鬱エロゲ世界に生きる純愛厨の俺、女勇者の貞操を守るため魔王を潰します 作:ぽんじり
今回は下ネタギャグ小説にあるまじき真面目パート。
戦闘書くと真面目になりがち。
前回割と暴れてたのでご容赦ください。
王都の一等地に立つ、とある貴族の屋敷。
その一室から響き渡る、破壊音と怒鳴り声。
「くそっ! くそっ! くそがっ!!」
部屋の主である金髪の少年は、沸き上がる衝動のまま高級な家具・備品に怒りをぶつけていた。
「半端な人間もどきが調子に乗りやがって……。次期英雄であるこの僕が、自ら出向いて飼ってやると言ったんだぞ! それなのにあの女……。畜生は畜生らしく僕に絶対服従だろっ!」
今朝の出来事と同時に、受けた屈辱も鮮明に思い出したようだ。
部屋には再び破壊と怒りの声がこだまする。
少年の名は、カーター・アルドリッチ。
ネルトリア学園選抜クラスに属する二年生で、現生徒会副会長である。
普段の彼は圧倒的な才能と優れた容姿、高貴な出自のために学内外で高い人気を誇っている。
故に彼の傲慢な態度を止める者はおらず、ましてや助長させるばかりであった。
しかし、そんな彼のプライドを大きく傷つけた少女がいた。
愛すべき
ライト以外の男(師匠はある意味例外)を服を着た猿だと認識している彼女は、普通の男なら二度と立ち直れないような罵詈雑言を容赦なく浴びせ、カーターを完全に拒絶したのだった。
オリビアが止めなければ流血沙汰になっていただろう。
「くそっ! くそっ! あの女、絶対に殺す! 僕の奴隷にして散々なぶった後、ぐちゃぐちゃに破壊して家畜の餌にしてやる!!」
彼は挫折を知らない。
彼は人を思いやらない。
その思考は、まるで魔族のよう。
「それに、オリビアもだ。何故あの女はいつまでたっても僕を受け入れない。僕の妻となり生涯を尽くすことが至上の喜びだと何故分からない。下等な平民の分際で、何故僕の上に立っている。僕が一番だ! 僕以外が僕を超えていいはずがないだろっ!!」
力のせいか環境のせいか。
彼は既におかしくなっていた。
自分以外の人間は全て格下だという思想。
いや、そうでなくてならないと思い込む際限のない傲慢性。
その人間性は、
だから、この後に起きる展開も何一つとして変わらない。
「ふふふ。これはこれは、素晴らしい
「っ!? 誰だ!!」
突如として聞こえた不気味な声。
愚かだが優秀な彼は、瞬時に構え周囲を警戒する。
「そんなに警戒しないでください。私は
「ふん。どうやら格の違いを正しく理解しているようだな」
「当然です。あなたは加護を持つ選ばれた人間。あなたこそが、世界を治める王となるにふさわしいお方」
「王か……。それも悪くない」
強さ故の驕りか、はたまた賛辞に気を良くしたのか。
彼はすっかり不気味な声に対する警戒心を薄めていた。
不気味な声は、丁寧に丁寧に彼の心を侵食していく。
「しかし、この世界には愚かにもまだあなたの力を理解していない人間がいる。ああっ!! なんと悲しいことでしょう!」
演技がかった大げさな語り口調。
けれど、今の彼には十分過ぎるほどの効果を発揮していた。
「そう、そうだ。僕が一番。僕が最強なんだ。僕は『雷の加護』を持つ、選ばれた人間。僕以外が上に立つこの世界は、間違っている。僕こそが、王にふさわしいんだ!」
「その通りですっ! ですから、どうか私にその覇道を歩む力添えをさせてはいただけないでしょうか?」
「力添えだと?」
「はい。私には、選ばれしお方の能力をさらに高める力があります。この力を利用していただければ、あなた様の存在をより早く世界に示すことができるでしょう。私はこの世界を一刻も早く正したい。どうか、私をあなた様のために使っていただけないでしょうか?」
カーターの心に沁み込んでいく、甘い誘惑。
その言葉は、じわじわと彼の心を犯していく。
彼は笑みを浮かべた。
「いいだろう。貴様の力とやら、この僕が使ってやる」
「ありがたき幸せ」
そう言って、声の主は正体を現す。
