タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
実りの秋でも初投稿です。
大義名分は実際大事。古事記に書かれていなくても社会に出ればそれを嫌でも思い知ることになるし、それを理解できなければアイツは使えない人材だと大変嬉しくない太鼓判を押されることになる。
兄と比べれば経験値は少ないものの、それなりに社会人として働いていた無銘凪菜は大義名分……いわゆる建前というモノの必要性、あるいは利便性を知っている。
春休みと5月の連休、このふたつの時期に学園の制服やジャージを着用してあっちゃらこっちゃらに挨拶をすることで自分という異物が義塾の支配地域を歩き回ることを受け入れさせた。主に地域の住民の皆さんに。義塾の生徒? 少なくともいまのタイミングならガキに気を遣うより大人を味方にしたほうがお得だから放置だそんなもん。
これは交換学生という原作には存在しなかったイベントへの布石であることはもちろんだが、もうひとつ、転生者としてのお楽しみである“DLC迷宮の攻略”を楽しむためでもある。
政治的なアレコレに係ることから面倒事が起きたとき自分たちでは責任を取れないだろうと、存在は確認しつつも足を踏み入れることは遠慮していた鬼切姫・弐の追加ダンジョン。しかし交換学生という大義名分を抱え義塾エリアを練り歩くための建前を手に入れた凪菜は堂々とバレないようコソコソしながらDLC迷宮のある場所へやってきたのだ!
「……木枯らし天狗じゃなく、白南風天狗とバトったッスか。スズっち、順調にシーケンスブレイクしてるッスね〜。気に入らないイベントはブッ壊す、原作ストーリーも楽しむ。両方やらなくちゃいけないってのが転生者のツラいところ……なんつって。世界を構成するシステム部分はなにやったって変わらないし、シナリオは世界の修正力がなんとかしてくれるっぽいし、ウチは存分にやりたいことやれるから気ィ楽いッスね〜♪」
どうせ最後は恋愛系のイベントが起きて丸くおさまると思い込んでいる凪菜はヒロインがイケメンを置き去りにしてガンガン強化されることの恐ろしさに気付けない。
確かにゲームでも、低レベル縛りなどの遊び方でもなければプレイヤーが操作するヒロインのレベルが一番高くなる。モブキャラも含め、仲間になるキャラクターのステータスは難易度選択とシナリオ進行の影響を受けるからだ。
しかしゲームと異世界では強くなる過程に決定的な違いがある。原作通りにイベントを消化しなくても……そう、イケメンたちとの交流がなくてもヒロインの精神力も鍛えられてしまうのだッ! それは真白がとっくに証明してる? ホントそれ。
日比野鈴音は霊力の使い方を誤れば暴力になることをすでに学んでしまった。そして戦えない人々を守護らねばならぬという大義名分を手にした上で、強くなるための過程を楽しむことを躊躇わない。
それは最初にヒロインを殴り飛ばした彼方が戦闘と日常のスイッチの切り替えが上手であったことから始まり、明るく楽しくスキルを鍛える更紗と凪菜に鍛えられ、何事も経験無くして成長無しとキメ顔でプリンと醤油を構える棗の勇姿を見て完成した。
このまま順調に成長を続ければ、戦いへ挑む心構えの問答に対しても「アタシはアタシの都合でケンカしてんだ。テメェの正義なんか知るかボケ」みたいに一刀両断するヒロインが誕生してしまうだろう。そこにイケメンが慰める余地がなければフラグは無いですね。
前世の知識から、転生系のラノベあるあるから、世界の理による修正力を過信を通り越して盲信している無銘凪菜はどれだけフラグをバキボキに歪めてもストーリーが破壊されることなどあり得ないと決めつけて、今日も魔法剣ギガブレイクの完成を夢見て己を鍛えるべくDLC迷宮【裏界・
「こ、これは……空中回廊じゃねーかッ! ウッヒャァァァァンッ!! なんちゅー眺めをみせてくれたんや、これに比べたらテレビで放映されてるプロの迷宮攻略はカスやッ! それ、言い過ぎ。プロの皆さんは真面目に仕事してダンジョン素材を集めてるんスから、素人のウチがケチ付けるのはお門違いってモンだし。でもそれはそれとしてテーマパークに来たみたいにテンション上がるッスねぇ〜ッ!!」
空中に浮かぶ岩と苔の足場。
架け橋と朱染めの手すり。
張り巡らされているのは鎖と、縄と、護符と。
東洋の神域をイメージさせるその光景はゲーム画面で感じていた奥行きとはまるで違う。頬を掠める荒々しいエーテルを孕んだ風と、それが運んでくる土と草と錆びた鉄の臭い。遠く響く鬼たちの声ですら凪菜を興奮させる燃料として機能する。
「さてさて、ゲーム的にもショトカは有効だったッスけど……ここはじっくりまったり攻略するべきか? いやしかし、だがしかし、ウチには時間制限という縛りプレイがあるワケで……義塾の管理下、大人と鉢合わせになったら面倒だし……限られたチャンスで日和るのは死にゲープレイヤーの端くれとして如何なものかッ!! 女は度胸、なんでも試してみるもんッスよねッ!!」
悩むことわずか数秒。
素晴らしき判断の早さで凪菜は元気よく────最下層を目掛けて飛び降りたッ!
