タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 使えるものは何でも使って初投稿です。



兄は“名誉や尊厳”を気にしない。

 私の春休み〜無限ランニング編〜により2代目ヒロインが2代目スーパーヒロインへとクラスチェンジするため肺活量とエンゲル係数の向上に邁進している裏側にて。遠方より来たる友、紅蓮を出迎えた彼方と静流は頼み事とやらを済ませるためにとあるお寺へと足を運んでいた。

 

 敷地を囲う防壁と、一定間隔で配置された物見櫓に待機している武装した尼僧。誰がどう見ても戦闘を想定した砦にしか見えないそのお寺は、鬼切姫・弐のメインシナリオにて誰の個別ルートに入ったかを教えてくれるチェックポイントでもあった。

 もちろん彼方はそのことを覚えている。物語後半に向けて主人公である鈴音が専用武器を作るための素材を獲得する、ための試練をここで受けることになる。その際、個別ルートの条件を満たしたイケメンのうち優先順位の高いほうからひとりが選ばれて同行者となるのだ。

 

 それは別に彼方には関係ない話なのでどうでもいい。

 

 問題は。

 

 

(……やっぱり、女の人しかいねぇわな。女人禁制の逆はなんだろ、男人禁制? だけど男を毛嫌いしているワケじゃないからイヤな雰囲気とかは感じない。さっきすれ違った見廻りの人たちも普通に挨拶したし、こっちの用事を知ったらその場で中と連絡を取ってくれたし。ま、ただのお使いで変なイベントなんて起きるワケないか)

 

 

「……こちらの施設が男の出入りについて厳しいことは祖母より伺っています。ですが、必ず直接渡してその場で返答を頂戴するようにと申し付けられておりまして」

 

「あぁ、それなら心配はご無用ですよ。確かに男性の立ち入りを厳しく制限していますが、さすがにお客人まで締め出すような真似はしませんから。設備のメンテナンスなどで業者の方も出入りしますし、男性用の御手洗いもありますので心配なさらないでください」

 

 

 門番さんと紅蓮くんの会話も至って普通。

 

 なのだが。

 

 

(そもそもの話、紅蓮のおばあちゃんが事前連絡してくれてりゃ面倒な問答もいらんのよな。紅蓮の見聞を広めるため? それも、絶対に無いとは言わんけど……わざわざ手紙を用意して、直接手渡しするようにって……なんというか、政治的駆け引きの臭いがするくなぁ〜い?)

 

(それって、彼方さんが言っていた“原作知識”ってヤツですか? でも目の前の女たちからは悪意や敵意は感じませんよ? まぁ、奥にいるほかの連中までは知りませんが、少なくともこのふたりに彼方さんたちを罠にハメようって意図は無いんじゃないですかね)

 

(おぉ〜、さすがは精神に干渉できる夢喰い。そーゆー芸当もできるのか。だとすれば、俺がイチイチ深読みし過ぎなのかな……)

 

 

 どうせ隠し通すことなどできないのだから、と転生者であることも含め色々と聞かされた睡蓮のフォローもあって、ひとまず彼方は余計なことを考えるのを止めた。

 油断しないこと、警戒を続けること。常在戦場の心得と言えば聞こえは良いかもしれないが、相手側が客人として迎え入れる姿勢を見せているのに対する態度ではない。まして、今回は紅蓮の祖母からの依頼である。学生であろうと関係ない、自分たちの非礼はそのまま依頼人の非礼として受け取られても文句は言えないのだ。

 

 

 そう、態度の良し悪しは本人の問題で終わらない。

 

 お互いに、だ。

 

 

「おっと、ここから先は男子禁制だよ。用件があるならアタシが聞いてやる。届け物もな。心配しなくてもちゃんと届けてやるから、安心して出すもの出して回れ右して帰るんだね」

 

(彼方さん、コレあたしの意見いります?)

 

(大丈夫だ、問題ない。こんなん誰が見たって嫌がらせだってハッキリわかるわ。くそぉ〜、そりゃ原作にそういうイベントがあったんだから、俺たちだってダル絡みされる可能性はあったよな普通にさ)

 

 

 試練を希望する鈴音に「挑戦は女だけしか認めない」的な説明が入るのだが、実は一部の尼僧たちの自尊心が暴走したことによる勝手な振る舞いであったと試練終了後に発覚するイベントがある。

 その尼僧たちというのが、現在目の前でニヤニヤと笑っている連中なのだろう。努力はしているし、能力者としての実力もある。一般人を鬼の脅威から守護る役目に男女による区別を持ち込むような真似はしないだけの真っ直ぐさを持っているはずなのだが……同業者の男に舐められてたまるか、みたいな意地でもあるのかもしれない。

 

 決して悪人などではないのだ。友情ルートで鈴音と更紗が試練に挑戦するときは素直に応援してくれる気前のいいお姉さんたちでもあるのだから。あくまで男の侍という存在を強く意識した結果、思春期が無期限に延長されているだけで。

