タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
この話が投稿される時点でのガスコイン神父の突破率は世界全体で4割ちょいぐらいらしいので初投稿です。
時刻は現在11時。アホによる模擬戦という名の処刑は30分ほどで終了したが意識を取り戻すまで時間が掛かり、鈴音たちも気が付けばお昼前にのんびりとお目覚めの……とはなっていない。
無言。
上には上がいる、とは言うもののそれなりの自信はあった。しかも相手は神社の管理人とくれば喧嘩慣れなどしていないはず。アウトロー同士の結界戦を知る自分たちであればどうにでもなる、と。
前提条件から色々と間違えているが、人生経験が豊富なはずの大人でさえ知らない世界や興味のない分野について当たり前のように下に見ることを思えば、まだまだ学生の彼女たちが甘い想定で動くのも仕方のないことかもしれない。
なんなら、あれは運が悪かったからだの油断したから負けただの次やれば勝てるだのと慰め合いを始めるよりは将来性があるとも言える。静流が復活地点として設定してくれた小屋の中はお通夜の如く辛気臭い空気で満ちているが、自分たちが負けたことを正面から受け止めているからこそのコレなのだ。
それだけ、鈴音以外のメンバーも容赦無く処理されたということでもあるが。
二人目、原作ゲームで物理攻撃と耐久力に優れた頼れる前衛キャラであった武蔵蛍子は初手から本気で潰すつもりでアホに挑んだ。鈴音が始末された光景を見せられても折れない気概は立派だが、大振りの攻撃など是非とも捌いて反撃してくださいと言っているようなもの。いくら耐久力が自慢だろうと顔面をゴッソリ抉られてしまえばそれで終わりである。
三人目、回避能力による継戦能力と投擲など素早い攻撃によるサポートが得意な伊勢まもりが側面に回り込んでの撹乱を試みる。まさか相手が原作知識により自分のスタイルを知る転生者かもしれない……などと想定できるはずもなく、そもそも側面や背後への警戒を怠らないアホに生半可な奇襲など通用するワケもなく。足払いで体勢を崩されたところへ流れるような回し蹴り、脇腹が破れてとてもグロいことになる有り様であった。
残るふたり、佐藤夏美と佐藤冬美の双子による左右同時のコンビネーション攻撃もゲームであれば活躍できる場面は多かった。ひとりが敵のヘイトを取り、もうひとりが背後から丁寧に攻める。やっていることは単純だが死にゲー分野ではシンプルな戦法ほどプレイヤーの生存率を高めてくれるのも事実なのだ。もっとも、複数同時の敵を相手にすることに慣れているアホはそのテンプレに当てはまらない。夏美は肋骨ごと心臓を、冬美は顎の下から脳漿まで、どちらも貫手による一撃で終了させられた。
原作知識を活用してヒロインを含む女の子たちを鍛えるという、ラノベ的にはチーレムチャンスとなる本来ならば垂涎のシチュエーションッ!!
だがサツマセンシズに目覚めた鎌倉聖闘士である無銘彼方に何度も使われた同じ萌えなど通用しないッ!!
