ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ   作:みはいるすーす

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 暁子は入学式なるイベントのお話やらなんやらをフル無視し、体感1時間程度で入学式をやり過ごした。そして教室に戻った後、真嶋から自由行動を言い渡されると、この後開かれるという部活動紹介にみんなが行こうとしている雰囲気を感じとったので、暁子もその流れにしたがった。

 体育館に入れば、ざわざわと喋り声が暁子の耳を揺らす。適当な場所に適当に座り、あちらこちらを眺めながら始まるのを待つ。

 

 そうして待っていると、司会だという橘と名乗った生徒が進み出て、ステージの前の端に置かれたローズウッドの演台についた。そこからゾロゾロと柔道着、袴、カラフルなユニフォームを纏った上級生たちが歩みでて、新入生の前に整列する。

 

 

 「これから、部活動紹介を始めます。」

 

 

 それからは長かった。暁子は行く部来る部の紹介を適当に聞いていた。どうやら存外つまらなかったらしい。

 

 そうしていると部活動紹介は終わり、入れ替わりで青年が壇上に上がってきた。いかにも理知的で、生真面目さがあふれでている切れ目で眼鏡の青年だった。

 

 青年は壇上に立っても黙ったままだった。それが言いようになく異様で、ひしひしと圧力をかけられているような、そんな感覚を受ける。新入生はみな会話を止めて

彼の閉ざされた口が開かれるのを待っていた。体育館に静寂が満ちる。

 

 

 「はじめまして、生徒会長の堀北学と申します。」

 

 

 新入生たちが黙ってから少しして、彼は名乗った。新入生たちはもう彼の言葉しか耳に入らないようになっていた。部活動紹介のときのざわめきをみると、なんとも変容していると思える。

 しかし、この現象に心当たりのある者もいた。これは一種の演説における手法である。生徒会長が使った手法は聴衆が黙るまでひたすら微動だにせず、静かになってから話し出す。そうして聴衆の関心を最大限まで引き出す手法である。

 この手法はかのヒトラーが使っていたことで有名であり、たいしてマイナーな知識と言うわけではないのでAクラスの生徒になれば大半は気付いていた。ただし、それは彼の雰囲気に飲み込まれずに済んだということではない。彼から滲み出るカリスマ性が一役買っているのだろう。

 ともあれ、わかる人は彼の底知れない実力、カリスマ性に戦慄するわけである。

 そして、ここにも一人戦慄する者がいた。暁子である。

 

 

 (これは...)

 

 

 暁子の脳内で緻密な論理が組み立てられる。今の状況から判断された事実、そして知識、経験則が加わる。次第にその理論は陶冶されていき、遂に一つの結論へと至った。

 

 

 (こいつはナチスの構成員だ!) ※不正解

 

 

 そう、残念なことに、いくら高価な壺でも、ゴミを入れてしまえばそれはもうただのゴミ箱なのである。彼女の高スペック知能から判断された純度の高い分析結果は、見事に陰謀論が加わって、それはもうよくわかんない何かになり果てた。

 

 

 (南米、或いは南極のナチスの構成員がまさかこんなところまで...)

 

 

 とりあえず解説しよう。第二次世界大戦終盤、とてつもない物量のソ連軍がベルリンになだれ込んだとき、一部のナチ党員は南米へ逃げた。これはアイヒマンやコロニア・ディグニアやらから事実であるとわかるが、一部の陰謀論者は、ナチ党が今でも昔と同等の影響力をもって存続している、つまり戦間期から戦時中にかけての勢力を持ったまま、ナチ党は今でも世界に影響を及ぼしている、と主張しているのだ。

 ちなみに南極に逃げたとする人もいる。加えて、世界中で目撃されるUFOはそれらのナチス系の組織が作っていると主張する人もいる。

 

 そんな説が出回っている上で暁子が考えたのが、堀北学=ナチスの構成員説である。ヒトラーやゲッベルスなど、ナチスといえば強力な宣伝、演説力で有名である。そこで暁子はこう考えた。生徒会長である彼ははヒトラーから代々受け継がれる演説手法を教育され、その上でこのような状況を作り出すのを可能にしていると。暁子は圧倒的な雰囲気に呑まれるという経験をしてこなかったのである。

 

 まぁ、少なくとも生徒会長、堀北学は暁子の中でナチスのスパイとして認識された。不憫。

 

 結局、生徒会長の話は短かった。しかし、それでも多くの生徒に絶大な印象を残した。生徒会長の話が終わるとすぐ部活動紹介は終わり、皆は帰路に着いた。暁子はアルミホイルを買いに行くらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 そして数時間後...