 

 これには紅蓮だって渋い顔したくなる……が、感情をコントロールすることを覚えたイケメンは同じ失敗を何度も繰り返したりはしない。冷静に一呼吸して胸の内に湧いた不満を希釈して、とにかく丁寧な態度を崩さないよう説得を試みようとする。

 そしてその一呼吸の間にすでに動き始めた彼方。相手側になんらかの特別な意図があっての行動であるならともかく、単なる嫌がらせが目的なのだから説得など通用しないだろう。だからといって紅蓮がアクションを起こしてしまえば増永家の失態として言い訳の余地が無くなる。ここはモブキャラの特権が活きる場面なのだから仕方ない。仕方ないのだから彼方が悪い顔してるのも仕方ない。

 

 

「紅蓮、ここは素直に引き下がろう。そんでおばあちゃんに連絡すればいいさ。これこれこういう事情があるんだけど、どうしようか? って。せっかく携帯って便利な道具があるんだ、文明人らしくスマートに対処しようじゃないか」

 

「彼方……? いや、そうだな。相手側のご厚意で通してもらえたのに、それで騒ぎを起こすのはマズいか。────大変失礼しました。まずは祖母に連絡して、然る後に改めてご挨拶に伺わせていただきます。お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

 回れ右ッ! 

 

 以上、解散ッ! 

 

 

 ……とはならず。

 

 

「おや、皆さんなにか私たちにまだご用でもおありでしたか? ご指摘いただきました通り私たちは出直すつもりなのですが。そのように帰り道を塞ぐようにされては困ってしまいますね」

 

 

 しかし まわりこまれた ! 

 

 ここまで露骨な態度を示されれば、さすがの静流も苛立ちのひとつやふたつは覚えるというもの。だからといって売り言葉に買い言葉の口論は控えるべきであるし暴力沙汰など論外。どうやってこの場面を切り抜けるべきかと考え始めたところに……彼方からポンッ、となにかを手渡された。

 

 

「これは……え? ガスマスク、ですか?」

 

「ま、そんなとこ。ホレ、紅蓮も」

 

「ん」

 

 

 特になにも言わずそのまま装着する紅蓮。

 

 なにか意味があるのだろうと装着する静流。

 

 

「おや、ピッタリと顔に張り付くような感触が……見た目ほど息苦しくもないですね」シュコー

 

「微かに霊気の流れを感じるな。市販の物ではあるまい。なにを思ってこんなモノを用意したんだか」シュコー

 

 

 装着、ヨシッ! 

 

 友人ふたりの準備完了を確認した彼方がインベントリの中からなにやら黒い塊を実体化して退路を塞ぐ尼僧たちに一歩近づく。武器か? あるいは攻撃用のアイテムか? どちらにせよ大義名分を得られるなら好都合、尼僧たちもこれは不届き者を叩き出すための正当防衛なのだからと武器を実体化させた。

 

 

 ある意味、攻撃用のアイテムではある。

 

 但し、彼女らが想像しているより凶悪な代物だが。

 

 

 ポイッちょ、と雑に黒い塊が放り投げられる。

 

 地面に落ちると同時にソレが割れて。

 

 

 

 

「────ッ?!?! くっさッ!? なによコレッ!?」

 

 

 

 とんでもない悪臭を撒き散らしたッ! 

 

 

「ニャァァァッ?! 目がッ! 目がァッ!?」

 

「壊れるッ!? 鼻が壊れるッ!?」

 

「喉の奥が痺れ……ッ?!」

 

「オロロロ」

 

 

 レベルも、ステータスも、神霊や精霊の加護も。敵意も悪意も害意も一切存在しない、純粋無垢たる臭いという名の暴力の前では等しく無意味ッ!! 

 プレイヤーをデバフで殺すためだけにデザインされた迷宮で掻き集めた汚染された汚泥、それを素材にひとつひとつ丁寧に拵えられた自家製の汚物団子くん大暴れであるッ!! 

 

 

「ハッハァッ!! おかわりもあるぞッ!!」

 

「ちょ、止め────ッ!?」

 

「遠慮するな、非礼の詫びだからよォッ! そぉいッ!!」

 

 

 売られた喧嘩を買っただけ。

 

 ならば彼方が遠慮するはずがない。

 

 

 

 

 ────現世にも、地獄は創れるのだ。

 

 

 

 

「フゥ〜♪ スッキリしたぜぇ〜♪ おう、悪いな紅蓮。それに静流も。俺、一般家庭の出身だからこういう場に慣れてなくてさ。あんまり緊張し過ぎてついついクソ漏らしちまったわ。今度からはオムツと替えのパンツも用意しとくかな! だっはっはッ!!」

 

「手段を選ばないにしても限度があるだろ。おばあちゃんになんて報告すればいいんだオレは」シュコー

 

