鬱エロゲ世界に生きる純愛厨の俺、女勇者の貞操を守るため魔王を潰します   作:ぽんじり

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あぶねぇ失踪しかけた。
取り敢えず四話は準備してます。


ここがあの女のハウスね

 今日も、いつも通りの朝がやってきた。

 晴れ晴れとした、心地の良い天気。

 

 朝食を手早く済ませ、指定の学生服に袖を通す。

 生徒会長の証である、宝石をはめ込んだブローチも忘れない。

 最後に鏡の前で身なりをチェック。

 

「十年……か」

 

 私は自身の髪にそっと手を伸ばす。

 

 毎日手入れをしている、金色に輝く自慢の髪。

 昔、彼が「綺麗だね」と褒めてくれた。

 私と彼とをつなぐ唯一の思い出。

 

 十年前のあの日、彼は私にこう言った。

 

「オリビア。俺、強くなるよ。君を守れるくらい強くなる。だから、少しの間お別れだ」

 

 そして、彼は私の前から消え去った。

 

 私は学生寮を出て校舎へと向かう。

 

 あれから十年。

 彼が私の前に現れることは一度もなかった。

 

「ねぇ、ライト。私、あなたに守ってもらわなくてもいいくらい強くなっちゃったよ」

 

 届くはずのない言葉を、一人つぶやく。

 

 彼のいない日常。

 今日も、いつも通りの朝がやってきた。

 

 

 

 

 昼休み。

 ライトは人目につかない廊下の隅へと足を運んだ。

 そして、パスを通じて念話を繋ぐ。

 

「ノア。聞こえるか?」

 

「ん。感度良好」

 

「こちらは無事、潜入完了した。原作主人公と思わしき人物を発見したが恐らく別人だ。そっちは順調か?」

 

「私の方も問題なし。勇者も目視した。私には夫がいると言ったのに話しかけてきたヤリチン野郎がいたので中指を突き立ててやった。褒めて」

 

 念話の向こうで尻尾をブンブンと振っている様子が目に浮かぶ。

 

  というか、こいつ夫がいたのか。

 今度挨拶しに行こう。

 

 ライトはそう思った。

 

「そうか。あまり場を荒らすなよ。他に連絡事項はあるか?」

 

「んー……あっ! オリビッチがもう一人の転入生の事を聞いてきたから適当に誤魔化しておいた」

 

「オリビッチ」

 

「うん。感動の再開なんて絶対にさせない。悲壮感あふれる独白なんて、正妻の前では無意味。幼馴染は負けヒロイン。HENTAIジジイもたまにはいい事言う」

 

 「ふふふ」とノアは怪しげに笑う。

 

「私頑張った。褒めて♡」

 

 よく分からなかったが取り敢えず褒めておいた。

 

「ライトはこの後どうするの?」

 

「残りの授業が終わったら外の身周りに行く予定だ」

 

「分かった。でも、闇雲に巡回した所で『イベント』に遭遇できるわけじゃないでしょ? 当てはあるの?」

 

「問題ない。俺は師匠の後を継ぐ、世界で二番目の純愛厨だ。俺は純愛を愛しているが、純愛もまた俺を愛している。つまり、純愛は全てを解決するんだ。答えは、純愛が教えてくれる」

 

「……ダメだこいつ、早くなんとかしないと」

 

 ノアはため息と一緒に出そうだった多種多様な文句をグッと堪えた。

 ライトをHENTAIの洗脳から解放できるのは自分だけだと、決意を改める。

 

「では、午後の報告は後ほど家で」

 

 そんな従者の献身などいざ知らず。

 ライトは念話を切ると教室へと戻って行った。

 

 

 

 

 夜の帳が下り、不気味さを孕んだ森の中。

 

「くっ、殺すならさっさとやれ。ただし、その子には手を出すな!!」

 

「おねえちゃん! う゛ぁーーん」

 

 気高い女騎士とその幼い妹が危機に陥っていた。

 彼女たちを囲む四つの人影。

 彼らは魔王教団に与する人類の裏切り者である。

 

