タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 久し振りなので初投稿です。



初代の技を2代目が引き継ぐ展開はバトル物の王道だから。

『これは偶然か、それとも必然か。無銘彼方のこれまでの行動を鑑みると、そのどちらも有り得るから判断に困るな』

 

「彼女たちへの仕打ちを『まるで大昔の鬼討ちの訓練のようだ』と評価した玄武の考え、それほど間違ってはいないのかもしれませんよ?」

 

 

 不思議な薬を自主的に摂取していた宮本なる男の外見が────特に右腕から始まり顔の右半分まで浅黒く変色して目の色も真っ赤にギラギラと光っているのを確認した静流と玄武は、不良少女たちの申出に対してどう考えても過剰としか思えないほど容赦しなかった彼方の行動について答え合わせを行っていた。

 もちろん彼方の正体が転生者だと知らない静流と玄武では答えなど合うはずがない。原作のストーリーより少しでもマシな展開になるかな〜、なればいいな〜? ぐらいの気持ちで特訓していたなどと想像すらできない静流たちにしてみれば、彼方が何かしらの不穏な気配を察知して鈴音たちに危険から身を守るための手段を死ぬ気で叩き込んだようにしか思えなくなってしまっている。

 

 

 というか宮本から普通に鬼の妖気を感じる時点で色々と大問題しかないし、そこから想像の連鎖はいくらでも勝手に繋がっていく。

 

 

 前世の知識があるせいで彼方はまったく自覚していないし気付いていないが、静流と玄武にしてみれば未知の存在である鬼仙アテルイの奇襲を初見で完璧に対応した戦闘センスの持ち主という評価になる。

 そんな男が鬼との戦闘に関わる事柄で無駄なことなどするはずがない、と決め付けてしまったとしても仕方のないことだろう。特に玄武は彼方が冥界童女に取り憑かれているのを知っているためどんな厄ネタが転がり込んできても納得してしまう状態にある。

 

 ついでに言うなら、今回の結界戦を彼方が見に来なかったことも思考を混乱させる要因になっていた。

 

 自分たちが関わるより先に真白の迷宮攻略を手伝っていたことを知っている静流は当然鈴音を気に掛けるものだと思っていたが、あれだけガチで特訓を施しておきながら彼方は結界戦にほとんど興味を示さなかった。

 そして喜多の人間として一般人による結界戦について良くも悪くも聞いていた静流が、ならば自分ひとりでも様子見に行くべきだろうと準備をしていたところに彼方からひと言「気を付けろよ」と声を掛けられた辺りから思考の沼は始まっている。

 

 

 もちろん彼方に他意はない。

 

 これが紅蓮ならちゃんと額面通りの挨拶として受け取り適当に返事をするだけで終わっていた。思慮深い静流だからこそこんな有り様になってしまっているというだけの話。

 

 

 お給金も出るのだから社会人として仕事の優先順位を振り分けて迷宮管理人としての責任をしっかり果たそうとしているだけの彼方を置き去りに、静流は現地の事情に詳しい棗に協力を頼み現在に至る。そこで一般人が謎の錠剤を使用して鬼の妖気を纏うワケだから勘違いと思い込みは加速する運命にあるのだ。

 

 これが真白ならとりあえず乱入して動けなくなるまで殴ってから事情を吐かせるだけで終わっていた。思慮深い棗を応援に呼んでしまったのであれば思考の沼がよりズブズブになるのも当然の話。

 

 

「喜多くん。あの鈴音さんという子は彼方くんが鍛えたのですよね?」

 

「鍛えた、という表現はだいぶマイルドになりますけど」

 

「なら、結界内部だけの戦闘に留まっている間はこのまま様子見に徹しましょう。あのような代物は個人で簡単に用意できるものではないと思います。ここで暮間と喜多の名を出して割り込むのは簡単ですが────」

 

