タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 作者は毒や出血などを付与するアイテムを初動で回収して本筋を無視してボスを討伐しに行き先に欲しい物を掻き集めるみたいな真似はしませんので初投稿です。



人の心を動かすのは、同じ心でしかあり得ない。それが正しい心かどうかは別として。

 ここで少し【鬼切姫・弐】の導入部分について軽く説明しておこう。急に変わったカギ括弧を使い始めたのは、作者が自分の作品を読み返していて固有名詞はそれ専用で囲ったほうが読みやすいかもと思っただけなので気にしなくて大丈夫だ! 

 

 

 さて、本来であれば主人公の日比野鈴音はチュートリアル代わりにチーム・ブラッドファングのメンバーを叩きのめし、その仕上げとして佐々木を倒したあとはクリア報酬として鬼の妖力を使用した宮本に殴られて入院するはずであった。

 それから病院のベッドで目覚めたところを母親である鈴鹿から無事で良かったと純粋に心配され、さらにはお見舞いにやってきたプリズムダストのメンバーも怪我をしているのを見て「アタシがもっと強ければ仲間が傷付くこともなかったのに!」と頼んでもいないのに責任を背負い込む系特有のちょっと面倒な拗らせ方をする。

 

 強くなるにはどうすればいい? 

 

 せや、義塾で巫女に転科したろ! 

 

 将来的に強くなるとはいえ、現段階では霊気の使い方を知るだけの素人。ただでさえ神霊や精霊の加護マウントが激しい義塾で簡単に能力開発コースに移籍できるはずがない……のはコネがまったく無ければの話。

 

 まずは学費のこともあって両親を説得しなければと相談する鈴音だが、すでに説明した通り母親である鈴鹿は人間ではなく鬼神である。そして鬼神の格を持つということは、大規模な迷宮を保有し大勢の部下がいるということ。そんな超弩級の実力者である女性を妻に迎えた男が凡人のはずがない。

 家庭では「鈴鹿さんの作ってくれる玉子焼きは何度食べても絶品だね〜」といった様子でのほほんとしている童顔のオッサンだが、その正体は霊験庁に所属する陰陽師であり【金鬼】【風鬼】【水鬼】【隠形鬼】という4体の鬼を従え戦う指折りの実力者。転科の手続きひとつ認めさせることなど朝飯前の昨日の晩飯も同然なのだ。

 

 ちなみに、最初から侍や巫女を目指して入学するぶんには世間向けのイメージ戦略と比べてそこまでハードルは高くなかったりする。神霊や精霊の加護を得られるほうが少数派なのだから当たり前の話である。どちらかといえば、本来であれば1年生のときに学ぶべき基礎が足りていないことが問題なのであって。

 それでも大変都合良く環境に恵まれていることから、こんな具合に隠れヤンキーから巫女にクラスチェンジするだけなら簡単に終わる話なのだが……この世界では鈴音は宮本の撃退に成功している。アタシのせいで皆がと拗らせることもなければ、能力開発コースに転科したいと思う切っ掛けも潰れていた。

 

 

 つまり、世界の理が用意したシナリオ通りに鈴音が主人公ポジションを獲得できるかどうかは、デモンシード絡みの用件として日比野家を訪問している棗次第ということになるワケだが……。

 

 

「昨日の試合は文句無しの決着ではありましたが、あの宮本という男性が使用したデモンシードという薬物が危険な代物であることは日比野さんも肌で感じ取れたことかと思います。それこそ、万が一のことになればケガだけではなく命を落とす可能性もあるほどに」

 

「なので、今後に備えて私に巫女として正式な形でトレーニングを積ませたい……ですか。少し意外でした。義塾側はそれらしい理由を付けて黙認するような形になっていますが、暮間先輩のようなお方は、私たち野良チームの結界戦にあまり良い印象は抱いていないものと思っていましたので」

 

「その認識は間違っていません。事実として、復活可能な結界を構築するための法具が一般に流れていることも問題ですし、いまは表立ってトラブルが起きていないものの、暴力に対する意識の低下による被害の拡大は見過ごせないリスクですから」

 

「先輩の仰ることはわかります。いえ、正確には少しだけですが体感して理解する機会に恵まれました。私たちにとっては当たり前の喧嘩でも、身を守る手段を持たない人たちにとっては恐るべき暴力なのだと」

 

「その認識をしっかり持てるだけでも立派ですよ。……ところで、話は変わりますが、別にもっと砕けた口調でも構いませんよ? 別に面接をしているワケではないのですから」

 

「それはダメです。私は義塾の2年生、そして暮間先輩は学科は違っても同じ義塾の3年生です。できる範囲ではありますが、上下関係に関わる礼節はしっかりとしておかないと周りに示しがつきません」

