タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
巨門の迷宮。
ダンジョンのデザインテーマは『地下墓地』と『通路』そして『骸骨』であり、いかにも迷宮といった雰囲気の迷路にホネそのものな鬼たちが配置されているのが特徴だ。
どんな戦法でも戦えるけど武器選びや属性を意識すると楽になるよというメッセージが込められているのだが、それはつまりこの先はなにも考えないゴリ押しでは苦戦するぞという警告でもある。
もちろんレベルの暴力の前では全てが無意味なのだが。
「大地さん、いくら弱い鬼が相手とはいえ前に出過ぎですよ。ただ迷宮を攻略するのではなく、朝比奈さんとの連携をもっと意識した立ち回りをですね……」
「考えてるだろちゃんとよォ。朝比奈のトコに向かおうとしている鬼を優先して倒してるし、お前の弓が余裕で間に合うときはちゃんと任せてんだろ? だからホラ、朝比奈の巫女装束には汚れひとつねぇ。いや、さすがに砂粒とかまでは防げねぇけどさ」
真白の『水』と『土』のレベルが上がりいくつかの魔法スキルを覚えたあたりで、実際に迷宮へ潜りどの程度鬼を相手に戦えるか試してみようという話になった。
最初はひとりで貪狼の迷宮に向かうつもりの真白だったのだが、それならば協力して巨門の迷宮を攻略しようと提案されたのだ。
これも良い学習の機会。サポート系の魔法スキルを試すのであれば侍と一緒に戦ったほうがいい練習になるだろう。そんな思いでダンジョンにやって来たのだが、ご覧の通りイマイチ巧くパーティーが機能していないのだ。
単純に、侍ふたりが強すぎる。ゲームであれば主人公である真白のレベルを基準とした強さでメンバーに参加するのだが、この世界では大地も静流も真面目にレベルアップに励んでいたため巨門の迷宮をクリア済みなのである。
だからこそ万が一のことが起きても巫女である真白を
「……申し訳ありません、朝比奈さん。レベル差による影響を甘く見ていました。話には聞いていたのですが、まさかこれほどまで戦闘に違いが出るとは想像していませんでした。安易な提案をしてしまった私のミスです。大地さんにも勝手な注文ばかりしてしまい──」
「いや、謝ることはねェ。オレがもっと巧く手加減できてりゃこんなことにならなかったんだ。オヤジからも戦いは全力でブン殴ればいいってもんじゃねェって言われてんのによ。──悪ィ朝比奈ッ! お前を手伝ってやるなんて偉そうなこと言っといて足ィ引っ張っちまったッ! 本当にスマンッ!」
さてこの状況、本来であれば戦い方や考え方の違いから言い争いとなり仲間が分断されてしまうイベントである。
プレイヤーが賛成した側だけがパーティーに残り、もうひとりは勝手に迷宮の奥へと進んでしまいボスエリアで合流して討伐成功、そして仲直りという流れになるハズだった。
だがこの世界で真白が声をかけたのはゲームとは違う組み合わせ。ユーザーから水属性は安牌と言われるほど協調性を大切にする静流と、自分に問題があると自覚すれば言い訳することなく頭を下げることができる大地とパーティーを組んでいる。
意地を張ることなく謝罪ができる男と男がふたり、なにも起きるハズがない。仲良く真白へごめんなさいである。
よってここから先は真白のターンとなるワケだが、結論としては「許すよ」の1択だろう。レベル差の影響ぐらいダンジョンに入る前にわかってるだろと思わなくもないが、これはふたりが強力な加護に自惚れることなく努力を続けてきたからこそ起きたトラブルだ。
ここで頭を下げているふたりに文句を言うのは、ふたりの努力を否定する行為に等しい。むしろ、そんなことをするヤツがいれば大太刀の腹で顎を砕いて黙らせてやる。
が、ただ許すだけだと大地も静流も微妙に納得できないままダンジョン攻略を再開することになるかもしれない。少なくとも自分が逆の立場であればそうなる。
半端な気持ちで先に進むくらいなら1度学園に帰ってまた明日、気分を切り替えてリベンジしたいぐらいだが……このまま帰ろうと提案しても「やっぱり怒ってるのかもしれない」となるかもしれない。男の子ってそういうトコあるよね!
