タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
雑談にも様々な種類があるので初投稿です。
義塾側の能力者にとって最高クラスのブランドである鵺の巫女、その称号を受け継いだ暮間棗の朝は早い。もちろん前の日に就寝した時間も早い。彼女は早寝早起きタイプであり、夜遅くまで訓練して次の日の早朝も訓練とかいう睡眠時間を削る追い込み方には否定的である。
トレーニングに必要なのはダラダラ続けることよりも内容の充実、量よりも質の維持こそが肝要なのだ。そのためにも充分な休息は必要不可欠であり、気合や根性などのメンタルトレーニングを目的として不眠不休で鍛えるなど棗に言わせるなら論外でしかない。もちろん、旧い価値観の全てを否定するつもりはないが。
そんなバランス重視の棗が早朝トレーニングとして贔屓しているメニューはランニングであった。走ることこそフィジカルトレーニングの基礎であり基本、なにをするにしても肺活量を鍛えておけば無駄になることはない。並行してそこらへんを漂うエーテルの流れを読む訓練もできるということで、今朝も棗は文明に頼らない昔ながらの持久力鍛錬を実行する。
……のだが。
「棗姐さん、おはようございますッ!!」
『『『『姐さん、おはようございますッ!!!!』』』』
「……おはよう、ございます」
時は5月の連休、年頃の娘さんなら遊ぶことに時間と体力を使うため日の出のころなどオフトゥン様に祈りを捧げることを優先してもむべなるかな。なれど棗の前には確かに存在する。キチッと整列して後ろ手に頭を下げる不良少女たちが。
彼女たちはプリズムダストのメンバーである不良少女たち。もう少し正確に表現するならば、デモンシードに接触したということで真面目に働く大人たちがアレコレ手を回したことで暮間家の門下として預かることになった元・プリズムダストのメンバーである。
元、ということはつまりプリズムダストは解散済みということだ。もちろん、こんな展開は原作には存在しない。間違いなく彼方が鈴音を鍛えてチュートリアルの負けイベをブッ壊した影響だろう。
この報せを受けた兄妹の反応はどんなものだったかというと「あ、ゲームと違って最初から大人がちゃんと動くんだな……」という静かな納得のような感動のようなメタ的感想であった。
宮本の変化を撮影していたギャラリーはほぼほぼ全員が戦闘の素人であり霊気だの妖気だの言われてもサッパリな連中ばかりである。それ故に動画サイトのコメントなどでもちょっと変わった自己強化系のスキルとして扱われ、大人たちが本格的に介入するころにはデモンシードも既に拡散されていた。
では、どうしてこの世界の初動が早いのか? それは暮間と喜多のネームバリューによってケツを蹴り上げられたから。特に学園側の侍である喜多静流より「義塾側で手が回らないのであれば、こちらで介入することも可能ですが?」と提案されたことが大きい。
面子の問題、そしてけしからんことを企んではコソコソ動いている連中の思惑。呉越同舟、なんて言うほど立派な状況ではないが表と裏とで利害が一致したのだから行動は早い。だってどっち側の人間もお互いに相手のことを邪魔しないワケだもの。
あとはまぁ、プリズムダストのメンバーに身内が炎翁の現世襲撃を体験してしまった者がいたのも理由のひとつだろう。ゲームではフレーバー要素だったメンバーたちだってこの世界ではちゃんと生活していてそれぞれの交流がある。どんな説得があったのかは彼女たちだけが知るところ。しかし不良少女たちが大切なホームの破棄を受け入れるぐらいだ、いまも笑い話では済まされないような状態にあるのは想像に難くない。
(イベントの前倒し、これで被害が減るなら儲け物……ッス。プリズムダストが関わるデモンシード絡みの事件に原作知識が使えなくなるとしても、早目にプロが動くほうが状況としてはマシだけど……問題は義塾関係者も信用するワケにはいかないってことッスね〜。原作通りなら、鬼を利用するつもりで鬼に利用されていることに気づいてないマヌケってコトになるッスけど……)