ショトカ発言からもわかる通り、単なる思い付きでもなければ面白半分の興味本位による行動でもない。落下ダメージを軽減する様々な装備やアイテム、スキルを駆使して多くのプレイヤーが安全に着地できるポイントを攻略サイトや動画に投稿していたものを凪菜はしっかり記憶していた。
また、それらのプレイングに対して公式がアップデートにて正規ルートを通らなくても逆走で中ボスと戦えるように調整したことも知っている。システム部分に干渉することが不可能ならば、都合の善し悪しに関係なく前世の知識も使えるはず。駄目なら迷宮から吐き出されてから再チャレンジするだけのこと。
「マンマミーア〜♪」
お気に入りの上級騎士の鎧、その上に重ねたサーコートがダバダバと煽られて喧しいのも気にすることなく実に楽しそうにイタリア人配管工のような叫びと共に落下する巫女ひとり。
そこに。
「がぁッ!」「ぎゃぁッ!」「ぐるぁッ!」
様々な属性に彩られた骨の翼、まるでブリキのオモチャのように虚ろさとコミカルさが混じり合った鳥頭。鬼畜【絶骨鳥】の群れが侵入者という名の餌が降ってきたと喜び勇んで飛んできたのだッ!!
これには凪菜も大ピンチ、なんてことはなく。
「────LightningCount Ready?」
呟きの内容にスキル的な意味は無い。
気分転換のための引き金に過ぎない。
だがその人間に起きた変化は無意味ではない。騎士の鎧はもっと別の、なんか主神に所有権のあるアーティファクトを片っ端からパクった上に勇者の選定はしつつも天界にひとりもエインフェリアを送ろうとしない全く褒められたものではない戦乙女のような姿となるッ!!
「ゲームじゃ足場選びを慎重にやらなきゃいけなかったッスけど、異世界だったら当たり判定も別モノってコトになるワケだから……当然ッ! やろうと思えば“こういう移動手段”も使えるはずッスよねぇッ!!」
「ぐげッ?!」
「ぐぎょ?!」
「ぺげぇ?!」
ホッ!
ホッホォッ!
イヤッフゥゥッ!!
そんな陽気な掛け声が聞こえそうなリズムで絶骨鳥たちを足場にピョンピョン飛び跳ねながら下を目指す凪菜。ちょっとスカートが激しく捲れそうになるが、下にはスパッツを着用しているのでセンシティブ対策も完璧であるッ!!
落下の途中、中ボスをタブレット端末でパシャリと撮影しようとしたらフィールドに登場しておらずガッカリしたりもしながら、次々と集まってくる絶骨鳥を足場に迷宮主の待つボス部屋前に降り立つことに成功。
どういうワケか20体ほどの鳥さんたちが大人しく近くに降り立ってきたので、足場にしてしまったお詫びを兼ねて凪菜はエーテル結晶を与えることにした。やたらめったら敵意を向けるようなことをしなければ、案外こうして鬼畜とはコミュニケーションが成立することは何度も体験済みである。
敢えて、認識の誤りを指摘するのであれば。敵意を向けることなく自分たちを軽々とあしらって、その上で餌付けされてしまったとなれば絶骨鳥たちが凪菜のことを新たな群れのリーダーとして認めてしまう可能性に気付けなかったことぐらいだろうか?
