タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
早くも夏バテの気配を感じていますが初投稿です。
2代目ヒロインが女子力穢れなく道険しとめでたく最初の一歩目を踏み出したころより時は少し巻き戻り。
「……うん、俺もちょっと珍しいなと思って。静流が結界戦に興味を持つイメージ、あんまりないよな」
『以前から話題にはなっていたらしいがな。生憎と、オレは自分を鍛えるのに手一杯であまり詳しくはしらないが』
「それも朱雀の侍としてのお役目でしょ? なら仕方ないだろ。真面目に努力してたってコトなんだし。それで、到着は明日の昼前ぐらいでいいのか?」
『一応な。近くまで来たら連絡はするつもりだ』
「あいよ。それにしても、静流だけじゃなく紅蓮までコッチに来るとはねぇ。学園側のメンツとか、そういうのは大丈夫なんか?」
『さぁな。今回の話は増永の家ではなく、おばあちゃんからの頼み事だ。大人たちの都合など知ったことじゃない』
「いや、まぁ、いろいろ苦労はあるんだろうけどさ。やっぱりなんだかんだ子どもは大人に守られてるモノだから、そこはホラ」
『貴様に言われなくても理解している……つもりだ。学費を親に賄って貰っているのは事実で、いや、こういう考え方をしているうちは未熟なのかもしれないが』
「そこは自分で折り合いをつけて、どうぞ。いっそ朱雀にでも相談すr」
『断る』
「……左様で。ま、いいけど。そんじゃまた明日、よろしくな」
『あぁ。よろしく頼む』
ピッ♪
「……原作の紅蓮ルートに登場したときは優しいお婆さんだったが、ゲームの設定がそのまま反映されているなら、お若いときには随分とご活躍なさっていたはず。そんな女傑の用向きとなれば、やっぱり鬼切姫・弐のストーリー絡みか? プレイしてるときは人間タイプのボス相手にいろんなスキル使って戦うのを楽しんでたけど、転生するってなると……そこにあるのは人の悪意、だもんな。そりゃ複雑だし厄介だよなぁ〜。あんまり関わりたくないなぁ〜。準備だけは進めておくけどさぁ〜」
まだまだ続く春休み、友人3人とアルバイトを兼ねた異なる土地での迷宮攻略は学生らしい生活も楽しんでいる彼方にとっても悪い話ではない。特に、現在進行形で真白に地道なアプローチを続けている風魔や大地と違い、すでにルートが消滅したことが確定しているであろう紅蓮と静流はタダの友人として気安く接することができる。
ついでに少しぐらいトラブルに巻き込まれても、そのまま放置して自分だけ逃げても許されるぐらいの実力者なのも原作知識を持つ彼方には好都合であった。いつ、どこで、どのようなタイミングで強敵とエンカウントするのか。細かい部分は崩せても大まかなストーリーの流れは世界が保証しているのは間違いない、ならばいざというときイチイチ説明をしなくても戦える主役級のほうが安心して押し付けられるというもの。
なお、こうして「ヤバくなったらせっかくだし俺は逃げるぜ!」とかほざいているこのアホが実際に想定外の襲撃を受けたときにどんな行動をしたのかは読者の皆さんもご存知の通りである。発言に対する信用とは、普段の行動により決定するのだ。
それはさておき。
ゲームでは主人公に一線を越えさせないために伽藍洞というとても都合の良い空間が常に用意されているが、そんなモノはモブキャラの自分には適用されることは無いという前提で彼方は戦いの準備を進めていた。
そんな彼にとって風祭神社を自由に歩き回れる管理者のアルバイトはまさに渡りに船、原作知識を利用して脅威に備えるのであれば薫風の庭の先にある裏ダンジョンに突撃しない理由がない。炎翁のおかげで鬼神との邂逅という解放条件は満たされている、あとは中で目的のものを揃えるだけ。
死にゲープレイヤーであれば、必要なら準備不足でも興味本位で強敵に挑むことがある。
同時に……死にゲープレイヤーであれば、必要なら準備のためにワールド全てを歩き回って強敵を狩る条件を揃える。
低いステータスと乏しい才能により鬼との戦闘だけを考えていた彼方は、これから“人間との戦闘で勝利するための能力”を獲得するつもりであった。
別に現状でもそれなりに戦えるだろうって? 汝、使うかどうかは別として取れるもんは武器でもアイテムでも全部取っとこみたいなプレイをしたことが無い者だけが彼方を咎めなさい。
