タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
裏側での会話は好きだったり嫌いだったりしますが初投稿です。
「ふむ……これがチョコレート菓子というものですか。甘味と苦味、香り、油分、そして薬効。これを手軽に口に出来る幸せを知る者は、果たしてどれだけいるのでしょうね。それにしても、まさか私に供物が届けられる日が来るとは思いもしませんでした」
日本神話の神域にて。
建前としては日本の神霊をまとめる二柱のひとり、しかし日本神話に所属する神霊たちからは太陽聖母・天照の外付けブレーキだと認識されている月読が注目の転生者・無銘彼方より届けられたき◯この山の味をひとりのんびり楽しんでいた。
原作知識で伊邪那美と月読が友人であることを知りながら、そして伊邪那美にたけ◯この里を献上しておきながら、あえてこのチョイス。もちろん日本神話の神霊ならば、たぶん冗談の通じる相手だろうと予測してのちょっとしたイタズラである。
その辺りの思惑は魂揺蛍に託された祈りと一緒にちゃんと届いているので、月読にしてみれば気安い友人との悪ふざけとして伊邪那美を挑発するのも面白いかもしれない、ぐらいの軽さで受け取っている。
が、そんな思い付きもなにやら渋い表情をしている伊邪那美の訪問によりひとまず片付ける必要が出てきてしまった。あまり愉快そうでない報告を届けてきた相手を茶化すような真似をするワケにはいかないだろう。
「つっきー、ちょっといいかしら?」
「どうしましたナミちゃん。根の国でなにかトラブルでも起こりましたか?」
愉快な報告でないことは察しても、伊邪那美が優秀な管理者であることは月読が良く知っている。緊急の使者を寄越すでもなく本人がわざわざやってきたぐらいなのだから、そこまで深刻なトラブルではないのだろうとファ◯タオレンジに口を付けたところで────。
「なんかね? 無銘彼方が義塾方面の迷宮を当てにして修行に行くつもりらしいんだけど、なんかついでに
「ブッフォッ!?」
「汚ッ」
「えほッ! ごほッ、えふッ! ちょ、え? ナミちゃん、いまなんて?」
「だから、無銘彼方がね? 原作知識によると、義塾方面で人間を鬼に変える事件が……あ、順番が違うわね。謎の失踪事件と変死体の発見がニュースになるらしいんだけど、その原因となる人間を鬼に変える薬ってのが出回るらしいのよ」
「人間を、鬼に……? いえ、確かに可能か不可能かで言えば夢物語ではありませんけど、それを、人為的に……? いや、人が鬼に堕ちるのはある意味では意思によるものですから尚更のことあり得るとも……」
「ま、直接報告を受けたのは黄泉戦なんだけど。アイツが真面目な顔してアタシのところに来た時点であまり良い予感はしなかったわね。それでもまさか、薬なんかを使って人を鬼に変えるなんて……現世に行って無銘彼方に詳しい話を聞ければ手っ取り早いんだけど?」
「それは……そうかもしれませんが……」
探りを入れるにしても手段を選ばなければ無駄に現世を混乱させることになる。その点、転生者である彼方であれば伊邪那美のことも月読のことも知っているため大騒ぎに発展する心配はない。ただの学生ではない社会人経験者としての経験が活きることだろう。
なにせ事が事である。人を鬼に変じる薬となれば、それはまず間違いなく呪詛の力を頼りに拵えたものだ。単体でも充分に不愉快な代物であるが、加えて製造の過程でなんらかの形で命が犠牲になっている可能性は極めて高い。日ノ本を守護する神霊としてそれを放置するなど言語道断である。
だがしかし、加護持たずと認識されている彼方に接触すれば自分たちの神気の残り香を嗅ぎ取る俗物が必ず現れる。
彼の者が成り上がりを望むのであれば自由に利用してくれても構わないのだが、無銘彼方が欲するのは贅を尽くした悦楽などではなかろう。
そういう意味では冥界童女は実に上手に動いている。自身に付随する悪評をガッツリ利用することで因果を弄ぶという桁違いの権能を隠しているのだから。