「それをすれば、あの宮本という方の背後に存在するであろう誰かはより慎重かつ狡猾にアレをばら撒くようになる……でしょうね。わかりました、ギャラリーの皆さんに被害が及ばない限りはギリギリまで大人しくしていましょう」

 

 

 雰囲気で流されそうになるが、言ってることは一般人を囮に使って様子見しましょうという最低な内容である。鈴音は義塾に在籍しているだけで能力者として正式なトレーニングを積んでいるワケではない。それを玄武の加護を持つ侍と鵺の加護を持つ巫女が明らかにヤバい案件に巻き込まれているのを観客席から見ているだけというのは普通に考えたらアウトだろう。

 だからといってふたりの判断が間違いかというとそれも難しい問題だ。本人は学生でも実家のネームバリューは別物である。本来のストーリーでは存在しなかった大物が乱入したとなれば、デモンシードの拡散を企む黒幕たちの警戒レベルが跳ね上がるのは当然の流れとなる。より慎重に、より狡猾に。本来ならば主人公である鈴音たちにとって手掛かりとなるようなミスも丁寧に処理して活動されようものなら、原作よりもデモンシードの被害者が増えてしまう可能性だってある。

 

 鬼と殴り合いながらイケメンとラブラブしていれば事態が解決した1作目と違い、イケメンとラブラブしながら人間の悪意に立ち向かう2作目の鬼切姫はちょっとだけフラグ管理が面倒なのだ! 

 

 

 とはいえ。

 

 戦闘においてシンプルな殴り合いが有効なのはシリーズ通して変わらないワケで。

 

 

(……強い。佐々木よりも、アタシよりも、この宮本って野郎は格上だ。歪んだ霊気? の流れがそう教えてきやがる。だが……それだけだ。確かに強いが先生みたいな底知れ無さは感じねェ。だったら問題無ェな。なんせ、先生より弱ぇンだからよ)

 

 

 両手を前に構えるオーソドックスな徒手空拳。

 

 武器には頼らない。

 

 否、頼れないのだ。勝つためには。

 

 

 無銘彼方の教えは一方的な暴力に留まらず、途中からはちゃんと『技』のトレーニングも追加して鈴音たちを鍛え上げている。その多くは能力者として基本的な訓練ばかりであったが、地味なトレーニングばかりではモチベーションが保てないことを知っている彼方は少しだけ武器の扱いも手解きしたのだ。

 武器の扱いを知れば、それはそのまま防御のテクニックに活かされる。刀剣スキルを扱えるからこそ斬撃見切りへの理解度が高まるように、槍スキルを扱えるからこそ刺突防御の効果が高まるように、それを“知る”という行為はそれだけで戦いを有利にしてくれるのだ。そして才能に恵まれなかったが故にあらゆる武器スキルを鍛え上げた彼方は鈴音の指導者としては理想的な存在だった。

 

 一見すると腕による打撃。

 

 しかし変質した右腕は特殊武器カテゴリーの爪にも近い。

 

 そして繰り出される攻撃は、その鋭さから斬撃として受けることになるだろう。

 

 冷静に宮本の繰り出す攻撃の種類を予測する鈴音。だったら得意の木刀を構えたほうが勝率はより高まりそうだが、彼女はまだ木刀を身体の一部として扱えるほど刀スキルが高くない。

 その領域に至るためには半端な才能だけでは足りないのだ。彼方がそうであるように、武器を身体の一部の如く霊気を纏わせ五感すら備えるかのように扱うには薄皮を1枚1枚貼り重ねるような努力が必要となる。但し本物の天才は除く。

 

 

 だからこそ、拳なのだ。

 

 プリズムダストの流儀の都合もあって、なんだかんだ鈴音はゲンコツ勝負も得意なタイプの乙女ゲーヒロインである。己の五感を過不足無く使うことを求められるのであれば、これほど頼れる武器は無い。

 

 

