ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ 作:みはいるすーす
「これもですか...?」
暁子が客室に入ってすぐ、船内放送が流れた。なんか外を見ろだのどうとの言ってはいたが、当然暁子はそんな余裕はないので、横になっていた。
しばらく経つと再び放送が流れる。島に着いたので点呼を行うらしく、やっとこの苦痛から解放されると覚束ない足でデッキへ向かう。点呼が終わると、島に上陸する前に荷物検査が行われた。
「これは...まぁどうだろう、ちょっと待て。」
「あっはい。」
暁子は荷物検査で引っ掛かっていた。理由は彼女のアルミニウム込みキャップである。島においてスマホや貴重品のような“必要ないもの”は持ち込めないのだが、熱射の下のこの島ではキャップは必要じゃないのか?そういう議論である。
当たり前だが検査員の真嶋はアルミニウム込みなのは知らないし、まさか日光ではなく電磁波を防ぐためだとも知らない。
「...、まあ、持ち込んで良いだろう。」
端末でコンタクトをとっていたのか、あるいは何かを確認していたのかは分からないが、とりあえず暁子のキャップは持ち込みが許可された。
「ありがとうございます。」
暁子はそういうと髪を束ね、キャップを被った。黒髪のポニーテールに黒のキャップ、そして何より、そのキリッとした表情が暁子を格好よく魅せる。まだ船酔いから余裕さを得られていないだけだが。
しかし、Aクラスの連中には見惚れる者もいたが、その表情にこの島への“警戒”が上がる者もいた。これまでにない暁子の表情が、“何かに臨む”姿に見えたのだ。
「あっ、あと、このマスクは...」
「...それは必要ないだろう。」
アルミニウム込みマスクはダメだった。
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少し時間が経ち、全員島へと上陸したようだ。設置されていたアルミの指揮台に真嶋が乗り、スピーカーに声を乗せた。
『これから、特別試験を始める。』
一瞬にして場の空気が変わった。しかし、Aクラスのざわめきは目立って小さかった。暁子の「何かある」発言が、皆に広まったお陰だ。葛城は自分の派閥にだけ伝えたが、スパイがいたのだ。スパイの一人や二人、この学校では普通にいる。
真嶋はざわめきを静めるほどの音量にて、試験の内容を伝えた。まずは基本ルール。
・無人島では一週間暮らすことになる。
・最初に300ポイントが与えられ、食料品や飲料、その他の娯楽品まで、全てポイントで購入できる。
・環境汚染行為は-20ポイントとなる。
・さまざまな都合による欠席者は、一人につき-30ポイントとなる。毎朝8時の点呼を欠席する場合、一人につき-5ポイント
・余ったポイントは次学期のクラスポイントに反映される。
そして、クラス闘争についてのルールを説明する。
・リーダーが一人だけ設定できるが、試験終了まで正当な理由のないリーダーの変更は不可。
・リーダーの持つ“カードキー”によって、学校の指定したスポットを占領できる。ひとつのスポットにつき占領者は一クラスのみで、占領時1ポイントが得られる。スポットは占領したクラスのみ使えて、8時間ごとの占領の更新が必要。
・全クラスは試験終了時、他クラスのリーダを当てる権利がある。当てた人数一人につき+50p、はずした場合は-50p。当てられたクラスは-50pで占領時得られたポイントは没収される。
・他クラスえの暴力、略奪、器物破損行為に関しては、対象者自身のプライベートポイントを全て没収し、対象者の所属するクラスは失格となる。
・本試験のポイントは0を最低値とする。
『それでは、健闘を祈る。』
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「今回は俺に指揮を務めさせてほしい。」
真嶋の説明が終わると、開口一番葛城はそういった。特に反対意見はでなかった。今回は坂柳が身体の問題で欠席している。今現在リーダー格とされる者で居るのは葛城のみだ。
「そして戸塚、リーダーのカードキーはお前に任せる。」
「任せてください!」
葛城と戸塚はリーダーを申請しに向かおうとする。そして今回、坂柳が不在なため、坂柳派の纏め役として橋本がくるのだが、
「暁子、少し探索しよ。」
「うん。」
橋本は葛城派の失敗を望んでいる。そのため神室に、暁子を誘導して葛城に近づかせない、という任務を与えた。了承した神室は暁子を連れ出そうとする。しかし、その様子に目敏く気づいた葛城が、暁子を振り返って待ったをかける。
「関野、今回の試験、どのクラスを注意すべきだと考える?」
葛城は暁子に意見を聞いた。神室が小さく舌打ちする。無闇に暁子に頼っていては葛城派の面子はつぶれるだろうが、質問を抽象化することによって、“あくまでも聞くだけ”という体で体裁を保っている。
その上の質問で、この答えにより葛城の戦略は大きく変わるのだが...
