きさらぎ駅の駅員なんですがもう限界かもしれない   作:おひょひょ

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#2 八尺様の事をギガ呼び込みくんと呼ぶのはやめなさい

 

 

 今日もこのきさらぎ駅は平和だ。あまり知られていないが、そもそも此処は人以外のモノの為にある駅なのである。人間はそこに迷い込んできた異物でしかない。だが上手く元の世界に帰り着く道を見つけ出せなければ、彼らは存在ごと此処に取り込まれてしまう。 

 

 私、きさらぎ駅の駅員に与えられた役目はそんな異物を元の場所に帰り着く手助けをする事。別に慈善事業でやっている訳ではない。

 だだっ広い構内を掃除しながら溜息を吐く。マジで広い。広過ぎる。少しくらいこの土地を売ってマ○ドナルドとか誘致したらどうだろうか。

 表の新宿駅だとか梅田駅に比べればマシなんだろうけど、この地方都市の中枢駅並みの構内を管理するのは私一人なのである。

 

 本来無人駅であった筈のこの場所がどうしてここまで大きくなったか。それは都市伝説としての『きさらぎ駅』の名前が広がるに連れ、比例するように本来のこのきさらぎ駅まで少しずつ拡張されていっているからだ。

 つまりこの駅にとって『きさらぎ駅に来た記憶』を持ったまま無事に帰り着いてもらう事は、自分達をより強く大きく育てる事に繋がるのだ。

 それが慈善事業ではない、という言葉の答えである。

 

 そうは言えども、毎日毎日誰かが迷い込んでくるという訳でもない。寧ろそれは本来レアケースなのだ。レアケースの筈なのだ。

 自分に言い聞かせるように箒で床のゴミを掃く。そもそも人がいないのでやる意味もあまりないのだが、暇なので一種のルーティーンのようなものだ。

 この後はまたいつも通り紅茶でも飲んで優雅に時間を過ごそうか、と考えていた時。

 

 駅全体に鳴り響く太鼓と鈴の音に、緊張が走る。

 きさらぎ駅の原点とも言える『はすみ』の話。彼女の話の中では、太鼓と鈴の音が聞こえてから次々と異変が発生していた。それに倣っているのかどうかは知らないが、この駅に明らかに"ヤバいモノ"が来た時はいつもこの音色が構内に響き渡る。

 どうやらホームにそれは降り立ったようだが、不味い。

 今もう一人、私の勘違いでなければこのきさらぎ駅においてトップクラスの異物がやってきた。

 

 取るものも取り合えず、帽子を被り直して件のホームに向かう。最悪のタイミングだ、絶対にあのバカを何かしらの怪異に接触させてはいけない。

 本来であるならば、ここに迷い込んだ人間が感じるべきであろう恐怖を味わいながら私は構内をひた走るのであった。

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 遅かった。

 見慣れた3番線のホームに佇んでいるのは、ぱっと見れば人間のようにも思える。だが近付くに連れてそれの異常性が嫌でも目に焼き付けられる。

 背を向けてこそいるが、2mは明らかに越えている身長に腰まで伸びた黒髪。白いワンピースに白い帽子は、電子の海(インターネット)の中で最も知られている怪異の証。

 

 八尺様だ。そして彼女になんかぺらぺら話し掛けている羽虫のようなバカが一人。もう本当、マジで勘弁して欲しい。

 

「ぽ、ぽぽぽ」

「お姉さん可愛いし背もめっちゃ高くてスタイル良いのに『ぽぽぽぽ』しか言わないの勿体無いすよ。あ、もしかして恥ずかしがり屋さん? じゃあまずは自己紹介からっすね、悔やむと書いてカイって読み──」

「何やってんだバカ!!」

 

 ずかずかと早歩きで迫ると、彼の頭をばしんと叩く。そのまま首根っこを掴み、向こうへ引き摺っていく。勿論八尺様への愛想笑いも欠かさずに。本当に怒らせたらヤバい、殿堂入りは格が違うのだ。

 

「あの方を誰か存じ上げていないんですか!?」

「……ギガ呼び込みくん?」

「誰がギガ呼び込みくんですか! 本当に不敬ですよ、分かってます!? 貴方ね、本当に殺されますよ!?」

「駅員さん興奮しすぎ、鼻息荒いっすよ」

 

 私が殺してやろうかこのクソガキ、と内心思いながらも何とか心を落ち着ける。すぐに電車は呼んであげますから大人しくしているように、とバカに言い付けて八尺様の方へ向かう。

 

 こういった風に他の怪異がこの駅を利用する事もある。日本各地で知られている怪異なんかは特にその傾向が強い。まあそりゃあ、全国を歩いて回るのは人外にしてもしんどいだろうし。

 元々きさらぎ駅はそういう人間以外の為にあるものなのだから。それにしても八尺様とは飛んだビッグネームが来たものだ。何なら私も初めて見るし。

 

「お客様……ええと、その本日はどちらへお出かけになられますか?」

「ぽぽぽ」

 

 ぽぽぽじゃ分かんねえよ。

 あれ、これ詰んだんじゃないの? 冷や汗がたらたら流れてくる。もう開き直ってハワイ辺りにでも送ってやろうか。ワンチャンそのまま帰って来なくなるかもしれないし。でももし戻ってきたら怖いなあ。

 

 半ば現実逃避しつつあった私の肩を、八尺様がぽんぽんと叩く。

 

「は、はい!!」

「……ぽ」

 

 何故か顔をほんのり赤く染めて彼女はあのバカを指差している。嘘でしょ、と思いながらも恐る恐る悔の方へ歩いていき事情を説明する。

 

「あの……あちらのお客様がお話があるそうで……良ければ次いでに何処に行きたいか聞いてきてくれると助かるんですけど……」

「あ、全然いいっすよ」

 

 物怖じする様子もなく平然とあのバカは八尺様に向かって歩いていった。そのまま二人で「ぽぽぽ」だの「っすよ、っすよ」と脳みそが溶けそうな会話をしている。というか何で会話が成り立ってるの? 

 

「ん、ああはいはい。駅員さん、このお姉さん秋田にきりたんぽ食べに行きたいらしいっすよ……え? 良かったら俺も一緒に? 奢ってくれるんすか!? マジで!? そういう訳で秋田によろしくお願いします! お土産買ってくるんで!」

 

 半ば放心状態になりながらもインカムに囁いて秋田行きの列車を呼ぶ。

 身を縮こまらせるようにして悔に寄り添う八尺様に、なんかこう、スーパーヒーローが街でズボンのチャック全開のまま歩いている姿を目撃してしまったような気分を味わった。そのまま手を振って列車に乗っていく二人に手を振り返し私一人がぽつんとホームに取り残される。

 思い立って胸ポケットから手帳を取り出し、日誌代わりにさらさらと今日あった事を記録する。

 

「八尺様は男の趣味が悪い……と」

 

 秋田のお土産って何だろうな、と考えながら私は駅員室に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

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