ついでに言うなら兄貴のほうとは違って妹は雷属性に高い適性と熟練度、そしてステータス補正もあるので同じ属性の絶骨鳥であれば問題なく召喚できる。もちろんDLC迷宮の鬼なので一匹呼び出しただけでも大事になるのは確定だ。なにせ凪菜はどんなに強力な個体だろうと倒せる前提で絶骨鳥たちと関わることができるが、この世界の能力者たちにとってはガチで危険な討伐対象として扱われるレベルの鬼なのだから。
ぱきり、ぱきりと結晶を嘴で砕いては美味しそうにエーテルを吸収する姿にほんわかしている凪菜はもちろん気付かない。彼女がそれを知るのは、戦いを終えてステータスを確認してスキル【召喚術式:八色絶骨鳥】の文字を見たときである。
「さぁて、お楽しみの時間はこれからッスよ……ッ!」
敢えて。
凪菜は剣を鞘に収めたまま、盾を背中に背負ったまま。迷宮主が待ち構える最深部へと続く、淡い青紫の炎が灯された灯籠の間を静かに進む。
やがて立ち塞がるは幾重にも封の施された大扉。
それは久方振りの来訪者を歓迎するように開かれ。
「なんとッ! 見るがいい弟者よッ!」
「おうよッ! 聢りと見えるぞ兄者よッ!」
「「実にッ! 実に久方振りの侍の来訪であるッ!!」」
「それも
「実に千年ぶり、いや九百年ぶりか? それぐらい珍しいな兄者よ」
「いまの時代は結構いるッスよ。ウチの知り合いだけでも10人以上はいるッスね。巫女だからといって鬼に近寄られたら終わり、なんて甘えは許してくれない侍に鍛えられてるッスから」
「ほぅッ! それは善き心掛けだなッ!」
「うむッ! それは正しい心掛けだなッ!」
「ならば、その実態がどのようなものか」
「ならば、その実力がどれほどのものか」
「この鬼神【
「この鬼神【
「「この両の拳にて確かめさせてもらうとしようッ!!」」
「そんじゃ、鬼神サマのマッスルな胸をお借りするつもりで遠慮なくッ!!」
左右、それぞれに放たれるは数本のダーツ。
雷の霊気を纏ったそれは、まるで生きているかのように鬼神の兄弟へと軌道を変えて向かっていった!
しかし所詮はただの飛び道具、とても鬼神の皮膚を貫けるほどの威力は期待できる代物ではない。この程度であれば兄弟が軽く腕を振るうだけで簡単にはたき落とせることだろう。
だが、鬼神兄弟はそうしなかった。
雷光の妖気をバリアのように放ち、ダーツを迎撃する形で消滅させたのだッ!
「へぇ……?」
「本能が告げるッ! アレは受けるべきではないな、弟者よッ!」
「経験が告げるッ! アレは受けてはならないな、兄者よッ!」
鬼神兄弟は知っている。まだ侍も、巫女も、派手なスキルの使い方に頼る前の戦い方を。故に、凪菜の放ったダーツを侮ってはならぬ……と、考えるよりも先に身体が反応した。
厄介だな、と思うと同時に凪菜は納得もしていた。この鬼神兄弟の属性は自分と同じ雷属性、ならば多少の小細工など見破られたとしても不思議ではない。だからこそ、自らの可能性を試す相手としてわざわざ挑みに来たのだから。
などとドラマチックに説明したが、そもそも長いことなんらかの理由で表舞台からその存在を消されていた迷宮なのだから昔の侍たちの戦いしか知らなくて当たり前である。
無銘凪菜はスキルに頼らない。あくまで戦闘の手段のひとつでしかないのだ。その僅かな違いは現代人との模擬戦ならば有効なのかもしれないが、こうした旧い時代の感性を保っている鬼が相手ではだからどうしたという話であって。
次のための布石として楔を打ち込むつもりだった、その目論見が外れた凪菜は大人しく抜剣する……ような素直な性格などしていない。サイコロをいくつか取り出して雷を纏わせると、それぞれの顔面に狙いを定めて指で弾き飛ばした!
それに鬼神兄弟は真っ向から立ち向かう。今度はただの牽制であると瞬時に見抜き、ならば望み通り間合いを詰めてやろうと雷の妖気をバチバチと鳴かせふたり並んで突進する! 女侍の本命が両刃の西洋刀にあるならば、それを抜かせ使わせ試してやると!
正面、剛腕の振り下ろしッ!
拳が叩き付けられた地面が爆ぜるッ!
(ンッン〜♪ それなりにステは上げてるけど、こりゃ一撃でお陀仏って感じしかしないッスねぇ〜? ま、死にゲーのライフってシューティングのバリアみたいなモンだし、確定一発じゃなきゃそれでいいみたいなトコあるし。ギリギリまで見極めながらチャンスを狙うしかないッスね!)
巻き上げられた岩石を足場に上を取らんと跳ねる凪菜。
それを追い掛けるは比較的細身の天動金剛。
空中で自由な動きなど不可能。
ならば追撃も容易である……が。
「さぁ、次の手札はなにを切るのか見せてみよ女侍ッ!」
「いいッスよ、ここでご期待に応えなけりゃ女が廃るってねッ!」
凪菜が掌にて実体化したのは、そこらへんのゲームセンターなどで取り扱っているなんの変哲も無いコインが1枚。
それを指先でピンッ! と弾いて狙うは天動金剛の急所、ではない。ふたりの間に落下してきた岩石を砕いて爆ぜさせ、まるでショットガンのように利用したのだッ!