「...Dクラスかな。」
暁子が答えた一瞬、時が止まる。誰も予想だにしていなかった答えだ。
「お前、適当言うなよ。葛城さん、こんなのに構ってる暇ないですって、行きますよ!」
「お、おぅ...」
さすがの葛城でも予想外すぎたのか、かなり戸惑っている。普段なら戸塚をいさめているのが、それしきも出来ない。
ここで、両者の解釈の違いについて説明しよう。
まず葛城は、クラス闘争において最も点をとる、つまり“今回の試験で最もAクラスに打ち勝つ可能性のあるクラス”として“危険なクラス”を尋ねた。Bクラスの団結力は他クラスも知るところだし、Cクラスは緻密な搦め手で他クラスを陥れようとした。したがってもともとDクラスなど眼中にないのだ。
一方の暁子は少し違う、彼女にとって“危険”といったら“危険”なのだ。葛城は平和な世界に生きている故に、本当の“危険”を意識していない。それに比べて暁子は、陰謀論を前提に生きているので、自分の命すら日々気を付けているのだ。
だから、彼女にとっての危険とは陰謀、暴力、殺害などになる。クラス闘争の勝ち負けなど“危険”に入らない。葛城とは生きている世界が違う。
そういった意味で、暁子はDクラスを指名した。暴力事件をナチの妹がいとも簡単に揉み消すのだ(勘違い)。そういうことならDクラスはたしかに危険である。
しかし、この勘違いは解消されず、皆不思議に思ったまま、葛城はリーダー申請へ、神室と暁子は探索に向かうのだった。
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「.....」
適当に探索を終わらせた二人が戻ると、坂柳派の鬼頭が一人だけ残っていた。どうやら他は移動したらしく、知らせるために残っていたらしい。
「えっ、残ってくれたんだ。ごめんね、ありがとう。」
「...いや、いい。」
暁子と神室は鬼頭につれられて、葛城が拠点としたらしい洞窟についた。そのあと、葛城がCクラスの龍園と契約を結んだということを橋本が伝えに来た。
「ということなんだけど、暁子ちゃんはどう思うよ。」
(リュウエンって誰?)
過去に龍園がAクラスに策を仕掛けたことがあった。しかし、このときは坂柳と葛城によって防がれたのだ。当然、どちらの派閥からも距離を置いていた暁子は知るよしもない。しかし、あの暁子ならこのぐらい知っているだろうと皆は思っている。
実際には、彼女がわかる情報は、多分そいつがリュウ・エンという中国人らしいということのみ。(不正解)
暁子はそいつについて聞こうとしたが、坂柳派の皆がこちらを注目しているため、聞き出せなかった。なので曖昧なことしか答えられない。でも、中国人といえば暁子には譲れないものがある。
「リュウ・エンね...あれだよね、胡散臭いよね。」
(だって在日中国人の殆どは中共の工作員なんだから!) ※風評被害
在日中国人の方に失礼のないようもう一度言うと、全くの風評被害である。
「それで、これが契約の内容。言われたことを書き写しただけだから、一言一句同じと言う訳じゃないけどね。」
更に橋本は契約内容の走り書きを手渡した。暁子は見るが、途中で面倒くさくなって読んでる振りだけで終わらせた。その時間20秒。
「これ絶対穴あるよ!」
(まぁ中共の手下だからね!)
