タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 気候の変化に執筆速度が負けていますが初投稿です。



バタフライエフェクトが脇役にだって影響を与えるのは当たり前こと。

 時間は流れて結界戦当日。

 

 2代目スーパーヒロイン鈴音の所属するプリズムダストも、今回の対戦相手であるブラッドファングも、大手チームほどではないが人気はそれなりにある。

 戦場に選ばれたブラッドファング側の縄張りである廃工場にはそこそこの観客が集まっており、賭けに興じる者や動画を撮影する者、今後の結界戦に備えて様子を見に来た他所のチームの偵察班や変装した静流と棗などが試合の始まりを待っていた。

 

 

 程よく注目されていることを確認し、金髪ピアスに長い襟足と露骨にチャラい雰囲気の男が静かに笑う。この男こそがブラッドファングのリーダーにしてチュートリアルでプレイヤーに倒される運命を背負わされたやられ役・佐々木であるッ! 

 

 

「おーおー、今日もヒマな連中が集まってるねぇ〜。毎日キッチリ掃除しておいた()()があるってもんよ」

 

「そっすね〜。でも佐々木さん、どうせならもっと宣伝とかしてギャラリー増やしたりとかってしないんスか? でっかいチームなんかはチケット代とか、動画の投げ銭とか、けっこう稼いでるんでしょ?」

 

「やだよ、メンドくせぇ。そりゃよ? 俺だって金は好きさ。でもよ、そーゆーのはぜってぇトラブルに繋がるからロクなことになんねぇよ。金が欲しけりゃ大人しくバイトでもするか、そうじゃなきゃデケェ箱に移っちまいな」

 

「バイトはともかく、移籍なんてそれこそイヤですよ面倒ですから。言ってみただけッスよ、言ってみただけ。それに、ぶっちゃけ最近のデカいチームってなんか、こう……スカルクリスタルの連中とか、宮本さんだって……」

 

「……チッ。おい、メンバーにもっかい声かけとけ。スカルクリスタルはもちろん、他所の箱のバカどもが余計な“商売”しようとしてたらすぐに報告しろってな。結界戦が始まってても構わねぇ、テメェらで対応しねぇで必ず俺んトコに持ってこいってよ」

 

「うすッ!」

 

 

 ここで佐々木が言う商売とはもちろん鬼の力を封じた怪しいお薬デモンシードのことである。

 

 原作のストーリーでは佐々木もまた力を求めてデモンシードを服用することになったが、この世界線の彼はデモンシードのことを求めるどころか普通に嫌っていた。

 何故そんな変化が起きたかといえば、前回の現世侵攻にて彼方が意地を通し切ったことにより一般人の被害が抑えられたことが影響している。本来の流れでは多数の死傷者を理由にデモンシードの開発と流通が加速するはずが、この世界では条件が変わり停滞しているのだ。

 

 鬼の力に対する恐怖と、暴力の魔性による誘惑。それらの影響が薄いこの世界線では原作と比べてデモンシードに魅了される人間が少なかった。

 

 さらには、佐々木本人の気質による補正もあるだろう。

 

 原作ではデモンシードを服用して鬼の力を手に入れた佐々木だが、その最後は“さらなる力を得るために一般人を生贄にする”という場面で怖気付いたところを始末されて退場となる。

 覚悟の足りていない小悪党が、本物の悪党に媚びて取り入ったものの、結局は日和って見限られるという特に珍しくもない噛ませ役の最後でしかない。

 

 しかし、視点を少し変えればそれは“自分自身が危機的状況であったにも関わらず一般人を犠牲にすることができなかった”とも評価できる。

 

 誤魔化そうと思えば誤魔化せたかもしれない。

 

 言い訳をして乗り切ることもできたかもしれない。

 

 なんなら、これは仕方がないことだと、脅されているから逆らえないのだと責任転嫁をして俺は悪くねぇと主張することだって可能だったはず。

 

 だが佐々木はそうしなかった。チャラい外見のやられ役に相応しく死の恐怖を前にして泣きながら命乞いをすることはあっても、自分が助かるために他人を犠牲にすることはできなかったのだッ!! 