「クックック。 殺すなんてもったいない。お前にはたっぷりと楽しませてもらった後、ゴブリンにでもくれてやるよ」

 

「気の強い女を負かして無理やりするのが一番気持ちいんだよな~。安心しろよ。すぐに何も考えられなくなるから。ギャハッ!」

 

 多勢に無勢。

 さらに愛する妹を人質に取られた状態では彼女に取れる手段はなく、四人の邪教徒に捕らえられてしまったのだ。

 

「くっ!」

 

 完全に詰みの状況。

 それでも、心だけは折れまいと必死に睨みつける。

 

「お~怖い怖い。でも、これから起きるショーを見てもその顔でいられるかな?」

 

 それを合図に、一人の邪教徒が女騎士の妹を地面に押さえつける。

 

「貴様っ!! 何をする気だっ!!」

 

「なにって、今からお前の妹ちゃんで『お楽しみ』するんだよ」

 

「っ!? 殺すっ!! その子に手を出してみろ! 絶対に殺してやるっ!!」

 

 拘束を解こうともがくが、なんの意味もなさない。

 

「さ~てと、妹ちゃん、どれくらいもつかな?」

 

「おいおい、その顔はもうぶっ壊す気満々じゃん」

 

 吐き気を催すような笑い声が周囲に木霊する。

 

「あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!」

 

 拘束を破ろうと足掻いた手足からは血がにじむ。

 けれど、邪教徒の動きは止まらない。

 

「うぅ、おねえちゃん……」

 

 恐怖に染まった顔で姉に助けを求める妹。

 それを見た時、遂に彼女(女騎士)の心は折れてしまった。

 

「まってくれ……」

 

「あ?」

 

 彼女は掠れた声で懇願する。

 

「わたしのからだは好きにしてもらってかまない。だからどうか、その子だけは見のがしてくれ」

 

「へぇ~。つまり、お前は一生俺たちのおもちゃになる覚悟あると。そういうことだな?」

 

「……そうだ」

 

「なら、もっと相応しい言い方ってのがあるんじゃないのか?」

 

 男たちはニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべる。

 

「……ご主人様。どうか、妹だけは見逃してください」

 

 あらゆる感情を抑え込み、縛られた状態で頭を下げる。

 

「そうかそうか。お前の覚悟は伝わった」

 

 男は大げさに頷く。

 

「でも、ダーメ。ギャハハッ!」

 

 そして、あっけなく彼女の思いを踏みにじった。

 

「なんで……。まって、まってよ。おねがいしますっ! なんでも、なんでもするから!!」

 

 彼女の懇願はただ男たちの気分を盛り上げるだけだった。

 

「さーてと、しっかりと見とけよ。お前の妹が壊れていく様を」

 

 一人の男がズボンに手をかける。

 

「あぁ――」

 

 声にならない声。

 女騎士は絶望の表情を浮かべた。

 

 これは、原作で起きる鬱イベントの一つである。

 このイベントを通して、プレイヤーは魔王教団の存在を知ることになる。

 それと同時に、この世界(ゲーム)には救いなんてないのだということを改めて思い知らされるのだ。

 

 ()()()()

 しかし、この世界には致命的なバグが発生していた。

 かつて、彼の師匠はこう言った。

 

「鬱エロゲの敵キャラは最強じゃ。例え、勇者だろうが騎士だろうが魔女だろうがSランク冒険者だろうが絶対に勝てない。むしろ、強ければ強いほど負ける未来しか見えない。女騎士がゴブリンに勝てるわけがないじゃろっ! いい加減にしろ!」

 

 と。

 

 だから、世界(ゲーム)の理を超える埒外の力が必要となった。

 

「ふぉっふぉっふぉ。さぁて、ライトよ。このシナリオ(世界)をぶち壊せ!」

 

 世界のどこかで、師匠と呼ばれた男が酒瓶を片手に激励を送る。

 

