タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 彼方くんは卑怯上等ですが今日から金髪にしたりはしないので初投稿です。



読者によってはキャラの頭の上に“!?”とか見えるタイプの乙女ゲー。

 バイク旅にはバイク旅の良さがある。

 

 少なくとも、これで無銘彼方が前世に残してきた未練のひとつは片付いたことになった。

 

 

『彼方さんが死ぬ前の日本にだって、このバイクとかいう乗り物はあったんですよね? そっちでは使わなかったんですか?』

 

「車のほうが便利だからね。コーヒー飲んだりパン食べたりしながら運転できるし、冷暖房完備だし」

 

『あたしは扇風機ってヤツはともかく、エアコンとかいう金物臭い風はあんまり好きじゃないですけど』

 

「天然物で足りるならそれが一番良いのは当然だな。さて、そろそろ休憩終わるか。妖精さんがポテト食ってる姿見てご家族に連れられたお子様がキラキラした目でこっち見てるし」

 

 

 プロの試合や学生の模擬戦など機会そのものはそれなりにあっても、まさか休日のサービスエリアという距離感で精霊や神霊を目撃することなど滅多にない。魔法の力でポテトフライをふよふよと浮かべて器用にモシャる妖精さんなど珍しさから注目されても当然なワケだ。

 

 茅宮女史はもちろん、紅蓮と静流も口が軽いほうではない……が、それはそれとして気楽さと自由さを手放すのが惜しい彼方は可能な限り睡蓮の行動を制限していた。役に立たないマスコットとしての立場を強調するために。

 だからこそ旅先では自由にさせる。旅の恥はかき捨て、とも少し違うかもしれないが、霊気を扱う姿を目撃され少しぐらいSNSなどで話題にされたところで簡単に戦闘力には結び付かないという確信があった。それぐらい加護に対する“戦闘部分”の評価は、特に一般人の抱くイメージに強く影響を与えている。

 

 

 とはいえ。

 

 夢喰いという鬼の恐ろしさを知らなければ、睡蓮は可愛らしい妖精さんでしかなくて。

 

 

 子どもたちは興味津々でも大人の反応はいまひとつ。彼方にとってはとても好都合。今後は人間相手に戦う機会もあるのだから、強者として警戒されるより弱者として侮られているほうが動きやすい。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 せっかくなので風祭神社に挨拶を済ませ、それから義塾の管理下にある迷宮を遠目に観察し、原作ゲームのDLCエリアも確認し、さらには原作には存在せず政府の手も入っていなさそうな迷宮まで偶然発見してホクホク気分の転生者。

 今日のところは確認作業で終わらせて、明日になったら本格的に探索しよう。ぼちぼち夏休みが近いことによる空気感、事実として日照時間が長いことからまだ動くには困らない程度の明るさではあるが、まずは休息を優先して甘い物でも食べることにしよう。

 

 

 そんな予定も謎の悪寒にビクッ?! と身体を震わせる睡蓮の後ろのほうで少女漫画に登場しそうな恋に恋する乙女の表情でソワソワしている冥界童女の前では無意味であった。

 

 

「……アレだッ! あの倉庫に仲間が、クソッ! だよな、向こうが呼び付けてんだから待ち伏せぐらいするだろうよ……ッ!」

 

「伏せてはいないけどね。堂々と鉄パイプだの釘バットだの構えておもてなしの用意は万全だな」

 

 

 原作通りならば道理は銀城海斗にあるだろう。

 

 そうでなければ蹴り落とせばいいだけのこと。

 

 

 2代目ヒロインのために存在するはずの攻略対象が負傷した状態で突然のエンカウント、後方からは見た目からして実にわかりやすい追っ手の皆さんがエンジンをブンブン吹かしてやってくる。

 なにが起きているのかはサッパリでも大凡の事情は想像できないこともない。このまま捨て置いて大怪我されても寝覚めが悪いと手を差し伸べた彼方は、そのまま流れで海斗の手伝いをすることにした。

 

 

「上等だよ島崎ィ……ッ! ザコを並べたぐらいでオレを止められると思うなよ……ッ! おい、アンタ。ここまで運んでくれたこと、感謝する。ここから先はオレたちの問題で────おい、聞いてんのか?」

 

「聞いてる聞いてる。あの倉庫にお前さんの仲間がいるんだろ? だから、俺が責任持ってそこまで運んでやるよ」

 

「いや、これ以上巻き込むワケには……っていうかオイッ!? いい加減スピードを落とさないと……ッ!?」

 