 

 

 原作にて無様を晒しながらも己を曲げることなく散っていったチャラ男系モブキャラ・佐々木。様々な巡り合わせにより侠気が強化され、鬼の力に魅入られた宮本を見限った彼の部屋には、毎日コツコツとアルバイトをして貯めたお金で購入した『初代シャドウレッド・武神降臨セット』のフィギュアが飾ってある。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「……へぇ。ちったぁマシなツラになってんじゃねぇか。どうやら俺からの()()()()()はお気に召したようでなによりだな? なぁ、北条よぉ?」

 

 

 挑戦者であるプリズムダストのメンバーが、北条と呼ばれたリーダーを先頭に結界の内側へと侵入してくる。

 挨拶代わりの挑発、これはどっかの誰かと違って本当に挨拶のようなものである。戦闘前の、観客のためのパフォーマンスのようなものなのだが……。

 

 

「フッ……プレゼント、か。ある意味、そいつも間違っていないというか……」

 

「あぁん?」

 

「佐々木。あの日から、お前らに不覚を取ってから、私たちは今日の結界戦に備えて特訓してきた。そうしなければお前たちには勝てないだろうと予感していたからな。ただ……なぁ、佐々木。お前、自分の肋骨を見たことはあるか?」

 

「は?」

 

「私はあるぞ」

 

「はぁ?」

 

「顔面を殴られると思った。だから私は両腕でガードした。しかし喧嘩の最中に……いや、真剣勝負の最中に自分で視界を塞いだ愚かな私は一撃で胸を貫かれて肋骨を引き抜かれた。そして自分の骨を眼球に突き立てられて私は人生初の死に戻りを体験した」

 

「…………マジかよ」

 

「真剣勝負を口にしたからには加減などしないと言われたにも関わらず……本物を相手に結界戦と同じ心構えで挑んだ結果、全員が同じ末路を辿ることになったよ。あまりにも……先生の戦い方が苛烈なものだから、メンバーが質問したんだ。もしも結界のない場所で、悪事を働いた人間を相手にしなければならないときはどうするのだ……と」

 

「どう、すんだよ?」

 

「ニッコリと微笑みながら、とりあえず手足を切り飛ばして氷漬けにすれば無力化できるから問題ない……と、返された」

 

「とりあえずってレベルじゃねぇぞソレは……ッ!?」

 

 

 勝負の前に自分たちはアレだぞコレだぞと相手を威嚇するのも不良チーム同士の結界戦では定番であり、相手の自慢話を誇張表現だとして揚げ足を取ったり取られたりするのだが……佐々木も、ブラッドファングのメンバーも、誰も北条の言葉を否定しなかった。

 全員、顔色が悪い。普通ならリーダーの舌戦を後押しするような賑やかしをするはずが、プリズムダストのメンバーは誰も彼もが沈黙したままもの凄く嫌そうな顔をしているだけ。自慢語りなんてとんでもない、むしろ思い出したくもないというオーラが放たれているかのようである。

 

 

 事実、彼方はプリズムダストのメンバーに一切容赦しなかった。鈴音たちの様子見に来たついでの、ただの興味本位だと察した上でひとり残らずエーテル粒子化を体験させたのだ。

 

 多少の荒事の心得があるとはいえ一般人にそこまでする必要があるのか? と思うかもしれないが、必要があると思ったからこそ彼方は手加減しなかったのだ。何処に()()()が埋まっているのかわからない地雷原を好奇心だけで歩こうとするバカを殴って止めてなにが悪い。

 鬼切姫・弐のストーリーが動く切っ掛けは行方不明者の発生と変死体の発見から。それがプリズムダストのメンバーに適応されないという保証はない。最終的な辻褄合わせは世界が調整してくれるにしても、そこに至るまでのルートは変えられることを彼方は知っているのだから。

 

 最強の力に目覚めたので最強を目指すという、偶然にも醤油ラーメンが出てきたのでせっかくだから俺は醤油をかけるぜ! みたいなノリのラノベ主人公のようになんでも解決できるようなチート能力があるのならともかく、知識はあってもそれを押し通すための暴力を持たない彼方は備えることしかできない。

 相手は組織単位で動いている。原作知識があったところで権力も財力も暴力も足りていない転生者では予防は不可能。だからといって対処できるかと言われれば、犠牲者が出た時点で手遅れ。ならば、せめて好奇心は猫を殺すという教えに従い喧嘩上等メスガキたちを拳骨でわからせるしかない。自ら危険に飛び込む者はどうなるのか、と。

