タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
日本人にとって刀は武器以上の意味を持つので初投稿です。
「白木の……休めの白鞘ですか。不思議な霊気の流れ、いや、霊力を感じます。しかし、仮にも表向き加護無し扱いされているタダの男子学生に持たせるような業物でもないでしょうに」
「お? 白鞘の意味をちゃんと知ってるとは感心だな。よく勉強しているじゃないか。まぁ……得物の格付けとしてはお前の言う通り、決して低いモノじゃあない。なにせ【三種の神器】のレプリカだからな」
「草薙の剣、ですか。神霊・八岐大蛇の牙を素材にした霊剣。そのレプリカなら確かに御利益はありそうですね。なんで打刀の形状なのかは知りませんが」
「神話や伝承なんて曖昧なもんさ。大事なのは信じる心と敬う心、ってワケだ。危険なアルバイトを任せるからにはそれなりのブツを渡すのは当然のことだし、御守り的な意味合いもある。あとは、半端な技量のバカが力任せに振り回したら簡単に折れるってのも考慮してお前に渡すことにした」
「はぁ……? 技量、ですか……」
ステータスをアプリで管理できるこの世界であれば、技量の項目にエーテルを割り振ることで簡単に刀を振り回すことができる。そんなことぐらい学園教師でありオロチの巫女でもある茅宮女史ならば百も承知。
ならば、この場で彼方に託す基準とは単なる能力値のことではない。武器錬成の達人・東風三郎太と刻印の達人・西浪永泉のふたりに呼ばれ、大御所が揃って何事かと訪ねた先でアレを────無銘彼方の鎌倉式バケーションタイムによりフィーバーしたダガーナイフをお出しされたことに由来する。
自分よりステータスの高い侍なんてなんぼでもおるやろ、とか考えている彼方本人では全く想像できない視点での話であろう。
人が、武器を選ぶように。
武器も、また人を選ぶ。
それは、プレイヤーが敗北を前提としてボスの動きを学習するように。真実はバカがひとり2度目の人生であるからとゲーム転生を全力で楽しんでいるだけのこと、しかし事実として彼方は生命と精神を削りながらステータスに頼ることなく戦闘濃度を高め続けている。
八百万信仰があり付喪神の概念がある日本でそんなことやってれば学生が錬成したグレードの低い武器だってそりゃあ変質ぐらいしたくなるだろう。破損した武器を新調するたびに彼方の目利きも上達する、なんとなく気に入ったからと揃えた得物たちはどれも最高の三流品。技術の未熟な学生でも使い手の無事を願って懸命に錬成したなら、それらにも魂が宿ったとして不思議はない。
まっこと残念なことに世界の理から忌み嫌われている無銘彼方が主役級の人物が手にするような武器と巡り会える可能性は限りなくゼロに近いが、世界の不条理みたいなメスガキに取り憑かれているおかげで歩み続ける意志がある限り本人が求めていなくてもそれなりに有用でそれ以上に面倒な縁は勝手に結ばれる。
つまりこの白鞘の刀もそこそこの激戦を潜り抜けた歴史に名を残さない業物であるということだ。壇ノ浦の戦い、大坂夏の陣ときて関係者の手元にギリ資料が残っている3度目の百鬼夜行【五稜郭】にて新政府軍が撤退する時間を稼ぐために旧幕府軍の血迷った量産型薩人マシーンたちが「こっちから敵の本陣である常世に乗り込めば撹乱できんじゃね?」と張り切っちゃったときに使用されたのだとか。
やべぇよ……やべぇよ……。どうする? 味方と民衆、護らないといけないからさ……敵の本陣、常世いっちゃう? 乗り込んじゃうか。やっちゃいましょう!