(んー。なにか条件を付けたほうが目白くんも喜多くんもスッキリできるよね。どうせならダンジョン攻略に関係するようなことを──そうだ!)
「ねぇふたりとも。どうせこのまま攻略を続けても雰囲気があんまり良くないと思うの。それなら今日のところは学園に帰って、また明日ね? 協力してほしいことがあるんだけど……お願いしてもいいかな?」
「協力、ですか?」
「そいつァ構わねェがよ、オレが手伝えるようなことなんて拳と土属性と数学ぐらいしかねェぞ」
「心配しなくても大丈夫だよ、ダンジョン攻略に関わることだから。というか目白くん、数学得意なの?」
「おう。基礎さえ覚えればほとんどの問題は解けるからな。武術も基礎さえ疎かにしなきゃあ確実に強くなれるのと一緒よッ!」
「はぇ~、なんか意外だね~」
「テスト前は私も大地くんのお世話になっているのでオススメですよ。ノートも綺麗で見やすいですし。それで朝比奈さん、私たちにお願いとは?」
「あ、うん。実はね、ふたりと一緒にトレーニングしている間に新しいスキルを覚えてたの。パーティーメンバーの獲得経験値を増やすって効果なんだけど、それがどのぐらい影響するのか確かめてみたくて」
「はは~ん? なるほど、オレたちに拳や弓以外の武器を使ってみてほしいって話か。面白そうだな、オレは構わねェぜ! 静流、お前はどうするよ?」
「もちろん手伝わせてもらいましょう。しかしそうなると、武器はなにを選びましょうか……投擲、いや、ここはせっかくですし思いきって接近戦を試してみるのも……」
「まてまて! お前は考え事始めると長ェんだよ! どうせ仕切り直すんだ、学園に戻ってから話し合いすりゃいいだろ」
「そ、それもそうですね。では朝比奈さん、今日のところは」
「うん。それじゃあ学園に帰って、明日のダンジョン攻略に備えよう!」
◇◆◇◆
一方、そのころ。
「くッ!? このままじゃ囲まれるッス! 兄貴、ここはウチに任せて──」
「よっしゃ頑張れマイシスターッ!!」
「オィィィィッ!? 知ってたけどッ! 兄貴はためらわないって知ってるけどォッ!!」
「骨は拾ってやらんが次の休みは商店街のあきれす軒でメシおごってやるよッ!」
「6倍盛りカツカレーとメガチャーシュー麺のセットぐらいは食べさせてくれないと拗ねるッスよォォォォッ!!」
真白たちが売店のお菓子などをつまみながらミーティングの真っ最中、無銘兄妹はDLC追加ダンジョン『柳閃冥洞』にて、斬馬刀を振り回す鎧武者姿のガーゴイルの群れに追いかけられていた。
1匹1匹丁寧に誘導しながら進めばいまの兄妹でも倒せないことはない相手なのだが、どうせボスに挑めば稼いだエーテルは全部ロストすることになるし駆け抜けてしまえと強気に出た結果がこれである。
どうせ致命傷を受けても迷宮の外へ吐き出されるだけのこと。そうでなければ彼方は命と引き換えにしてでも凪菜を逃がしただろう。
「すまん、凪菜よ。お前の犠牲は無駄にはしないぞ。……さて、マジな話これでボス部屋までたどり着けなかったら3日は文句を言われるな。気合い入れて進まんと」
妹を迷わず囮にし、わずかな明かりと記憶を頼りに迷宮の奥へ進んだ兄。眼下に広がるのはゲームではロード画面を挟んでサクッと切り替わるだけで下まで降りられた闇の渓谷。
底はまったく見えないが、渓谷を飛ぶ蟲のキラキラ輝くおめめはしっかりと見えている。アレらの襲撃を掻い潜り、しかも落下死しないように巧く地形を利用して降りなければならない。
ここを往復するだけでもレベルが上がりそうだ。そんな下らない冗談で恐怖を抑え込みながら、彼方は闇の中へと勢いよく飛び込むのであった。