タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 チート能力で楽々パワーアップとはならないので初投稿です。



別に転生者はメインヒロインなどの女性キャラに手加減することなんて決まりは無い。

 昼間は真面目な学生、夜はカラーギャングとして縄張り争い。いかにもメインヒロインらしい設定だなと感じるかもしれないが別に日比野鈴音だけがコレをやっているワケではない。

 原作ゲームとこの世界との誤差を修正する、あるいは辻褄合わせともいう現象により結界戦に参加しているチームのメンバーは大抵がこんな感じであった。それぞれ昼間は普通の一般人として活動しており、無駄にイキリ散らかしている輩のほうが少数である。

 

 表向きが普通だからこそフラストレーションを消化するためにチームを組んで結界戦でバカをやっている、という部分もあるだろう。

 

 それとは別に、自分たちのテリトリーを護るため表と裏の境界線をしっかりと区切ることで行政の介入を阻止するという目的もある。

 

 参加者たちは、チームを率いる者たちは行政側が用意した建前を利用して自分たちの遊び場を守りたい。

 そのためにはキッチリと線引をして秩序を保ち、一般人が仕方のない奴らだと笑って許せる範囲で結界戦を完結しなければならない。

 

 

 だから、風祭神社に挨拶にやってきた鈴音たちもプリズムダスト仕様の特攻服ではなく義塾指定のジャージ姿を選ぶ必要があった。これから頼みごとをする立場として、自分たちの身分をハッキリと証明しておく必要があると考えたからだ。

 もちろん昨夜の無断侵入についても正直に話して謝罪するつもりである。時と場合によって見栄やハッタリが必要になることは心得ているが、ソレは少なくともいまは必要ない。交渉で不利になると理解した上で筋を通すことを優先したのだ。

 

 これは鈴音の提案によるものだが、武蔵、伊勢、佐藤姉妹も賛成し、ほかのチームメンバーからも了承を得ての行動であった。ゲームでは全く出番の無いフレーバー要員だったが、この世界ではちゃんとリーダーの教育が行き届いているらしい。

 

 

 さて、まずは謝罪から始めるとしてもいきなりでは不自然だし相手側も困るだろう。ならば先に挨拶が必要だがなんと言ったものか。そんなことを考えながら石造りの階段を登り切った鈴音の正面に。

 

 

(────ッ!? アレは……偶然、って感じとは違うな。明らかにアタシたちを待ち構えていた、って面構えだ……ッ!)

 

 

 賽銭箱の前にキセルを咥えた若い男がひとり。

 

 その横に控えるように若い女がひとり。

 

 

 女のほうの表情はともかく、男のほうは間違いなく自分たちの訪問を待っていた。わかりやすく楽しげな表情がそう語っている。

 

 

 もちろんキセルを咥えた若い男とは彼方のことであるが中身はタバコではなく薬草の一種である。錬金で使う素材であり、調合することで全属性の被ダメージと回復系スキル・アイテムの効果が悪化する代わりに全属性の与ダメージとスタミナ回復力を上昇させる丸薬を作れる。

 それを彼方は罠として使っていた。原作のフレーバーテキストには“人の持つ狩猟本能、あるいは暴力性を引き出す”といった類の説明文があったように、この草単体でも攻撃的な興奮状態を引き起こす効果があるのだ。彼方と、案の定女に間違えられている静流は霊気のガードでレジストしているので問題ないが。

 

 

「あの……おはよう、ございます」

 

「うん、おはようさん。そのうち来るかも? とは思っていたけど、まさか次の日に来るとはね。その行動力は立派だと思うよ。無断侵入については、まぁ……未遂だし、その潔さを信じて知らなかったことにしておこう」

 

「! 私たちのこと、気付いてたんですか?」

 

「そりゃね。階段を登ってくるときから霊気は感じていたから。音を立てないよう気を付けたところで、気配の消し方や霊気の抑え方を知らないんじゃそうなるよ」

 

「気配の消し方なんて……」

「さすがに知らないよ〜」

 

「ってことは、こっちの事情もある程度は知ってるってコトか? あ、いや、知っているってことですか?」

 

「普通に話し声も聞こえていたからな。なんとなくは察したよ。俺も負けず劣らずのバカをやってるからね、できる範囲は限られているけれど少しは協力しようと思って……それで、こうして待っていたってワケ。ただし────」