そりゃ彼方の立場では鈴音たちを迷宮に入れるワケにはいかないんだから全力で仕留めるに決まっている。お役所からはコレコレこういう手続きを済ませた人だけを通してくださいと予め指示が出ているのだから当たり前だ。
これには静流も厳し過ぎるのではないかという疑問を口に出す前に飲み込むしかない。玄武の侍である喜多静流の判断であれば許される事柄でも、一般家庭出身の無銘彼方の判断となれば許されないことは簡単に想像できるからだ。悲しいかな、正義とは権力である。
そして、こういう雑でテキトーに見えて秩序を重んじる部分を信用したからこそ『先生』も学生である彼方に管理人の代理を頼んでみるかと判断した。
魍魎跋扈する政治の世界を知り、自身も巫女として高い能力を持つ彼女でも転生者というイレギュラーまではさすがに見抜けない。それでも兄の無銘彼方は人間性の部分で、妹の無銘凪菜は戦闘力の部分で、それぞれある種のギフテッドではないかと想定するぐらいにはふたりが同年代と比較して異質な存在であると確信している。
まぁ、そのへんはそれとして。
「……アレが、本物か」
せめてこれぐらいは、と静流が用意していたミネラルウォーターをひと口飲んで気分が落ち着いたのか。ぼんやりと自分の手を閉じたり開いたりしていた鈴音がポツリと呟く。
「動画配信で見てたのとは全然違う。義塾でやってた練武会とも違う。アレが本物なんだ。人を守護るために鬼を狩猟るって、つまりはそういうことで……あ〜、なんか上手く言えないんだけどさ。とにかく、アタシたちは考えが甘いガキだったんだ。死に戻りが思ってたよりアッサリしてたのは意外だったけどね」
気が抜けているのか、この場にいるのが仲間だけだからか。優等生としてではない砕けた口調で鈴音が思ったことを口にする。
目の付け所としては悪くない。アホ本人は自分のことを異世界生活をエンジョイしているだけのモブキャラだと信じて疑ってはいないが、原作知識により鬼側が本気で現世侵攻を企めば死者が出ることを知った上で戦っているのだから本物といえば本物なのだろう。
もう少し付け加えるならば、ここしばらく義塾側の能力者たちはだいぶ調子に乗っている。先の現世侵攻で死者こそ出なかったものの多数の負傷者を、それも自業自得とはいえ民間人にも被害が出たということで学園側の能力者たちのことを突っついているのだ。連中が無能だからそうなった、自分たちならもっと上手くやれたと。
そんな言い掛かりに対して学園側の能力者たちが反論しなかったことで増長に増長を重ねているのがいまの義塾側の能力者の姿なのだが……学園側の能力者たちが黙して語らずの姿勢なのは事実として自分たちの能力不足を痛感したことはもちろん、人間同士で無意味に争っている場合ではないと気が付いたからだ。
待機命令はあったものの最後まで待機のままだった学生たちは相変わらずレスバで盛り上がっているが、鬼の脅威を身を以て知ることになった大人たちはそれどころではない。義塾の相手をしている暇があるなら次に備えて徹底的に鍛え直さなければならないと奮起しているのだ。シャドウレッドのような奇跡を頼るのではなく、今度こそ自分たちの役目を果たさなければ存在価値が疑われることになる。
こうした温度差は義塾の学生侍や巫女だけでなく一般生徒にまで影響を与えていた。それが悪い方向に作用した結果、鈴音たちもまた“ヘタレな大人より自分たちがその場にいたら”といった話題で盛り上がったりもしていたのだ。
もちろんアホはそんな事情など知らない。学園と義塾が犬猿の仲なのは知っているし、そこにスクールが加わることでより面倒なことになるのは原作知識として知ってはいる。が、名誉も栄光も必要としないある種のエゴイストである彼方はそんなものクッソどうでもいいのでその手の情報は全く仕入れていない。
彼方がメインヒロインを含むプリズムダストの主力戦闘メンバーを容赦無く処理したのはあくまでチュートリアルでの不幸を減らすためでしかない。最初の寸止めの時点でチーム対抗の結界戦がまだまだイージーモードであることを察したからこそ、予め本気の殺意を体験しておけばデモンシードで鬼の力を取り込んだボスが相手でも少しは動けるようになる、かもしれないという期待を込めて。
そこのストーリーの変化については読者の皆さんもなんとなく察していることと思うが、今回の干渉によりちゃんとしっかりブッ壊れるので安心してほしい。
具体的には鈴音たちの顔つきや雰囲気が変化したことで前哨戦の相手である佐々木からの評価が上がり、対等な喧嘩相手として認めることで正々堂々とした正面からの殴り合いでの決着を望み、本来であれば自分が敗北したところへ鬼の力を使い乱入してくる宮本の太鼓持ちになるはずが「真剣勝負にくだらねぇ横槍入れてんじゃねぇッ!!」と反旗を翻すぐらいには原作の流れがメチャクチャになる。
