鬱エロゲ世界に生きる純愛厨の俺、女勇者の貞操を守るため魔王を潰します   作:ぽんじり

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次回くらいからギャグに戻りたい


変わらないあなた

 日は沈み、王都には夜の帳が降りる。

 眼下に広がる町には明かりが灯り、日中とは異なる様相を呈している。

 酒を片手に仲間と盛り上がる者、食事を済ませ明日のために眠りにつく者。

 そんな彼らを守るのが、「勇者」である私の使命だ。

 

 この場所にくると、ついついそんな事を考えてしまう。

 ここは、町を見下ろすことができる高台。

 どうして真夜中に一人、こんな所に突っ立っているのかというと、ある人物に呼び出されたからだ。

 

「オリビア」

 

 その声に私は振り返る。

 

「悪い、待たせた」

 

 約束の時刻よりも少し遅れてきた彼は、申し訳なさそうな顔をしている。

 私を呼び出したのは、他でもない、ライトだ。

 

「そのくらい気にしなくていいわよ。なんせ、こっちは十年待ってたんだし。誤差よ誤差」

 

 そう言うと、彼はさらに困ったような顔をして、

 

「……すまない」

 

と言葉を付け加えた。

 

 その顔を見て、私は思わず「くすくすっ」と笑ってしまう。

 どうやら少し、からかい過ぎたみたいだ。

 

「?」

 

 笑う私を見て、彼は疑問符を浮かべている。

 懐かしいやり取りだ。

 ライトにかまって欲しかった幼き日の私は、わざと怒ったりしてみせて、彼が必死に機嫌を取ろうとする所を楽しんでいた。

 最後には決まって、私が彼の慌てる姿に笑ってしまい、ライトは意味が分からないといった様子で私を見つめるのだ。

 

「ふふっ――、なんでもないわよ。それにしても、よくノアを説得できたわね。私と二人きりだなんて、あの子絶対許さないでしょ?」

 

 こちらに歩んでくるライトに、疑問を投げかける。

 

「そうでもない。確かに、ノアは少しわがままな所もあるが、きちんと話せば分かってくれる。いい子だ」

 

 それを聞いて、私は少し驚く。

 

「ふぅん、意外だわ。てっきり、もっと依存されてるんだと思ってた」

 

 私は正直な感想を口にする。

 

「依存……か。それは少し耳が痛いな。これに関しては、俺の責任である所が大きい。ノアは今、その存在理由の多くを俺に求めている。だから、他の生きる理由、それこそ、好きな男でもできればだいぶ変わってくると思うんだがな」

 

 その話を聞いて、私は絶句する。

 

「……ねえ、ライトってノアのことどう思ってる?」

 

「ノアのこと? そうだな……、一言で言えば、妹みたいなものか」

 

 ライトはあっさりとそう言ってのける。

 

 こいつ、マジか……。

 

 この幼馴染(唐変木)、誤魔化しではなく本気で言っているのが相当たちが悪い。

 私は、ライトのあんまりな言葉に思わずため息をつく。

 

「嘘でしょ? 六年間一緒にいてこれ? しかもノアって、めちゃくちゃあからさまにアピールしてたわよね? これには少しばかり同情するわ……」

 

 もし、これがチャラついた男の言葉なら「妹みたいなもの(性欲が無いとは言ってない)」として疑ってかかるが、ライトの場合本当に言葉通りの意味でしかないのだろう。

 私の幼馴染は、この十年で鈍感さにも磨きがかかっているらしかった。

 

 そんなことを考えながら、私は逸らしていた目線を再びライトに向ける。

 周囲には誰もいない。

 星がよく見える夜空の下、私たちは二人きりで向かい合っていた。

 

 すると、ライトが真剣な表情をつくる。

 雰囲気が変わった。

 

「オリビア。君に、どうしても伝えたいことがある」

 

「伝えたい、こと――」

 

 それを聞いた瞬間、私の心臓が早鐘を打つ。

 

 正直なところ、呼び出されたときから気が気じゃなかった。

 十年ぶりの再会、夜景をバックに、二人きり。

 こんなの、期待するなという方が無理だ。

 私だって、乙女の一人。

 本で描かれるラブストーリーのような告白を、何度も妄想してきた。

 そして、その相手はいつも――

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 

 血流は速く、頬は上気する。

 

「オリビア――」

 

 ライトが私に伝えたいこと、それは――

 

「約束を破って、すまなかった」

 

「――――え?」

 

 期待とは裏腹に、目の前には頭を下げて深々と謝るライトの姿。

 何度も妄想した告白シーンとは、似ても似つかない光景。

 残念ながら、ここからラブストーリーが始まることはなさそうだ。

 

「えっと……」

 

 予想外の展開に、私は戸惑う。

 「約束」とはなんのことだろう?

 

「もしかして、ノアとの同棲の話をしてる? それなら、別にもう気にしなくていいわよ。ライトの気持ちも分かったし。それに、これからは私も――」

 

「そうじゃない」

 

 私の言葉を遮って、ライトが否定を口にする。

 

「そうじゃない?」

 

「ああ。俺が言っているのは、そのことではない」

 

 そう切り出すと、ライトは言葉を続ける。

 

「今日、生徒会室で話したときからずっと考えていた。どうして君が、そんなにも怒っているのかを。答えは初めからでていたようなものなのに、俺が未熟なせいで、気づいた時にはもう日が暮れてしまっていた」

 

 突如、そんなことを言い出すライト。

 

「いや、だから私はもう何も怒ってなんか――」

 

「嘘をつくな」

 

 ライトがまた、私の言葉を遮る。

 

「うそって……」

 

「オリビア。君は優しいから、俺が破った約束を忘れようとしてくれている。そうだろ?」

 