鬼の大軍100万と仮定して。
こちらが100人なら、ひとりノルマ1万匹。
こちらが1000人なら、ひとりノルマ千匹。
つまり、旧幕府軍の侍は1000人より多いのでひとりあたりの戦働きは一騎当千に届かなくても良い。
なんだ、だったら大丈夫じゃん。
だって一騎当千の
名も命も惜しむ必要なし。無辜の民を守護るため鬼を斬獲ることしか考えていない千を超える少数精鋭の連中が高笑いしながら敵軍をブチ抜き本丸を強襲する弾丸として放たれた。
なお、そんな彼らの先頭に立って一番槍を務めようとした近藤さんは「これは戦闘ではなく戦争なのだから指揮官が迂闊な真似をするんじゃない」と芹沢さんにマジビンタされている。
そういうのは副局長の役目じゃないのかって? 土方さんは沖田さんと斎藤さんをビンタするのに忙しくて両手が塞がってるんで。山南さんとか永倉さんとか、ほかの組長たちは防衛線の構築で忙しいから構ってる暇ないし。
そんな様子を見て「生きるか死ぬかの瀬戸際でアホかこいつら」と呆れる見廻組の佐々木さん。鬼切姫外伝はだいたいこんな感じの世界観でゲームが進む。
まぁ、そんな背景など知る者は誰もいない。虎徹や兼定、菊一文字のような有名どころではないのだから当然だ。
ただ、茅宮女史は巫女としての直感的な導きでコレを無銘彼方に渡すのが最善だと感じたからそうしたまでのこと。
なので学園に本物の草薙の剣が封印されていることはなんにも関係が無いし、神霊・日本武尊がレプリカを手にした彼方を見てなにかを納得したかのように後方腕組みスタイルで楽しそうにウンウン頷いているのもきっと関係は無い。
「刀身の確認をしても?」
「私に許可を求める必要はない。それはもう無銘、
学園の備品ならば貸し出しなのでは? などと小さな疑問はひとまず横に押し退けて。白鞘からゆっくりと本身を引き抜いた彼方は、霊気で覆った指の上に峰を滑らせるように……静かに、目の高さで真横に構えた。
指の脂が錆を呼ぶことを嫌ったか、丁寧な扱いをしてくれると、これには茅宮女史もニッコリである。武器は消耗品だからと割り切って使い捨てることを咎めるつもりはないが、立場上それ相応の品々を扱うことのある茅宮女史としては、何気ない動作から普段も武具の手入れをしっかり自分でやっていることを読み取れるのは評価につながる。
事実、彼方は特に武器の手入れは他の生徒と比べて何倍も熱心に取り組んでいた。原作知識から武器の耐久値は減少量に比例して修繕コストも割増しで増加する、という意識があって早めに対応しているのだ。
が、それ以上に切実で無視できない事情も抱えていて。
(おぉ……ッ!? さすがはレプリカとはいえ草薙の銘を名付けられただけのことはある。1度も戦いに使ってないのに俺の霊気を弾くことなくすんなりと受け入れてくれるとは……ッ! こりゃいいや、俺以外の全ての侍がレプリカ扱いしたとしても、俺にとっては本物の名刀だな)
無銘彼方が抱える致命的な弱点。
火力が、あるいは霊気の出力に問題あり。
本人も自覚しているように彼方は本来ならば侍として、能力者として生きる道を選ぶべきではないレベルで才能がなかった。
だからこそ、恵まれないステータスで戦い続けたからこそ豊富なスキルによる多彩な手札という答えに辿り着いたまではいい。
もちろん短時間での爆発的な火力だけなら超一流の領域ではあるのだが……とにかく、少しでも安定した攻撃力を確保するためにも武器に霊気が馴染むかどうかは大事な要素なのだ。
だからこそ、その辺りの事情を────才能の格差を簡単に補ってくれる神霊や精霊の加護が能力者の格付けに大きく影響することになる。そして残念ながら彼方と縁の結ばれた4体の神霊たちは普段使いには向いていないモノばかり。