 

 

 休日であるにも関わらず、リビングにて私服の棗と対面する鈴音はキチッと制服に身を包み背筋を伸ばして正座を崩すことなく話を聞いていた。真面目系ヤンキーあるあるのひとつ、目上との接し方には失礼のないよう全力を尽くすというアレである。

 これには隣で食器を洗いながら聞き耳を立てていた鈴鹿も嬉しいやら呆れるやら複雑な気分であった。百点満点の人格者になんてならなくてもいいが、せめて“ありがとう”と“ごめんなさい”だけは言えるようになってほしいという想いが実ったのは良い。が、ここまでくると頑固というか、融通が利かないというか。本人がそれを望んでいるのだからケチを付ける必要は無いのだろうが。

 

 

「そ、そうですか……。いえ、とても良いことだと思います。本当に。私も鵺の加護に恵まれた側ですのであまり偉そうなことは言えませんが、義塾には態度に問題のある侍や巫女がいるのも事実ですから、日比野さんの考え方は立派であるかと。それで、転科の件については」

 

「興味が無い、と言えば嘘になります。しかし、先日の結界戦をご覧になったのであればご存知とは思いますが、私は巫女を名乗るには少し……いえ、かなり問題があると申しますか……接近戦を練習している巫女も見たことはありますが、私の場合はむしろ殴り合いがメインウェポンと言うか……」

 

「あー……」

 

 

 そういえば、そうだった。

 

 錫杖よりも、投擲よりも、すっかり二刀流ばかりにかまけていた棗は世間一般における巫女のイメージを完璧に忘れていたことを自覚する。一応法術の、魔法スキルの練習は欠かさず続けている。しかし魔法スキルを中心とした立ち回りに自信があるかと問われれば……ちょっと。そう、本当にちょっとだけ……猛特訓が必要、かも? 

 

 

「それについては……正直に告白しましょう。私も同類です」

 

「そうでしょう、暮間先輩も同類ならば私のような巫女なんて────はい?」

 

「ですから、私も、貴女のように殴り合いが得意なのです。ナイフや暗器などの投擲も得意ではありますが、学園に交換学生として在籍し、常世への反攻作戦に参加したときは、ほぼ刀の二刀流だけで戦っていました。誓って、貴女を安心させるための誤魔化しなどではありません。……できれば暮間の家にも、義塾にも秘密にしていただけると、はい」

 

「え? え? 暮間先輩が? ちょ、え? だって、鵺の巫女といえば私だって知ってるぐらいの名門で……え?」

 

 

 鈴音は 混乱した ! 

 

 なお。

 

 

(あー、ハイハイ。そのパターンね。いつの時代もいるんだよねぇ、何故か前に出て戦うのが得意の殴り巫女ってヤツがさ。懐かしいな〜、大阪で現世に常世を呼び出そうとしたバカどもをとっちめるために、人間側と協力して……稲姫ちゃん強かったもんなぁ〜。ダンナさんと一緒につい前に出ちゃうのを忠勝くんと島津の次男坊が一生懸命に追い掛けてたっけ。ってことは、あの妖刀のガキとの戦いは暮間のお嬢さんが前に出て、ウワサの黄龍の巫女が後方支援って感じかな?)

 

 

 残念ッ! 

 

 そのウワサの黄龍の巫女こそが、誰よりも前に出て敵の総大将をブッ飛ばしているぞッ! 

 

 

「信じられないようであれば、実際に試してみますか? チーム同士の結界戦を繰り返していたのであれば、対人戦は経験も心得も充分でしょう。むしろ、なんでもあり……というワケでもないようですが、公式戦よりは喧嘩の流儀のほうが実戦に近い部分もあるかもしれません」

 

「暮間の巫女と、私が……ですか? それは、その、確かに面白そうではありますけど、私は戦いは……チームの仲間のために、と決めていると言いますか……。それに、結界戦なら離脱さえすれば怪我も治るとはいえ、私たちの荒っぽい闘い方に暮間先輩を付き合わせるのは申し訳ないと言いますか」

 

 

 鈴音があまり乗り気ではないのは、わざわざ義塾でトレーニングしなくても風祭神社の管理者である侍に鍛えてもらえば事足りると考えているからだ。彼方の事情をなにも聞かされていない彼女は、まさか春休みだけの期間限定イベントであることなど想像もしていない。アウトローはアウトローらしく、称賛を求めて表舞台に立つべきではない。それが鈴音の、そしてプリズムダストの流儀であった。

 

 もちろんそんな事情など棗は知らない。

 