「なるほど芸達者也ッ! だがこの程度で我が筋肉の鎧を傷付けようなどと笑止千万────否ッ!! 目眩ましかッ!?」
天動金剛の横をぬるりと過ぎて着地する凪菜。
異常。
足場となる瓦礫が舞い上がっているが、それを蹴り飛ばして速度を得たとしても鬼神を相手に安々とすれ違うなど。
(雷気……磁石のように? 器用な真似をするッ! 我が妖気を曳き手扱いするとはなッ! ならばその速力のまま一思いに砕いてやろうッ!!)
背後で観察していた鳴動金剛が凪菜の不可思議な加速のカラクリを看破する。
向こうからわざわざ殴りやすい位置取りで迫ってくるならば遠慮は不要と拳を突き出す。
瞬間。
まるで上質な絹の羽衣に袖を通したかのように、鳴動金剛の腕を凪菜の身体がすり抜けたッ!
「何故────ぐぉッ?!」
1秒にも満たない思考の停止。
だが雷の霊気によりあらゆる反応速度を強化した凪菜であれば、そのこめかみにつま先を見舞うには充分な時間となるッ!!
「弟者ッ!?」
「油断したッ! 否、油断させられたッ! あの女侍の技量に出し抜かれてしもうたぞ兄者ッ!」
「応ッ! 我もだッ! まるで煙か霞でも相手にしているかのようだ、これは想像以上に手強いぞ弟者ッ!」
(磁力によるブーストは有効……と。切り替えのタイミングを間違えれば即死、コレはどんだけ精度を高めてもイチバチのスキルになりそうッスね。コイツら相手だからまだ使えるけれど、速度自慢の鬼が相手じゃどこまで通じるやら)
無銘凪菜は考えた。
リニアモーターやらレールガンなどから着想を得たスキルの可能性。電気による磁力の発生、それを応用した速度の変化。吸引の力と反発の力を瞬間的に切り替えることによる高速移動。
細かい理屈など必要ない。それらが電気を利用した仕組みだというのなら、雷蛇の加護を得られた自分であれば応用できるかもしれない。できるできないではなく、できるまで試行錯誤をすればいい。
練習さえ続けていればそのうち使えるようになるだろう。たったそれだけの理由で霊気と霊気だけでなく、霊気と妖気の間でも吸引と反発を自由自在に切り替えられるように仕上げた。
その才能が表舞台に知られれば誰かが彼女をそう呼ぶのだろう。
天才、と。
もっとも、スキル構築について天才だったとしても戦況の変化を読む能力まで天才とは限らない。それどころか、前世の知識というアドバンテージがあり、天動金剛と鳴動金剛のキャラクター性を知っていながら……力を示せばどうなるのか予測できないあたりはまだまだ甘いと言わざるを得ないだろう。
「これは、弟者よ」
「そうだ、兄者よ」
「「我らも全力を出さねば無作法というものかッ!!」」
「……へ? …………ッ!? あ、ちょッ!?」
「ぬぉぉぉぉッ!」
「ふぉぉぉぉッ!」
それは、本来であればどちらか片方のHPを削り切ってから始まるはずの第二形態。
だがそれは所詮プレイヤーを勝たせるためのシステムの壁でしかなく、久し振りの強敵に心躍る鬼神の兄弟が配慮するようなことではない。
「「いざいざいざッ!! 存分に死合おうではないか女侍ッ!! この【
「……いやぁ〜、きついッス。これウチ死んだかな……?」
合体鬼さん手のなる方へ、4本の腕から同時に襲われるとなれば凪菜とて抜剣し盾を構えなければ数秒と持たずに潰れた肉塊と成り果てる。
ならば盾を構えれば余裕でパリィできるかといえば残念ながらそんなことはない。それは何故か? 理由は単純明快、存在としての“格”が全く違うから。
それでもどうにか喰らいつく。
捌く。
捌く。
全ての攻撃が即死となる乱打を、脳の血管が破裂して鼻血が止まらないと錯覚するほど強化された集中力で捌き続けチャンスを待つ。
「「善き哉ッ! その動き、
「そいつは……どう、もぉッ! なにせ、ウチの、兄貴は……妹、相手、でもッ! 手加減……無しッ! ッスからねぇッ!!」
「「そうかそうかッ! 兄妹の鍛錬で培ったかッ! 身内事だとしても、それは実に素晴らしき知遇を得たものだなッ!!」」
「ぐぅ……ぎぃ……ッ!? なにで、テンション上げる、スイッチ……入って、んだか……ッ!!」
「「さぁ、少し強くいくぞッ!!」」
「ッ!? しま────ッ!?」
上方、前方、左右からの乱撃に慣らされたところへ下方から打ち上げによる奇襲ッ!