 

 

 協力、という言葉を聞いて安堵と喜びに緊張が緩んだプリズムダストのメンバーだったが、彼方がゆっくりと立ち上がって移動したことで「なにを始めるつもりだろう?」と困惑に変わる。

 

 そして。

 

 

「迷宮に潜りたい、っていうならよ? 相応の実力アリって証明して貰わないと困るんだわ。だから、条件は……そうだな、俺の体勢を崩せたら合格でいいよ。膝でも掌でも背中でも、足の裏以外を地面に付けることができたら見逃してやるよ」

 

 

 実力を見せろ。

 

 それはどんな言葉を尽くして説得すればいいのかと悩んでいた鈴音たちにとっては願ってもない好条件であった。

 

 チームに入れ込む想いや結界戦に臨む意気込みなど、そうしたものは自分たちにとっては大事でも説明で理解を得るのは難しい。だからこそ神社の管理人を説得するのは厳しいだろうと覚悟していた。

 しかし戦って実力を示してみせろというなら話は別だ。鈴音たちはプリズムダストの中でも戦闘を主に担当しているし、これまで何度も防衛戦で勝利を重ねてきた実績がある。テレビやネット配信で見る義塾の学生にだって負けない自信があった。

 

 

 ならば遠慮なくと。

 

 代表として鈴音が名乗り出て。

 

 木刀を構えて対峙した。

 

 

 ……と、いうところまでは良かったのだが。そこでアホが鈴音たちに対して「別に5人全員でも構わない、それでもどうせ鬼一匹ぶんにもならない」と余計なことを言ったせいで境内の空気は最悪である。

 もちろん無意味に挑発するほど彼方は勝負を舐めていない。そもそも挑発行為とは相手を煽ることで冷静な判断力を奪う“技術”である。ならば彼方の思惑は鈴音たちの想像とは真逆であり、まだまだステータスも経験値も足りていない彼女らを本気で潰すつもりであった。

 

 目の前の『敵』が冷静に冷酷に獲物を仕留めるための準備を整えている、など優等生の仮面が剥がれ無意識に舌打ちが出るほどの苛立ちを感じている鈴音にわかるはずがない。開始の合図と同時に飛び掛かるように、そのまま真っ向から木刀を振り降ろす。

 

 だが。

 

 

「──ッ!? なぜ、避けないのですか……ッ!?」

 

「むしろ、こっちが聞きたいね。なんで途中で止めた?」

 

 

 無銘彼方、微動だにせずッ!! 

 

 

 それもそのはず、三途の川で奪衣婆が「最近あのガキ死んでないけど、まさか体調を崩して風邪でもひいたかね?」と心配するレベルで死に戻りを繰り返している彼方だが、その内容は常に格上相手に薄氷の上を歩きながら針の穴に糸を通すような戦いばかり。

 防御系のスキルが反応しないことも含めて、鈴音の攻めの気配が途中から揺らいだことなどお見通しなのだ。ならばいまさら寸止めするとわかっている攻撃に反応などするワケがない。当たらない攻撃に回避行動をして無駄にスタミナを消費するようでは死にゲープレイヤーとしてまだまだ未熟な証拠である。

 

 

「なんで、って……それは、そんなの、無抵抗の相手に攻撃を加えるなんて、そんなことはできませんよッ! それは私たちプリズムダストの流儀に反しますッ! 結界戦の最中だとしても、戦う意志のない相手に追い打ちをするような真似はしないのに、そんな……防御の構えもしてない相手になんてッ!」

 

「なるほど。その正々堂々とした流儀は大変結構なことだ。互いに合意の上とはいえ、無用で過剰な暴力は遺恨を残す。いらんトラブルを避けるという意味でも、お前さんたちのやり方ってのは理に適っているんだろうさ。それで────俺がわざわざテメェの流儀に従う理由ってナニよ?」

 

「え?」

 

「勘違いしてもらっちゃ困るな。俺はお前たちに()()()()()()()()()んじゃないんだよ。お前さんたちを()()()()()()()()んだよ。こちとら迷宮の管理に責任のある立場として、それでもどうにか言い訳探して折り合いつけてやろうってな。この模擬戦がそもそもそっちの都合に合わせてやってんのに、さらに戦い方まで妥協しろって言うのか?」

 

「う……」

 

 

 ここで終ればただの説教である。

 

 しかし彼方の目的は彼女たちを教え説いて導くことではない。メインヒロインだろうといまこの瞬間は敵であり、ならば戦況をコントロールしてブン殴る。全てはそのための布石なのだッ! 