 

 

 

 

 「ひえっ」

 

 

 「....おい、そこで何をしている。」

 

 

 「えっえっ...あ...」

 

 

 部活動紹介後、さっきの司会役と生徒会長に警戒される暁子がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ちなみに暁子に「それだけじゃ判断材料として不十分すぎるでしょ。」と至極真っ当な正論をぶつけても、「さてはお前もグルだな!!!」と一蹴される。無敵かよ。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 「もう一度聞く。そこで何をしていた。」

 

 

 暁子は絶賛事情聴取中であった。聴取されているのが暁子、聴取しているのは生徒会長、堀北学。後ろに怯えながら控えているのは先ほどの部活動紹介で司会を勤めていた生徒会書記、橘茜である。

 

 ここで一旦、暁子の状況を説明しよう。

 

 暁子は部活動紹介後、商業区に出てアルミホイルと今晩の料理を買ったのち帰宅。

しかし暗くなるまで思ったより時間があったので、その後監視カメラのマークを再開するためもう一度学校に来たのだが、彼女の服装が問題だった。

 暁子が電磁波から脳を守るためにアルミホイルを内側に仕込んだキャップをかぶっているのは前に説明した通り、彼女が外をうろつくときの標準装備である。

 しかし、「人に会わないよね...」と彼女が考えたときは、少しだけ装備が進化(笑)する。具体的には、アルミホイルを仕込んだ黒いマスクを着けるのである。少しでも電磁波から脳を守ろうと、暁子は頑張っているのだ。願わくはその努力を別方面で生かしてほしい。

 

 ともあれ、生徒会長と書記が今日の行事の片付けの時にに目にしたのは、キャップに黒マスクの“不審者”だった。

 あと忘れてはならないのは、暁子は堀北 学をヒトラーの演説を教育されたナチスの手先だと勘違いしていることだ。

 

 

 「あ、あのナチ... いや、なんでもないです。」

 

 

 「なち...? いや、何をしていたかは後で聞こう。まずは名乗れ。」

 

 

 (よかった...聞こえてなかった。)

 

 

 しかし、会長の眼光が厳しく光ったまま。ネズミ程度なら目力だけで殺せそうだ。

 

 

 「1年A組、関野 暁子です...」

 

 

 「ほぅ...」

 

 

 A組と聞いた瞬間、生徒会長の目の色が変わった。厳しい眼光はそのままだが、だんだんと興味をその目に漂わせた。

 

 

 「マスクをとってもらえますか?確認します。」

 

 

 少しだけ警戒を薄くした橘が勧告した。手にタブレットを持っており、おそらく生徒会の持っている生徒のデータベースと照合するのだろう。

 暁子は大人しくマスクをとった。

 

 

 「確認できました。本人です。」

 

 

 「そうか、言い遅れたな、俺はこの学校の生徒会長を務める、堀北 学だ。」

 

 

 「書記の橘 茜です。」

 

 

 暁子は二人を知っていたが自己紹介を受け入れ、なんとかなりそうなこの状況に少しだけ安心した。

 

 

 「それで、何をしていた。」

 

 

 (あっ、やっぱ見逃してくれないのね)

 

 

 しかし、さすがに見逃してはくれない。暁子は脳をフル稼働して打開策を考えた。相手はナチスの手先(妄想)、ちなみにパニック状態の暁子の知能レベルは一割程度までに落ちる。もう終わりだね。

 

 

 「あの...地図を書いていました。」

 

 

 「見せてみろ。」

 

 

 逃げ道はなし。暁子はとりあえず嘘はつかないがある程度の事実は隠す、という戦法に出た。しかし堀北 学、ただでは納得しない。彼はすぐさま地図を見せるよう要求し、予言した通り渡された地図を見た。するとやはり坂柳と同様に地図の意図に気づいた。

 

 

 「ふっ、なるほどな」

 

 

 (え...この人なんで笑ってんの...怖)

 

 

 堀北 学の悪いところは言葉足らずなところである。そんなんだからお前の妹は...

 堀北は質問を続けた。

 

 

 「これは誰かに指示されたのか?」

 

 

 「いいえ...そう言うわけでは」

 

 

 「誰から聞いたんだ?」

 

 

 「...何をですか?」

 

 

 「ふっ」

 

 

 「は?」(怒)

 

 

 堀北学の悪いところは言葉足らずなところである。(二度目) 

 ともあれ、堀北は彼女が独力で監視カメラの重要性に気付いた。そして彼女の評価をランクアップする。やったね暁子ちゃん! 評価がふえるよ!

