そして毎度、誤字報告ありがとうございます!
「あの...」
暁子が石崎の無線機をいじって数日後、石崎のクラスメイトで同じく龍園の被害者であるという、伊吹が接触してきた。
「少しだけ、二人きりで石崎と話をさせてほしい。」
「...わかった。」
「葛城さん!」
伊吹は葛城に要求した。それを受け入れた葛城は、戸塚の抗議をものともしなかった。石崎は伊吹と共に洞窟を出ていった。
「いいんですか。あんなこと許可して。」
「...」
葛城は黙ったままだった。見破れなかった龍園の闇が、ここにきてやっと姿を表してきたのだ。
・・・・・・・・・・・・
「はい、これ。」
伊吹は無線機を石崎にわたすと、石崎の無線機を回収してそのまま帰ろうとする。
数十分後、龍園から無線がかかる。
『よぉ、石崎。』
「すんません、龍園さん!」
『お前...
「え...」
石崎は龍園の怒号に身構えていたが、返ってきたのは愉快そうな声色と、意味深な言葉だった。
『お前の無線機はこっちで確認した。周波数がいじられてやがる。』
さすが龍園。今時無線機の周波数なんて知っている高校一年生は、大型店舗でアルバイトしたことある人ぐらいだろう。しかし、龍園はこの道に詳しかったようで、すぐに見抜いた。
『それで、周波数がばれてんなら音声も傍聴されただろうな。安心しろ、こいつの周波数は前のとは違う。ともかくだ、こいつの周波数がばれちゃしょうがねぇ。肌身離さず持っとけ。』
「は、はい。」
石崎には何がなんだか分からなかったが、龍園の指示には忠実であろうと心にとどめた。
「でも、無線機があるってことはばれてるんですよね。これ壊されたら意味なくないですか?」
『いや、そんなことはねぇ、むしろ、
「え?」
『いや、いい。それとこの周波数は覚えておけよ。』
そういうと龍園は最後に、以前に石崎と通話していた無線機に声を吹き込んだ。
「おい、お前の正体、暴いてやるからな。」
そう傍聴犯に言い残し、龍園は電源を切った。
そして、傍聴犯の暁子は...
「はーい!8ぎり!」
「ちょっと暁子ちゃん、そりゃねえぜ!」
無線機の電源すらいれずに、大富豪に興じていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
「え、Cクラスのやつが?」
大貧民に落ちぶれ、次はポーカーと息巻いていた橋本は中立派を演じているスパイ、山田から情報を得た。
「はい、伊吹という名前ですが、石崎と接触した後、二人きりで話していたとか。」
「ふむ、だってよ、暁子ちゃん。」
(...ふーん、無線機のこともばれたかもしれないね。)
暁子は冷静に考えた。最悪の事態を想定して、石崎が周波数の存在を認知したこと、傍聴がばれたかもしれないこと、正常な無線機になっている、もしくは新しく得ていると、いかなるパターンでも対処可能な方法を考える。
最も、今一番やらせてならないのは、Cクラスから石崎への指示である。
(肌身離さず持つように指示されてるかもしれない。)
常に最悪を想定して動くのは、暁子の得意分野だ。
「ちょっとその伊吹さんとやらに会ってくるね。」
「君が伊吹さん?」
「そうだけど、何?」
「私、関野暁子。よろしくね!」
「...」
数分後、暁子は伊吹と接触した。伊吹は暁子の自己紹介に怪訝な顔をする。その様子に、どうやら自分はまだ目をつけられていなさそうだと安心する。
「よろしくって言ったって、私はもう帰るから。リタイアするの。」
「なんで石崎くんはリタイアしないんだろ?」
「ッ...知らない、そんなの。」
「ふーん。」
伊吹の返答にすかさず疑問をぶち込む暁子、その様子から察した。もし、石崎と伊吹の話し合いが被害者同士の馴れ合いなら、伊吹は自身のリタイアも含めて話すはず。しかし、伊吹は少しだけ動揺しつつ、「知らない」といった。
つまり、この話し合いには馴れ合い以上の“ナニか”があるのだ
「とどめて悪かったね。あ、これ、お土産に持っていってよ。」
「え、いらない。」
「そんなこと言わずにさー、ほらほら!」
それはそうとして、ちょっと冷たくあしらわれて傷ついた暁子は、在庫処理もかねて自然薯せんべい(オニドコロ入り)をプレゼントしてあげた。石崎は二度目の腹痛以来、暁子を警戒して受け取ってくれなくなった。
・・・・・・・・・・
石崎side
「川に遊びに行こう!」
Aクラスの女、関野暁子が、俺を見つけた途端声をかけた。
「おお、いいねぇ。」
「わかった。」
近くにいた、橋本、神室という生徒も同意する。鬼頭とか言うやつは無言だったが、水着が入っているのだろうバッグをもたされていた。
「あぁ、いいぜ。」
Aクラスの奴らはみんな真面目で息がつまりそうだ。ちょうど良い気分転換になるだろう。おっと、そういや、龍園さんから無線機を肌身離さず隠し持つように言われたな...
あれ、水着でどうやって隠し持てばいいんだ?
まぁいいや、リュックにいれて、目の届くところにおいておけばいいか。
・・・・・・・・・・・
「ほぉーら、石崎!」
「ちょ、やめろって、」
「おぉー、のり悪いな、神室、鬼頭、加勢しろ!」
「え、ちょ待てって、え!?」
そして石崎は現在、橋本に水をかけられていた。普通は女同士のキャッキャウフフな様かも知れないが、男二人である。
更にそこに神室、鬼頭が加わり、石崎は顔面に集中攻撃を食らう。
そしてもちろん。これは暁子の戦略である。暁子は事前に打ち合わせていた。
(よし、今のうち。)
暁子は石崎が目を開けないでいる間に、石崎のリュックから無線機を見つけ出した。そしてちょこっと、改造を加えた。石崎よ、目が届けばと妥協してはダメなのだ。
「くそっ、繋がらない...」
「周波数はあってるのに...」
「なんでだよ...」
夜中、無線機を操作しながらイラついている石崎がいたとか。
~自然薯せんべい(オニドコロ入り)の作り方~
1 まずは冷えたご飯を用意します。
2 醤油で味付けをし、ご飯をパラパラの状態にします。
3 油をしいた鉄板の上にできるだけ薄く敷き、とろろにした自然薯を薄く掛けます。
4 少量のオニドコロを加えます。
5 飯盒など底の平たい金属製の調理器具を熱して油を塗り、プレスします。
6 恨みのある人間に与えます。
本当は伊吹には腹痛攻撃を仕掛けない予定でしたが、みんな伊吹の腹を壊したいようだったので壊しました(無慈悲)