「スピードを落とす? なに言ってんだよ、逆だろう? さぁ、覚悟はいいか? できてないって言っても止まるつもりはないけどな〜」

 

「ちょ、おま……ッ!? 金属の扉だぞッ!! それに、向こうのメンツだって並んで────ッ!!」

 

 

 

 

「……なぁ、アレ、マジで突っ込んでくる気じゃね?」

「バカ言え、ハッタリに決まってんだろ」

「いや、でも、全然スピード……」

「へ、へへ……そんなんでオレらがビビるとでも……」

「いや、待てッ! コレ、マジでヤベェぞッ!?」

 

 

 

 

「いい度胸だガキどもッ!! お望み通りまとめて挽き肉にしてやるからそのまま並んでおけッ!! そこを動くなよッ!!」

 

 

 

 

『『『『逃げろォォォォッ!?!?』』』』

 

 

 ちなみに鬼切姫の世界では能力者、主に侍にヘルメット着用の義務はない。落馬程度で怪我するようでは武士を名乗れなかったように、交通事故程度でくたばるようでは鬼との戦いに耐えられないので誰も気にしないのだ。

 つまり不良少年たちが本当に最後まで根性試しを突っ張ったとしても彼方は気にすることなくそのまま跳ね飛ばす気マンマンであった。能力者なら少しぐらい雑に扱っても死なないことを知っているので。もっとも、百戦錬磨の侍の動体視力であれば不良少年たちが最初から逃げの姿勢であることはお見通しであったのだが。

 

 

「こんにちは、あるいはこんばんは。そして吹っ飛べッ!!」

 

「うぉぉぉぉッ?! ムチャクチャかよテメェッ!?」

 

 

 急ブレーキッ!! 

 

 急ターンッ!! 

 

 からの無銘流奥義・扉跨蹴閃(どあまたぐけりのひらめき)ッ!! 

 

 

 いくらメインキャラクターと比べて、なんなら妹と比べても貧弱なステータスをしているとはいえ。一般人の利用を想定した鉄の扉などやわらか戦車よりは流石に硬いが蹴り破るには問題ない程度には柔らかいのだッ!! 

 

 

 躍動する扉ッ!! 

 

 余裕綽々で倉庫の中で待ち構えていたはずが、突然の衝撃音その他諸々にビビる不良少年たちッ!! 

 

 

(……あのメガネ男子が島崎とかいう誰か、かな。原作ゲームでは舞台装置として姿形も無かったけど、銀城海斗のライバル? として、この世界が生きている証拠みたいなもんだな。そして────あぁ、クソ。これがバタフライエフェクトってヤツか? チュートリアルを無理やり攻略させたせいでシナリオがバグったみたいなモンかねぇ)

 

 

 文字数節約のためにカットされたヤンキー漫画でよく見るタイプのヤンキー同士の舌戦を眺めつつ、島崎なる丁寧口調タイプのリーダーが“手遅れ”であることを理解した彼方の表情はお世辞にも愉快とは言えない状態である。

 原作知識にあるデモンシードの影響、その末期症状。エーテルの流れが歪み、体内を巡る霊力が妖力にジワジワと侵蝕されていた。あと数粒ほどデモンシードを取り込めば、身体の内側に瘴気の塊が生成され常世と繋がる門のようなモノが発生して鬼に乗っ取られることになるだろう。

 

 

 進行度の時期が原作の流れとは違う、本来なら手遅れとなる被害者とのエンカウントは夏休みが終わってからのメインストーリーの中で。

 

 ならば原因は?

 

 恐らくは、いや間違いなく日比野鈴音を強化したことによる弊害。

 

 

 正確なところを彼方が知ることはないが、その予測は大当たりである。鈴音が半鬼人と化した宮本に勝利したことにより新たな販路の獲得こそ鈍りはしたものの、既にデモンシードに頼ることを覚えてしまった者たちはより強い力を求めたのだ。

 

 ヤツは失敗した。

 

 自分はそうならない。

 

 根拠も無く大丈夫だと思い込むのは個人の自由だが、そもそもデモンシードは狂気の陰陽師たちが自分たちの理想とする英雄譚を書き上げるために用意した毒物である。少しエーテルと霊力の使い方を覚えただけの素人に耐えられる代物ではない。

 

 

(周囲の取り巻きはギリギリ助かるか? 茅宮先生からの紹介で事前に医療系の能力者や霊験庁の手が入ってる病院のスタッフとは連絡済みの状態ではある、が……まぁ、そもそも手伝うって始めたのは俺のほうだから、銀城海斗の仲間たちを見捨てて明日食べるメシが美味いかといえばそんなこともないからな……ついでに、ぐらいならアリだろ)

