ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ 作:みはいるすーす
一報は葛城からだった。
「新しく迎える奴がいる。」
秘密裏に坂柳派×暁子戦線が誕生し、坂柳派が喜びに湧いた次の日だった。
「石崎君だ。Cクラスであったが、龍園に反抗したところ暴力を受けて、居場所がなくなったとのことだ。」
そういう葛城は苦虫を噛み潰したような顔だった。自分が組んだ生徒が平々と暴力を振るう人間だったのだ。これは信用に関わる大問題である。しかし、良い漢の葛城は弱いものを見捨てられない。
「石崎っす、よろしくお願いします。」
よそよそしい態度で石崎は挨拶した。クラスの皆が疑わしい目で彼を見る。が、
「安心しろ、既に荷物検査もした。外部とも連絡できないだろう。」
クラスの皆はその言葉に安心した。所持品がなにもないなど、実質軟禁である。また、本当に暴力を受けた痕が残っているので、はじめから強く疑う人間もあまりいなかったのだ。
暁子を除いて。
(いや、絶対スパイでしょ!!)
暁子から疑い深さを取ったら、それはただのちょっと有能なJKである。
(MKウルトラ計画の洗脳薬を知らないのか!)
陰謀論者として、暁子は一度疑わしいとして噛みつけば、スッポン並みに離さない。MKウルトラ計画は多くが謎のままだが、実際に行われていたと認められている分、余計にたちが悪い。
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「ふぅ」
茂みの奥で、石崎は一息ついた。方々には「釣りをする。」といって出ていき、茂みのなかに隠した無線機を手に入れた。
「龍園さん、聞こえますか...」
『...あぁ、石崎か、潜入したか。』
「はい、成功です。」
『そうか、予定どおりだ。お前は俺の指示に従え。まずはAクラスと馴染むところからだ。しくじったら承知しねぇぞ。』
「はい、わかりました。」
『じゃあな。』
「はい。」
そういうと石崎は無線機の電源を切り、タオルでくるんでカバンに入れた。
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「ごめん、葛城くん、すこしいいかな?」
「おう、関野か、どうした。」
一方、暁子は葛城に声をかけていた。葛城は半裸でたくましいその筋肉をみせつけていた。更に背中には弓を担ぎ、ほぼケンタウロスである。
暁子は少し調子悪そうに眉を落とし、葛城に頼む。
ちなみに、全て演技だ。
「お腹痛いんだ、痛み止めを頼めないかな。」
「...わかった。無理はするなよ。」
暁子の演技が効いたのだろう、早速葛城は痛み止めを取りに行った。この前も言った通り、生活必需品も含めてすべての資源が葛城派に管理されている。しかし、これは暁子にとっても、坂柳派にとっても悪いことだけではない。
この痛み止めも、言うなれば保険である。更に葛城に取らせることに意味がある。
(私の情報、中共には渡させない。)
追い詰められた陰謀論者、暁子は本気である。彼女にとってこれは“クラス闘争”ではない。本気で龍園が中共の手下だと思っている暁子は、龍園に死ぬ気で挑むだろう。
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「暁子ちゃんは、葛城の味方だけはしてほしくねぇんだ。」
橋本の話は簡単だった。葛城の失敗は橋本の裏工作でほぼ確実となった。あとはそれを見守るだけ。
つまり、暁子は葛城の味方さえしなければほとんどの自由行動を許されている。
暁子は痛み止めをもらうと、トイレにいく振りをして森に入った。
「あった...」
しばらく奥に行って暁子が見つけたのは、オニドコロというツル植物、今ごろは下垂の花が咲いているはずだったので見つけやすかった。珍しくもない、日本の北から南までどこにでもいる植物だ。暁子はツルを伝って、根っこを掘り出す。出てきたのは、親指程度の芋だった。
そして、普通の自然薯も見つけ、キャンプに持ち帰る。
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ワイワイ騒ぐAクラス。Cクラスからの食料をもとに、豪勢なキャンプが行われている。そんな中、石崎だけはよそよそしかった。
「石崎くん!こっちおいでよ!」
そんな中、声をかけたのは暁子だった。近くには神室、橋本、鬼頭といった坂柳派の3人が集まっている。石崎は、素直に彼女らの元へ行った。
ここでの坂柳派と葛城派はお互い距離を取っているのもあって、食事も派閥ごとに摂っている。
「いやぁ、災難だったね。」
「いやいや、まぁ、大丈夫だよ。」
暁子と石崎が会話に花を咲かせる。すると、暁子は横のテーブルからなにか皿を出した。皿の上には、小さなお好み焼きのようなものがのっている。
「自然薯があったんだよね。石で擦って、トロロにしたのを鉄板で焼いたんだ。」
いわゆるとろろ焼きだ。暁子はソースをかけると、石崎に食わせた。
「おぉ、めっちゃ旨い!」
「気に入ってくれて何よりだよ。」
暁子は微笑む。石崎は気に入ったようだった。その後も色々と食べ進めている。
しかし、石崎は途中でお腹を押さえはじめた。箸を皿におくと、おもむろに立ち上がる。
「すまん、ちょっと腹痛くなってきた。」
そういうと石崎はお腹を押さえたまま、そそくさとその場を出ていく。残ったのは暁子と3人だけ。
橋本が口を開く。
「なぁ、暁子ちゃん。一体何入れたんだ...?」
「...どうゆうこと?」
橋本は立ち上がった。
「いやいや、暁子ちゃんが食わせた奴、俺には食うなって言ってたじゃん! しかも、なんか違う芋入れてなかったか!?」
「...そうだったっけ。」
「いや...」
橋本は食い下がりたい気分だったが、下手につつくと何が出てくるかわからないので、さすがに死ぬようなヤバい奴ではないだろうと暁子の良心を信じて詮索をやめた。
「あ、ちょっと席を外すね。」
なにかを忘れたのか、暁子はそういうと、洞窟に入っていった。
※オニドコロとは、日本の各地に生息する、毒を含んだ芋を根にもつツル科の植物である。
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(どこかな...)
BBQはまだ始まったばかり、洞窟の中はもぬけの殻だった。暁子は記憶をたよりに、石崎のリュックを探す。
(これか...あった。)
暁子が見つけたのはリュックと、中に入っていたのは無線機だった。荷物検査をしたといえども、どこかに隠して後から取れば意味はない。
Aクラスの皆がここまで疑わなかったのは、龍園の
しかし、暁子は違った。暁子は“空想”と“現実”の見分けがつかない。むしろ、“空想”の方を真実として認識しがちですらある。そんな暁子だから、この作戦の
「なるほど、アナログ無線機か...」
暁子は周波数を確認した。アナログ無線機にはアルゴリズムも秘話コードもないので、周波数だけわかれば傍受は可能だ。この無人島は亜熱帯で大きな木々などが多いため、障害物に強いアナログの方が使用されるだろう、暁子はそう踏んでいた。
勘違いしてはならないのが、暁子は普通にこういう物事には詳しい。確かに電波を洗脳電磁波と決めつける辺り、そういう根本的な科学的事象は多くの誤認識を含むものの、単純な無線機の仕組みくらいならどうとでも知っている。
何せ陰謀論者にとって、無線機のようなアングラな用途のある機械は十分学習の対象だ。
(そういや、無線機は物資の中にあったよな。)
無線機は迷子に便利なので、葛城もCクラスに要求はしていた。なので物資の中にあるはずだ。これは勝った。傍聴できるぞと、暁子が早すぎる勝鬨を内心で上げていると、不意に暁子の後ろから光が差し込む。
「ここは男子が使っている領域だ。何をしている、関野。」
葛城だった。