 

 

 ま、当然のことだが思春期真っ盛りの若者に大人の気遣いがちゃんと伝わるかどうかは別問題だったりするワケで。世界から主人公補正を押し付けられている鈴音たちはともかく、ほかのプリズムダストのメンバーが慎重さを身につけたかどうかは不明である。

 

 

 ほんで。

 

 

「ま、まぁいい。いや後ろの連中の様子はあんましよくねぇが……とにかく、だッ! ギャラリーも待ち侘びてることだし、結界戦の開幕といこうじゃねぇか。それで……テメェらの代表は宣言通り、か?」

 

「そうだ。残念だが私は本調子じゃないんでな。不意打ちを食らったときのケガは死に戻りでリセットされたが、未だに肋骨のあたりがどうにも……穴が空いて中身が飛び出していないか確認しないと落ち着かない」

 

「…………なんつーか、大変だな」

 

「フッ……お前も喧嘩を売る相手は間違えるなよ? いや、本当に」

 

「そうか……」

 

 

 アホの介入により原作よりもちょっとだけ歩み寄れてる雰囲気を醸し出しつつ、それでも結界戦は止まらない。

 

 原作ではタイマン形式ということで代表者が、プリズムダストからは2代目スーパーヒロインを襲名できるか否かの境目に立つ鈴音ちゃんが、ブラッドファングからは名誉チャラ男と化した佐々木くんが前に出る。

 原作ではなんやかんやの問答がありつつブラッドファング側が約束を破り乱戦という名目でひとりずつチュートリアル要員として倒される運命にあったが、この世界ではそうはならない。お前たちは手を出すな、と。佐々木がピアス等のアクセサリーを外すという形で合図を送ったからだ。

 

 佐々木がプリズムダストのメンバーを気に入らないのは不良と優等生の間を都合良くフラフラしているのが理由だった。

 

 原作では物語の都合上ヒロインとイケメンを引き立てるためにカス扱いされるが、彼は彼なりの美学があってブラッドファングのリーダーを務めているのだ。

 だからこそ中途半端に喧嘩を楽しんでいるプリズムダストを嫌っていたのだが……どうやら本物の暴力というものを体験したらしい、となれば話は変わってくる。具体的になにが違う、なんて言語化する必要はない。目付きの変化だけで充分、それが不良マインドなのだから。

 

 

 もっとも。

 

 それじゃあ佐々木は本物の暴力を知っているかというと、それもまた別の話だったりするワケで。

 

 

 

 

「────ラァッ!!」

 

 

 

 

 戦闘開始の合図……そのへんの廃材をぶつけるだけの簡素なゴングの音が響くと同時に、鈴音が一瞬で全身に霊気を巡らせて佐々木に殴りかかったッ! 

 

 

「ッ?! チィッ!!」

 

 

 出遅れたことを理解した佐々木は咄嗟に防御の姿勢に切り替えたッ! 

 

 だが。

 

 

(〜〜〜〜ッ!! ってぇッ!? クソッ、拳そのものは軽くても衝撃が背中まで抜けやがるッ!)

 

 

 まずは小手調べ、ぐらいの心積もりでいた佐々木。

 

 まずは小手調べ、なんて企もうものなら手首どころか腕ごと切り落としてくるような相手に鍛えられた鈴音。

 

 

 ウォーミングアップから始まると思っていたアスリートと、開幕から決戦を始める気でいた戦士。それらが拳を交えれば、そりゃあアスリート側が地面を転がることになるッ! 

 

 

 だがしかし、実戦経験ならば佐々木も負けていない。出遅れたことを理解した彼はそのまま片膝立ちの姿勢となり、鈴音の追撃に備えた。

 迫る蹴り技、もちろん霊気のガードが完成していない佐々木では受けきれない。ならば、受けなければいい。そのまま押し込まれるように後ろに倒れた佐々木は────コンクリートの地面を支えにして鈴音の胴体を蹴り上げたッ! 

 

 

「え? ──あだぁッ?!」

 

 

 変則的な巴投げ、鈴音が背中から落ちるッ!! 