 

 

 懐に手を入れてタブレット端末に触れる。

 

 どれだけ手札を用意できるか、こそが転生者である自分の強みだと理解している彼方はアプリの使い方だって工夫する。事前に設定しておけばいきなり手の中に武器を喚び出すことができる不思議アイテムなら、訓練次第でいくらでも応用できるはず、と。

 

 

 

 

「まぁまぁ、落ち着いてください銀城くん。貴方のお友達はちゃんと無事ですよ。少しだけ、悪ノリをしてしまったことについては謝罪しますから、そんなにカッカしないでください。ね? ここは僕のホームではありますが、いまは結界を準備していないもので……うっかり、が、起きたら……困るでしょう?」

 

 

「銀城さんッ! 俺たちに構わずコイツらやっちまってくださいッ!」

「大丈夫ですッ! 頑丈さには自信ありますからッ!」

「おいクソボケどもッ! やるならさっさとやりやがれッ!」

「メタルウルブスをナメんなよコラァッ!」

 

 

「お前ら……ッ!! 島崎、テメェ……ッ!!」

 

「ほら、そんなに怒らないで、まずは武器を置いてお話でもしましょうか。お連れの方も、何方かは存じませんが迂闊な真似は控えたほうが宜しい、か……と……はい……?」

 

 

 メガネをクイクイする雰囲気の悪役ムーブをしていた島崎なる不良少年が怪訝な顔で固まる。

 

 それに釣られる形で取り巻きたちも、何事だと振り返った海斗も同じのように“ソレ”を見て固まった。

 

 

「どうした。俺の顔になんかついてるか?」

 

 

 彼方が鍛錬の末に身に付けた特殊操作。

 

 それにより瞬間的に実体化して構えた物。

 

 

 それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────長ネギ、であるッ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卵焼きやチャーハンに入れたり、お味噌汁やラーメンに浮かべたりする【植物界】【被子植物】【単子葉類】【キジカクシ目】【ヒガンバナ科】【ネギ属】でお馴染み、お料理界における上質なロングソード的存在のアレである。

 

 

「なんだよ。ネギはネギであって武器じゃないんだから置かなくてもいいだろ。それともお前はコレが武器にでも見えるっていうのか? ふざけてんのか? 侍ナメんな、ネギで鬼と戦えるワケないだろ。それとも自分たちなら武器にできるのに野菜扱いするとかクソザコかよコイツって喧嘩売ってんのかッ!! アァッ!?」

 

「あ、いえ、その」

 

 

 彼方、いきなりキレる。

 

 これには丁寧口調で余裕ぶっていた島崎も困惑するしかない。呼んだ相手と全然関係ないヤツがバイクで扉をブチ抜いて飛び込んできた衝撃からなんとか持ち直したところにネギを片手に構えて急な独り相撲で怒り始められたら誰だって困るに決まっている。

 

 

「どいつもこいつもタマネギ派の陰謀を信じる飴色野郎かよッ! だったら俺がここで長ネギの真髄を見せてやるってんだよッ! まな板も包丁もいらねぇ、これが侍の戦い方って教えてやらぁッ! オラ、食らえッ! ネギだく一丁、喜んでぇッ!!」

 

 

 長ネギ、射出ッ! 

 

 キラキラと銀色の霊気を纏いながら優しく放物線を描いたそれは、ちょうど銀城海斗と島崎の間ぐらいのところにポトリと落下して……どんな器用な霊気の込め方をしたのか、実体の無いエーテル粒子の葱坊主が咲き誇るッ!! 

 

 

「いや、アンタ……いったいなに考えて────ッ!?」

 

 

 あまりにも意味不明な行動に、ついに海斗がツッコミを入れようとしたそのときッ!

 

 彼方は導火線らしき部分がバチバチと火花を散らすボール状の物を大量に放り投げていたッ! 

 

 

「睡蓮、そっちを」

「わぁ、本当に使っちゃうんですね。ハイハイ、任されましたよ」

 

 

「なん、だ……コイツは……煙幕ッ!?」

 

「ほら、お兄さん。あたしがサポートするから早く」

 

「お前は……神霊ッ!? それに、サポートって」

 

「はぁ? あなた、なに言ってるんですアホですか。いったいなんの目的でこんなトコにいるんです? あと、あたしは妖精さんですよ〜」

 

「──ッ!」

 

「あたしの鱗粉から作った速効性の神経毒です。お仲間さんたちも被害を受けますが、あたしが治療するからさっさと動いてください。もちろんお兄さんも大丈夫ですから。ホレ、走れ走れ〜」