◇◆◇◆
戸締まり確認を済ませ、万が一に備えて不届き者を懲らしめるための簡単なトラップも仕掛け、彼方は目的地である胡蝶夢幻回廊を目指して薫風の庭を進んでいたのだが……。
「初心者が利用するとはいえ、これが迷宮に暮らす鬼の姿でいいのか?」
「ブモッ?」
ザコ敵として闊歩していた猪鬼の腹を撫でる侍の図。
薫風の庭が全体的に明るくて爽やかなフィールドであることも相まって、ただの動物との触れ合いにしか見えない。
彼方は困惑しているが、猪鬼にしてみれば特におかしな行動をしているつもりはない。絶対に勝ち目の無い格上の人間が、まったく戦意を纏わずに迷宮に侵入してきた。少なくとも自分たちと戦いに来たのではなく、住処を荒らしに来たという雰囲気でもない。だったら余計な争いを避けるためにも媚びておくのは獣として妥当な判断である。
それを彼方は彼方でコイツら襲ってこないのか? と試しにインベントリに収納してある果物を与えてしまったものだから取り返しなんてつかないに決まっている。猪鬼たちは無銘彼方という侍は無害な存在であると判断し、ならば霊気と臭いを記憶して今後もトラブルが起きないように群れ全体で気を付けようと考えた。もしかしたらDLCエリアで手に入れた果実がビックリするほど美味しかったことも関係しているかもしれない。
ともかく。
素通りさせてもらえるなら彼方も余計な戦闘は望まない。スキルを獲得したり鍛えたりするには現在の猪鬼では弱すぎるし、エーテル結晶が欲しければもっと効率の良い迷宮はいくらでもある。
ついでに知らない間に鹿鬼も合流し、目的地と相まってなんとも風流な迷宮攻略なことだと呑気なことを考えながら進むことしばらく。
「あの〜、そこの人間さん? もしお時間があるようでしたらね、その、あたしのことを助けてくれたりなんて……お願いしたりは……できたりできなかったりしませんかね……?」
蝶の羽らしきモノを背中に背負い、なにやら植物のツタに絡め取られている手のひらサイズの小さな少女がひとり。
「いや、どんな状況なんソレ? お前、見た目はともかく鬼なんだろう? そんなツタなんか魔法スキルで取っ払えるだろ」
「いやぁ〜、それがですね……お恥ずかしい話なんですが、自分、こう見えて鬼の中でもクソザコでしてぇ」
「そうだね、こう見えてどころかどう見ても食虫植物に捕まってる羽虫だね。この場合は食鬼植物だけど」
「わかってるなら助けてくだせぇ〜! いや、そりゃあね? 人間と鬼とは相容れない存在であることはあたしも理解してるんですよ? でも、ホラッ! こんなザコ一匹に情をかけたぐらいでは現世どころか人間の子どもひとりだって害せないワケですからぁ〜、お兄さん、ここはひとつ器の広いところを見せてもらうって方向でぇ〜」
「んー? 今回は相性の問題ってだけで、お前がその気になれば人間なんて100人単位で殺せるだろう? なぁ、蝶鬼『夢喰い』さんよ」
「────え?」
「胡蝶夢幻回廊を支配するその鬼の恐ろしさは暴力に非ず。人の精神を蝕み、夢を支配し、終わりなき悪夢の牢獄にて恐怖と絶望を絞り出し糧とする。その回廊より抜け出すこと、常人には限りなく困難なり。唯一の光明たるは、その悪夢の牢獄を創造した本体を屠るべし。ま、その様子からしてお前の戦闘力が低いってのはウソじゃないんだろうがな?」
「ヒェッ」
身動きが取れない状況でなければ、蝶鬼はさぞかしガクブルしていたことだろう。
その性質から、この世界では未だに夢喰いの支配より脱出に成功した人間はいない。なにせ夢の世界でどれだけ本人が苦しんでいようとも、現実の世界では静かに眠り続けているようにしか見えない。まさか命の危機に関わるような状況であるなど想像できるはずもなく、周囲の者たちはとにかく回復スキルなどを駆使して看病を続けるのだ。
肉体的な損傷は一切無く、ただ尋常ではない精神と体力の消耗を。そして覚めたときには数ヶ月、長ければ10年以上の時を世間から置いていかれる絶望感。命に別状はない、という意味では生きているのかもしれないが……自力で歩くことも困難、社会的な地位も失い、友人知人もそれぞれの生活があり独り孤立する。さて、そんな状況で目が覚めて良かったですねと言われて喜べる者がいるだろうか?