「さぁ〜て、と……。つまんねぇ茶番なんてリスナーもオーディエンスも求めちゃいねぇンだわ。義塾だの学園だの、ガキのお遊びじゃ刺激が足りねぇってお客サマを満足させなきゃイケねぇンだわ。だから、ヨ? 是非とも愉快な悲鳴を聞かせてくれよザコらしくなァッ!!」

 

 

 それは大振りで、雑な、ただ力任せに腕を振るう一撃。

 

 しかしデモンシードの効果により半人半鬼へと変性した肉体から放たれた一撃である。指先が触れただけでも服どころか皮膚が破れて肉が切り裂かれることだろう。

 それを鈴音は丁寧に避ける。ギリギリの見切りではなく、しかし大袈裟に避けて体勢を崩すことのないように。調子に乗ってジャンプなどしようものなら、無防備になった空中から地面に叩き付けられるという流れを繰り返して学習した回避方法であった。

 

 

「ほぉら、踊れ踊れッ! 死に物狂いで逃げろ逃げろォッ! ほんのちぃっとぶつかっただけでもカワイイお顔がグチャグチャに抉れっちまうぞォッ! ヒャハハハハハァッ!!」

 

 

「……の、野郎……ッ!」

 

「落ち着け、佐々木。鈴音のことなら心配ない」

 

「北条……? テメェ、本気で、言ってんのか……アレは……宮本のヤツぁ、どうみても……普通、じゃ……ねぇだろ……が……ッ!」

 

「あぁ、本気で言っているとも。それともお前の目には、鈴音が追い詰められているようにでも見えているのか?」

 

「…………マジ、か」

 

 

 荒ぶる感情に反してダメージの残る肉体は動いてくれない。納得できずとも強制的にギャラリー扱いを受け入れるしかなかった佐々木だが、宮本の連撃を回避し続ける鈴音の様子を見て思わず感嘆の声がこぼれる。

 

 デモンシードで強化された宮本の一撃は、確かに鈴音の霊気のガードを容易く貫くのだろう。

 

 だが、そんな必殺の連撃が鈴音に届くことは絶対にあり得ないと確信した。それほどまでに、鈴音の回避技術は完成している────ように見えている。 

 

 

 見えている、だ。

 

 完成している、ではない。

 

 

(……いや、思ったよりかなり速ェぞコイツッ!? ってか速さだけなら先生より上じゃねぇかッ! どういうコトだよそれはッ! だって、こんなん、絶対先生のほうが強ェのに、ステータスは宮本ってヤツのが高いんじゃないかって圧力が……いやワケわかんねぇんだけどッ!?)

 

 

 気合と根性で焦りが表情に出ないよう踏ん張っているだけで、鈴音の内心はバッチリ荒ぶっていた。

 

 ちなみにコツコツと取り込んだエーテルを経験値としてステータスに割り振り始めているので、単純なステータス比較でも宮本より彼方のほうが普通に強い。

 ただ外側に漏れ出す霊気の流れが微々たる量であるため実ステータスより弱く感じるというだけの話である。防御系スキル獲得のためとはいえ低いステータスで強敵と戦い続けてきた彼方と違い、暴力しか知らない宮本では霊気のロスを防ぐ技術など扱えるハズがないのだ。

 

 そんな技術面での格差を理解できるレベルに到達していない鈴音が混乱してしまうのも無理はないのである。

 

 もっとも。

 

 

(落ち着け、アタシ……ッ! 確かに速ェ、確かに強ェ、だけどちゃんと見えてるッ! 先生にブチ殺されまくった経験も、動きの基礎を教えてもらったことも、ちゃんとアタシの中に吸収されてるッ! 油断だけ、油断だけしなけりゃ死にはしねェ……ッ!!)