作為的な七難八苦を乗り越えることでチャージされる愉悦マイレージ、しかし還元方法は冥界童女の気分次第で加護を与えられた本人に選択権は無い。存在を知られたところで価値に気づくことができるかは別の話なのかもしれない。
それはともかく。
「ナミちゃん、彼は自力で問題解決に動くと思いますか?」
「伊邪那美が断言するわ。それは無い、と。無銘彼方に英雄願望は無く、彼の者が望むは当たり前の幸福。ならば、自ら動く以外の選択を奪われない限りそれは無い。冥界童女も面白半分にクソみたいな縁結びをすることはあっても、縁そのものを歪めるようなことはしないでしょ?」
「わざわざそんなことをしなくても、彼自身が信念に従ってトラブルに飛び込んでしまうようですから、それはそうなのでしょう。なんとも困った信用です」
「いっそのこと原作知識とやらでガツンとレベルアップしてくれたら? そしたら難しいこと考えずにアタシたちの加護を与えられて楽なんだけど」
「そうですね。神霊の加護を特別視する傾向は昔からありましたが、いまの日本で巫女に神託は……確実に大騒ぎになりますし、だからこそ彼と直接会話ができれば、とは思います」
人の世に過干渉はしたくない。が、そこに危機が迫っているのを承知で黙っているのは無責任。なのでその時代の発言力が高そうな巫女に神託という形でこっそり教えたりしたことは過去に何度かある。
なので今回もそれを使えればあるいは……と、考えたものの。さすがに情報が少な過ぎる上に、神託を悪用しようとする連中が現れて余計に現世が荒れるかもしれない。なにより、大規模な組織単位の活動であれば神託を与えた巫女が危険に晒されてしまう。
結論。
とりあえず見守るしかない。
日本神話でも指折りで高位の女神が揃って動けないとはなんとも情けない話だが、強力な神気を持つからこそ彼女たちの加護を受け止められるだけの器など簡単に見つかるものではないのだ。
それでも。声も聞こえない姿も見えない、それでも前世の記憶から自分たちの存在を確信している彼方であれば祈りという形で報告はしてくれるはず。人間同士では発言力に乏しい彼方ではあるが、神霊に捧げる祈りを偽ることなどできないのだから世間での評判など関係なく情報を提供してくれるだろう。
「それにしても……人を鬼に変える薬、ですか。やはり、開発には穢れたエーテルに魅入られた陰陽師なども関わっているのでしょう。陰陽師そのものが鬼の力を利用する召喚術式を使うということで、あまり待遇のほうは褒められたものではありませんでしたが……」
「無銘彼方は陰陽師に接触を試みるか? アタシはその可能性は低いと思うわ。守護者として活動している陰陽師の存在は知っていても、ただの学園の生徒がそれらの情報を知る手段など存在しない。不自然過ぎるもの。原作知識があるからと後先考えずに行動できるような人間なら黄泉比良坂に独りで立つ必要もなかったでしょうに」
◇◆◇◆
時間は多少前後して。女神ふたりが転生者が送信してきたメタ情報について、あーでもないこーでもない、さてどうしようと頭を悩ませる少し前。
日本の能力者たちの黒幕とも言える立場の者たちが秘密裏に集まって、今後の鬼たちによる現世侵攻の対策のための会議という名の罵り合いに励んでいた。
学園側に与する能力者たちの存在をライバル視している義塾側の能力者としては、炎翁による民間人の被害を理由に彼らを主流派から追い落としたい。
朧に関しても鬼神の討伐と言えば聞こえは良いが、結局のところ自分たちの不手際を自分たちで処理しただけのことだろうとネチネチ嫌味を繰り返していた。
これには四神の加護を誇る家々だって黙ってなどいられない。
歴史と伝統ある自分たちだからこそ討伐できたのだ、若い世代の活躍を称賛することなく貶めるような性根で教育機関に関わるなど恥知らずにも程がある。
ついでに暮間棗の名前も出して、貴様ら義塾が誇る鵺の巫女の助力もあったからこその成果であると黄龍の巫女の報告にあるというのに、それも含めてお前たちはケチを付けるつもりかと反論したのだ。
学園側も、義塾側も、限られた予算を奪い合うからには醜い争いだとしても本気で全力なのだ。