 

 

 

 

「だからよ、そこはお前“お願いします”だろ?」

 

 

 

 

「……え?」

 

「だーかーら、どうかお願いしますって頭下げてみろって言ってんだよ。無抵抗の相手とは戦えないんだろ? だったらちゃんとお願いしないと。私は私のルールに従ってくれる優しい相手としか戦えないんです、こっちの要望が無視される真剣勝負なんてしたことがないので、どうか自分たちが楽しく戦えるようこちらの希望通りの動きをしてください、って()()()()してみろよ。できるだろ? いままでそんな戦闘ゴッコを散々繰り返してんだろうから」

 

 

「────テメェッ!!」

 

 

 日比野鈴音、キレるッ! 

 

 もちろん話を聞いていただけの仲間たちも同様だが、それでもこれは鈴音のタイマンであると我慢していた。別に最初に全員で挑んできても構わないと彼方は宣言しているのだが、その有利な条件を自分たちの流儀がどうのこうのと言って投げ捨てたのだからどうにもならない。

 

 

 そんな光景を眺める静流は表情を引き締めつつも内心で「実に彼方さんらしいやり方だ」と苦笑いしているし、玄武は玄武で「いまさらではあるが冥界童女が気にいるワケだ」と納得していた。

 

 喜多流弓術の教えに無くても自主的に刺突剣の技術を磨き、役割分担は大事だがチームワークを理由に自衛手段を放棄するならそのまま死ねと平然と吐き捨てるアホとの行動で価値観が磨かれた静流に言わせれば、いまのプリズムダストのメンバーはまだまだ戦いへの理解が足りていない。

 それは静流自身も朧討伐で痛感している。弓使いとして視野を広く保ち不利な状況を作らないようにと心掛けておきながら、有利な条件で戦うことの意味を思い知ったのは戦力を分断されたときが初めてとなった。そこでようやく敵の本拠地で戦うとはどういうことかを理解したのだ。

 

 たしかに鬼の中にも武人としての誇りを理解してくれる者はいる。しかしそれに甘んじれば足元を掬われる。但し、上位の鬼よりも目の前の友人のほうが外道戦法を躊躇わないことについては考えないこととする。無銘彼方に挑む者は勝利以外の全ての望みを棄てよ。

 

 

 さて、ガンガンに挑発された鈴音はどのような行動に出るのかと観察してみれば。どうやら一呼吸ほど間合いを広げてからの突きを、それも彼方の顔面を狙っての踏み込みを選んだようだ。

 それに対する彼方の反応は……特に無し。相変わらずの無防備で、迫ってくる木刀の切っ先か、あるいはその一撃を放つ鈴音自身を、実に退屈そうな色合いの眼で見ているのが離れていてもわかる。

 

 つまり、どうなるかというと。

 

 

「……くッ!?」

 

 

 日比野鈴音、貫けずッ! 

 

 正々堂々とした喧嘩しか知らない鈴音には、棒立ちの相手の顔面に本気の突きを見舞うことなど不可能ッ!

 

 

 木刀は彼方の頬を掠めるだけに留まったが、それはぶっちゃけ自惚れが過ぎる判断と言われても否定できない。いくら未来のメインヒロインだろうと今現在は素人に毛が生えた程度の能力者。ステータスを鍛え始めた彼方に有効打を与える手段などない。

 なにより彼方は体内に蓄えられたエーテルの量、循環する霊力の強さ、放たれる霊気の波動から鈴音のステータスが格下であると知った上で油断していない。顔を狙っているとわかりきっているのだから、目の前に霊気のガードを集中させてピンポイントバリアとして準備するぐらいのことはする。

 

 そして、そんな彼方を相手に自ら空振りを選ぶような真似をするということは、致命的な隙を晒す行為であるワケで。

 

 

 

 

「歯ァ食いしばれッ!!」

 

「────ッ!!」

 

 

 

 

 動きが止まったところで即座に胸ぐらを掴み拳を握る無銘彼方ッ!! 

