ようこそ陰謀論者が荒らす教室へ   作:みはいるすーす

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 坂柳が自分と山田に盗聴器発見器をかざしながら首をかしげている間、葛城派では会議が行われていた。

 

 

 「坂柳はリーダーをするには危険、彼女の思想は急進的すぎる。ただ、それはわかっているんだ。問題は関野、彼女の行動が今まで全く読めていない。」

 

 

 葛城は腕を組み、目をつぶりながらそう放った。

 

 

 「坂柳がプライベートポイントの秘匿されたシステムに気づいたとき、少なくとも彼女はクラス闘争の可能性に言及していた。」

 

 

 プライベートポイントの真実に関しては、坂柳に先を越されただけで葛城自身も実は気付いていた。しかし、暁子が気付いていたという、クラス闘争の件については一切思い付かなかった。

 

 「そして、今最も謎なのは、彼女が何をもってこのAクラスの闘争に一切関わっていないかだ。」

 

 

 間違いなく、暁子にはAクラスのリーダーをするに足りる能力がある。しかし、彼女はリーダーになろうとしていない。更に、どちらの派閥に属する事すらしていない。もし彼女がいずれかの派閥に入れば、これまでの誰よりも厚待遇を受けることができるだろう。

 それでも、現に彼女はこの派閥争いから距離をとっているのだ。

 

 

 「彼女の性格は社交的で穏和、さらに真面目だ。生徒会の勧誘を断らなかったことを鑑みるに、面倒くさくて争いに参加しないという訳ではなさそうだ。」

 

 

 まさか暁子がクラス内闘争に気付いていないという大前提があるなど、彼ら彼女らは知らないだろう。もし疑って指摘するやつがいても、そいつはAクラスに似合わぬ馬鹿としてきっと一蹴りされる。

 

 

 「ともかく、今はまだ危ない。様子を見てからだ、行動に移すのは。」

 

 

 やはり葛城派でも同様、彼女の本当(・・・)には気付けていないようだ...

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「あれだろ、ベーコンだ!」

 

 

 暁子が生徒会が生徒会の仕事で図書館を見回っていたとき、どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 話を聞く限り、定期考査について勉強しているらしいが、高校で習う“ベーコン”と言えばロジャー=ベーコンかフランシス=ベーコンだろう。

 ちなみにどちらかで、暁子の陰謀論者スイッチが入る。

  

 

 「ちげぇよ、フランシス=ベーコンだろ」

 

 

 フランシス=ベーコン。 エリザベス一世期の政治家で、大法官や国爾尚書を勤めたことのある大物だ。しかし、失脚する事も多く、かの有名なロンドン塔に幽閉されたこともある。そんな彼は、世界では西洋近代思想で重要な役割を果たす経験論の祖であるということで有名だ。あと鶏に雪を詰めてたら風邪引いて死んだということも有名。

 

 

 しかし、暁子にとって彼にはもっと語られるべき事がある。

 

 

 (フランシス=ベーコン! 薔薇十字団の一人にして、フリーメーソン黎明期に大きな影響を与えた会員!!)

 

 

 残念かおめでとうなのかは分からないが、どうやらアタリを引いたらしい。見事に暁子の陰謀論者スイッチは押された。

 このままでは暁子の無差別深読みが発動してしまう...という大局、騒ぎが起きた。

 

 

 「ケンカ売ってんのか!!!」

 

 

 揉め事が起きているらしい。見ると、叫んだのは赤髪の不良っぽい見た目をした生徒のようだ。声から察するに、さっきベーコンについて会話していた者の一人のようだ。そして対峙しているのはヘラヘラした男子生徒数人。あと角度の都合で顔は見えないが、黒髪の女子生徒が赤髪をなだめているように見える。

 

 

 何はともあれ、生徒会員の前で騒ぎが起きている。暁子には調停するという義務が発生するのだ。

 

 

 「あの...お静かに...」

 

 

 存外暁子は臆病だった。思ったより情けない声だった。しかし、実際には効果があったらしい。

 

 

 「っ...!? おい、いくぞ」

 

 

 「は、何でだよ。」

 

 

 「みろよ、腕章...」

 

 

 暁子はいま、腕に「巡回中 生徒会」と書かれた腕章をしていた。男子生徒数人はどうやら争いを続けるのは悪手だと考えたらしい。

 

 

 「は!? おい、逃げんのかよ!」

 

 

 最も、赤髪は生徒会とか言う肩書きは気にしていなかったが。

 

 

 「うるせぇな! テスト範囲もろくに知らないDクラスなんかに構ってる暇ねぇんだよ!」

 

 

 そう言い残すと、男子数人は図書室を出ていった。再び沈黙が戻る。

 

 

 「...なんなんだよ、あいつら...」

 

 

 「おいまて、あいつらテスト範囲がわかってないって言ったか。」

 

 

 「えっと...そうだね。」

 

 

 騒ぎは治まったらしいが、赤髪は怒りの矛先をぶつけかねている。そうしていると、茶髪の死んだ魚の目の男子が疑問を口にした。戸惑いつつも言葉を返したのは金髪の...こいつは暁子も知っていた。入学早々Aクラスに突撃してきて、みんなの興味とメルアドを奪っていったコミュ力最強の大泥棒、名前は、確か櫛田だっけ...?

