ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ 作:みはいるすーす
暁子はキャップをとると、再び監視カメラの位置をメモしながら廊下を歩いていった。シンプルな中に美しさが見いだせる清潔なその校舎には、窓外から朝に比べて穏やかになりつつある陽光が床に延びるように入っていた。
「おはようございまーす...」
暁子はAクラスに着くと控えめの声量で少しだけ挨拶し、席順の紙を見てから席に着いた。ちょうど真ん中ほどの席だった。
担任を待ちつつ、読書にいそしむ。読んでいる本は川端の『雪国』。...のカバーをつけた新しい愛読書『変容する世界の真実~フリーメーソンはもう古い!!~』。最近買って三度は読破した。現在四週目。
すべての椅子が埋まって少しの時間。そんな中、ほんの少しだけの喋り声が漂っていた教室に扉を開ける音がした。
「席に...全員着いてるな。」
コツコツと軽快な音をならして入ってきた男は担任だった。暁子はその見た目から彼が体育教師をしているのだろうと見抜いた。(※国語教師)
担任は自分を真嶋と紹介し、それだけで自己紹介を済ませると早速生徒たちにカードを配った。そして説明を開始した。
「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にある施設を利用したり、購入する事が出来る。クレジットカードのような物だ。学校内において、この今から支給するポイントで買えないものはない。ポイントは毎月1日に支給される事になっている。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。」
さらに加えて
「この学校は実力で生徒を測る。この10万円は君たちにそれほどの価値があるという事だ。なお、このポイントは卒業時に回収される。他人に譲渡する事も可能だ。何か質問は?」
真嶋の説明は生徒たちに衝撃を与えた。が、そこで騒ぐ生徒たちではない。もしかしたら支給された10万円と同等のポイントを安く感じる金持ちの子も多くいただけかもしれないが、流石はAクラスである。
そこで挙手する生徒がいた。暁子の後ろで、短い腕を一生懸命上に挙げていた。
「ええとそこは... 坂柳か、いいぞ、質問を」
坂柳と呼ばれた銀髪の幼女 (に暁子には見えた。) が立ち上がった。
「ありがとうございます。先生。では質問ですが、実力で生徒を測り、価値に応じてポイントを渡す、つまり、私たちが来月に受けとるポイントは変動する、と、この解釈であっていますか?」
「先ほども言った通り、この学校は実力で生徒を測る。この10万円は君たちにそれほどの価値があるという事だ。」
「なるほど、実力で生徒を測ると...。それが答えですか?」
「...ああ、そうだ。」
これでわからない者はAクラスにはいない。つまりは生徒の実力とその評価がそのままお金、もといポイントに反映されるということ。これは実際に隠された事実であった。この時点からこの事実はAクラスの共通認識となった。
加えて、この意図にいち早く気付き、その事実をクラスに知らせた坂柳の有能性も同時にクラス中にしれわたることとなる。
(はえ~そういうことだったんだ。)
ちなみに暁子はいち早くは気付いてはいなかった。
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その後、ホームルームはつつがなく解散となり、これから始まる入学式に向けて自分の荷物を整理したりなど、各々がこれからの準備し始めた。その中で、暁子は監視カメラの位置をメモした地図をカバンにしまおうと手を掛けようとしたところで
「あっ」
「おっと」
地図は少し机からはみ出していた状態で置かれていたらしい。その地図が人に当たったようで、パサッ、と床に落ちた。
「これは...申し訳ありません。」
「いや、大丈夫だよ。こちらこそ机からはみ出ていたしね。」
(あっ、あの幼女じゃん。)
みてみれば、地図にぶつかったのはさっき先生に質問した銀髪の幼女であった。しかし彼女は杖をついており、床に落ちた地図をとろうと足をゆっくり曲げたり腕を目一杯伸ばしたり、端から見ても明確に苦戦していた。
「ああ、いいよいいよ、私がとるから。」
助け船を出す暁子。根は優しい少女なのである。
「すみません、足が不自由なものでして。」
坂柳は足にが不自由であった。そんな彼女は少し申し訳無さそうにしていたが、拾われた地図を一瞥し、周りを見渡した後、少し驚いた様子で地図について聞いた。暁子はその挙動を少し不審に思ったものの、たいして気に止めなかった。
「これは...?」
「えっこれ? これは...地図だよ。」
「...そうですか。」
坂柳は少し考える素振りをしたのち、再び暁子に向き合って礼を言った。
「そうなんですか。教えていただきありがとうございます。」
「いやいや、全然いいよ!、そうだ!不便があったらなにかいってよ!同じクラスの仲間だし、協力しないといけない事も多いだろうからさ。」
この時点で、暁子は失念していたのである。
「それは...ありがとうございます。しかし、協力とは...?」
「え...ほら、他クラスとの競争とかさ、私たちはAクラスだから、追い抜かれないようにしないと。」
「えっ」
「えっ」
「あっ...」
そこで暁子はやっと気付いた。クラスが実力順であることは、自分のみが知っていたことであると。やはり暁子は新生活に浮かれていたのである。しかし気づいたところでもう遅い。相手、つまり坂柳はAクラス一の知能を持っているのだ。
「なるほど...、あなたはこのクラス分けは実力をもとにしていると、もしかしてそう言いたいのですか?」
流石は坂柳、Aクラス一の頭脳にかかれば暁子の言動の裏を読むことくらい朝飯前である。
こうなれば暁子に逃げ道はない。
「ああ、い、いやあくまでも予測というか、勘というか...」
(やらかした!ヤバい!一般人でないとばれたかも!!)