チームのリーダーである北条はもちろん、原作では鈴音のパーティーメンバーとして加わるはずだった蛍子、まもり、夏美と冬美もまとめて舎弟のように引き連れてランニングに向かう棗を見送りながらストレッチを続ける凪菜。
天同の迷宮でボスに挑む前に気合を入れなおしたいと鈴音からのメッセージを受け取り、連休を利用して春休み同様暮間の家にお世話になることにした彼女。プリズムダスト関連の話も当然聞かされていたが、自分のような紛い物とは違う本物の思春期の不良少女がよくもまぁ説得に応じたものだと感心していた。
それは、いい。問題は信用できる大人もいれば信用できない大人もいるということ。こればかりは原作知識でもどうにもならない。ゲームでは中心人物だけがストーリーに登場するが、組織的な活動をしているのだからその規模は数十人どころか数百人は普通にいるだろう。そんなもの個人的な
(ま、そこは義塾側の関係者が責任取るべきコトで、ウチには関係ない話ッス。手の届く範囲ぐらいはどうにか努力はしてみるつもりッスけど、バカは死ななきゃ治らないって言葉もあるッスからねぇ。自業自得のアホを助けてやる義理は無いし、鬼とのトラブルは自力で解決してもろて。大人なんだから、それぐらいはしてもらわないと困るッス)
「────凪菜ッ!」
「お。おはようスズっち〜。ボスにボコられる前にウチにボコスカにされたいって言うから、望み通り来てあげたッスよ〜」
「なんだよ凪菜、知らねぇのか? 宝くじは買わなきゃ当たらねぇってことは、買ってる間は常に当たる可能性があるってことだ。つまり、こうして挑戦を続けてるうちはアタシにも勝ち目があるってことだろ?」
「お! 気合い充分って感じッスね! それじゃあルールはどうするッスか? せっかくの組み手ッスから、条件付けでやったほうが立ち回りや技術の練習にもなるッスからね」
「別にアタシは迷宮ん中で死に戻り有りのガチ勝負でも構わないぜ? ま、凪菜がムリだっていうなら現世で加減しながら闘ってもいいけどな?」
「挑発そのものは戦術としてアリだから否定しないッスけど、時と場合を選ばないと効果は無いッスよ? これから大将首を狙いに勝負掛けようって言ってんのに準備段階で無駄にエーテルロストする前提で闘り合うとか迷宮主との戦いナメてんスか?」
「う……ッ!? わ、悪かったよ。ホラ、結界戦では相手の頭との戦いって花形みたいなところあってさ……ちょっと、調子に乗ってたわ……」
「ボス戦前にテンション上がる気持ちはウチにもわかるッス。玉砕覚悟で挑戦するのも。実際、ウチもそういうとこあるし。でも蓄えたエーテルは霊力に変換すれば武器にも防具にもなるんスから、無駄遣いはダメ、絶対ッス。そうでなくても不慮の事故でロストすることなんてザラなんスから」
「押忍、肝に銘じますッ! んじゃ、早速だけど……素手から始める感じでいいか? せっかく手加減しながら組み手するか〜ってコトだしさ、いろんな戦い方を試したいんだ。まずはウォーミングアップってことで拳骨勝負といこうぜ! もちろん蹴り技もアリでな!」
「かしこまり、ッス! それじゃあ合図代わりにコインを1枚……準備はいいッスね?」
ピンッ、と凪菜がコインを弾く。
地面に落ちて金属音を奏でながら跳ね上がるまでほんの数秒、それが全身に霊力を循環させ霊気のガードを纏うために用意された準備の時間。これに間に合わなければそれまで、最初の接触がそのまま決着となることだろう。
平常心から数瞬と間を置かず臨戦態勢に。
凪菜はもちろん、いまの鈴音も余裕を持って完了できる。
(先手は凪菜に譲れ、冷静さを磨け。豊富なスキルと手数、さすがは彼方先生の妹だけあって凪菜もナニをしてくるかわからねぇ。だからこそ判断力を鍛える相手として丁度いいッ!)
