていたのだ。
それを鵺は、神霊としての正義を鵺は放棄した。
4バカ扱いしてもラスダンのボスキャラを務める二人組である、となれば棗ひとりで足止めをするには厳しい相手なのも当然。そもそも巫女が単身で鬼と斬り結ぶことがおかしいだろなどという野暮な正論には控えていただくとして、とにかく棗は体力はもちろん霊力も枯渇寸前まで追い詰められている。
それを補うため鵺も自らを形作る神気を惜しむことなく棗に分け与えている。このまま消耗を続ければ間違いなく封印状態となり、十年、二十年と暮間の家は加護を失うことになる。学園関係者に負けず劣らず神霊の加護で人間の価値を決定する義塾周囲にあって加護を失ったとき、それはさぞかし見事な掌返しが拝めると知りつつも……鵺は棗に殉じることを選んだ。
それで正気の沙汰ではない、神霊としての存在意義を忘れたかと嘲笑うモノたちがいれば、鵺は堂々と答えるだろう。相棒が戦友のために命懸けを望むのに、どうして己がそれを邪魔しなければならぬのだ? と。
(鵺、先ほどの咆哮は……?)
『大丈夫だ。朝比奈真白の霊気は途絶えたが、あれはなんらかの結界に侵入した証拠だ。あの猿の精霊は課せられた役目を果たしている。心配はいらねぇ』
(そうですか、それはなによりです。なら、私も負けてはいられませんねッ!)
肺の中に残る空気を無理やり絞り出し、体力の消耗を無視して強制的に息を整え二刀を構える。
真白が迷宮の主へたどり着くまでの時間は稼いだ。
次は、迷宮の主が討伐されるまでの時間を稼ぐだけ。
一度達成した勝利条件を再び繰り返すだけの簡単な作業なのだ、無理難題というワケでないのだから臆する理由などあるものか。
そして、そんな棗の様子を見せられた白鬼と黒鬼はわかりやすいほどボクたち面白くありません! といった表情になる。弱者を嬲りものにして折れる瞬間を見届けるのが趣味のふたりにとって、しぶとく抵抗する棗の姿は求めている反応ではないからだ。
もっとも、この世界の在り方としては棗のほうが異常なのだが。人も、鬼も、次があるのだからギリギリの状況で粘る意味は薄いというのが共通認識。神霊ですら不利ならば仕切り直して次を見据えるのが大多数の中で諦めず抵抗を続ける者はとても珍しい。
だからこそ、今回もお菓子をつまむぐらいの感覚で鵺の巫女を弄んでやろうと思い分断されたところに手を出したのだが……こうなっては面倒なばかりでなにも楽しめなかった。
それならグダグダやってないでさっさと倒してエーテルだけ奪えばよいものを、人間を相手に本気を出して良いのは鬼士までだよねーwwwみたいなプライドが邪魔をして中途半端な攻撃しかできないらしい。醜い顔してるだろ? ラスダンのボスキャラなんだぜ、コレ。
「……チッ。もう面倒だ。キサマは始末してほかの獲物で楽しむほうがよさそうだ。まぁ、鵺の巫女のエーテルだ。黄龍の巫女ほどではないにしても、それなりの価値はあるだろう」
「その意見に賛成だね。多少は、より高みに至るための糧になることを期待しよう。さて、鵺の巫女よ。実力に劣る上に数の不利もあるのだ、潔く死を受け入れたまえよ」
ようやく真面目に攻撃するつもりらしく、それぞれの武器に妖気を纏わせる白鬼と黒鬼。最早それは戦いではなく処理という行為でしかないが、それでも1秒でも長く足止めをするべく棗が二刀を交差させて防御の構えを取った────そのとき。
「数の不利。なるほど、確かにそれは勝敗を決定付ける重要な要素なのだろう。ならばその助言、有り難く参考にさせてもらうとしよう」
「────ッ! 貴方は……ッ!?」
「む? いつの間に結界の内側に侵入者が」
「キサマ、何物だ? 我らを四天鬼仙と知って」
「もちろん。承知しているからこそ、これからワシが貴様らを屠るのだよ。────命脈須く食い千切れ、大往生
「フンッ! そんな羽虫の群れなどスキルを使うまでも────なにィッ!?」
召喚された蜂の大群に向けて黒鬼が攻撃的な妖気を放つ。が、鈍い鋼色ではなく鏡面仕上げの如くキラリと輝く蜂たちの表面を滑るばかりでただの一匹すら潰すことができない。
哀れ黒鬼は叫び声のひとつすら出せないまま蜂球の中に封じ込められた。ゲームならダメージエフェクトのあとに倒れるだけで終わるが、残念ながらここは異世界なのだ。閉じ込められた黒鬼は無気味な咀嚼音が漏れ出すのに合わせて少しずつエーテル粒子化することになる。
「やはり、蜂眼坊……? ですが、その顔は」