と、こんな具合に夢喰いは人間たちを一方的に食料としてきた歴史がある。だからこそ、特に目的があるワケでもなくタダの確認のために原作知識を披露する彼方の存在は彼女にとって恐怖の存在でしかなかった。
「ま、本気で長時間拘束するような真似をすれば妖気を辿られて簡単に身バレするってんで、実際に死ぬほど悪夢を見せるなんてことは滅多にないらしいな? 自分たちの生活を荒らしにきた人間への報復、と思えば本気で追い詰めるのも当然の権利とは思うがね」
「……あの〜、もしかして、ですね? お兄さん、あたしたちの悪夢の牢獄から脱出した経験がおありだったりいたしますのでありますでしょうか?」
「いや、知らないよ? ただ、識ってるだけ。例えば、そうだな……夢喰いのスキルは強力無比ではあるものの、夢喰いという存在を認識した人間には無効化されるって制限の上に成り立ってる、なんてネタバレは効果あるかな?」
「アハハ……効果テキメンでショックのあまりこのままエーテル粒子化しそうなぐらいです……アノ、その、違うんです。本当に騙し討ちしようとかそういう話ではなくてですね、マジのガチであたしクソザコナメクジでこのままだとエサにされちゃうんですよぉ〜! そこまであたしたち夢喰いに詳しいなら手も足も羽も出ないのはご理解なすってんでしょ旦那ァ〜! なんでもするから助けてくだせぇ〜ッ!」
「ん? いまなんでもするって言ったよね?」
「え? あ、いや……」
「そうか、気のせいだったか。じゃあこのまま見捨ててもしょうがないよね。その食鬼植物の生態は知らないけれど、どうせ復活できるんだろうし放置しても大丈夫でしょ? いや本当に知らないから。鬼の生命力と常世側から流れてくる瘴気を利用してじっくりコトコト消化する性質から陰陽師とかが鬼避けのために愛情込めて育てることもあるなんて全然知らないから。だって俺はどこにでもいる普通の侍だもの」
「知ってますよねぇッ!? もう全部説明してますよねぇッ!? ……ち、ちなみに、あたしはなにをするなら助けてもらえるのでございますでしょうか……?」
「俺と契約して精霊になってくれ」
「……はぇ? 契約? 精霊に、って。そんなことでいいんですか?」
「うん。俺、これから人間相手に戦う予定があってさ。それも結構シャレにならない形で。だから、相手を生かさず殺さずで無力化するためにもお前の力を借りたいんだよ。夢の内容、操作できるんだろう? 悪夢を見せてエサにするんじゃなく、幸せな願望を見せたまま放置するなら妖気を辿られることもないかなって」
「すっごく爽やかに語ってますけど、言ってる内容は社会的に殺す手段が欲しいってコトですよね? いやまぁ、別にあたしは構いませんけど。有象無象の人間がどうなろうと関係ないですし、精霊化にも興味ありますし」
「それは良かった。んじゃ、ちょっと大人しくしててくれよ?」
フレーバーテキストに登場するのみで、その性質からプレイヤーと敵対することのない食鬼植物。なぜそんな物騒なものが鬼の住処である迷宮に生えているのかはともかく、敵対的でないのなら宥めるのも難しくない。そっと労わるように、優しく柔らかい霊気で包んだ手でゆっくりツタをどかしてやれば、仕方ないから今回は見逃してやろうと蝶鬼の拘束が解かれる。そして返礼にちょっと質の高いエーテル結晶を根本に埋めるのを忘れないのが無銘彼方クオリティ。
「それじゃあ、早速ですけどお兄さん。あたしの名前はどうなるんですかね?」
「あ……名前……。そういえば、そんな……うん。とりあえず、スイレンとでも呼ぶことにしようか。睡蓮、ちょっとわざとらしいような気もするけど」
「へー、結構シャレてますね。あたしは好きですよ、コレぐらいわかりやすいほうが。改めて言っときますけど、殴り合いはもちろん魔法スキルとかも期待しないでくださいよ? 繰り返しますけど、あたし、マジでクソザコですからね?」
「サポート役を守護るのも侍の役目だよ。そこはこれから信じてもらうしかないかな。でも快く引き受けてくれて助かったよ。これで断られてたら、このまま奥の迷宮まで乗り込んで手前にいたザコが命乞いでペラペラ秘密を全部ゲロったぞって言いながらお前の仲間を狩るか、それともお前自身で必要な素材が全部集まるまで狩り続けてもいいぞ、みたいな流れで説得することになってたから」
「もしかしてあたしの知らない間に現世では説得って言葉の意味変わってたりします?」
無銘彼方の誠意ある態度が功を奏して、精霊『睡蓮』獲得成功であるッ!