腹の底から湧き上がる攻撃的な意思をどうにか理性で抑え込み、じっくりと“見”にまわることを選んだ鈴音。どんなときでも前に出て戦うスタイルこそが自分の流儀であり得意な戦法だが、今後は使い所をしっかりと見極める冷静さが必要なのだ。
真っ向勝負の突撃そのものを捨てることはない。重要なのは、それを最大限に活かせるタイミングを間違わないこと。無策で前に出てガムシャラに武器や拳を振りまわすのではなく、冷静に攻め時が巡ってくる瞬間までじっと耐え忍んでからの反撃であれば、ただの突撃も立派な戦術へと昇華する。
そう。
タイミングと使い方を間違えないのであれば。
突撃は効果的な攻撃手段なのである。
(────ッ!? まっすぐ突っ込んできたッ! 上等だ、真っ向勝負なら望むところッ!)
搦め手を警戒していた鈴音が、正面から突進してくる凪菜に対して迎撃の構えを取る。雷属性の霊気による身体強化は、特に俊敏の上昇率が高いことを春休みの模擬戦でイヤというほど体験した。無理に速さに付き合うのではなく、守りを固めてチャンスを待つのが正解だと。
考え方は間違っていない。
だが判断は間違えた。
正面からの突撃という動作にばかり集中している鈴音では、凪菜が自分自身の身体を盾としてつま先に雷撃を纏わせていることに気付けないッ!
「────唸れッ! 牙のレガリアッ!!」
「ちょッ?! マジかテメェッ!?」
振り抜かれた脚から放たれるは雷光の斬撃ッ!!
もちろん直撃しても致命傷とはならないよう加減はしているが、その鋭さは女は度胸を地で行く鈴音でさえも胴体が両断されるかと錯覚するほどの一撃ッ!
これを受けるにはまだまだ経験値が足りない。技量の問題もあってギリギリの回避を狙うには危険過ぎると鈴音は地面を転がるように大きく雷光の斬撃をやり過ごした。
もちろん、回避直後の硬直など狙わない理由が無く。
「旋風回転脚ッ!」
「ぐぅッ!?」
突進の勢いをそのまま乗せた強烈な回し蹴りッ!
だが鈴音とて隙を晒すのは百も承知、予め追撃に備えていたことから問題なく受け止めるッ!
「この程度なら……消えたッ?!」
「────続けてッ!」
「ッ! 上かッ!!」
「爆砕ッ! 重落下ッ!!」
それは例えるならノコギリか、それともチェーンソーか。脚部に纏わせた雷属性の霊気を勢い良く回転させた凪菜が空中から襲い掛かるッ!
「うぉッ!?」
「お〜、ナイス回避。いまのは貰ったと思ったッスけど、なかなかイイ反応するッスね!」
「ケッ、良く言うよ。まだまだ余裕あるクセに。わざわざ声出して位置を教えてきたのもそうだし、どうせ攻撃を続けようと思えば続けられたんだろ?」
「そりゃそうッスよ。でも、これはあくまでスズっちのための訓練ッスからね。結界も無しの組み手だし、なにより
「……テメェ、言うじゃねぇか。決めた。この連休中にゼッテー泣かす。鬼の頭ァ潰すよりも先に、その鼻っ柱をアタシがへし折ってやらぁッ!!」
「上等、上等ッ! やれるモンならやってみろ〜ッスッ! ……さすがに、挑発を聞き流せるレベルにはまだ遠いッスか。このへんも鍛えられるなら協力してあげられるといいんスけど。ま、アタシが力不足だったとしても精神面での成長はどうせイケメンたちがなんとかしてくれるだろうから問題ないッスねッ!」
ここから3話くらいバトルが続くかも。鈴音と凪菜と真白の戦いをそれぞれ1話みたいな感じで。