 彼は若干の期待をもってさらに続ける。

 

 

 「そうなれば他の真実にも... 関野といったな?お前はAクラスに選ばれてどう思った?」

 

 

 「それは...まぁ光栄であるかなと。」

 

 

 「ふっ」(二度目)

 

 

 「は?」(怒)(二度目)

 

 

 堀北学の悪いところは言葉足らずなところである。(三度目) しかし、今の会話から堀北は彼女の能力を察知した。Aクラスを「光栄」といったということは、この実力至上主義のシステムに気付いているということ。彼女は数年に一度、いや、もしかしたら数十年に一度の逸材であるかもしれない。彼は彼女をそう評価した。少なくとも堀北が知っているなかで入学初日にここまで気付けた人間はいない。(実際には過大評価なのだが)

 

 

 「よし、端末を出せ。」

 

 

 「え、アッハイ。」

 

 

 「これは投資だ。」

 

 

 「え、何が...」

 

 

 堀北学の悪いところ(以下略)、暁子は端末の残高をみて、100万ppの増加に気付き、やっと彼の言動の意味を理解してから遅れてめちゃくちゃ驚いた。さて、暁子はこの堀北の行動をどう受け取ったのだろう。

 

 

 (これ口封じかな!!??) 

 

 

 おっと、理解できていなかった。やはり「投資だ」という言葉を文面通り受け取れないのが暁子なのだ。見事に彼女は深読みを達成した。口封じと判断したのはそれしか思い付かなかったからである。

 それはともかく、口封じを受け取るのは場合によっては悪手である。暁子はチキンな性分なので、自分の妄想は過信するくせして行動には自信を持てない。そもそも、口封じの対象がこの学校のシステムに関してのことであるならば、この件は既に坂柳に漏らしてしまったのだ。※実際は口封じではないので全て杞憂。

 

 

 (本当に何が狙いなの?! 何で口封じしに来たのこのナチ(風評被害)は?! はっ、もしかして世界統一政府よナチスが結託しているということ!? ともかく、これは断らなきゃ、)

 

 

 「いやいや、こんなの貰えませんって!!、返金させてください!!」

 

 

 暁子はすがり付く勢いで懇願した。堀北は謎の勢いにドン引きした。後ろで空気に徹していた橘は会長のレアな顔がみれてちょっと興奮した。

 

 

 「せ、関野さん、落ち着いてください、、」

 

 

 橘は長く様子を見守っていたが、我慢ならず暁子をなだめに来た。

 とりあえず暁子は、必死に受け取らない理由を考えて、一つの言い訳を思い付く。

 

 

 「あの、これから困る生徒は沢山でると思うんです!私はそういう人にこのポイントは渡してほしいなって...」

 

 

 「関野さん...」

 

 いけそうだ、と暁子は考えた。実際暁子は優しい子ではあるので、本心も少しだけ混じっている。

 しかし、橘にとっては凄まじく思えた。橘もまた優しい子だが、とんでもなくドロドロした心理戦が繰り広げられ、情けより利益というこの学校では、暁子は聖女のようにも思えてしまう。橘はおもわず感動の念を漏らす。

 ちなみに橘の前に立っている生徒会長は打算混じりで次の言葉を考えた。

 

 

 「....そうか、では、お前はその100万円はもっておけ。」

 

 

 「いや、だから私は...」

 

 

 「そして、生徒会に入るんだ。」

 

 

 (???、ちょっと待って、なんの話してんの?)

 

 

 「そのポイントを使って、生徒会ではたらけ。そうすればお前はその理念(・・・)を達成しやすくなるだろう。」

 

 

 「えっ? は?」

 

 

 「会長...」

 

 

 やんぬるかな、堀北は建前を見分けられなかった。つまり暁子は詰みである。そして暁子にもどうやらまだ状況を正しく判断できるだけの脳のリソースはあったらしい。

 

 暁子はあきらめた。活路を見出だせない以上、おとなしく相手の案に乗った上で知らんぷりを通すしかない。

 

 

 「これから、お願いします...」

 (飼い殺しにして私を直に管理する気だ....!)

 

 

 

 

 

 こうして、新たに生徒会役員が誕生したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 堀北学side

 

 

 “このポイントは困っている人に”

 

 考えもしなかった。こんな答えが返って来るとは、もといこんな“敗北者にも慈悲を与えよう”とする理念をもっている者がいるとは。どうやら自分はあまりにも殺伐とした環境に閉じ込められていたらしい。

 

 しかし、彼女は信用できそうだ。俺の考えの同志(・・・)として。

 

 俺の目下の悩みは現副会長、南雲雅だ。彼は今、完全に実力主義の学校を作ろうとしている。具体的には、政争に負けた人間があっさり退学させられるような、そんな学校を作ろうとしている。

 そして俺はこの案に反対している。しかし南雲は味方をつけるのが上手い。おそらく今季入ってくる新入生にも目をつけるだろう。だからこそ俺は生徒会の入会希望生を例年より厳しくしようとしている訳だ。吟味せずに入会を認めた者が南雲の味方になってはどうしようもないから。しかし、例えそんなことをしようとも、今もうこの計画を阻止することは不可能だろう。

 

 だからこその彼女。100万ppという誘惑すら跳ね返す断固たる理念を持った彼女なら、きっと南雲には靡かない。南雲が生徒会長になるのは確実な以上、そのストッパーを彼女にしてもらおう。

 

 そうして俺は言った。

 

 生徒会に入れと。

 

 

 

 

 

 

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