 そして今、「仙術」という絶技を身につけた少年が純愛の声に導かれ降り立つ。

 

Activate Wise Clock(賢者タイム起動)

 

「あ? だれ――ぐべっ!?」

 

 妹に覆いかぶさっていた男が、目にも止まらぬ速さで吹き飛ばされる。

 

「なんだ!? 何が起きた!?」

 

「師匠が言っていた。イエスロリータ、ノータッチと」

 

「「「っ!?」」」

 

 声のする方を一斉に振り向く。

 そこには、女騎士とその妹を両手に抱えた少年がたたずんでいた。

 

 全身に深紅のラインが浮かぶ、仮面を付けた少年。

 薄暗い森の中でよく輝くその深い(あか)は、少年の抱く怒りを体現しているかのようであった。

 

 彼は救出した二人の拘束を破壊しながら言葉を続ける。

 

「それから、こうも言っていた。姉妹百合は絶対不可侵の聖域(サンクチュアリ)であると」

 

 彼は邪教徒へと歩みを進める。

 

「なんだ、一体何を言っているんだ……」

 

 突如現れ仲間を吹き飛ばしたかと思いきや、意味不明な発言を繰り返し近づいてくる不気味な少年。

 

 軽くホラーである。

 

「つまり、お前らは決して許されぬ二つの大罪を犯した。これ以上の言葉は不要だろう」

 

 膨れ上がる殺気。

 

「と、止まれっ!! 近づくな!」

 

 彼の歩みは止まらない。

 

「純愛の名のもとに、俺が裁きを下す。疾くと散れ」

 

「――っ、死ねぇーーーー!!」

 

 三人が同時に襲いかかる。

 常人離れした速度の攻撃。

 魔王教団の教徒たちは、魔族から血を与えられることで限界を超えた力と魔力を引き出しているのだ。

 

 しかし、それはライトの前では一切の効果を持たない。

 世界の法則に縛られた上での強さなど、彼の前では一律に無意味なのだ。

 酸素を吸い、血を巡らせ、魔力で強化する。

 

 それでは到底()()()()()()

 

 ライトは迫りくる三方向の剣を、素手のみで捌き切る。

 両手両足がそれぞれ固有の意思を持つかのように、最適解の動作のみを行う。

 

「きれい……」

 

 女騎士の妹がつぶやく。

 

 彼女の言う通り、そこには一種の洗練された美しさがあった。

 

「遅い」

 

「馬鹿な!? ――ガッ!?」

 

 一人、また一人と宙を舞い倒れていく。

 三人目の意識を刈り取るまで、そう時間はいらなかった。

 

 森が再び静けさを取り戻す。

 

「そこの姉妹。付近の警備兵を呼んでいるから、少しの間そこで待っているといい」

 

 そう言って、彼は背を向ける。

 

「あ、えっと……、ま、待ってくれ! そうだ。私はまだ、君になんのお礼もできていない」

 

 嵐のような突然の出来事を前に、思わず呆けてしまっていた女騎士は漸く正気を取り戻す。

 

「君が助けてくれなければ、私もこの子も死と同然の結末を辿っていただろう。本当に、ありがとう……!!」

 

 女騎士は心からの感謝を伝える。

 

「礼はいい。俺のしたいことをやっただけだ」

 

「な、ならせめてっ! 名前を教えてくれないか?」

 

「名前か……」

 

 ライトは少し考えた後、

 

「俺の名は『純愛仮面』だ」

 

 そう言い残し、彼は空へと飛び立った。

 

 ライトは、「とっさに出たにしてはいい名前だ」と仮面の下でニヤついていた。

 彼のネーミングセンスは絶望的だった。

 

 後日、流石にダサすぎると判断したこの事件をまとめた記者が、「愛の騎士」と勝手に名称を変更したことで、人々を救う謎の男として一躍人気者になることを彼はまだ知らない。

 

 なんなら、その記事を見て、「俺以外にも純愛に生きる戦士がいたか!!」と一人感動した純愛厨がいたりいなかったりしたそうだ。


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