そして夢喰いの専用スキルを利用することで人間を無力化する手段を増やしたいという彼方の説明はウソではないが……これまた原作知識から、恐らくは睡蓮自身も知らないであろう“もうひとつの専用スキル”を切実に欲していたというのが本音であった。
精霊・睡蓮は複数の条件を満たすことで神霊に昇格させることができた。それがこの世界でも可能なのかはわからないが、少なくとも彼方はそれでも試す価値があると信じている。ステータスを成長させるようになってから気が付いた
彼方ほどの侍が欲するスキルの正体とは、ズバリ『割合ダメージ』である。
死にゲー界隈でもポピュラーとは言い難いが、攻撃を続けることでデバフ効果が蓄積し、敵キャラごとに設定された耐性を超えることで一定量のダメージをステータス関係なく与えるスキル。
これならば非力さを手数で補うことができるので、豊富な攻撃手段を持つ彼方の戦闘スタイルとも巧く噛み合うことだろう。もしもゲームと同じ使い勝手であれば、どんな相手にも有効な切り札となる。もちろん鬼仙や鬼神クラスの相手には微々たる効果となるが、それでもダメージが通るなら彼方としては充分であった。
仮に、1%しか減らせなくても構わない。それなら100回発動させれば済む話。
そんなお気楽な思考で睡蓮を出迎えた彼方であるが……すっかり機嫌が良くなってしまったことで、自分がどれだけ危険なスキルに手を出そうとしているのか気付かない。
割合ダメージはあっても困らないスキルではあるが、そのために神霊の枠をひとつ潰す価値は無い。素材集めに硬いザコを狩るときはともかく、ボス相手なら火力の底上げをしてくれる神霊を装備したほうが圧倒的に戦闘は楽になる。
そのイメージに支配されている彼方では気付けない。ボスにすら有効な割合ダメージとは、言い換えるなら敵対者が抱える防御系全てのルールを押し退けて死の宣告を付与するも同然であると。
スキル名『夢死ノ囁キ』
加護を与えるは『神霊・
あくまで割合ダメージなので致命傷を与えるためには手加減無しで殴り続ける必要がある。ステータスはまだまだ物足りなくても豊富な戦闘スキルを地道な努力で身に付けた彼方であれば、その辺りの匙加減を間違える心配はないだろう。
但し、一撃ごとに死の気配が全身を蝕んでくる感覚を直接叩き込まれることになる相手側のメンタルについては考慮しないものとする。
冥界童女
『伊邪那美が根の国で鼻から茶ァ吹き出しそうなほど喜びそうなスキルをチョイスしてんねぇ! ハッハァ! 自分を正義の味方だと思い込んでいる勇者どもよ……震えろ。みたいな展開もありますよぉコイツぁ!』
座敷童
『才能に恵まれなかったモブキャラはメインキャストと比べてステータスが伸びにくいって世界の仕組みに気が付いちゃったからね。これも努力の形だからね、しょうがないね』