むしろ、自分たちの都合ばかり主張して増税で両方に対応しろと政府に迫らないだけマシとも言える。
国家防衛の要である自分たちが、重税により守護るべき市民の生活を脅かしてどうするという認識が共有されているのだ。そこを協力できるなら仲良くしろよと言いたくなるが、金銭と面子と政治が絡んでいる以上はどうにもならないのだろう。
「────双方、それまでにせよ」
上座より、不可視の結界の奥から凛とした女性の声が響く。
それは決して怒鳴り声の類ではないが、それでも本来の目的から外れた議論に熱中している大人たちを黙らせるだけの威圧が含まれている。
「此度の集いは朧討伐に関する一連の流れについて是非を問うものではない。鬼神どもの動きが活性化したことによる“百鬼夜行”の始まりに備えるための議論が目的であると通達したはずだが……はて、もしかして妾の勘違いであったか?」
「「「「あ……いえ……そんなことは……」」」」
「そうか、そうか。妾の勘違いでなくてなによりだ。つまりお前たちは、我らだけが語り継ぐ歴史の中で、百鬼夜行の発生による民間人の被害が国家存続の危機に繋がることを承知の上で、未来を憂うことなく自分たちの既得権益ばかりが気になって仕方ないと……そういうことなのだな?」
女性に対して反論はひとつも出てこない。
鬼切姫の世界における百鬼夜行とは、ある一定期間に鬼たちの現世侵攻が集中することを言う。一例として、とある世界線の日本で壇之浦の戦いといえば源氏と平氏の最終決戦として有名だが、この世界の日本では数万規模の鬼を相手に源氏と平氏が協力し死力を尽くして追い返した誇張抜きで日本人の存亡に関わった大決戦である。
侍と巫女の犠牲はもちろん、鬼たちを壇之浦に追い込み決戦に至るまでの民間人の死傷者も膨大な数となった。しかしこの事実をバカ正直に表の歴史に残してしまえば人々の中で鬼に対する恐怖が膨れ上がる、そうなれば常世に流れ込む負の感情も増幅することになり鬼たちの糧となり……と悪循環になることを危惧して秘匿してきた。
妖怪変化の登場するファンタジー作品では乱痴気騒ぎ扱いで済まされることもある百鬼夜行だが、この通り鬼切姫の世界では全く笑い話にならないガチの大厄災である。それが起きるかもしれないから備えましょうという会議の場で利権争いを始めたのだから上座の女性が静かにキレたのも当然である。
「ふぅ。これ以上は時間の無駄だな。此度の会合はここまでとする。まずは頭を冷やせ。幼児の喧嘩から、せめて児童の喧嘩が可能な程度まで知恵を身に付けておけ」
まさに鶴の一声。
逆らう者は誰もいない。権力に価値を見出しているからこそ、自分よりも立場が上の人間に逆らうような真似はしない。だからそれだけ素直に言うこと聞いて大人しく引き下がれるなら最初から建設的な話し合いしろよと女性は思う。声に出せば第2ラウンドが始まりそうなので思うだけ。
時間にして1分か2分ほど。
図体ばかり育った赤子たちが立ち去り静かになった部屋で、女性はタブレット端末を取り出して。
「……あ、もしもし? おつかれぃ。あのさ、お前さ、春休みの予定とかって……あ〜、そう……うん、うん。そりゃ丁度いいや。だったらさ、義塾方面の迷宮に興味とかない? ホレ、お前の妹が交換学生に選ばれただろう? 兄貴としては気になることもあるだろうし……うん、そう、そうね……あ〜、そこは心配するな。教師が生徒に頼みごとするってのに自腹なんて切らせるかよ。任せとけって、これでも少しは顔が利くんだ。寝泊まりの世話ぐらいはな……うん、そう。おう、ありがとうな。はい、はーい。それじゃ詳しいことは学校でな。はーい」
ピッ。
「……ハハッ。大人が使えねぇからって子どもを利用するのか。間違いなく地獄に落ちるな。いいさ、だったら少しでも厄介事を道連れにしてくたばってやる。どんな組織でも世代交代で価値観を循環させなきゃ腐り果てるだけだからな。……あ〜、面倒だなぁ。今夜はサバ缶で一杯やるかねぇ」
また世界観をこねこねする時間が始まる……。
なにが言いたいかというと、ここから2話か3話くらいは彼方くんの主観で投稿するということです。