つまり、それぐらい鈴音たちの心構えがこれから変化するという意味でもあって。
「アレは、あの管理人さんの姿はアタシたちなんだ。力の差で、一方的に相手を……今回は結界のおかげでアタシたちは生きているけど、そうじゃない人たちにとっては取り返しのつかないことになる『暴力』をアタシたちは好き勝手に使ってるんだって、いつの間にか忘れていたよ」
「鈴音ッ! プリズムダストの流儀は────」
「違う。違うよ蛍ちゃん。そんなの関係ないんだ。あの人も言ってただろう? アタシたちの流儀がどうだろうと、相手には関係ないんだよ。結界戦に無関係なフツーの人たちにとっては、アタシたちは暴力の塊なんだ。ただ、大きな事件が起きてないから、自分たちには関係ないから気にしてないだけなんだ」
能力バトルあるある。主人公などのメインキャラクターに助けられたモブがその力を恐れて云々。
これも原作にて中盤以降で発生するイベントに含まれている。テレビ等で放映される派手な模擬戦とも違う、自分たち一般人の命をいとも容易く奪える力を持つ鬼を、より大きな力で斬り伏せて返り血を浴びながら平然としている姿に恐怖するのだ。
それは義塾側の地域で発生する現世侵攻と、デモンシードにより完全に鬼と化した不良たちによる暴走を鎮圧するための戦闘であり、もちろん義塾の偉い人たちなどは大喜びで戦果を喧伝するのだが……当たり前の話ではあるが、机の上で書類を相手にするのと現場で生の感情をぶつけられるのではまるで意味合いが違う。
原作のストーリー、では。
原作のストーリーでは……そこでイケメンとのイベントが挟まれる。落ち込む鈴音を励まして、なんかこう、俺はちゃんとキミの頑張りを知っているから〜みたいなヤツだ。
そしてそれは、攻略対象のルート分岐に大きく関わる大事なイベントでもある。
攻略対象のルート分岐に、大きく関わる、大事な大事なイベントでもある。
まぁ、つまり。今回もそういうことだッ!!
それにしたって一回マジ殴りされたぐらいでそんなに気持ちが切り替わるかって? ここにおわす方々を何方と心得る。畏れ多くも世界が認めた主人公、メインヒロイン日比野鈴音であらせられるぞ。それに最後まで付き合えるだけの素質がある仲間たちなのだから一を聞いて十を知るぐらいはできるに決まってるだろ常識ないんですか?
もう少し真面目に解説すると、彼方の腹パンのわからせ力が単純に高いという理由もある。
学園生や義塾生の模擬戦、そして不良チーム同士の結界戦、そのどちらも戦闘は手段であって目的ではない。鍛錬の成果を示す、学生ランキングの格付けを上げる、縄張りを広げる、など。そうした『目的』を達成するための手段として『戦闘』を行うのだ。
しかし今回の彼方はそれらとは真逆。戦闘そのものが目的なのだから受ける印象も全く違うものになる。それはどれぐらい違うのか? 生活の糧を得るために自然の恵みに感謝しながら狩猟を行う山林の狩人と、狩猟本能と生存本能が血で血を洗う相思相愛の関係にあるヤーナムの狩人ぐらい違う。
バカは死ななきゃ治らない、という格言の応用編。喧嘩の甘えもガチ殺意による死に戻りを体験すれば考え直す。そんなものイケメンにチヤホヤしてもらう権利のある乙女ゲーのヒロインには必要ないだろうって? それはそう。
ともかく。
彼方の思惑通りかどうかは微妙なラインだがこうして下地は整った。心構えが違えば突発的な状況変化への対応力も変わってくる。プリズムダストのほかのメンバーはともかく、鈴音たちに関しては攻撃が向かってくるまでポカンと棒立ちしてました〜みたいな無様を晒すことはないだろう。
これにて転生者による現地ヒロインのためのチュートリアルは完了であるッ! ……とはもちろんならないッ! ここにおわす御方を何方と心得るッ! 畏れ多くも世界の理から主人公ロールを押し付けられたメインヒロイン日比野鈴音であらせられるぞッ!
自分の未熟さを実感したならば次をなにをするか? 当然、それを叩き込んでくれた人物に頭を下げて教えを請うに決まっている。学生らしく自惚れることはあっても向上心を捨てたワケではない。これから過酷な死にゲーの世界に飛び込む運命にあるヒロインが、目の前に成長のためのチャンスが転がっているのを指を咥えて眺めているだけなんてあり得ないのだッ!
と、いうことで次回は彼方に鍛えられた2代目ヒロイン鈴音によるチュートリアル撃破チャレンジであるッ!! トレーニングの描写? そこは文字数と話数が増えちゃうのでカットで。
冥界童女
『試練は乗り越えられるモノを与えるからこそ試練なのであって、負け以外の運命を認めないならそれは試練じゃないから。ゲームの負けイベ? アレは物語に深みを与えるための別腹だからヨシッ!』