ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ   作:みはいるすーす

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 「HR前に一つ。お前らなにか質問はないか。」

 

 

 「「・・・・・・」」

 

 

 「そうか、なしか。」

 

 

 早朝、少しだけ早く真嶋は教室に入室した。右手に巻かれた紙を携えて、開口一番いきなり意味深な発言をする。しかし、真嶋はどこぞの生徒会長とは違って言葉はちゃんと足りてるタイプなので、このいきなり過ぎる発言はあくまで前置きみたいなものだ。彼はAクラスの皆がこの学校のシステムに気付いていることを知っている。それ前提で話を進めているのだ。

 

 

 「さて、確かに今日、今月分のポイントが付与された...... お前たちの推測はあっている。」

 

 

 その後、真嶋は右手の巻かれた紙を広げ、ホワイトボードに貼りつけた。

 上から、ABCDの順番でクラスが書かれ、横に3桁の数字がかかれている。最低はDが0で最高はAが960。

 

 

 「このポイントはクラスポイント、クラスの評価を可視化したものだ。毎月の始めに与えられるポイントはこのポイントに100かけた額となる。ちなみにお前らが自由に使えるポイントはプライベートポイントとなる。」

 

 

 真嶋は説明した後、クラスを見渡した。皆いつもと同じ顔だ、驚いてるものなど一人もいない。一息つけて、真嶋はさらにもう一枚の紙を張り出した。

 

 

 「そしてもう一つ、これは先月実施した小テストの結果だ。」

 

 

 最先端の校舎と対照的に、プライベート保護の概念は前時代的だった。上位何名ではなく上から下まで、全ての点数と本人が晒される。

 一番上は坂柳で98点。暁子はどうだって?真ん中だよ真ん中。得点は7割位。

 

 

 「最高点が98点、平均点も例年より高い。さすがだな、今のAクラスは。」

 

 

 真嶋は本当に心の底からそう思った。今のAクラスは間違いなく優秀なのだ。クラス中に暖かな空気が流れる。

 

 

 「しかし、油断はしないようにな。今回の赤点は32点以下だが、本番に赤点をとったら退学になる。もっとも、お前らなら絶対に回避できるだろうが。」

 

 

 全ての締めと言わんばかりに、真嶋は地雷を残していった。クラスに緊張感が戻る。真嶋が退出すると、坂柳が暁子の席に近寄った。

 

 

 「やはり、予想通りでしたね。」

 

 

 「ああ、うん、そうだね。」

 

 

 暁子は内心ほっとしていた。自分の予想に自信がなかったからではない。隠された真実が表にでた今、“真実を知らない一般人”を演じる必要がなかったからだ。こういうのは結構負担が大きく、ミスもおこる。実際に小テスト中、オーストラリアの気候について説明せよという欄に「そもそもそんな国存在しないんですが」と書きたいのを必死に抑え、屈辱の嘘(暁子視点)を書かされたのは非常に堪えた。※暁子はオーストラリア大陸捏造説支持者。

 ともあれ、ひとまずは安心したのだが、中間テストも迫っている。

 

 

 「まぁ、後は中間テストだね。本番で赤点をとらないようにしないと。」

 

 

 「...ほぅ、そうですか。」

 

 

 坂柳は面白さを隠しきれていない瞳を暁子へ向けた。暁子は(有栖ちゃんっていっつも流し目向けてくるよね、やっぱりカッコいい女性を目指してるのかなぁ)と内心ほっこりした。(有栖ちゃん、身長伸びたらいいね。)とも。 確実に思惑がすれ違っている。

 

  

 (しかし、彼女はどうしてこうも実力を隠そうとするのでしょうか。派閥争いにもは興味無さそうです。最初に接触したときも、確証していたのにも関わらず“勘”と言って学校のシステムに気づいたことを誤魔化していましたし。)

 

 

 暁子が平均的な点数をとったり、赤点を視野にいれた話をしていることについて坂柳は不審に思っているようだ。第一印象の時点で自身の勘違いに気付いていないため、坂柳の考える暁子像は満点を取ってもおかしくない、現実と著しく解離した天才になっている。そして坂柳は最初の問いに対していくつかの推測を立てた。

 

 

 (平凡な学生を演じる理由、自身が平凡でありたい? 注目されることが嫌い?、それともこの学校に興味の一つももっていないのでしょうか?)