 暁子が自分の記憶に確証できず、陰謀論者スイッチが押されたままなのもあって、電磁波攻撃のせいで記憶力が低下しているのか...?と考えを飛躍させていると、茶髪が黒髪に声をかけた。

 

 

 「どう思う堀北。」

 

 

 この声に暁子の思考は中断された。「堀北」と確かに聞こえたからである。

 

 

 (堀北って...まさか...)

 

 

 「そうね...」

 

 

 堀北が綾小路を見ると、暁子に横顔が見えた。切れ目で真面目そうな顔をした女子だった。

 

 

 (ああ!、君!、完全に生徒会長の妹だね!?)

 

 

 まさか、あのナチの妹が同じ学年にいたなんて。暁子は取り乱した。さっきから暁子の思考はしっちゃかめっちゃかだ。

 

 

 「あっ、そこの君、暁子ちゃんだよね!」

 

 

 「あっ、うん」

 

 

 「えっと、覚えてくれてるかな、櫛田 桔梗だよ。こっちが綾小路君と堀北さん。あとこっちは須藤君と池君、山内君ね。」

 

 

 櫛田の声で暁子は一旦平常運転に戻る。櫛田によるAクラス襲撃事件のとき、もちろん暁子も櫛田に認知された。

 櫛田は自分クラスの仲間達を紹介したあと、暁子に訊いた。

 

 

 「このテスト範囲ってさ、違ってるかな。」

 

 

 「...これ、変更前のじゃないかな。」

 

 

 暁子がみたのは変更前のテスト範囲だった。少し前に定期テストについて配布されたテスト範囲が訂正されたのだが、Dクラスの皆はそれを知らなかったらしい。櫛田の顔が困惑している。

 

 

 「ちょっと茶柱先生のところまでいくわよ。」

 

 

 「おお、そうだな。済まない。迷惑をかけてしまって。」

 

 

 考え終わったのか、ナチの妹(勘違い)がそういうといきなり席を立った。綾小路が同意し、暁子に詫びをいれて後に続く。暁子は無意識に機敏に堀北へ道を開けた。

 

 

 「ごめんね、邪魔して。生徒会の仕事頑張ってね。」

 

 

 櫛田が胸の前で手を合わして申し訳なさそうな顔で謝る。すると彼女の「生徒会」という言葉に堀北が反応した。やはり妹なのか...と暁子は絶望した。

 しかし堀北は、暁子の顔を少しだけ窺った後、また歩みを進めた。他の一行もそのままゾロゾロと図書館を出ていき、妹の件について衝撃を受けたままの暁子だけが取り残された。

 

 結局Dクラスは、喧嘩っ早さとナチの妹の存在を見せつけて去っていったのだ。

 

 

 (Dクラスは危険!!)

 

 

 暁子は脳内メモにそう書き残した。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 「ねぇ関野さん、さっきは止めてくれてありがとうね。」

 

 

 暁子がDクラスに極力関わらないという意思を胸に秘め、いざ生徒会の仕事に戻ろうとすると、後ろで誰かが肩を叩いてきた。

 

 

 「私は一之瀬帆波。Bクラスだよ、よろしくね。」

 

 

 「あっ、私の名前を知って....?」

 

 

 暁子の肩を叩いたのは、その善人オーラを隠しきれていない女子だった。

 

 

 「うんっ知ってるよ。実は私、定期考査が終わったら生徒会に入ることになってるんだ。まぁ、一度断られたんだけどね。」

 

 

 「あっ、そうなんだ!」

 

 

 暁子は喜んだ。これまでになく喜んだ。こんな善人(第一印象)が、ナチの巣窟たる生徒会に一緒にいてくれるなんて。なんと心強いか。

 

 

 「ねっねっ! これから仲良くしよう!あ、私の名前は暁子でいいよ!」

 

 

 「にゃはは、そんなに喜んで貰えると照れるなぁ...、私も帆波でいいよ。」

 

 

 「うんっ! よろしくね帆波ちゃん!」

 

 

 

 

 

 その日の夕方、仲良くなった暁子と帆波は一緒に帰った。寮の窓から、それを坂柳が見つけるのだが、後にBクラスのリーダー格である一之瀬だと判明すると、またしても彼女の手の早さに坂柳は戦慄するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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