 

 

 

 

「クソッ、目が……ゲホッ、ガハッッ?! 喉に……ッ!? なんだって「オラァッ!!」ぶごろッ?!」

 

『『『『銀城……さん……ッ!?』』』』

 

「お前ら、無事かッ!? 頼む、治療をッ!!」

 

「ハイハイ、慌てない慌てない。別に簡単に死んじゃうような猛毒じゃないんだから。ふむふむ? 負傷による消耗のせいで毒が深めに喰い込んでいますが……まぁ、見てから解毒余裕ですね。あなたも、あたしの治癒空間から出ないように気をつけてください」

 

「いや、だが……オレの尻拭いを今日会ったばっかの他人に任せるのはさすがに」

 

「心配しなくても視界が悪い程度でザコ相手に不覚を取るようなマヌケじゃないですよ。だから余計なことはしないで大人しくしててくださいマヌケ」

 

「コイツ、見た目のワリに口悪ィな……」

 

「どうしましたマヌケ。人質取られてるのに無策で挑んで相手に良いようにコントロールされて棒立ちしてたマヌケがなにか文句でもあるんですかマヌケ。言い訳したいなら、あなたもネギ1本で場の支配率をブッ壊すぐらいの芸当をしてから言えばいいと思いますよマヌケ」

 

 

 海斗、黙る。

 

 鬼から精霊に成った睡蓮にしてみれば、銀城海斗の行動は意味が分からないのだからマヌケ呼ばわりも当然の評価であった。正々堂々? 男気? チームの流儀? それで人質を使われて動きを封じられているのにどこを褒めろというのか。

 これが純粋な人間同士の戦いであれば“そういうモノ”と無関心でいたのかもしれないが、睡蓮には島崎側の不良少年たちが鬼に変化しつつあることが視えている。迷宮内部でもなければ結界も無いのだから、これは人間側にとって不利な条件での殺し合い。死ねば終わる状況で手段を選ぶなど理解できるはずがない。

 

 敬愛するリーダーを目の前で貶された、しかし、自分たちが足を引っ張った自覚のあるメタルウルブスのメンバーもまた黙っていた。

 喧嘩に負けて捕まったのは自分たちが弱いからであるし、煙の向こう側で打撃音に重ねて島崎の部下たちの悲鳴が聞こえてくることに安心しているのも事実だからだ。

 

 

 もっとも、メタルウルブスがとっ捕まった原因を作ったのも彼方と言えばそうなのだが。デモンシードの侵蝕が進んでいる→それだけデモンシードを摂取している→それだけ鬼の力が強まっている、という流れを起こしたワケだし。

 

 

 シナリオ全体の動きを知るが故になんとなく察しているかもしれないが、それと毒煙に紛れて容赦なく不良少年たちをなぎ倒していることは関係ない。

 原作知識が使えない状況で、黄泉戦と魂揺蛍の加護を持つ自分以外は死に戻りを期待できない環境となれば、敵対者の怪我など気にしている場合ではないからだ。

 

 もちろん容赦はしてないが手加減はしているので死者が出ることはない。

 

 いまのところ、は。

 

 

「ふざけ、やがってぇ……ッ!! もういい、もう殺すッ!! 結界なんて知ったことかッ!! 僕に逆らうならお前が誰だろうと関係ない、銀城共々まとめて殺してやるよォッ!!」

 

「デモンシード、か。止めておいたほうが身のためだと思うけど? 薬も過ぎれば毒となる、まして、飲んだだけで強くなれるような怪しい代物なら副作用だってあるだろうさ」

 

 

 まったく心のこもっていない説得。

 

 もちろん彼方の狙いはデモンシード摂取の阻止ではない。どうせ手遅れならば、この島崎なる人物を()()()()にしてしまえばいい。

 それで取り巻きたちがデモンシードとの決別を選べばそれでよし、それでも暴力の魔性から逃げられないならそれまでのこと。助けられるなら助けるが、危険を知って自分から泥沼に踏み出す者を引き上げてやるつもりはない。

 

 

 案の定というべきか、想定通りが正しいか。島崎は彼方の忠告を無視してデモンシードを貪り食い、そして────。

 

 

 

 

「な、なんだ? ナニが起きている? なんで視界が歪んで……う、腕が……体が……動かな……なにがどうなっているんだッ?!」

 

 

 

 

 胸を突き破って肉の塊のような物が蠢き出したッ!!




 ピクシブのほうで支援絵をいただきました。どうやって紹介するのか、なるべく早めに対応したいと思います。アリガトナス!

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