それは、うねうねと蠢く触手の集合体。
醜悪な見た目は生理的嫌悪感を引き起こす。
けれど、今のカーターには拒絶するという発想はなかった。
彼の心は既に、その触手に搦め捕られている。
その魔物は、彼に勢いよく飛びつくと体に寄生した。
そして、強大な
「く、くはっ。くははははっ! 素晴らしい、素晴らしいぞ! 体の底から力があふれてくる。これが僕の力。オリビアも、下劣な人間もどきも、等しく僕以下のゴミだ! 僕が、最強だっ!!」
少年は、高らかな笑い声をあげる。
内に取り込んだ、悪意にも気づかずに。
*
「よしっ! これで最後っと。順調に進んで良かったね」
イルゼは授業の課題である薬草を採取していた。
「ああ。助かった。イルゼは植物に詳しいんだな」
「ふふん。まあね。子供の頃、よくお兄ちゃんと森で遊んでたから。なつかしいなぁ。色んな花を集めて、お花屋さんごっことかしてたんだ」
そう語るイルゼの顔は、普段よりも特別穏やかだった。
「そうか。……いいお兄さんなんだな」
「うん。とっても」
薬草を袋に詰め終わると、イルゼは立ち上がる。
「それじゃあ、先生の所に戻ろうか」
俺は頷き返し、イルゼとともに歩き出した。
ここは、ネルトリア学園の所有地である森の中。
この森は魔物が発生しないように管理されており、生徒たちの校外学習の場として利用されている。
かく言う俺たちのクラスも、今日は薬草採集の授業としてこの地を訪れていた。
「そういえば、今日は選抜クラスも授業でこの森に来ているらしいよ。なんでも、分隊を組んで実践形式の訓練をするんだってさ」
森の中にいくつかある、拓けた場所の一つ。
先生の待つ広場へと一足先に戻ってきた俺たちは、雑談をしていた。
「らしいな。人数は削がれ、外部からの援助もしずらい。相手にとっては絶好の機会というやつだろう」
「ん? どういうこと?」
イルゼは首をかしげる。
「いや、すまない。こちらの話だ」
どうやら俺は、イルゼを相手にすると少し口が軽くなってしまうようだ。
昨夜、ノアと行った会議の内容を思い出す。
ノアも俺同様に、今日の演習を危険視していた。
しかし、あくまで襲撃の可能性が高いというだけ。
これまで何度か似たような状況があったものの、イベントは発生しなかった。
それに、肝心の原作主人公がいないのだ。
主人公がいる所にイベントあり。
それはつまり、主人公がいなければ重要イベントは起きないとも言えるだろう。
だが一つ、気にかかることがあるとすれば――
「『嫌な予感がする』か」
ノアの言葉。
彼女の勘は、よく当たるのだ。
「後来ていないのは……一班だけか」
先生が再度確認をとる。
イルゼと駄弁っている間に、ほとんどのクラスメイトが課題を終えて集合していた。
「まったく、何をやっているんだ」
先生が呆れた様子で魔道具を取り出す。
万が一に備えて、森の中では生徒たちの位置情報を担当の教師が確認できるようになっている。
「なんだ、こっちに向かってきているじゃないか」
位置情報から生徒の様子を確認できたようだ。
数分後、木々の間から俺たちの待つ広場へと三人の生徒がかけて来た。
「遅いっ! 何をしていた。お前たちは減点だぞ」
教師が叱りつける。
「はっ、はぁ、ひぃ――」
教師の怒声を気にも留めず、必死に走って来る生徒たち。
様子がおかしい。
俺は遅れて来た生徒を観察する。
乱れた息と服装。
茂みをかき分けて来たのか、体のあちこちには細かな切り傷。
死に物狂いでかけてきたのがよく分かる。
そして何より気になるのは、その恐怖に染まった表情。
先生に怒られたのが原因という訳ではなさそうだ。
「せ、先生。あ、ああああっちに、あぁ」
恐怖で呂律が回っていない。
「ん? 何があった」
先生も違和感を感じたようだ。
生徒を落ち着かせ、話を聞き出そうとしている。
と――
「っ! これは……」
俺の感知領域内に、忘れもしないある気配が一つ。
俺の全てが変わったあの日。
恐怖、後悔、絶望。
あらゆる初めての感情を俺に与えた、因縁の魔物。