「ありのまま報告するしかないでしょう。名誉や尊厳と引き換えに、彼方さんが汚名を引き受けてくれるというのですから」シュコー

 

 

 学園側からやってきた朱雀と玄武の侍がトラブルを起こしたらしいぞ! 原因はいったいなんだ、責任問題はどうする! という大騒ぎから同行者が脱糞したので帰りましたと報告されれば、これを機に発言力の強化を目論もうとした義塾派の偉い人たちもさぞかし困惑することだろう。

 もっとも、関係者の中で誰が一番最初に困ったかといえば……騒ぎが起きたらしいことを察して、ガスマスクを装着したふたりに挟まれる形でやけに清々しい表情をしている彼方に事情を問い質したところ「中で喧嘩を売られてビビって漏らしてしまったので、そのままクソ引っ掴んで投げ返しました」と説明された門番の尼僧たちなのだが。

 

 

 そんで。

 

 

「……あ、もしもしおばあちゃん? 紅蓮だけど。うん、いや、ちょっとそのことで言わないといけないことがあって────」

 

「こんなこともあろうかと、暴力に頼らずにトラブルを切り抜ける手段を用意しておいて助かったよ。もしも記者会見が必要になったときは呼んでくれ。全国放送の場で堂々と私が漏らしましたって宣言するから」

 

「そこまで振り切ったら彼方さんの名誉がどうこうよりも、むしろ義塾側がふざけているのかとバッシングされそうですけどね。学園側としては本人が真実を公表すると頑なであったので、とでも説明しながら頭を下げれば大目に見る空気になるでしょうし」

 

 

 スンスンと身体や衣服に臭いが移っていないか確認しながら適当に返答する静流。イメージだけで想像するしかない彼方と違い、紅蓮の祖母が細やかな気配りができる人であることを知っている静流は彼方の心配事は杞憂に終わることを疑っていない。

 直接手渡し返答を頂戴する、その用事そのものは嘘でないのだろう。だからこそ、それを勝手な判断で……それも正当な理由も無く邪魔した尼僧たちは必ずなんらかの処罰を受けることになる。つまりは、跳ねっ返りどもが取り返しのつかない無礼を働く前に手頃な練習相手を充てがった、というところか。

 

 

「……うん、わかった。あとで離れのじっちゃにもお土産なにがいいか聞いておいて。うん、わかった。じゃあね。────まったく、お前のせいでおばあちゃんにゲラゲラと笑われたぞ?」

 

「そこに関しては冗談抜きでスマンと思ってる。でも言い訳できないほどガッツリ揉めるよりはマシだと思ったんだよ」

 

「その判断は正解だったようだがな。後始末のことは心配しなくていいそうだ。それと」

 

「おや、手紙を燃やしてしまうのですか? 証拠隠滅とは感心しませんね、四神の侍らしからぬ行いですよ」

 

「手紙? 静流、お前はいったいなにを言ってるんだ? オレにはサッパリわからないな」

 

 

 完全に悪ノリであるが、友人が率先して道化を演じてくれたときぐらいは許されてもいいはずだ。それはいい。

 

 だが。

 

 

(……コレ大丈夫かな? なんか変な形でフラグ折れてたりしない? 世界の強制力的なヤツが最終的にはイイ具合に調整してくれるのは朝比奈のときに証明されているけど、日比野のパワーアップイベントに影響とか出ないよね? ストーリーに関係ない人間が悪臭撒き散らす迷惑行為やって帰ってっただけだし。俺はあとで怒られるだろうけど、それは必要な犠牲だから別にいいとして……さすがに考え過ぎか)

 

 

 安心してください、折れてますよ。

 

 今話の最初のほうで説明した通り、このお寺では先ほどの尼僧たちが鈴音の同行者が男であることにケチを付けることで好感度チェックが始まるのだ。つまり彼女たちは個別ルートの入り口を案内してくれる重要人物ということでもある。

 

 と、いうことは。

 

 その重要人物たちが上の人間にお説教され態度を改めるようなことになれば、その好感度チェックを担当してくれる嫌がらせキャラが消滅してしまう可能性も高いということになるワケで。好感度チェックが始まらないということは、個別ルートも始まらないというコトで。

 

 果たして鈴音のパワーアップイベントは本当に潰れてしまったのか、それともこれからの行動次第で辻褄が合うように修正されるのか。全ては交換学生として鈴音の近くに配置される凪菜次第。

 ガンバれ凪菜! キミが義塾に到着するころにはもっと状況が悪化するけど諦めない限り希望は明日へ繋がるぞ! たとえその過程で攻略対象であるイケメンのひとりがお前に惚れてしまいクッソ鬱陶しく感じたとしても挫けるな!




朱雀
『僅か1年ほどもしない間に、随分と頼もしくなったモノだなぁ。あっはっは!』

玄武
『結構なことだ、優しさだけでは戦えんからな。我等の役目を思えば、搦め手のほうはあまり真似されても困るが』
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