 知らなくてもデモンシードに関わってしまった鈴音を放置するワケにはいかないのでここで素直に引き下がるという選択は無い。これまではその効力について半信半疑であったが、実際に目の当たりにすれば絶対に無視することなどできない危険物だった。

 今回はデモンシードで変質した宮本を鈴音が見事に撃退したから被害らしい被害は出なかったが、アレが水面下で流通すれば必ず一般人が犠牲になる。そして、そんな劇薬の効果を正面から打ち破った鈴音が注目されない理由がない。もちろん、悪い意味で。

 

 大人たちのしがらみ、そして野良チームたちの事情。強行策により不良たちが居場所を失えば、巡り巡って結局一般人が巻き込まれてしまうかもしれない。それなら棗が個人的に巫女の素質アリとしてスカウトした、という筋書きで通したほうが面倒は少なくなる……かもしれない。

 

 とはいえ。

 

 本人がノリ気でないものを無理強いするのも気が引ける。

 

 なので棗は先ほどの、鈴音自身の発言を利用することにした。

 

 

「荒事への配慮であれば必要ありませんよ。先日の戦いがそうだと言うのであれば、貴女方の言う戦いも中等部の基礎訓練もそれほど変わりませんから。そもそもの話、喧嘩殺法だろうと洗練された武技だろうと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────ッ!? 暮間先輩、その言い方は、まるで」

 

「はい。いまの貴女程度では私の相手など務まりませんよ? ですから、試してみるかと言いました。勝負など成立する理由がないのですから当然ですよね?」

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 

 フィッシュ・オン。

 

 釣り堀どころか子ども向けのオモチャにだって負けていない驚きの速さである。たぶん世界観が違えば頭の上に記号が飛び出ていることだろう。

 

 

「……わかりました。そこまでコケにされたら私だって、同じ義塾の先輩が相手だからって黙ってはいられません。転科のご相談についてはともかく、売られたケンカは喜んで買いましょう……ッ!」

 

「では、同意ということでよろしいですね?」

 

「えぇ、もちろんです。これでもプリズムダストのメンバーとしてそれなりの修羅場を────」

 

 

 潜ってきた、と続けるより先に。

 

 目の前から棗の姿が消える。

 

 

 そして。

 

 

「え────な……ッ?!」

 

 

 気が付けば、背後に回り込んだ棗の人差し指がピタリと首筋に当てられていたッ! 

 

 

「おや、そんなに驚いてどうしました? それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「だいぶアドリブでしたし、最後のセリフなんて自分でもなにを言っているのか意味不明でしたが、とにかく勧誘には成功したので良しとしておきましょう!」

 

(お前、だいぶ性格が悪くなってねェか?)

 

「ふふっ、頼もしいでしょう?」

 

(全くだな。それだけ強かさを身に付けたンなら並大抵の相手にゃ遅れなんざ取らねェだろうよ)

 

 

 とにかく連れ出す約束は取り付けることができたと、日比野家を後にする棗は一仕事を終えた満足感に包まれていた。赫怒、相手を侮辱して自分の都合の良いように動かす行為……人、それを挑発と言う。少なくとも勧誘ではない。

 

 

(それで……模擬戦、するんだろう? 段取りはどうするんだ?)

 

「え? しませんよ、模擬戦なんて」

 

(……は?)

 

「ちゃんと言いましたよね、勝負など成立しないのだから試すだけだと。加護無しのままではなにかと不便ですから、暮間の管理する迷宮に連行して鬼を従えることができないか挑戦してみます。真白さんという前例があるのですから、試す価値はあるでしょう」

 

 

 加護が無いなら、加護を与えてくれる精霊を捕まえればいいじゃない。ぶっちゃけ鈴音の特異性を知らない棗はこんな思い付きが上手くいくなんて欠片も想像していない。それでも迷宮内部で鬼との戦いを経験させてしまえば、なんかこうイイ感じに勢いで押し切れるかもしれない。

 

 

(お前、マジで性格悪くなったな)

 

「ちゃんと詳細を確認しないまま感情任せに頷くほうが迂闊なんです。ですが、私は正面から堂々と奇襲を仕掛けたのですから、卑怯者などと言われる筋合いはありません。いまから楽しみですね、迷宮探索」




鈴鹿
「暮間のご令嬢、想像の何倍も面白い娘さんだったね! これはもう鈴音の転科について今日にでもパパに相談しなくっちゃ! それにしても……鵺の霊気に混ざってカスみたいな神格の臭いが薄っすらとしてたけど……暮間の実家で怪しい儀式でもしてるのかな?」

名誉カス神霊
『ヘックショイ新琴似ッ! むむ、誰か私の噂をしているのか? フッ……モテる女は辛いぜ』
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