「どうやら、ノアの勘が当たったようだな」
「ライト君?」
先生が事情聴取を行う中、クラスの中にもわずかに不安が広まっていく。
段々と異様な雰囲気に包まれ、クラス全体がざわつき出したその時――
ドシン、ドシン、ドシン。
微かに足音が聞こえて来た。
一斉に静まり返るクラスメイト。
皆、森の奥を見つめている。
ドシン、ドシン、ドシン。
ゆっくりと、されど確実に音が近づいてくる。
そして遂に、
「あ、あぁ……。来た」
生徒が呟くのと同時に、木々の中からその巨体は現れた。
「オークだ」
「キャーーーーー!!」
その叫び声を皮切りに、生徒たちは一目散に逃げ出した。
「うわぁーー!」
「嫌だ嫌だ、死にたくない!」
統制など欠片もない。
「待て! 落ち着け!! オークの一体にそこまで怯える必要はないっ!!」
先生が必死に呼びかけるものの、効果はない。
「チッ、私が時間を稼ぐしかないか」
魔法を中心とした遠距離攻撃で、生徒が逃げる時間を作ろうとしているようだ。
が――
ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、ドシン。
幾重にも重なる巨大な足音。
あまりの振動に、軽く地面が揺れている。
そして、
「なっ……」
次の瞬間、彼は言葉を失った。
森の奥から、何十体ものオークが現れたのだ。
「嘘だろ。む、無理だ。こんなの、勝てる訳がない。死ぬ。殺されるっ!」
絶望的な光景に、思わず尻もちをつく。
そして――
「ひ、ひぃーーーー!?」
恥も外聞もなく逃げ出した。
俺はそれらの動きを横目に、眼前のオークどもを見つめていた。
誰かがワープポータルのようなものを開いたのだろう。
俺の感知にかかるオークの数は二十、三十と増え続けている。
俺は念話を飛ばす。
「ノア、状況は?」
「私の班にいた加護持ちが裏切った。強化された多数のオークを引き連れている」
「オリビアは近くにいるか?」
「うん。ついでに、魔王軍の幹部と名乗る触手野郎も一緒」
「そうか」
既に戦いの火ぶたは切って落とされた。
後手に回った以上、迅速な判断が求められる。
「こちらにも多数のオークがいる。恐らく増援を呼ばれるのを防ぐためだろう。無視はできない」
ならば、取れる手段は一つ。
「ノア、俺が行くまで持つか?」
「当然。ライトは少し過保護。私はあなたの従者であり、道を拓く牙。信じて」
ノアがそこまで言うのだ。
ならば俺は、己の役割を果たそう。
俺は
「よく聞け。主として従者ノアに命令を下す。敵を、一匹残らず殲滅しろ」
念話の先で、ノアの力が膨れ上がるのを感じる。
「了解」
それだけ答えると、念話は途切れた。
「さて、イルゼ。お前は逃げないのか?」
イルゼは、怯えながらもオークから決して目を逸らすことはなかった。
「行かなくちゃ……いけないんだ。どうしてかは分からないけど、今逃げたら全てが終わってしまう。そんな気がするんだ」
イルゼが示す先は、奇しくもノアが戦っている方角だった。
「それに、もう逃げるだけは嫌なんだ」
イルゼの意思は固い。
「そうか。なら、俺についてこい。俺も丁度、そっちの方に長年待たせている相手がいる」
「ライト君……」
師匠が言っていた。
ノーマルイベントとキーイベント。
特に、このキーイベントは攻略に失敗するとすぐさまゲームオーバーとなるらしい。
そのキーイベントの一つが、今起こっているこれだ。
俺は集中力を高める。
今日がその日だというのなら、俺は全力で潰して見せる。
「
詠唱と同時に、身体に深紅のラインが走る。
「うん。一緒にここを乗り越えよう――ってええっ!? ライト君!? なにそれ!?」
イルゼには悪いが、詳しく説明している時間はない。
「この世界に神がいると言うのなら、よく見ておけ。純愛の名のもとに、俺が
第一の勝利条件は、オークの殲滅とワープポータルの破壊。
「行くぞ」
俺は強く地面を踏みこみ、オークの群れへと飛び出した。
次で一章を終わらせたい。