「なに、半妖の姿のままではな。人間の巫女と鬼の僧侶が顔見知りとあってはいらぬ誤解を受けるやもしれん。場所が場所だけに無用の心配と言えなくもないが、まぁ油断するよりは警戒したほうがよかろう」
「────ッ!!」
ひとり残された白鬼が逃走を試みる。
もちろん。
「どうした、そんなに慌てて。より高みに至るための糧を欲しているのだろう? 自画自賛する形になるが、ワシ程度のエーテルでも奪えば少しは足しになるかもしれんぞ?」
「う……あ……ッ?!?!」
白鬼が振り向いた瞬間、鵺の巫女と会話していたはずの蜂眼坊が回り込み仕込み刀を抜いて顔の前に突き付ける。
「なぁに、遠慮は不要というものだ。諸君ら四天鬼仙は鬼神すら太刀打ちできぬ古今無双の強者だと豪語していたのは知っているとも。ワシも機会があれば是非とも手合わせ願いたいと思っていたところだ」
「キ……サマ……ッ! 鬼でありながら人間の味方をするなど、この、恥知らずが、この、こ……のぉ……ッ!!」
「うん? 別にワシは人間側に与するモノではないよ。ただ、少しばかり“事情”があってね。此度の、魔王を自称するアレが引き起こした乱痴気騒ぎが収束するまでは同族であろうと容赦はせぬと決めているだけのこと。故にそちらも余計な気遣いなどいらぬのでな、存分に死合を楽しもうではないか」
白鬼は動かない。
否。動けない。
いまの蜂眼坊は見た目こそピシッとしたスーツなども似合いそうな紳士系イケオジだが、その両眼は昆虫のように何処までも無機質な色合いで白鬼を見ていた。如何にも勝負を楽しもうといったセリフを吐きながら、それは相手を全くつまらないモノであると断定している色合いである。
それも当然、蜂眼坊が望むのは単なる強者との戦いではない。向上心、意地、覚悟、信念など、そうした精神的な強さを内包する者との勝負こそ真に価値ある物として欲していた。そうした手合いとの勝負というものは、仮に相手の実力が大きく劣るものであったとしても蜂眼坊に新しい気付きを与えてくれるからだ。
それでも。腐っても同格の鬼仙である白鬼であれば、本気で抗うのであればもう少し格好も付いたはずだった。そうならないのは白鬼が本気で妖気を高める手段を忘れてしまったから。優位な立場からの搾取ばかりを続けてきた白鬼に戦闘経験値などあるワケがない。
「時に、だ。良いのかね? 数の不利についてキミは熟知しているとばかり思っていたのだが」
「な、なにを────ゲハァッ!?」
背後より、胴体を貫くは風雷の霊気を纏う2本の刃。
「戦いの最中に無防備な背中を晒すなんて、貴方はバカなんですか?」
「鵺の……ッ!? キサ、マ……ッ! 人間、がぁ……ッ!!」
「感謝はしておきますよ。私にとっては格上の相手でしたので。良い経験になりました。それでは」
「ま、待って────」
◇◆◇◆
「助かりました。貴方にどのような事情があるのかは知りませんが、あのままでは足止めすらままならない状態でしたので。ありがとうございます」
『……棗が納得してるなら己が言うことはなにもねぇ』
「なに、ワシとしても鵺の巫女の勇ましい姿を拝見できたのは悪くない体験であるよ。好敵手が増えるのは望むところ、いずれ機会があれば是非とも手合わせを願いたいものだ」
「当面の間はお手柔らかにお願いすることになりそうですけれどね。それで……その、大丈夫なのですか? 人間の、巫女である私を助けるような真似をしてしまって」
「同族だからと鬼の全てが価値観を共有する必要はなかろう。それは人間も同じではないのかね? いまは学園と義塾と呼ばれるふたつの組織とて、鬼を切るという目的を共有しながらも対立……か、どうかは正確なところは知らぬが」
「グゥの音も出ない、とはこういうときに使う言葉なんですね」
「切磋琢磨という言葉もある。対立が必ずしも悪い結果につながるとは限らない────むぅッ!?」
「くッ!? いまの音は……真白さん……ッ! それに、この妖気は……ッ!!」
破壊音と振動。
そして同時に感じる桁外れの妖気。
咄嗟にそれらを辿り真白の下へ駆け出そうとしたところで、棗は悔しそうに歯を食いしばりながら足を止めた。
「冷静だな」
「いまの私では身を挺して盾になることすらできません。自己満足のために真白さんの足手まといになるぐらいなら、ここで惨めに立ち尽くすことを選びます」
ヒロインあるある、たとえ力になれなくても側に行きたい系ムーブを華麗に回避ッ!