 

 

 が、もちろんこの程度で倒れっぱなしになるようでは2代目スーパーヒロインとして世界が認めるはずがないッ! 受け身に失敗しようとも即座に起き上がらなければ「サッカーしようぜ! お前ボールな!」が有言実行される地獄の3秒ルールでタフネスを鍛えられた鈴音は止まらないッ! 

 

 母親から受け継がれた鬼神の血による影響か、それとも乙女ゲーヒロインとしての主人公補正か、情はあっても容赦は無い特訓に鈴音はわりと普通に適応してみせた。

 その様子を見ていた仲間たちの彼方へ対する評価はドン底まで落ちたが、どうせこれが最初で最後の縁になると思い込んでいる彼方はそんなもの欠片も気にしていない。

 

 特訓の成果を発揮して、鈴音が佐々木に殴りかかるッ! ……と、思いきや。 

 

 

「カハ……ッ!?」

 

 

 霊気のガードによりダメージこそ抑えたが、衝撃により肺から空気を押し出されたのがまずかった。いくら気合いと根性に自信があろうとも、さすがに呼吸を崩されたのでは動きも止まる。

 

 

 僥倖、望外の数秒。

 

 先手を取られてリズムを崩されたことを理解している佐々木が腹を括る。チュートリアルの仕上げに油断したまま2代目スーパーヒロインにブッ飛ばされるはずだった男が、油断も慢心も抱くこと無く体内でエーテルを循環させて迎撃の体勢を整えた。

 

 長期戦は、不可能。

 

 初動で負けた。いまから無理やり霊気を高めても、ウォーミングアップが不十分なままスタートを切ったせいで最大値には届かない。本物の戦いを知る人間に鍛えられた者と、喧嘩しか知らない者の差。

 狙うはカウンターによる一撃決着。それしか勝ち目が残されていないが、それしか方法がないと理解したことで逆に迷わずに済んでいる。スキルを使った派手な殴り合いを期待しているギャラリーには不服な結界戦となるだろうが、そんなことは佐々木の知ったことではない。

 

 

 鈴音の呼吸が整い。 

 

 佐々木の霊気が整う。

 

 

 

 

「佐々木ィィィィィィィィッ!!!!」

 

「日比野ォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 

 衝突するふたつの霊気の塊ッ! 

 

 交差する拳ッ!! 

 

 廃工場そのものを震わせる大気の鳴動ッ!!!! 

 

 

 その決着は。

 

 

 

 

「……へっ。テメェ、ちったぁマシな……ツラ……できる、ように、なったじゃ……ねぇか…………」

 

「切っ掛けは……アンタ、だけどな。そうじゃなきゃ、アタシは、先生と出会えなかったワケだし」

 

 

 

 

 勝者、日比野鈴音ッ!! 

 

 不良同士の喧嘩バトル、それも拳によるクロスカウンターからのガッツポーズが乙女ゲーヒロインの姿として相応しいかどうかはともかく。一瞬の攻防に全力で向き合って勝利をムギュッと引っ掴む姿は死にゲー主人公として相応しいのは間違いないッ!! 

 

 

 あとは握手でもして仲直り、とまではいかなくても互いに認め合うことでめでたしめでたしとなる────ほど死にゲーのお約束は甘くない。

 

 

 死にゲーでチュートリアルのボスを討伐したらどうなる? 

 

 知らんのか、ご褒美にゲームオーバーがプレゼントされる。

 

 

 

 

「オイオイオイオイ佐々木くぅ〜ん? お前よ〜、あんだけ自信マンマンだったのになぁ〜に負けちゃってんだよぉ〜? ったく、だから言ったんだよ、お前も無駄に意地なんか張ってねぇでコイツを……大人しくデモンシードを食っとけってよぉ〜?」

 

 

 原作ではカットシーンというシステムの強制力により鈴音(プレイヤー)を病院送りにしてくるイベントボスにして、転生者の介入によりこの世界では鈴音の戦いが『暴』から『武』に進化するための練習台にされることが決定している男・宮本がデモンシードをボリボリ食べながらの乱入であるッ!! 食べながら歩きながら喋るとか舌を噛むと危ないから読者の皆は真似しないようにしようねッ!!




 力に溺れて弱者を嬲ることに喜びを覚えるタイプのイベントボスの男

VS

 遥か格上の鬼を殺すため戦うことに喜びを覚えるタイプの男に少しだけ鍛えられたメインヒロインの女

ファイッ!!
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