 その言葉に、私の心がざわつき始める。

 

 ライトの言っていることは、意味不明だ。

 だって私は、ライトに感謝こそすれど怒ってなんかいない。

 ライトは、私のピンチに王子様のように駆けつけて、助けてくれた。

 宣言通り、強くなって戻ってきてくれた。

 

 それが、全てのはず。

 なのにどうして、私はこれ以上、この話を続けたくないと感じてしまうのだろうか。

 

「考えてみれば当然のことだった。何故最初に思い至らなかったのか、己の未熟さが嫌になる」

 

 約束なんて、そんなものをした記憶はない。

 今語っていることは、全部ライトの勘違い。

 そのはずなのに、心の奥底で、嫌なざわめきが強くなる。

 

「だって俺は、君とのあの日の約束を、守れなかったのだから」

                            

「――っ」

 

 ライトの言葉に、息が詰まる。

 これ以上は、聞いてはいけない。

 聞いては、いけない――

 

「オリビア」

 

 狼狽える私を無視して、ライトは言葉を続ける。

 そして、

 

「十年前のあの日。君が、俺と一緒にいたいと言ってくれたあの日。『一緒に逃げる』と約束したのに、守れなくてすまなかった」

 

そう言い放った。

 

「そんな……、こと……」

 

 違う。

 怒ってなんかいない。

 怒っていい、()()()()()

 だって、そうでしょう?

 私は勇者で、ライトはただの人。

 それなのに、こんな非現実的な子供の夢を、彼のせいにしてしまうなんて。

 それは、あまりにも――

           残酷すぎるから。

 

「一緒に逃げると言ったのに、約束を果たせなかった」

 

「だってそれは、仕方がないことで……」

 

「結局君を、戦いの場へと進ませてしまった」

 

「それは、私が、『勇者』だからで……」

 

「あまつさえ、強くなるという理由で、君を一人にしてしまった」

 

「それ……は……」

 

 言葉は詰まり、ふらふらと足が後ずさる。

 早く、早く何かを言い返さないと。

 だって、ライトは、何も悪く――

 

 きゅっ。

 

 瞬間、体が温かいものに包まれる。

 鍛えられた体に、懐かしい香り。

 

「オリビア」

 

「――ぅあ」

 

 視界が、ぼやける。

 私を抱きしめたライトは、優しい声で言う。

 

「俺が悪かった。俺が悪かったんだ。だから、昔みたいに、胸を張って、俺を怒れよ」

 

 それを聞いた時、私はもうだめだった。

 

「う゛、う゛わぁーーー」

 

 諦めていた、忘れようとしていた思いが、涙とともにあふれ出す。

 

「う゛っ、ライトと……二人で、ずっと、幸せに、暮らしていたかったっ!」

 

「ああ」

 

「『勇者』になんか、な゛りたくな゛がったっ!」

 

「そうか」

 

「強くなるとか、どうでもいいからっ、私と……いっしょにいてほしかった!!」

 

「そうだな」

 

「私を……、ひとりにしないでほしかったっ!!」

 

 私は、ライトの胸で大泣きしながら、理不尽でしかない文句を彼に浴びせ続ける。

 

「オリビア、ごめんな」

 

 その間、彼はずっと相槌をうちながら、泣きじゃくる私の頭を撫で続けていた。

 

 

 

 

 それから、どれほど時間が経っただろう。

 数時間かもしれないし、数十分かもしれない。

 とにかく、ライトの胸で泣きまくった私は、今ライトの膝の上に頭をのせて横になっている。

 いわゆる、膝枕というやつだ。

 当然、頭もなでさせている。

 

「オリビア、落ち着いたか?」

 

 私の頭を撫でながら、ライトが問いかける。

 

「そうね。おかげさまで。でも、私がいいと言うまで手を止めたらダメよ。それは、私をほったらかしにしていた罰なんだから」

 

「そうか」

 

 彼は短く答えると、私の命令通り黙って頭を撫で続ける。

 頭に触れる、ゴツゴツとした手の感触。

 

 私が「勇者」になってから、周囲の世界は大きく変わってしまった。

 否、気づかぬうちに私自身も、人類が求める勇者であろうと変化していた。

 「勇者」に選ばれるとは、そういうことだ。

 でも、そんな中でも、変わらないでいてくれたものが一つだけある。

 漸く、それに気づいた。

 

「ねえ、ライト。ライトは、私――『勇者』が必要?」

 

 私の問いかけに、頭を撫でていた手が止まる。

 

「……オリビアが強力な手札であるのは事実だ。だが、俺は――」

 

「戦うよ」

 

 彼の言葉を遮って、私は力強く断言する。

 

「私は、戦う」

 

 ライトの膝の上で、彼の顔を見上げながらその頬にそっと手を伸ばす。

 彼の瞳に、私の姿が写る。

 

 もし、昔のライトを知っている人が今の彼を見たとすれば、きっと彼のことを別人だと感じるのだろう。

 でも、私にとってはそうじゃない。

 ライトは、ライトだけは、昔と変わらずわたし(勇者)わたし(オリビア)として見てくれる。

 

 そんなあなたのために、私は剣を振りたい。

 だから――

 

「私が、ライトの”勇者”になる」

 

 加護を得ても、十年離れていても、変わらないでいてくれた。

 あなたのことが、大好きだから。

 

「だからライト。これからは私も頼って。約束よ? 今度は、破っちゃダメなんだから」

 

 私は微笑みかける。

 それを聞いたライトは、その頬に伸ばした私の手を掴む。

 そして――

 

「誓おう。君との約束は、二度と破らない。……怒ったオリビアは、怖いからな」

 

 そう答えたのだった。

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