①睡蓮は告死蝶への昇格条件を満たすまではデバフ専門、しかもエーテルを捧げる必要があるので彼方自身のレベル上げは滞る。
②黄泉戦は死に際の火力を超強化してくれるが、そもそも瀕死になった時点で手札が限られてくるので普段はそこまで役に立たない。
③魂揺蛍の権能は死に戻りによるロスを減らしてくれるタイプなので戦闘中はあまり意味がない。
④
どうせこれからも強敵との戦いに巻き込まれるのだから、ここで彼方が強力な祝福が施された上質な武器を手に入れたことは追い風になる……はず、なのだが。
「……まぁ、ありがたく頂戴します」
「まったくありがたそうじゃないな。もしかしなくても気に入らなかったのか? 自分で言うのもなんだが、巫女として霊気を読む力はあると思うんだけどな」
「良い武器なのは理解しています。ですが、自分のスタイルとは噛み合いませんね。そもそも、刀というカテゴリーそのものがあまり相性が良くないもので」
「興味深いな。理由を聞いても?」
「刀は武器としての役割と目的が洗練され過ぎていますから。どうしても人間側が“刀を使うため”の戦い方をしなくてはなりません。もちろん、俺もそれができないこともないですが……選択肢の大半をそれのために潰されます。これのためだけに自分の強みを手放すのはお断りしたいですね」
「……そうきたか。ちなみに、点数つけんなら?」
「100点満点で35点ぐらい。初手の見せ札として使い牽制するか、詰めの決め手としてなら有効かもしれません」
「う〜む、なるほど……そうか。戦闘スタイル、そこまでは考えていなかったな。なんでも器用にこなすお前ならイイ物さえ与えておけば大丈夫だろってナメてたわ。教師として、ちと配慮が足りてなかったな。スマンね」
「感謝はしてますよ。実際、良い武器です。霊気も馴染みますし。曲刀を愛用していたので、それなりの相手となら問題なく打ち合えるでしょう。ですが、まぁ……折れるなり、砕けるなり、それなりの無茶な使い方はさせていただくので、そこだけはご了承下さい」
「いい、それぐらい許す。戦いの最中に武器を庇って人がケガするなんて馬鹿馬鹿しい話だし酷い侮辱だろうさ。戦って破損するなら武器のほうだって文句は言わんよ、きっと」
せっかくの贈り物が実は本人にとってそこまで嬉しくなかった。そんな反応に不満を隠しきれない茅宮女史とは違い、八岐大蛇たちがフイッと視線を向けた先では日本武尊がニヤリと笑いながら彼方の言葉に耳を傾けていた。
レプリカとはいえ草薙を名乗る刀をお荷物扱いされたのだから怒りひとつでも覚えてよさそうなものだが、武神でもある日本武尊の価値観に照らし合わせるなら不満など抱く必要がない。ネームバリューに踊らされることなく冷静に評価する姿勢はむしろ好ましいくらいだ。
「もうひとつ。これも持ち歩け。学生証だけでは足りん事態になるかもしれんからな。あまり表沙汰にするような肩書ではないから、通用する相手は限られるが……逆に言えば、コレに反応するような相手なら協力を頼めるということだ。もちろんコイツそのものが霊験庁のお墨付きだから警察とて迂闊な対応はできんよ。便利だろう?」
「……なんというか、学生には過ぎたる仰々しい肩書ですね。しかもご丁寧に俺の顔写真まで。これ、就活用にって前に学園が用意したスーツで撮影したヤツですか? 勝手に使って、俺は別に構いませんけど、それで先生が怒られたりしたらどうするんです」
「私的な利用じゃないからセーフだって。大人としては、危険な調査を学生に押し付ける時点でアウトなんだろうけど。ま、それはともかく。ちょっとでもヤバそうだったら迷わず逃げろ。欲しいのは違う立場、別の視点からの気付きだ。デモンシードの元締めと殴り合う必要はない」