 

 

 残念。どれも外れである。正解は 「そもそも暁子はそんなに天才じゃない。」である。もうここまでくれば頓着の類いだ。しかも坂柳は、自分の頭脳、人をみる目に圧倒的自信をもっているためなおタチが悪い。

 

 

 (ともあれ、まだ深く詮索する時間ではない。)

 

 

 足踏みするな坂柳!どいつもこいつも詮索を躊躇ったり必要ないと足蹴にしてしまうから、勘違いは加速していくのだ。

 

 そしてここで、暁子が余計な一言を差し込む。

 

 

 「しかし、これからどんな試験があるんだろうね。体育祭とかさ、私苦手だよ。」

 

 

 坂柳に電流が走る。体育祭が試験とは。坂柳にとってこれは盲点だった。坂柳が暁子にぞっこん過ぎて、暁子への推測に脳のリソースの大半を注ぎ込んでいた、というのもあるのだろう。

 しかし、そもそも運動はおろか、足が不自由であるものの常に頂上に立っていた彼女だ。運動神経は見られて来なかった分、やはり坂柳は人を知能レベルで判断する悪癖がある。

 現代人はよく学力だけで人を評価しがちだが、例えば足の早さも、料理の腕も、裁縫の上手さだって十分評価に値する技能なのだ。この学校で運動神経が具体的な評価の対象であっても何らおかしくない。この学校は“実力”でものを視るのだから。

 

 ....もっとも、暁子の考えは上記には関係ないのだが。

 

 

 

 (やっぱり、いかに奴隷として役立つかだよね!)

 

 

 こんな感嘆符をつけながら考える内容ではないだろうが、一旦暁子の考えを整理しよう。

 まずは1話の復習になるが、暁子は、この学校の実力主義なシステムは、将来行われる世界統一政府による人類の選別及び削減に関する実験の一つだと考えている。そこでは、だいたい10 億人程度の選ばれしものだけが残され、余った人口分は削減されるとされる。暁子はこの陰謀論を信じているのだ。

 加えて、今回新たに説明するのは人口削減後の世界についてである。ここでは、少数のユダヤ系資本家が残された人類を奴隷のように働かせる。そして今回の重要なポイント。奴隷に必要なのは運動能力と従順さである。人は存外か弱い生物のため、過酷な労働環境では死ぬ人も表れてくる。だからこその体力などを含めた運動能力が必要になってくるのだ。と暁子は考える。

 ちなみに従順さがいわゆる学力である。暁子にとっての学力とは、いかに支配者が都合のいいように創り出す間違った知識に隷属しているかどうか、なのだ。

 

 こうしてみると、なかなか暁子は過酷な世界(※暁子の脳内に限り)にすんでいるようだ。

 そして、前述の通り、暁子に人をみな様々な分野について褒め称える思想なんてない。あるのは存在しないなにかへの勝手な恐怖と、気付かない人々(実際には正常な人々)への勝手な哀れみだけである。

 

 とにかく、こうした、天文学的レベルの遠回りをした結果、“体育祭も試験”という推測が立ったわけだ。

 

 

 当然、こんな思考回路があるなど坂柳が考えることは不可能である。まぁ...坂柳じゃわからないか、この領域(レベル)の話は。※逆チート

 

 坂柳一人でも、体育祭が評価の対象になり得るくらい考え付いただろう。ただ、ともかく今回もまた坂柳は暁子に先を越されたわけだ。

 

 

 「ふふっ、あはははっ! やっぱり面白いですね、暁子さんは!」

 

 

 「?、喜んでくれて何よりだよ、有栖ちゃん。」

 (なんか喜んでる...?まぁいっか。)

 

 

 坂柳は珍しく、クラスメイトが今まで聞いたこともないくらい大きな声で笑った。そして暁子もまた、坂柳に笑顔で答える。周りのクラスメイト達は、坂柳の今までに聞いたことのない喜色満面な声に振り返させられると、その異常な光景に固まり、固唾を飲んで二人のやり取りを見つめた。

 

 なお、周りには、自分達では理解不能なほどの強者同士のやり取りにしか映らなかったのだが、とんでもなく大きなすれ違いが残った、その実滑稽なやり取りだったということには、だれも気付けなかったのである。

 

 

 

 

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