 

 ギリッ! っと奥歯の軋む音が聞こえそうなほど全力で身構える日比野鈴音ッ!! 

 

 そしてッ!! 

 

 

 

 

「えごぁ…………ッ?!?!」

 

「歯を食いしばれとは言ったが、目を瞑れとまでは言ってないんだがな?」

 

 

 

 

 無防備となった腹部に容赦無く全力の拳を叩き込む無銘彼方ッ!! 

 

 胃の内容物を吐き出してそのまま地面に倒れる日比野鈴音ッ!! 

 

 

 別に顔を殴るとは言ってない! これは模擬戦とはいえ戦闘なのだから、ガードの薄い所を狙ってより大きなダメージを与えようとするのは当然のことである! 

 

 その衝撃により内臓を損傷したのだろう、鈴音の口からコンニチハしたモノには血も混ざっている。戦闘不能なのは誰の目にも明らかであり、これにて決着……とはならない。

 なぜならこのアホにとって戦闘の決着とは“相手がエーテル粒子化して消滅すること”が基準だからだ。迷宮での実戦経験ばかりを積み重ね、模擬戦の経験が圧倒的に足りていない無銘彼方は、相手が倒れた程度では戦闘終了と認めないのだ。

 

 まぁ、本番に備えるのが練習の肝要なのだから間違いとも言い切れないのだが……ともかく、鈴音の振舞いや視線からアレコレと考察して思考を回転させる、みたいなことも一切せず。そんなことは終わってからでも充分だと、彼方は一歩、前に進み出て────そのまま鈴音の首の骨を踏み砕いたッ! 

 

 これにはプリズムダストの仲間たちも怒りを通り越して頭が冷えるし肝も冷える。言葉を尽くすよりも戦いのほうが手っ取り早い、なんて思考は粉々に砕け散った。

 薬草による精神高揚も、挑発による興奮状態も、自分たち戦闘チームの中心である鈴音が一方的に“処理”される姿を見せられれば長続きなどするワケがない。

 

 しかし彼女らはまだ彼方が加減をしていることを知らない。アホの本音としては近付くことなく息の根を止めたかった場面なのだ。反撃の可能性が残されている間は迂闊に近寄るなどあり得ないので、本当なら遠距離攻撃を何発か撃ち込んでから火属性スキルで燃やしたいところであったのを絵面を考慮して我慢したのだから。

 

 それでも原作シナリオの進行状況によりそこまでの戦闘を知らない……喧嘩しか知らない彼女たちは、自分たちとは違う────それこそ義塾が配信している結界戦で活躍して得意気になっているような学生とも違う『本物』を相手に挑んでしまったことを理解した。

 

 

 だが、いまさら理解したところでもう遅い。模擬戦の経験値が極端に少ない無銘彼方の基準はあくまで鬼との殺し合いであり、仮にやっぱり迷宮のことやレベルアップのことは諦めますと回れ右したところで逃がすようなことはしない。彼方の目的は鈴音たちがこれから体験するであろうチュートリアルのイベント戦闘で少しでもマシな結末を迎えられるようにすることなのだ。

 

 

「まずはひとり。さぁ、遠慮はいらないぞお前ら? なんなら今度こそ全員まとめてかかってきても構わないし。半人前以下のヒヨッコどもが、その頭の上に乗っかってるタマゴの殻を俺がイイコイイコして取り除いてやるから遠慮するな。まぁ、言うて俺も人様に偉そうに講釈たれるほど立派な実績があるワケじゃないけど、仮にも能力者としては先輩だからな。俺にもできる範囲でだが────戦闘を教育してやる」

 

 

 チュートリアルのイベント戦闘を鈴音たちが無事に乗り切れるようにすることが目的なのは紛れもない事実なのだが、この自称モブキャラによる地獄のブートキャンプ強制参加と比較してどっちが難易度的に優しいのかは判断の難しいところかもしれない。




 転生者ならメインヒロインを優しく導くように鍛えるのが定番なのにこんな酷い戦い方をするだなんてッ!

 鬼ッ! 悪魔ッ! スバルのフォレスターッ!


 すみませんスバルのフォレスターはさすがに言い過ぎました。エクストレイルに訂正してお詫び申し上げます。
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