教師として半分は本音。
巫女として半分は嘘。
火のないところに煙を立たせて黒幕を炙り出し堂々と介入するための贄を期待しているのだから、是非とも渦中に飛び込んでもらわなければならない。ひとりの犠牲でふたり以上を救えるなら良しとする覚悟がなければ人の上に人が立つなど出来ないのだから。
それを成す者がいなければ群を維持することは不可能。仮に統率者が綺麗事を本気で口にするならば、誰か代わりに手を汚す者が現れるだけのこと。それを知る八岐大蛇が茅宮女史のやり方を否定することは決して無い。何処ぞより帰ってきたアレの匂いを嗅ぎ取ったことで、巫女の懸念とは違う斜めに歪んだ方向のトラブルは起きるだろうなと確信してしまったが。
「次の連休にでも試してみますよ。これも経験です。100点の使い方まで辿り着けなくても、ほどほどに70点ぐらいの戦い方ができるように。先輩巫女から草薙の剣を賜った侍なら、未熟なりに死力を尽くさないと」
「おう、存分に練習しろ。それで本番の前に折れたらまた新しいのを用意してやる。私にも意地があるからな、次こそはお前が満足できるような武器……は、難しそうだな……あー、アレよ。赤点を回避できるぐらいのヤツとか、そんぐらいは用意してやる……と、思う」
プロの能力者なら草薙のレプリカというだけでテンアゲだというのに、喜ぶどころかしょっぱい評価で返してくるような侍を満足させられる武器ってなんだよ? と悩む茅宮女史はなにも悪くない。
彼方にしても、黄泉戦と魂揺蛍の加護により結界や迷宮と関係なく死に戻りする権利を得た自分はともかく、取り返しのつかない命を巻き込む可能性が高いのに刀だヒャッホーッ! とラノベ主人公のテンプレみたいな喜び方などしていられない。
だがしかし。状況を選ばない戦いとは、つまり刀しか手元にないパターンだって含まれるワケなのだから、好みに合わないからと鍛錬を怠るのは間違っている。
姿形がすっかり様変わりしてダガーナイフから馬手差しみたいな形にパワーアップした愛用品の具合も確かめなければならないし、やはり男の子という生き物はチャンバラが大好きなのだ。
壊しても大丈夫と言質はとった。二刀流なら戦い方の幅も広がる。なら決めゼリフは「無限の剣閃、キサマに見えるかッ!?」あたりが具合が宜しいか、などとワクワクしつつ迎えた連休。
せっかく都合の良い身分証も手に入れたことだし、義塾方面の迷宮で試してみようと愛車のバイクを走らせた彼方は────。
「こっちだッ! 追え追えぇッ!」
「ハッハァッ! そう簡単に逃がすかよッ!」
「死ねよ銀城ォッ!」
「メタルウルブスも終わりだなぁッ!」
「クソが、好き勝手に吠えやがって……いい加減ウゼェんだよッ! ザコ共がッ! おい、アンタ。巻き込んじまったのは悪いと思ってんだがよ、もう少しだけ付き合ってくれ。仲間たちが連中に捕まっちまってな……頼む」
「最初に助け舟を出したのは俺のほうからだしな。乗りかかった船だ、付き合ってやるよ。ただし────振り落とされんなよッ!!」
「ハッ! 上等ォッ!! マジありがてぇ、この借りは死んでも返すから期待しとけッ!!」
イケメンを後ろに乗せて夜の街を爆走していたッ!!
論外
『西区発寒在住のペンネーム[だってアーサーなんだぜ]さんから、無銘彼方がトラブルに巻き込まれているところを読みたいとのお便りをいただきました。喜べ、仕事のできるオンナである私がリクエストに応えてやったぞ!』
睡蓮
『あー、なんか姿も見えないし声も聞こえないけど彼方さんにロクでもない怨霊みたいなのが取り憑いてる気配がしますねー。触らぬ神に祟りなし、と……』