 

 

 初期ステータスでは全ての攻撃が即死級だとしても、モーションが単純であれば全身全霊で逃げ続ける限り死にはしない。死にゲーの楽しむための()()()を学んだプレイヤーであれば誰もが実行する、一切の攻め手を封じてボスの動きを見切ることにリソース全振り。

 それがメインヒロインである鈴音だからこそのセンスによるものか、それとも半端な覚悟では反撃など許されないガチ勢から喧嘩と死合の違いをわからされた結果なのかはともかく。本来ならばムービーイベントで殴られてそのまま入院コースだった運命は確実に崩れ始めていた! 

 

 

(どうする? 動きは見えてるがアタシの手札じゃ宮本のガードを貫けねぇ。なにか、ヤツに一撃ブチ込むための手段は────いや、あるッ! ステータスが足りねぇアタシでもダメージを与えられる方法があるじゃねぇかッ! ちと難易度はエグいが、可能性があるなら試してみるっきゃねぇッ!)

 

 

 逃げる。

 

 逃げる。

 

 ひたすら逃げる。

 

 

 横に飛んで跳ねて転がって、一生懸命それこそ必死に逃げ回れば逃げ回るほど宮本は上機嫌になり……その動作は隙だらけになる。

 

 

 辛抱強く。

 

 闘志を研ぎ澄ませ。

 

 起死回生の一手を手繰り寄せるために無様に地面を転がり続けながら、その瞬間だけは決して見逃さないと全身の霊力を拳に集中させていた鈴音の前に────ついに、その瞬間はおとずれたッ! 

 

 

 縦方向の大振りッ! 

 

 回避、成功ッ! 

 

 地面に指先が突き刺さり、致命的となる動作の停止ッ! 

 

 

 そして────ッ!! 

 

 

 

 

 

 

 

「そぉいッ!!」

 

「は────ギャァァァァッ?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 鈴音の親指が宮本の眼球を貫いたッ!! 

 

 顔面をおさえてのたうち回る宮本。絶対有利を信じて攻撃にばかり意識を持っていかれた弊害か、ステータスの高さで充分受けきれたはずの目潰しがそのまま素通りして致命傷となるッ! 

 バトル漫画ではそこそこ出番のある目潰し攻撃だが、砂かけやスプレーならばともかく指による目潰しはかなりの高等技術。それが成功したということは、それだけ相手の動きに鈴音が対応できていたという証明。

 

 おめでとう無銘彼方! キミがメインヒロインである鈴音と攻略対象であるイケメンたちの交流の余地を残すために行った変則的な基礎トレーニングは、こうしてオーガニック魔眼殺しの継承という形で結実したぞ! 

 

 

「……どうだぁッ!!」

 

 

 ヒロイン日比野鈴音、親指が真っ赤に染まった拳で堂々と勝利のポーズッ! 

 

 完全に他人事で無責任なギャラリーは泣き喚きながら逃げ出した宮本のことをゲラゲラと笑っているが、先ほどまで正々堂々とした勝負に満足していた佐々木とその部下たちは突然の外道スキル発動に普通にドン引きである。

 そして北条たちプリズムダストのメンバーもまた、宮本の異常な変化というイレギュラーを無事に乗り越えてくれたことに安堵しつつも……チームの流儀を誰よりも尊重し、如何なる不利な状況でも最後まで真っ向勝負に拘っていた鈴音の心変わりを素直に喜べない。

 

 

 これでオープニングイベントが潰れてしまったのなら、鈴音が入院したあと巫女として転科する機会も無くなってしまうのではないかって? そこは心配ご無用、苦笑いしている静流の横で妹弟子の成長を喜ぶ姉弟子ムーブでウンウン頷いている棗がのちほど直接スカウトに動くから大丈夫だッ!




世界の理
『?????』

冥界童女
『wwwww』


『勝てば官軍って言葉もあるから……まぁ、な?』

玄武
『実際、素人の喧嘩屋に目突きという高等技術を学ばせたのだから賞賛に値するのは事実だろう。公的な試合でアレをやったらブーイングは凄そうだが』
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