理由はともあれ、一般人として振る舞おうと決めている暁子にとってこれは致命傷である。せいぜい勘とごまかすので精一杯だ。
「そうですか...」
坂柳は少し考える素振りをして、納得したような面持ちで暁子に話しかけた。暁子はさっきから考えてばっかりだな、と思った。
「ところで、名前をお教え頂いてもいいですか?私は坂柳 有栖と申します。」
「あっ私? 私は関野 暁子だよ。あかつきに子で暁子ね。」
「ありがとうございます。では、暁子さんと呼ばせていただいても?」
「うん、全然いいよ。私も有栖ちゃんって呼んでもいいかな?」
「もちろんです。これからよろしくお願いします。」
有栖は微笑みながらそう言った。その実、彼女が暁子と下の名前で呼び、かつ自分の名前呼びに全く抵抗を見せなかったのは、暁子を自分に並ぶ存在として見ているからである。
最も、暁子はそんな意図は知らないが。
「では、暁子さん、ごきげんよう。」
そうして坂柳は去っていき、暁子もいよいよ入学式に足を向けるのであった。
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坂柳side
「確かに、これは...」
私は入学式の会場に続く道で、Bクラス、Cクラス、Dクラスをチラリと見ました。そして確証したのです。
やはり、暁子さんの推測は正しい。ということに。
関口暁子、彼女が暗示した“この学校のクラスは実力順”という推測、いいえ、事実ですね。確認してみましたが、たしかに他クラスの人たちは全体的に私たちより劣っています。しかも、それはB、C、Dと下がっていくほど顕著になっています。
本人は勘だと言っていましたが、あの目は確信...いや、盲信ともとれる位には推測を事実であると信じている目でした。
しかし、いつ判断したのでしょうか。皆、新入生ですからほとんどの人はおとなしくしてましたし、一人二人羽目をはずしている人がいたところで、この真実にはたどり着けないはず、私も他人をみる目はかなりあると自負していましたが、この事実には暁子さんから暗示されて初めて気付きました。
それだけではありません、彼女は監視カメラの地図を書いていました。
私が落ちた地図を見たとき、そこに無数の赤い点を見つけました。1-Aと書かれた四角から地図だということを理解しましたが、赤い点の意図はわかりませんでした。そこで、赤い点の書かれた位置に目をやると、監視カメラがそこにはあるではないですか。
しかし、最も注目すべき点は、あの監視カメラの図、校門から教室にかけて記されていました。この学校は事前に下見をすることはできません。つまり、彼女は最低でも初めて校門に入った時点で、この監視カメラの“異常性”に気付いたということ。
そう、この学校は監視カメラが異常に多い、しかし、私の場合は教室に入って初めて気付いたのです。今時防犯の整った学校は珍しくありませんから。ただ、教室の4隅は流石にやりすぎではないかと。
ただ、一つ彼女の違った点を挙げるなら、校門から教室に書けてずっと赤い点がつけられていたということ、これはつまり、校門の時点で既に、監視カメラについて
“地図に書き込む程度の価値がある” と見破ったということです。
「関野 暁子さん...興味深い方です。」
おっと、さっきから独り言を呟くようになっていますね。これは少し...“好敵手”を見つけたことで柄になく興奮しているのかもしれませんね。
こうして勘違いは進んでいく...