咄嗟に盾受けを差し込むもその威力を殺し切ることはできず粉砕され、凪菜の身体も勢いのまま空中へ投げ出されたッ!
好機。
天鳴金剛が踏み込む。
突如として現れた好敵手との別れを惜しむ暇もない。この女侍にそのような隙を見せれば手痛い反撃を受けること確実。
ならば、と。
この一撃にて決着であると踏み込んで。
────
理屈など必要ない。そうしなければ危険だと感じたから全身の妖力を肉体の檻から爆ぜるほどに昂らせて無理矢理に引き戻したのだ。
しかしそこに筋肉の鎧で覆われていたはずの腕は無く、断面はまるで
無銘凪菜の夢は魔法剣ギガブレイクを真似ること。
強敵との戦闘中に雷属性の霊気を器用に切り替えるほどの才能があって、雷を纏わせる魔法剣の再現にどうしてそこまで手間取っているのか?
それは凪菜の目的はあくまでギガブレイクであって、雷属性の武器で殴ることではないからだ。
全てを飲み込む破壊のイメージ。
凪菜はそれを『黒』と定義した。
剣も、鎧も、腕すらも。自らの肉体すら区別無く崩壊させる黒雷の閃光は、鬼神の腕を斬るに足る威力であったッ!!
これが最後か?
否。
否であるッ!
砕けた鉄片と肉片の向こう側から叩き付けられる霊気の何処に戦いの終わりなど感じるものかッ!!
無銘凪菜にとって剣技の全ては趣味の色合いが強いのだ。
本命ならば。
ただ勝つことだけを欲するならば。
その決め手は己が最も高い適性を持つ刺突属性の武器である槍となる。
既に指先は焼け焦げて、腕を覆う鎧も砕け散り、肉は削げ、骨すら崩れ、その顔には皮膚が炭化したことによるヒビ割れが走り、溢れ出た血液が間を置かず黒煙となった向こう側で────その女侍は、笑っていた。
ならばッ!!
「「雄ォォォォォォォォッ!!!!」」
天鳴金剛の脚が悲鳴をあげる。
人の身など比較にならぬ強靭な鬼神の身体でもなお、内側から破壊音が全身を駆け巡り脳天まで響くほどの力を込める。そこまでしなければ足りない、そこまでしてようやく足りる。それほどまでに迫る黒雷の槍は恐るべき破壊の力を宿していた。
決着そのものは簡単であった。
捨て身となった、本気となった鬼神の踏み込みから繰り出された拳である。それに反応できるほどのステータスに凪菜は届いていないし、それに耐えられるような霊気のガードを凪菜は有していないのだから。残された下半身だけが、先ほどまでの激戦など嘘であるかのように静かにエーテル粒子化を始めていた。
「ぐっ、ぬぅ……ッ!」
「兄者ッ!」
「見事であったな、弟者よ。まさか我ら兄弟が力を合わせても尚、片脚と両腕を持っていかれるとは驚きだ。ククッ、殴りにいった我の腕が相打ちとなってしもうたぞ!」
「む、むぅ……。すまぬ兄者、負傷を全て兄者に押し付けることになってしもうたぞ」
「気にするな弟者。これもまた兄の務めであろう。しかし……うぅむッ! 凄いぞ弟者よ、珍しい体験というものは続くこともあるのだなッ! 見掛け倒しには一晩寝れば足りるが、闘争に使えるまでに回復するには10日や20日では足りぬ、まったく足りぬぞ女侍の破壊の黒雷はッ! ハッハッハッハッハッ!」
「むぅ……むぅぅッ! 楽しそうだな兄者ッ! だが次は我がより前に出るぞッ!」
「よかろうッ! 兄だけが楽しみを独占するなど論外だからなッ!」
「流石だな兄者ッ! なんと弟想いなのだッ! しかし……あの女侍、似たようなモノがほかに10人はいると言っていたな」
「あぁ、言っていた。この鬼神・天動金剛の腕を噛み千切るほどの猛者がまだほかに10人もいると言っていたな」
「それは兄者よ」
「そうだ弟者よ」
「「実に、実に天晴なことだなッ!!」」
♡りざると♡
✕すずね VS しらはえてんぐ◯
✕なぎな VS てんめいこんごう◯
ましろ VS ???