もしもこの世界が普通のギャルゲーならば耐えられなかったかもしれない。朧と戦っている主人公の中身が現地人だろうと転生者だろうと、男性キャラが苦戦しているところにヒロインがやってきて余計ピンチになってしまい、謎の覚醒でもしない限り八方塞がりとなる場面だった。
しかしこの世界は普通ではない乙女ゲーの世界である。真白と棗はお互いに認め合うライバルであり、お互いを信じ合う戦友という間柄。支え合うと言いながら冷静に観察したら割と一方通行だったりする男女の関係ではない、目的のためならばお互いの姿が見えない背中合わせでも迷わず進む戦士の絆であれば余計なフラグを建てないよう耐えられるのだッ!
でもメタ視点でぶっちゃければ原作通りのストーリーをなぞっていた場合、棗もここまで追い込まれることはなかったというオチだったりする。順当にイベントを消化していたのであれば涼蘭姫、炎翁、幽幻童子、泰山の4人の鬼神を相手にレベルアップしてからラスダンに乗り込めたからだ。
つまり四神の侍はもちろん棗も原作より苦戦しているのは全部エンジョイ勢を名乗る転生者が原因、ということに。
とはいえ、その結果ここまで一般人の犠牲者といえば意味もなく出しゃばってきた上のお役人とそいつらが連れてきたマスコミ、そして警告を無視した配信者ぐらいのものである。
そして棗も、四神の侍たちも、ここで敗北しても黄泉戦と魂揺蛍の加護により無事に現世まで帰れることを思えば……人類側の被害という視点で見れば実質的にゼロみたいなものだろう。
ヒロインがラスボスとタイマンしていることについて? 間違いなくテンションは超強気まで上昇しているだろうから特に気にするべきことはないかと。たぶん全部の攻撃がクリティカル率100パーセント状態なので簡単には負けないはずだ。
だがそんなことなど知らない棗は真白の安否を思いつつ────。
「鵺。ちょっと仮眠を取るので周囲を任せても構いませんか?」
『そうか、仮眠を……仮眠を? ここで?』
「はい。どうせ心身が疲弊してなにもできないのであれば、いっそのこと休息を優先してみようかと。すでに私は戦力としては死人も同然なのですから、それで回復できれば儲け物だと思いませんか?」
『いや、そりゃ、オマエ……言ってることはわかるけどよォ』
「鬼に襲われれば死に戻ることは確定しているのです。なら、少しでも可能性が残る方法を選ぶべきでしょう。と、いうことですので……蜂眼坊、さん。改めて、助けていただきありがとうございました。それでは失礼して…………すぅ」
適当な柱を背もたれとし、胡座をかいて二刀を抱くような形で意識を手放す棗。自分自身に睡眠系の状態異常スキルを使用することで興奮状態にある神経を強制的にシャットダウンしたのだ。
「フッ……く、くくく……ッ! 鬼の、鬼の居城に侵入しておいて、さらに、目の前に……フフッ……鬼であるワシを前にして眠りこけ……本当に寝息を立てて……くく……ッ! ぬ、鵺よ……ンフ……これもなにかの縁だ、巫女の安眠を邪魔する無粋な連中は……ワシが引き受けてやるとしよう……く、フフ……ッ!」
『うるせぇ。笑ってないで早くどっか行っちまえ』
スゥ……と。カガミバチに隠れるように姿を消した蜂眼坊。冗談ではなく本気で棗の安全を確保するために戦うつもりであるのは鵺にも伝わっていた。
『あーあ。本当に……どうしてこうなっちまったんだか。いや、巫女としてはともかく、戦人としては成長してくれてるから喜ぶべき……で、いいのか? これ、コイツ。義塾に戻ってから前と同じような学生生活なんて……暮間の巫女が、よりにもよってなぁ。コレも全部あのメスガキの仕業だとしたら……あぁ、クソッ! それでも棗の成長を嬉しく思っちまう己が腹立たしいぜ……ッ!』
冥界童女
『いや鵺の巫女にはなにもしてないし。ただちょっと初対面のときに面白そうな縁が結ばれて喜んだだけなのに疑うなんて酷い風評被害だッ! 私がいったいなにをしたっていうんだよッ! それはそれとして。いやぁ、こうなってくると鬼切姫・弐とやらのシナリオが始まったときが楽しみですなぁウェッヘッヘッヘwww』