何度も言うが風評被害である。しかし橋本、たった20秒で全文を読み、すぐに結論付けた暁子に舌を巻く。
「そうかぁ...」
橋本は少し安心した。橋本的には葛城が失敗すればいいので、暁子にこう言われれば心強い。暁子はこの試験の存在すら気づけたのだから。
しかし、橋本が気をきかせなかったので、もう暁子の龍園に対する印象は中共の工作員になってしまった。4対6でこの誤解はちょっと暁子の方が悪いが。
ともあれ、最終日にこの予想は当たるか。橋本にとってはそれだけが見物なのだ。
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夕方、暁子は一人で海に出た。噂のリュウ・エンを確かめるのだ。しかし、よく考えれば暁子は橋本から“そいつは長髪で、バカンスするらしい”としか聞いていない。海にいればいいのだが...
「おや...」
「うわっ」
しかし残念、暁子が遭遇したのは、金髪の筋肉隆々の男だった。半裸で海に浸かり、前髪をかきあげている。
暁子が言葉に詰まっていると、金髪が話しかけてきた。
「おやおやこれは、第六感ガールではないか。」
「へっ?」
第六感は暁子の信じるところだが、それとこれでは訳が違う。ヤバイやつにあってしまった。と、暁子は後悔する。
しかし、ここで去るともっと酷いことになりそうなので、とりあえず名前を訊く。
「えっと、お名前は...」
「私は高円寺六助。高円寺コンツェルンの将来を担う者だ。」
(高円寺コンツェルン!?)
高円寺コンツェルンと言えば、今や日本の財界を牛耳る、誰でも驚く大物である。
しかし、やはり暁子はその“誰でも”とは一味違う。
(高円寺コンツェルン!! ユダヤの資本家にして、人口削減計画後の世界の管理者の一人!)
これだよこれ。暁子にとっての資本家のイメージはこんなもんである。ちなみに、暁子は日ユ同祖論支持者なので、日本人とユダヤ人は大差ないことになっている。
さて、人口削減計画の一翼を担う大悪人が暁子の目の前に!こうなったら暁子のとる行動はひとつ! それは...
「それはそれは、本当に凄いことで....」
ごますりである! 暁子は将来生き残るため、高円寺に媚を売った!
しかし、高円寺は一筋縄には行かない。
「そんなこと、百も承知だよ。」
暁子渾身(笑)のごますりは軽くあしらわれた。暁子は悩む、が、これほどの自画自賛、無敵じゃないか。と彼を切り崩せないでいる。
しかし、このまま考えても沈黙が増えるだけだ。暁子は話を振った。
「えっと、こちらでは何をされて...」
「なにを...か、自由を確かめていたんだよ。」
「???」
暁子は理解できなかった。しかし高円寺は説明してくれる。
「例えば、私はいま、この試験を受けるつもりはない。この島を堪能したら、すぐにでも船に戻る。」
高円寺は試験を放棄することを選んだ。そう説明した。
「おそらく皆は私を咎めるだろうが...」
なるほど、皆が咎めようとも自分の好きなように振る舞う。これが高円寺の言う“自由の確認”なのだ。
が、ここで暁子の余計な一言が炸裂する。
「あっ、意外とそういうの気にするんですね。」
「気にする...?」
一瞬で高円寺の目が変わる。暁子は不味いと思った。将来人々を奴隷とするような人間がこんな些細なことを気にするのか、と感嘆したのだが、振りかえれば皮肉にしか聞こえない。
しかし、帰ってきたのは笑い声だった。
「ハハッ! そうか、気にしているつもりはまるでなかったが、それならもともと言う必要すらないのか。」
高円寺はそういうと、暁子に近づいた。
「感謝するよ、第六感ガール。ここまで私を理解したのは君だけかもしれない。本当に、いま自由を確認できた。知らないうちに、気にしないで良いことを気にしていたようだ。」
そういうと、いきなり高円寺は海に飛び込んでいった。綺麗なフォームだった。
「褒められた...のか?」
暁子は一人残された。褒められたのはそうだろうが、暁子は何故かちょっとそれを不名誉に感じた。